ほんの少しの勇気
ボロボロになった僕を助けるものは誰もいなくなってしまった。
これは罰なのだ。
安井は言っていたよ。豊川先生の時、僕達を安井の手から助けられ、安井はひどい目にあった、それで安井は父親が市議会員の権力を失ったことを。
もうこれはいじめじゃない。殺し合いだ。
安井は僕を自殺へと追い込もうとしているのが手に取るように分かる。
もう僕に安息の地は無くなった。
もう学校に行くしかない。
立ち上がろうとすると安井の仲間達にやられた傷がうずきだす。
体中が痛い。
でもこの痛みはすぐに消えるだろう。でも奈々子さんがかけがえのない母親を失った事を考えるとこんな痛み何とも思えなかった。
そうだよ。いじめれば良いよ。僕を自殺に追い詰めたいんだろう。
「フッ!もうどうでも良いよ」
と僕は人知れずに呟いた。
下校時間になり、僕が鞄を背負って帰ろうとすると、僕は安井達に囲まれた。
「長谷川、今日は俺達と付き合えよ」
「別に良いよ」
その場を後にしようとすると、安井が僕の鳩尾に拳を突き付けてきて僕は激しくもがいた。
「行こうよ」
ニヤニヤと薄気味悪い顔をしながら僕に迫ってきた。
強制的に連れられて、安井達の仲間に囲まれながら、歩いた。
「いやー長谷川君にはいい思い出を作ってもらったからな。今度は長谷川君に俺が良い思い出を作ってあげないとね」
僕は安井達に囲まれながらとあるデパートに向かった。
喫煙所に行くと未成年だと言うのにたばこをふかしていた。
安井が「長谷川君も吸うよね?」
「いや僕は・・・」
すると安井は僕の鳩尾を拳を突き付け、僕はその場で倒れ伏した。
「吸うよね」
嫌味ったらしい安井の笑みを見て僕はゾッとして「はい。吸います」と言った。
僕は渋々タバコを一本貰い、ご丁寧に火までつけてくれた。
タバコを吸うといきなり僕はむせてしまった。
「何、人のタバコを無駄にしているんだよ」
今度は先ほど痛みつけられた、肩を小突かれ激しい痛みに僕はこらえるしかなかった。
そんな最中安井は「じゃあ、長谷川君、僕今、欲しいゲームがあるんだ。それを持って来てくれないかな?」
「あいにく僕はお金なんてないよ」
「だったらこのデパートからかっさらって来いよ」
何て事を僕にさせるんだ安井の奴は。
「ねえ、聞いている?長谷川アツジ君」
取ってこないとまた痛めつけられるのだろうな。
でも僕は。
「それは出来ないよ。僕を痛めつけたかったらいくらでも痛めつけなよ」
僕は人目もはばからず、その場で胡坐をかいて腕を組んで、もうどうにでもしろと言う体制を取った。
「何だよこいつ」
つまらなそうな顔をする安井。
「けっ!」
と言って仲間達と共に安井は僕を放置して去っていった。
どうやら僕に飽きてしまったようだ。
それよりも体を動かすたびに激痛が走る。
僕は家に帰ると桃子が僕の住むアパートに来ていた。
「あっ!お兄ちゃんお帰り」
「ただいま桃子」
「どうしたのお兄ちゃん。制服何て着て」
「学校に行ったんだよ」
「お兄ちゃんが学校に?それよりもお兄ちゃん顔色悪いよ」
「何でもないよ桃子」
「学校で何か嫌な事をされたの?」
「されてないよ」
何だろう体がギスギスする。
「もしかしてお兄ちゃん」
僕の制服を脱がそうとすると、僕は「何でもないって言っているだろう!」
「何でもなくなんかないよ。学校に行ってまたいじめられて帰ってきたの?」
「いじめ何て受けていないよ」
「じゃあ、その場で服を脱いでよ」
「だから何でもないって言っているだろう」
「お兄ちゃん昔みたいに顔以外痛めつけられたんじゃないの?」
「もう出て行けよ!!」
すると桃子は僕に襲い掛かるように服を脱がしにかかってきた。
そして桃子に今日痛めつけられた、痣を見られてしまった。
「やっぱりお兄ちゃん、いじめられてきたんじゃない!」
