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恋人はライバル関係  作者: 柴田盟
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魂を削り合う関係

 新聞配達の時間になり、僕と奈々子さんと西宮さんと斎藤さんは行く。

 奈々子さんは西宮さんに負けたら何でも言う事を聞くことになってしまった。

 まあ、大丈夫だろう、まだまだ西宮さんは新聞配達の仕事が始まって間もないのだから。


 今日も僕は西宮さんのルートを教えるために共に新聞配達をすることになった。

 そうだった。僕が西宮さんと同じルートだからもしかしたら、僕達が勝ってしまうかもしれない。そうしたら奈々子さんは西宮さんの言う事を聞かなければならなくなってしまう。

 ちなみに奈々子さんは新人の斎藤さんのルートを教える事になった。


 新聞に一部ずつチラシを入れて、僕と西宮さんは行く。


「さあ、行くよ、もし私達が勝ったら何でもする事になっているんだよね」


「あたし達だって負けないんだから、斎藤、しっかりしてよね」


「あっ、はい」


 斎藤さんは弱弱しくも返事をした。


 今日は晴れだ、でも雪が少し残っている。


 そんなの構うものか、でも僕と西宮さんのペアが勝ったら奈々子さんは西宮さんの言う事を聞かなくては行けなくなってしまう。


「西宮さん、奈々子さんに勝ったら何を聞いてもらうの?」


「それは秘密よ」


 何か嫌な予感がする。この勝負僕と西宮さんが負ければと思って手を抜こうと思ったが、それはそれで奈々子さんに失礼な事になってしまう。

 西宮さん何を考えているのだろう。

 西宮さんは仕事の呑み込みが早くすぐに新聞配達の仕事をこなしてしまった。

 ちなみに斎藤さんはどうなのか?分からないがとにかく僕達は新聞配達の仕事をしている。

 そして新聞配達の仕事が終わり、まだ奈々子さん達は帰ってこなかった。


「やったー私達の勝ちだ。これで東雲(しののめ)さんに言う事を聞いてもらうことが出来る」


 西宮さんは奈々子さんにいったい何を聞いてもらうつもりなんだろう。

 僕が心配していると西宮さんは、僕の心を読んだのか?


「長谷川君、別に言う事を聞いてもらうって言ったけれども、別にそんなに大したことじゃないわよ」


 そうなのかと僕は胸をなでおろした。


 そして奈々子さんと斎藤さんのペアが帰って来た。


「遅かったじゃない。約束は覚えている?」


「負けたんだから、仕方がないわね」

 

 と奈々子さんは潔く西宮さんの言う事を聞くつもりでいる。

 西宮さんは大したことを聞かせるつもりないと言っていたが、本当はどうなんだろう?

 僕は息をのむ。


「あなた達って勉強以外にも何か楽しい事をしているように見えるんだけれども、どうなのよ」


 奈々子さんはそんな事かと軽く息をのみ「あたし達は勉強以外にも小説や絵を描いたりしてアツジといつも競い合っているよ」


 すると西宮さんはそのつぶらな瞳を輝かせて「本当に?そんな面白い事をしているの?あたし達も仲間に入れてよ。それと小説と絵の描き方をあたし達にも教えてよ」


「そんな事を教えるって言ったって、小説や絵はどこでも描けるよ」


「今度ご相伴に預からせてよ」


「・・・」


 奈々子さんは嫌そうに黙っていた。

 ちなみに斎藤さんもその瞳を輝かせて聞いていた。

 二人共やる気だ。


 西宮さんは「ねえ、今日も小説と絵を描くんでしょ、あたし達も今日から仲間に入れてよ」


「えーーー」


 と奈々子さんは嫌そうな顔をしている。

 僕も正直あまりそれには乗る気はなかった。

 そこで僕は思いついてしまった。

 その事を奈々子さんに耳打ちした。


「ねえ、奈々子さん。西宮さんと斎藤さんも僕達の仲間に入れば、僕達はもっと熱くなれるんじゃないかな?」


「ううん」


 と奈々子さんは思案している様子だ。


 そして奈々子さんは「分かったわ。今日あたしとアツジの家に来なさいよ」


 すると西宮さんは目を丸くして「あなた達って同棲していたの?」


「ど、同棲とは違うわよただ一緒に暮らしているだけよ」


「それを同棲って言うんだけれども」


「ニュアンスが違うわ。とにかく私達と小説と絵を描きたいんでしょ」


「まあ、複雑な事情があるみたいね。とにかくこれから長谷川君と東雲さんの家に行くわ」


 西宮さんはそういって斎藤さんと共に僕と奈々子さんの家に向かった。


 到着して西宮さんは「ここが長谷川君と東雲(しののめ)さんの愛の巣なんでしょ。あなた達は同棲して、口には出せない事をしているんでしょう」

 

