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恋人はライバル関係  作者: 柴田盟
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光さんのヌードモデル

 あれから数日、その日は日曜日であり、新聞配達の仕事は午前しかなく、月謝を払いに菜々子さんと共に英明塾に向かった。


 英明塾にたどり着き、僕と菜々子さんは中に入る。

 英明塾は基本呼び出しボタンを押さなくても勝手に入って良いのだ。

 僕と菜々子さんはパソコン室に豊川先生がいないことを確認して、とりあえず僕と菜々子さんは勉強室へと足を運ぶと、そこには下着姿の光さんがセクシーポーズを取っているのを発見した。

 僕はすぐさま目をそらして「光さん、なんて格好をしているの?」


 そこで菜々子さんが、「何鼻の下のばして、見ているのよ」僕は不可抗力なのにはたかれてしまった。続けて菜々子さんは「本当に光さん何をしているの?」


「何をしているって?それはこの前の借りで豊川先生のモデルになっているの」


「いくら借りだからと言って先生、光さんに何でヌードモデルなんてさせているんですか?」


「光はスタイルが良いからね。モデルには持ってこいの実在なんだ」


 そこで僕が「豊川先生、正気ですか?どうしてよりによって、光さんのヌードモデルをさせるんですか?」僕は豊川先生に光さんのヌード姿を見ないように豊川先生を見てしまうと、光さんのヌード姿が見えてしまうので、豊川先生には死角だがそう言った。


 僕の鼻から何かが漏れていることに気がつき、鼻をさすってみると鼻血が出ていた。

 光さんの下着姿は大変魅力的で、想像するだけで頭に血が上るほどの物だった。

 光さんはシーツをまとい僕の前に現れた。


「ごめんね、変なところを見せちゃって」


 そこで菜々子さんが「豊川先生、あなたは最低です」


 光さんが「菜々子ちゃん豊川先生の事を悪く言わないで、私は豊川先生に助けられた事でモデルをしているんだから」


 勉強室に入り、豊川先生の絵を見てみると、油絵の具で光さんの裸が描かれていた。

 それをみただけで僕の心臓は高鳴り、頭に血が上るほどの衝撃に見回れた。


 菜々子さんが「何、光さんをモデルにした絵に興奮しているのよ」とまたはたかれてしまった。


「何をするんだよ菜々子さん!」


 二度もはたかれて僕は堪忍袋の緒が切れ始めた。


「だって、光さんに欲情するあんたが悪い」


「何度も言うけれど、これは不可抗力だ。確かに興奮はしたけれど、いきなりこんな場面に出くわすなんて思っても見なかっただけだよ」


「光さんも光さんで、豊川先生も豊川先生ですよ!いくら先日の借りがあるからって、光さんをヌードモデルにするなんて、嫌らしいですよ!」


 豊川先生が「別に僕は嫌らしい目で彼女を見たりはしないよ」


「だからって光さんをヌードモデルにするなんてどうかしている」


 そこで光さんが「まあまあ菜々子ちゃん、豊川先生はやましい気持ちで私をモデルにした訳じゃないよ。私も最初はヌードモデルは抵抗があったけれど、まあ借りは借りだしね」


 仕方なさそうに光さんが言う。

 そうだよね。仕方がないんだよね。僕達が小柳達に殺されずにすんだのは豊川先生の力なんだから。

 本当なら何百万、何千万をしはらなきゃいけないことなんだからね。


 だから僕は菜々子さんを説得した。

 すると菜々子さんは落ち着いてくれた。


 菜々子さんは光さんに抱きついて「ごめんなさい。本当は私達の力で小柳達をやらなきゃいけないのに、光さんが犠牲になって・・・」


「犠牲じゃないよ、私は豊川先生にモデルになりたいと前々から思っていたのだから」


 すると豊川先生は「何だったら君達にだけ僕が今まで描いた絵を見せてあげても良いんだけれどもどうする」


 菜々子さんが「そんなの見てどうするの?」


 光さんが「私は是非ともみたいわ。豊川先生の絵の腕前は三ツ星レストランに飾られる程の高価な物よ」


 すると菜々子さんは急に改まって「じゃあ、見せてもらおうかしら、その三ツ星レストランに飾られるほどの腕前を」


 僕が「僕達素人が見ても分からないんじゃないかな?」


 光さんが「いや、素人だからこそ、見て感じて初めて分かることだってあるんだから」


 僕達は生徒禁制の二階の部屋に豊川先生に案内された。


 豊川先生は言っていた。


 生徒に自分の絵を見せるのは初めてだと。

 そう言えば生徒達はこのフリースクールの二階に上がった者はいないと言っていた。

 菜々子さんは豊川先生に納得していない様子だったが、僕は内心わくわくしていた。

 その三ツ星レストランの飾りにつけられている絵ってどういう物なのか?


