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恋人はライバル関係  作者: 柴田盟
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悲しみに添える花

「お兄ちゃん学校でいじめにあっているんでしょ。だったら以前のように図書館を利用して勉強に勤しむべきだよ」


「桃子、お兄ちゃんはもう大丈夫だ。学校では今日いじめて来た奴をぶっ飛ばしたから」


 すると桃子と光さんは目を丸くして驚いている表情をした。


「あっ君がそんな事を!?」


「お兄ちゃんいくらいじめにあっているからと言って暴力はいけないよ!」


「暴力を加えなかったら、僕がやられていたよ。時には勇気を出してケンカすることもあるよ」


 すると光さんは輝かしい笑顔で「あっ君強くなったんだね!」


「・・・」


 僕は照れ臭くなって何も言えなかった。


「何を言っているんですか?光さん、だからって暴力は・・・」


 桃子が言う。


「確かにいけないかもしれないけれど、時には自分を守るためにケンカすることもあるよ」


「そうだよ。桃子、僕みたいな人間は時には戦わなくてはいけない時があるんだよ」


「学校に行けるようになったのね。それは偉いけれど、奈々子ちゃんはどうするの!?」


「僕は奈々子さんの悲しみに添える花はないよ」


「そういえば光さんからすべて聞いたよ。奈々子さんの唯一の親族であるお母さんが亡くなって、もう今では外にも出られない状況らしいよ」


「もうやめてくれ!!僕は奈々子さんを幸せに出来る自信ないよ。それに奈々子さんも時と言う物がお母さんの悲しみから解放してくれるよ」


「あっ君、それ本気で言っているの!?」


 心なしか光さんの瞳は怒りに満ちている。


「はい」


 と返事をすると光さんは僕の所に押し寄せてきて、僕の頬を叩いた。


「光さん?」


「あなたは奈々子ちゃんと付き合っていたんでしょ!今、あの子に必要なのはあっ君だよ。あの子の今の涙に必要な物はあっ君、あなたなのよ!」


「でも奈々子さんには光さんと豊川先生がいるじゃないですか。それに奈々子さんの事をよく理解しているのは光さんと豊川先生じゃないですか!」


「確かに私と豊川先生の方が奈々子ちゃんの事を理解している。でもあなたが言う奈々子ちゃんの涙に添える花はあなたなのよ!

 あなたは奈々子ちゃんの涙を流すところを何度も見ているでしょ。

 あの子は私にも豊川先生にも涙を見せたことがあるわ、でも私と豊川先生ではその涙を受け止め切れないのよ!だから奈々子ちゃんの彼氏であるあっ君にしかその涙を受け止める事が出来るのよ。

