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恋人はライバル関係  作者: 柴田盟
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悲しい笑顔

「ちょっと光さん何をするんですか?」


「その包帯の中はリストカットの後でしょ」


「・・・」


 奈々子さんは黙り込んで涙目になっている。


「その事でしたら、僕が叱っておきましたから」


「叱る?自殺はこの世の中で一番の重罪だと思っておいた方が良いわ。これしきの事では済まされないと私は思っているんだけど」


 確かに光さんの言う通りかもしれない。本当に自殺はこの世の中で一番の重罪だと思ってもおかしくない。だから僕は光さんが奈々子さんに叱るところを傍観するしかなかった。


「奈々子ちゃん、ちょっと私に面を貸してもらえないかしら」


 光さんは奈々子さんの手を引いて、どこへ行くのか、僕もその後に付いていこうと行こうと思ったけれど、光さんに『あっ君はそこで待っていて』と言われて僕は黙って後について行く事は出来なかった。

 光さんは奈々子さんの手を引いて、表へと出て行ってしまった。

 もう奈々子さんは反省しているのだから、これ以上叱ったって仕方がない事だと思っている。

 でも光さんは本当に奈々子さんの事を本気で理解している。もうこのような事がないようにきつく叱っているのだと思う。

 だけれどももっと本気で叱ってもらった方が良いと思っている。光さんも自分が嫌われても良いと言う覚悟だ。

 僕もそれぐらいの覚悟で奈々子さんを叱ってあげれば良かったのだ。


 どれくらい時間がたったのだろう。僕は漫画でも読みながら待っているのだが、漫画の内容が頭に入らないくらい奈々子さんの事が心配だ。

 でも光さんは奈々子さんの理解者だし、別に心配はいらないのだけれども、でも心配してしまう。


 そして数分後光さんは奈々子さんを連れて、僕のところまで戻ってきた。

 奈々子さんは光さんに何をされたのか分からないが、奈々子さんは泣きながら戻ってきた。


「大丈夫奈々子さん」


 返事はせずに、奈々子さんは首を縦に振っただけだ。

 大丈夫ならそれで良い、光さんに何をされて何を言われたか大方予想はついている。

 奈々子さんは命を落とすような行為をしたのだから、これぐらいの事は仕方がない事かもしれない。

 ちなみに光さんは仕事に戻っていった。


 数分経っても奈々子さんは涙が止まらない。これはそうとう光さんにどやされたのだろうと思った。

 僕は奈々子さんを慰めようとしたけれど、ここは心を鬼にして黙っていた。

 そうだ。奈々子さんは世の中の重罪である自殺をしようとしていたんだ。これぐらいの事をしてあげないといけないだろう。

 でも本当に奈々子さん光さんに何を言われたのか気になってくる。

 でも想像するだけで怖くなったりする。

 僕はこれからは光さんの事を怒らせないようにしていかなければならない。

 奈々子さんもこれに懲りて、自殺何てバカな事を考えないだろう。


 奈々子さんの涙が乾いたとき、急に立ち上がり、「アツジ、勝負よ」


 僕は奈々子さんに急にそんな事を言われてきょとんとしてしまう。


「何をやっているのよあたし達はライバル関係でもあり恋人関係でもあるんだから」


 すると僕の胸が熱くなり「よし、これから勉強会と行きますか?」と言った。


「そう来なくっちゃ」


 どうやら奈々子さんは泣くことで心にたまっていた膿を払いのけたみたいだ。

 これは僕には出来ずに奈々子さんを理解する光さんが出来る事だ。

 僕はそんな奈々子さんの事が大好きなんだ。

 でも奈々子さんは少しお母さんの事が心配な部分はあるけれど、奈々子さんはそんな事で負けたりはしない。


 それに奈々子さんのお母さんなら今、豊川先生と洋平さんが骨髄を探しに行っている。きっと奈々子さんのお母さんは無事に済むに決まっている。

 根拠はないけれど、僕にはそんな感じがして、テンションが上がってくる。

 今日はあいにく勉強道具は持っておらず、僕と奈々子さんは図書館にある歴史の漫画を見る事にした。


 歴史を学んでいると、争い事ばかりだ。

 どうして人は争わなきゃいけないのか?