 そして二階に保存されているキャンバスで描かれた絵を見てみると、凄く心を引きつけられる物を感じた。

 星の絵や町の風景、それに虹の架かった空の絵などを見て、心に電撃がほとばしる何かを感じた。

 光さんをモデルにした豊川先生に悪態をつけていた菜々子さんも納得している。


「凄い、この絵、まるで空を飛んでいるような気がするわ」


 菜々子さんが言う。


 そして僕はこうも思ってしまう。こんな絵を僕自身の手で描いてみたいと。


 僕はこの事は菜々子さんに秘密にしておこうと思った。

 なぜ秘密にしていたいかは、そういった芸術的な事は競うものじゃないと感じたからだ。


 ほとんどの作品を見せてもらって、僕達は一階に戻った。


「どう?あっ君に菜々子ちゃん、豊川先生の絵は?」


「心をひかれました」「私も」


 僕と菜々子さんが言う。


 そこで菜々子さんが「光さん、いつまで布を被って裸を隠しているんですか?このスケベ大王が欲情しちゃいますよ」


「欲情なんてしないよ。光さん、もう服を着てください」


「いや、まだよ。まだ豊川先生のモデルが終わっていないから」


「そうですか・・・じゃあ、アツジ月謝を払って、今日も図書館に行くよ・・・光さんは今日は確か図書館の司書のバイトは午後から何ですよね」


「うん。私が作った小テストの問題を後でやってもらおうかしら」


 すると菜々子さんと僕は負けまいと互いに闘志を燃やした。


 早速英明を出て、自転車で図書館に向かった。

 十五分程度で到着して、中にはいると、今日は日曜日なので、ほとんど席は空いていなかったが、日当たりのよくない所が空いていて、そこで僕と菜々子さんは闘志をぶつけ合い、激しく小説を進めたり、勉強もおろそかにはせずに勉学に励んだ。

 でも今日の僕は今朝見た光さんの下着姿が頭によぎってちょっとだけ、勉強に集中できなくなったりしてしまった。

 こんな事を菜々子さんに知られたら、殺されるかもしれない。

 いくら鋭い菜々子さんでも僕の思考までは読めやしないだろう。


「アツジ、そろそろ休憩にしようか?」


 時計を見ると、十二時半を示している。

 図書館に隣接する公園に出ると、やはり、小柳の犠牲になって亡くなったエイトマンの事を思い出してしまうが僕たちは構わずにそれぞれ缶コーヒーを買って、公園のベンチに座って二人で飲んだ。

 エイトマンが倒れた場所に行くと、光さんがおいたのであろう百合の花が添えられている。

 僕と菜々子さんはそこに行き、エイトマンの冥福を祈るように目を閉じて手を合わせた。


 今回の事件でかわいそうなのはやはりエイトマンだ。

 僕が小柳にいじめられて、たまたまここの公園で出会い、光さんや菜々子さんにレイプまがいの事をしようとして、それを僕に冤罪をかけようとした所を偶然、エイトマンが光さんの事をつけ回していたことでそれが証拠になり僕は冤罪をかけられずにすんだ。

 それでエイトマンは・・・。

 もう忘れるしかないだろう。

 一番悲しいのは百合の花をおいた光さんなのだから。


 僕の隣に座っている菜々子さんはここに来て何を思ったかはきっと僕と同じような事を考えたのだろう。

 でも仇は討てた。


 何て考えていると、光さんが遠くから、手を振り「おーい」と言ってパンを抱えて僕たちの所にやってきた。


 エイトマンが亡くなって、それでも終始笑顔なのは光さんだった。今僕と菜々子さんにはその光さんの笑顔の裏に隠されている涙に添える花がない。


 だから僕達が今出来ることは、嘘でも光さんの笑顔が曇らないように笑うしかない。


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