「お前には関係のない事だよ!」
「関係ない事はないよ私達は兄弟でしょ」
兄弟と言う言葉に死んでしまった奈々子さんのお母さんの事を思い出す。
「どうしたのお兄ちゃん!!そんなに悶えて!!」
「だからお前には関係ない事だって!!」
「そういえば奈々子さんはどうしたの!?」
奈々子さんの事を思い出すと心臓に稲妻が走ったような感じになり、涙が零れ落ちそうになった。
僕は妹に懇願する様にその場でうずくまり、「もうやめてくれよ!!」と叫んだ。
「お兄ちゃん、何があったの!?前みたいに新聞配達をして図書館に行くんじゃなかったの!?」
妹は僕の事を本気で心配してくれる。
でも妹には僕の空いた心を埋める事は出来ない。
「桃子、今日の所は帰ってくれ」
「お兄ちゃん・・・」
そして桃子は帰っていった。
そうだ。それで良いのだ。奈々子さんが母親を亡くした苦しみに比べたらなんて事はない。
これは罰なのだ。僕は奈々子さんを救えなかったのは事実なのだから。
僕は部屋の中で寝転がり、低い天井を見つめながら、目の前が真っ暗に染まる程の絶望と孤独に苛まれていた。
奈々子さんは元気かな?この空に続く場所にいるのだろうか?
僕には奈々子さんを救う事が出来なかった。
僕は奈々子さんの恋人として失格的な存在だ。
女の子一人守ることが出来なかったのだから。
僕は最低な人間だ。
もう僕は奈々子さんに合う資格などない。
そう思うと僕はこれから何をすればいいのだろうか。
だったら大好きな絵でも描こうかと思ったが、なぜか描く気になれなかった。
今まで絵や小説、勉強など出来たのは恋人兼ライバル関係の奈々子さんがいたから出来たのだ。
もはや僕の燃えるようなときめきは冷めてしまったも同然。明日また学校に行けば安井達にいじめられるのだろう。
学校など行きたくないが、仕方がない行くしかない。
学校に行けば何とか勉強する意欲がわいてくるところだ。
僕は何を求めてこの世界をさまようのだろう。
夜になり僕はまずい飯を食ってトイレでフンをする。
奈々子さんのオムライス食べてみたかったな。
でも僕はもう奈々子さんに会う資格などない。
この世の中は残酷だ。
なぜ僕は何も悪い事をしていないのにいじめられなきゃいけないのだ?
僕はただ学校で勉強して高校、大学と入り立派な社会人になって貢献したいのに。
そろそろ寝よう。
僕はまた明日学校に行くためにテレビを消して明かりを消して眠りに入っていった。
明日も必然的に学校でいじめられてしまうのだろう。
そう考えると学校なんて行きたくないのだが、それでも行くしかない。
奈々子さんは今頃お母さんを亡くしたショックで孤独と絶望に追いやられているのだろう。
僕はそんな奈々子さんの側にいたって僕はどうする事も出来なかった。
次の日の朝になり、僕は時間割通りの教科書などを鞄に詰めて学校へと出かけるのであった。食欲がなかったが僕はまずい飯を食べて出かけて行った。
教室に入ると、安井達はニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべてこちらを見てくる。
また僕をいじめるつもりか?
「おはよう長谷川君」
「うん」
「うんじゃねえだろ。おはようございます安井君だろ」
もう僕は我慢できずに安井の顔面を拳で殴った。
「てめえ、何しやがる」
安井は顔面に僕の拳を受けてひるんでいる。
このチャンスを見逃すわけにはいかない。
ケンカは先手必勝、僕は安井に拳をつけ続けた。
僕は安井を泣かしてしまった。
でも僕は安井の事を泣いても許さなかった。
「ちょっと待てよ。長谷川、俺が悪かったから」
それでも僕は許さなかった。
こいつが僕にしてきたことを思うと、許すことは出来なかった。
僕は安井を殺すつもりで殴り続けた。
「この野郎ぶち殺してやる」




