変わりゆく季節に僕達は・・・
奈々子さんが負けて、奈々子さんに押し付けられたブラック缶コーヒーを飲む羽目になってしまった。
でも僕は嬉しかった。いつもの奈々子さんだ。
奈々子さんが僕にいたずらをしてくるときはいつもの奈々子さんだと思っている。
それよりもこのブラック缶コーヒーしかも冷たくて、飲んでみると舌がびりびりして僕はまともに飲めた気がしない。
ちなみに奈々子さんは自分の好きなホッとレモンを飲み干している。
「アツジ、交換してあげようか?」
奈々子さんが嫌味ったらしい笑みを浮かべながら僕に問うた。
「良いよ別に」
そんな奈々子さんにちょっとイラっとしたがいつもの奈々子さんで、もうお母さんの事で泣いたりはしないだろう。
そうだ。奈々子さんはもう自分自身を取り戻しつつある。
「アツジ、あたしは今日は自分の家に帰るよ」
「ダメだよ。僕の家に泊まっていって」
「どうして!?」
「良いからしばらくは僕の家に泊まっていって」
すると奈々子さんは一瞬不安な顔を見せつつも、すぐに笑顔を取り戻して「分かったよ。今日はアツジの部屋にお泊りすることにするよ」
この様子だとやはりお母さんが亡くなった事に対してまだ引きずっている感じだ。
奈々子さんを一人にすると何をしでかすか分からないからな。
だから僕は奈々子さんの恋人として何とかしてあげないと思っている。
今、僕は学ランで奈々子さんはセーラー服を着ている。
このまま僕の家に戻り、僕は奈々子さんと自転車で僕の家まで向かっていった。
家に戻ると、桃子と光さんが僕の家に入って手料理を作っていた。
「桃子に光さん、何でまた?」
「私と桃子ちゃんがいちゃまずい!?」
「いちゃまずいと言うか、桃子は受験で忙しく、光さんも図書館の司書のバイトで疲れていてさらにレポートをやらなきゃまずいんじゃないんですか?」
「その心配ならいらないよ。桃子は学年で二位の成績だから。それに光さんもお兄ちゃんと奈々子さんが小テストを作れないからってせめて晩御飯だけでも作ってあげたいんだって」
「そんなそこまでしてもらわなくても」
「今日は肉じゃがよ」
そこで奈々子さんが「あたしも手伝います」
「手伝わなくても良いよ。二人は新聞配達の仕事でさぞお疲れモードでしょ」
僕と奈々子さんは居間でテレビを見る事となったが、二人は料理を作っているのに何か落ち着かない。
「アツジ、明日は雪だって」
「あーあ、毎年この季節になると雪が積もって明日の新聞配達が思いやられるな」
「でも頑張ろう。アツジ」
「そうだね奈々子さん」
そこで桃子と光さんがお盆に手料理の肉じゃがとポテトサラダとプチトマトを添えて僕達の所にやってきた。
「二人共出来上がったわよ」
桃子と光さんは食卓に手料理を乗せてみんなで食べる事になった。
「「「「いただきまーす」」」」
と僕達は口をそろえて言った。
早速肉じゃがに手を出すとそれはものすごくおいしいものだった。
こうして四人で料理を食べていると何か僕達は家族のような感じがして手料理がすごくおいしいものだと実感した。
「二人共桃子ちゃんと私が作った肉じゃがとポテトサラダはおいしい?」
「「おいしいです」」
と僕と奈々子さんは口をそろえて言った。
「明日も作ってきてあげようか?」
光さんが言う。
「いやでも悪いですよ」
「何を言っているの?若い男女の二人が遠慮なんかしないの」
「そうですか。じゃあ、明日もよろしくお願いします」
「うちも光さんと作るの楽しいよ。光さんに料理を教えてもらって桃子女子力がアップした感じがして桃子は嬉しいよ」
桃子も大人になったな。
料理も食べ終わって、僕と奈々子さんと桃子と光さんで後片付けをした。
後片付けをしたら、光さんと桃子はそれぞれ帰っていった。
「アツジ、今日もおいしい手料理が食べられて良かったね」
「そうだね。本当は僕と奈々子さんが作るはずだったのにね」
