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恋人はライバル関係  作者: 柴田盟
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無理をしてででも平常心を保とうとする奈々子さん

 午後退屈な授業から、窓の外で大雪が降っている。

 これは奈々子さんの言う通り、新聞配達に支障が出る事を覚悟した。

 クラスが違えど、あの西宮さんと斎藤さんはどんな人なんだろう。

 馴れ馴れしくもお友達になりたいと言っていたが、いったい二人は何を考えているのだろう。

 僕達に近づいていったいどうするつもりなのだろう。

 まさか安井の回し者で安井に命令されて僕達をひどい目に合わせようとしているのだろうか?


 まさかな、相手は女だ。安井が命令する事は出来ない。


 退屈な授業も終わり、僕と奈々子さんは共にそのまま新聞配達の仕事に出かけようとしたところ、西宮さんと斎藤さんが僕達の帰りを待ちわびいていたらしく、そんな僕達に声をかけて来た。


「せっかくお友達になったんだから、一緒に帰ろう」


 と西宮さんは僕と奈々子さんに言う。


「せっかくだけど西宮さん。僕達はこれから新聞配達の仕事に出かけなきゃいけないんだ」


「えっ!?二人共働いていたの?」


 驚く西宮さん。


 そこで奈々子さんが「じゃああたし達はあんた達に付き合っている暇なんてないの。分かったらそこをどいてもらえいるかしら」


「そう。分かった」


 西宮さんはどいてくれて、僕と奈々子さんはそのまま雪の中を傘をさしながら、自転車で新聞配達所まで向かった。


 行く途中雪は容赦なく降ってくる。僕と奈々子さんはそれにも負けずに自転車で配達所まで向かった。


 配達所に到着して、中に入ると、暖房が効いていて暖かかった。


「さて、始めますか?奈々子さん?」


「そうだねアツジ」


 暖房の効いた中僕達は新聞を一部ずつ、チラシを入れ込みそれが終わると、ここからが地獄で、容赦なく降り続ける雪の中を僕と奈々子さんは新聞配達をする。


 うわーすごい寒い、こんな寒い中を新聞配達ってあり得ないだろうと考えた。

 でも僕達はそんな極寒にも負けたりはしない。

 今日も同じように僕と奈々子さんの新聞配達の勝負は始まっている。


 新聞配達の仕事を終えて帰ると、奈々子さんはすでに配達所に到着していた。

 どうやら今日の勝負は奈々子さんの勝ちみたいだ。


「奈々子さんの勝ちみたいだね」


「そうね」


 と奈々子さんは元気がなさそうだ。


「奈々子さん、具合でも悪いの?」


 すると奈々子さんは明るく振舞って「そんな事あるはずないじゃん」


 僕は心の中で思った。奈々子さんは具合が悪いのだと。


 奈々子さんのおでこを触ってみると、凄い熱だと言う事に気が付いた。


「どうしたのよ。あたしのおでこなんて触っちゃってさ」


「奈々子さん急いで帰ろう」


「分かっているわよ」


 奈々子さんは体調が悪いとしても周りに心配かけないようにやせ我慢をする。


 ようやく自転車で僕のアパートまでたどり着いた。

 奈々子さんが自転車を降りようとしたその時、奈々子さんは自転車ごと倒れてしまった。


「ちょっと奈々子さん。大丈夫?」


「アツジあたしは大丈夫だよ」


 奈々子さんは激しく息を切らしている。


 自転車が倒れてその音に反応したのはいつも料理を作りにやってくる光さんと桃子だった。


「どうしたの?」


「光さん丁度良かった。奈々子さんがすごい熱が出て」


「まったくこんな雪の中であなた達は頑張っていたのね。じゃあとりあえず、奈々子ちゃんを部屋にあげるわよ」


 僕は意識を失った奈々子さんを背中に背負って僕が住むアパートの二階に位置するところまで運びあげた。


 光さんが奈々子さんの服がビショビショだったので光さんが下着やら服まで取り替えてもらって、僕はそっぽを向いていた。


 奈々子さんは無理するからな。

 体調が悪いなら素直に僕に言うべきだ。

 それなのに奈々子さんは意地でもそんなそぶりを見せたりはしない。