 お願いあっ君、あの子の事が好きな気持ちが残っているなら、今すぐにあの子の所に行ってあげて!」


 奈々子さんの涙。


 僕は奈々子さんの泣いている姿を想像して、気が気でなくなり、自転車に跨って、奈々子さんのアパートへ向かう。


 そうだよ。僕は奈々子さんの事が好きなんだよ。


 お母さんの悲しみは時がたてば消えてくれると勘違いした僕が愚かだった。

 その奈々子さんの悲しみを分け合えば、完全とまでにはいかないが、ある程度は軽減できる。

 僕がいる事で二分の一でもいい、いや百分の一でもいい、僕がいる事でその涙を軽減できるなら。

 そう思いながら僕は奈々子さんのアパートまで自転車で全速力で走っている。


 そして奈々子さんの家のアパートにたどり着いた。


「奈々子さーん」


 と叫びながら自転車を乗り捨てて、アパートの二階に住む奈々子さんの家にたどり着いた。


「奈々子さん。奈々子さん。奈々子さん・・・・」


 そういいながら奈々子さんの家のドアをノックし続けた。


 こんな事をしたら近所迷惑になるかもしれない。


 それに奈々子さんの気配は感じられなかった。


 もしかすると新聞配達に向かったのではと思って、奈々子さんの家の駐輪場を見てみると奈々子さんの自転車が見当たらなかった。


 そうだ。もしかしたら奈々子さん新聞配達に出かけて行ったのかもしれない。


 そうだよ。奈々子さんは涙で打ちひしがれるような女の子ではない。

 きっと涙を振り切って新聞配達の仕事に出かけて行ったのだ。

 そう思って僕は自転車で配達所に向かった。


 配達所に到着すると奈々子さんはいた。


「奈々子さん!」


 奈々子さんは今新聞を一部ずつチラシを入れる作業をしていた。

 僕の顔を見て驚いたような顔をしていた。

 そしてその瞳から涙がドバドバと流れ落ちて来た。


「何でアツジが新聞配達の仕事に来るの?」


「新聞配達をしないと生活も出来ないし、それに奈々子さんの涙を受け入れるのは僕しかいないと光さんは言っていたから」


「光さんも余計な事を・・・」


 僕は社長の所に行ってしばらく休んでいた分配達の仕事が出来ないか聞いてみたところ、すごく僕は歓迎され『ぜひ』と言う感じでやらせてくれた。

 光さんは奈々子さんが閉じこもっていると言っていたが、光さんも奈々子さんの根性を知ることは出来なかった。

 そうだ。奈々子さんは涙に溺れるだけの弱い女性じゃない。

 でも奈々子さんには僕が必要としている。


 僕も仕事に入り、新聞に一部ずつチラシを入れていき、仕事をした。

 奈々子さんは僕の事を見て泣いていたが、それでもその涙を振り切りながら新聞に一部ずつチラシを入れる作業をした。


 そしてその作業が終わり僕は奈々子さんに「今日も勝負だね」


「もちろんだよアツジ、あたし絶対に負けないんだから」


 涙を飾りながら僕に訴える奈々子さん。

 そうだ。奈々子さんは悲しみに溺れるだけの女の子じゃない。

 お母さんが死んでしまったことで悲しみに翻弄されただろうが、だからって涙に打ちひしがれる奈々子さんじゃない。

 本当は奈々子さんの気持ち的にはお母さんが死んでしまった心の傷が存在しているのかもしれない。

 だから新聞配達の仕事を止めようとしたが、僕は嘘でもいい、奈々子さんが思いきり泣いて、そして思いきり笑ってくれるなら。

 何て考えながら久しぶりに奈々子さんとの新聞配達の仕事をこなしていると、テンションがすごく上がる。

 そうだ僕達は恋人兼ライバル関係なのだから。


 新聞配達の仕事を終えて帰ってくると、もうすでに奈々子さんは配達所に到着していた。

 やっぱり悔しい。でも嬉しい。


「アツジ、あたしの勝ちだね、今日は何をおごってくれるのかしら」


「何でもいいよ。好きな物を選んでいいよ」


「やった」


 僕は奈々子さんにほっとレモンをご馳走してあげた。


 奈々子さんがほっとレモンを飲み干した時、僕は奈々子さんに真剣な目で見つめた。


「どうしたのアツジ、そんなに真剣な顔をして」


「僕は奈々子さんが必要だ。だからもう一度僕の彼女になってくれないかな?そうすれば僕は奈々子さんを幸せにすることを約束するよ」


 すると奈々子さんの瞳からドバドバと勢いよく涙が溢れかえってきた。

 僕はそんな奈々子さんを抱きしめた。

 奈々子さんは僕の胸に飛び込んできた。


「本当に約束だよ。ずっとあたしだけを見つめてね」


「うん。約束する。奈々子さんは僕だけの者だ」


 帰り道、僕の携帯に光さんから連絡が入ってきた。


「もしもし光さんですか」


「そうよ、私は光よ。それよりも奈々子ちゃんを説得することは出来た」


「するも何も、奈々子さんは悲しみに溺れるような女の子じゃない。僕が奈々子さんの家に行ったところ、奈々子さんは新聞配達の仕事に勤しんでいたよ」


「そう。それは良かった」


「きっとまだ奈々子さんの心の中にはお母さんが亡くなってしまった悲しみが残されているのかもしれない。僕はその悲しみをなくなるまで側にいてあげようと思っている」


「そうじゃあ、今からあっ君の家に帰ってらっしゃい。桃子ちゃんと特性カレーライスを作ってあげたから」


「そうですか?光さんと桃子のカレーライスですか!楽しみにしています」


「じゃあ、帰って来ることを待っているから、奈々子ちゃんも誘ってあげてね」


「分かりました」


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