 すると奈々子さんは顔を真っ赤にして「そんな事はしていないわよ」


「どうだか?」


「あなた達叩きだすよ」


「それは約束を放棄したことになるよ」


「こいつ!」


 と西宮さんの所にとびかかろうとして、僕は必死になって止めた。


「西宮さん、奈々子さんの言う事は本当だよ。僕達は付き合っているけれど、西宮さん達が考えているようなやらしい事はしていないよ」


「まあ、そういう事にしておくよ」


 何て百パーセント信用されていない様子だが、一つの部屋に男女が同居していて、さらに僕達は付き合っている。だからそんな疑いをかけられても仕方がないと思っていた。それに西宮さんが考えているような事をしていない証拠などどこにもない。


 とりあえず奈々子さんには落ち着いてもらって、僕達は最初に勉強を始めた。


「西宮、斎藤、これはあたしの恩師からの宿題、いつもこれをやって実力をつけているのよ」


 奈々子さんが光さんに差し出された問題集をコピーして西宮さんと斎藤さんに手渡した。


「これって球を求める計算式じゃない。球を求める計算式は三年に習うはずなのにあなた達はこんな事をしているの?」


 と西宮さんは驚いている。斎藤さんも驚いて目を丸くして驚いているような感じだ。


「そうよあたし達の勉強に追いつきたいなら、少しは努力してもらう必要があるかもね」


 そういって奈々子さんは二年の数学のテキストを西宮さんに渡した。


「数学は積み重ねだから、二年の問題が出来ないと先に進めないから。今学校で習っているのは連立方程式でしょ、まずそこを固めてから、次に進むと良いわ」


「あなたの忠告受け入れたわ。あなたは私達にふさわしいライバル関係を築き上げられそうね」


 ニヤリと微笑む西宮さん。

 だが奈々子さんは何事もなかったかのように、球の問題式を解いている最中だ。


「そんな風に涼しげな顔をしているのも今のうちなんだから」


 と西宮さんは言って、僕達四人を囲むテーブルの上は西宮さんの熱に覆われている。

 すると奈々子さんはニヤリと笑って、『望むところ』だと言うように、勉学に励んでいる。

 奈々子さんと西宮さんの熱がぶつかり合うように、二人はそれぞれの問題をこなしている。

 僕も斎藤さんもその熱にあやかろうとして、斎藤さんと共にその熱に浸りながら勉強に励んだ。

 これはすごいぞ。いつも奈々子さんと僕は互いに熱を出し合い、勉学や小説に絵などをやって来たが、この二人の熱のぶつかり合いはそれを凌駕している。

 すごい。すごすぎる。僕と斎藤さんの闘志に火が付いた感じだ。

 僕達は負けまいと四人で闘志をぶつけ合わせて、まるで魂を削り合わせているような感じだ。


「あなた達、頑張っているわね」


 その声は光さんの声だった。


「光さん、今良いところだから」


「分かったわ、私と桃子ちゃんで、奈々子ちゃんとアツジ君と、それと・・・」


 光さんは西宮さんと斎藤さんの顔をそれぞれ見て斎藤さんと西宮さんはフルネームで自分の名前を名乗り、そしてまた勉学に勤しんだ。


「斎藤翔子さんと西宮涼子さんね、あなた達の分の夕食を作ってあげるから」


「「ありがとうございます」」


 そういったのが西宮さんと斎藤さんだった。


 この西宮さんと斎藤さんは尋常な精神の持ち主じゃないと感じられた。

 二人のやる事成す事に触れればやる気に満ちてくる。

 まだ西宮さんと斎藤さんは連立方程式をやっているが、三年の球に至るのはすぐそこまで迫っているような気がしてならない。

 だから僕達もまだまだ負けてはいられない。


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