 特に争いと言えば戦国時代に顕著に出ている。

 その頃と僕達が今暮らしている平和な時代が幸せに思ってもいいほど豊かだ。

 僕が学校で出会っていたいじめなど、取るに足らないくらいの事だ。

 戦国時代は気に入らない人間はみんな首を切り落とされる時代だ。

 だから僕達が生まれた平和な時代に生まれたなんてすごくラッキーな事かもしれない。

 でももし生まれ変わりがあるとしたら、僕も武士として戦国時代の犠牲者なのかもしれない。

 戦国時代の武将が『突撃!!!』と言っただけで兵隊が二千人以上死んでいたみたいだ。

 そして戦国時代は徳川家康が天下を取り幕を下ろした。

 一見平和な時代が訪れたとしてもその中で色々な事があったみたいだ。

 そして平和と見られた江戸時代は終わり、明治になり、今度は戦争の時代へと移り変わっていった。


「フー」と息をつき、歴史の漫画を読むのに疲れを見せると、同時に奈々子さんも歴史の漫画を見るのに疲れたのか、そんな奈々子さんと目が合った。


「アツジは何時代の歴史の漫画を見ていたの?」


「戦国時代だよ」


「何か歴史を見ていると争いの連続だね」


「奈々子さんもそう思う?」


「ええ、あたしは争う事は嫌いだから」


「僕も嫌いだよ」


「でもアツジは競争は好きでしょ」


「そうだね。奈々子さんと勉強をしていると、心の奥底からやる気が沸き起こってきて、何かワクワクして、本当に勉強が身について、何でも来いって感じがするんだ」


 そこで光さんが現れて「そうか、二人は競争が大好きか?だったら、たった今私が作った問題集をやってもらおうかな?」


 何で光さんはいつもこんないいタイミングで問題集を作ったのか?

 光さんは妙に感が良いから僕達の事を見るだけで気持ちの変化を見極める事が出来るのだろうか?

 それはさておき僕達は光さんが作ってくれた問題集をやる事となった。

 今日は理科の問題集であり、理科は理解して暗記するだけの教科だから僕にも出来る。

 問題は僕の分かる範囲内だった。

 しかも星がテーマで夏の大三角や冬の大三角や春の大三角などの問題が出た。

 僕は星の事は詳しいからすぐに分かる。

 今日は奈々子さんに百パーセント勝てたと自信が持てた。

 でも心の病み上がりの奈々子さんに勝ったって嬉しくないと思った。


 テストの結果は僕が百点で奈々子さんも百点だった。


「アツジ、あたしが病み上がりだと思って油断していたでしょう。アツジが星の事に詳しいなら私も詳しくならなくちゃね」


 それでこそ奈々子さんだ。病み上がりだと言って、弱虫な奈々子さんじゃない。

 僕はそんな奈々子さんの事が好きなんだ。


「今日のテストはあたし達は百点だったけれど、アツジの得意分野であたしと引き分けたのだから、アツジがあたしにジュースをおごりなさい」


 そうだ。理不尽な事を言われてㇺかって来たけれども、それが奈々子さん何だよな。

 さっきまではわんわん泣いていたのに、今では大輪のひまわりのような笑顔を見せている。

 本当にもしだけど、奈々子さんのお母さんが白血病で亡くなっても、すぐに立ち直ってくれるかな?

 いや、そんな事を考えるのは不謹慎だ。奈々子さんのお母さんは絶対に助かる。きっと光さんに怒られた時も強く言われたと思う。

 奈々子さんは甘えるのが苦手ですぐに何かあるとため込んでしまう癖があるからな。

 だから僕がしっかりと見ておかないといけないよな。

 それに光さんは奈々子さんを叱っていたが、それは僕にも責任があるような気がしてきた。奈々子さんの気持ちも知らずに一人にしてしまったことだ。

 だから、本来光さんに叱られるのは僕の方かもしれない。


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