 でも僕の家に光さんと桃子がいてくれて本当に良かった。


 まず奈々子さんを布団に寝かせて、体温計で体温を測ってみると、九℃以上の熱を出していた。


「奈々子さん、こんな熱が出るまで無理をしていたなんて!」


「あっ君そんなに自分を責めちゃダメ。今回の事はしようがないわ。本当にこんなに無理してまで働くなんて奈々子ちゃんらしいわ」


「何を暢気な事を言っているんですか、早く医者に診てもらわないと!」


「この時間病院は空いてないわ」


「じゃあ、救急車を」


 気が気でなくなった僕は携帯を取り出して救急車を呼ぼうとしたら、光さんに止められて「その必要はないわ。とりあえず薬を飲んでお粥でも食べてもらって、安静にさせた方が良いわ」と光さんは冷静な処置を試みている。


 その心配はいらないって言うけれど、僕は落ち着いていられなかった。


「あっ君、心配な気持ちは分かるけれども、今は安静にさせた方が良いわ。明日また熱が下がらなかったらお医者様を呼ぶしかないけれどもね」


 そうだ。こんな時だからこそ落ち着かなくてはいけないんだ。

 でももしこのまま熱が下がらず、奈々子さんが死んでしまったら、僕は・・・。


 すると光さんは電子レンジでいつの間にか作ったのかお粥を奈々子さんの為に作ってくれた。


「ほれ、あっ君が食べさせてあげて、あなたの大切な人なんでしょ奈々子ちゃんは」


 僕は光さんにお粥の盛ったお椀とスプーンを受け取って、奈々子さんに食べさせることにした。


「奈々子さん。起きられますか?」


 奈々子さんは「うん」と言って覚束ない意識だった。そして僕がお椀からお粥をスプーンで取り出して、奈々子さんの口元に運んであげた。

 奈々子さんはもぐもぐと食べて僕が「おいしい?」と聞くと弱弱しい笑顔だったが笑ってくれたことに安堵の吐息が漏れて安心してしまった。

 奈々子さんは何でもかんでも無理をして頑張ってしまう。

 こんな時ぐらいはライバルではなく恋人として接してあげなきゃな。

 そしてお椀一杯分のお粥を食べ終えて、光さんが鞄からバファリンを取り出して、眠る前に光さんが一杯の水を持って、奈々子さんに飲ませた。


「とりあえずこれで様子を見ましょう。それでも熱が下がらなかったら明日お医者に行く事を提案するわ」


「ありがとうございます光さんに、それと桃子」


「うちは何もしていないよ。お兄ちゃんはまるで王子様みたいだね」


 何て桃子は恥ずかしいセリフを言って、緊迫していた空気がほどけてしまった。


「さあ、奈々子ちゃんは眠ってしまったけれど、今日は私と桃子ちゃんが作ったから揚げをご馳走しようとしましてはせ参じました」


「それは楽しみだね」


 そういいながらも奈々子さんの健やかに眠っている姿を見て、僕は一事はどうなるのかと思ったがそれほど心配しなくても良いのかもしれない。


 光さんと桃子が作ってくれたから揚げとポテトサラダはとてもおいしかった。


 光さんと桃子は奈々子さんが心配だからここに残ると言っていたが、もう大丈夫だよと言って、今日の所は帰ってもらった。

 そうしたら二人は明日も来るねと言っていた。


 僕は奈々子さんの寝顔を見つめて、幸せを感じていた。

 本当に頑張り屋さんの奈々子さん。

 明日も新聞配達だ。

 こんなにまでなって奈々子さんが起き上がり新聞配達に出かけると言ったら僕は全力で阻止する。

 僕もそろそろ眠らなきゃな。

 僕は奈々子さんが何をしでかすか分からないので、僕は奈々子さんの隣に布団を敷いて細長いタオルを僕の右手と奈々子さんの左手を結んだ。




 何かに引っ張られて僕は起きた。


「あれ、何よこのタオルはあたしとアツジが結ばれているじゃない」


「僕が監視用に奈々子さんの左手にタオルを結んでおいたのさ」


「それよりも、早く新聞配達の仕事に出かけなきゃ」


「何を言っているの奈々子さん。奈々子さんは病み上がりなんだから、今日はお休みにして」


 ここで奈々子さんが僕の言う事を聞いてくれなければ、その頬を叩くつもりでいた。


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