「この様子だと毎日あたし達に料理を作りに来てくれるかもしれないね」
「それはちょっと悪い気がする」
時計は午後八時を示していた。
ここで速攻で勉強を始めて、三十分、それから絵を一時間小説を一時間やって僕と奈々子さんは互いに闘志をぶつけ合い午後十一時まで続けて、明日新聞配達の仕事の為に僕達はそれぞれ布団を敷いて眠った。
勉強は時間をかけてやるものじゃない事を光さんに教わった。
だから僕達は勉強マスターと言ったところか、短時間で明日学校の勉強に備えている。
新聞配達も学校も楽しいところだ。
目覚めると午前三時を示していた。
僕と奈々子さんは同時に起きる。
「奈々子さん体調は大丈夫?」
「大丈夫に決まっているじゃない。アツジに心配されたらおしまいよ」
いつもの強気な奈々子さんだ。ライバル兼恋人同士であることに変わりはないと思っている。ライバルである以上そう来なくっちゃ。
朝飯はパンにジャムを縫って食べて新聞配達の仕事に出かけて行った。
今日の新聞配達は僕が勝利した。
奈々子さんがまた自販機に向かってブラックの缶コーヒーを押そうとしたところ、僕はとっさに先回りをして、ハチミツレモンを押した。
「奈々子さん、今日はそうはいかないよ、もうブラックの缶コーヒーを僕に飲ませようとしたんでしょ」
すると奈々子さんは悔しそうに舌打ちをする。
学校に行くと、クラスは別々だが、それぞれ互いに負けないように授業を受けて、学力強化に努めている。
いつもお昼休みになると僕と奈々子さんは給食が済むと、屋上へと向かい語り合ったりしている。
「アツジ、学校の授業って無駄な時間を過ごしているような気がするんだけれども、どうよ?」
「確かにそうだね。図書館で勉強していた時の方が合理的に実力が付く感じがするわ」
「そうだ。今日の午後から雪が降るって言っていたね」
奈々子さんはかじかんだ手を吐息で温めていた。
そんな奈々子さんに僕はマフラーを首にかけてあげた。
「アツジにしては気の利いた事をしてくれるじゃない」
と奈々子さんは喜んでいる。
「奈々子さんに風邪をひかれたら困るからね。互いのライバルとして」
僕と奈々子さんは互いに語り合っているところ、二人の女子が屋上に上がってきた。
一人は中学生にしては小さくて、胸が大きい。もう一人はシャイな感じで背が高く貧乳って感じだ。
「ここにいると思ったよ東雲さんに長谷川君」
名前は知らないが背が小さく胸のでかい女子が僕達に話しかけて来た。
すると奈々子さんは警戒をして「あんた達誰?」
「私は西宮涼子、そんでもって、私の相棒の斎藤翔子よ」
「西宮さんに斎藤さんだっけ、あたし達に何か用なの?」
「いや、私達はあなた達に興味が合ってお近づきになりたいなあーと思って」
「別にあたしはあんた達に興味はないから」
奈々子さんは近づくなオーラ全開で西宮さんに接している。
「まあ、そんな固い事を言わずにあたし達と仲良くなろうよ。二人の噂は知っているよ。学年一位と二位でさらにあの安井をやっつけた長谷川君」
西宮さんの発言でこのような馴れ馴れしい人にはかかわらない方が良いと思って、僕と奈々子さんは屋上を後にしようとしたところ、西宮さんが「ちょっとお二人さん。そんなに警戒しなくても良いじゃない。私達はあなた達とお近づきになりたいと思って、それに失礼な事をしたなら謝るよ」
この西宮さんと言う人は悪い人ではなさそうな気がしてきて、「西宮さんって言ったね」
「はい!」
小さいのに元気があるなあと思って「僕達にお近づきになりたいって言っていたけれど、なってどうするの!?」
「どうするもこうするも、ただお友達になりたいと思って」
僕はアイコンタクトで奈々子さんの目を見て『どうする』と言うような視線を送った。すると奈々子さんはフーと息をつき、別に良いんじゃないといったような視線を向けて来た。




