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恋人はライバル関係  作者: 柴田盟
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自殺は重罪

 桃子に恥ずかしいところを見られてしまったな。

 まさかこんな大変な時に桃子が来ることは予想外の事だった。

 でも桃子が来たことにより、暗いムードから一転した。

 桃子が振舞ってくれた麻婆豆腐はおいしかった。

 奈々子さんは桃子を見て無理して笑っている様子でもなかった。

 奈々子さん人見知りが激しいから、知らない相手だと猫を被る癖があるからな。


「お兄ちゃん、桃子の麻婆豆腐おいしい?」


「うん美味しいよ」


「奈々子さんは桃子が作った麻婆豆腐はおいしい?」


「うん」


 と言って笑顔でそういってくれた。


 そういえば桃子には奈々子さんのお母さんが白血病だと言う事は知らないんだっけ。そんな事を桃子に言ってしまったら、余計な心配をさせてしまうので言わなかった。


 桃子が料理を作ってくれた麻婆豆腐を完食して、桃子は自宅へと帰っていった。


「良い、妹さんね」


「そうかな?ああ、見えてもおっちょこちょいなところばかりなんだよな」


「良いな兄弟って、お母さんの兄弟はバラバラになってしまったけれども、浩二さんや洋平さんが集まってくれて今一つになろうとしている。でも雅子おばさんの事は残念だけど」


 奈々子さんの表情が曇る。

 そんな奈々子さんの姿を見ているといたたまれなくなってしまうので、僕は一つ提案をする。


「奈々子さん。星を見に行こうよ」


 これで奈々子さんと星を見に行くのは何度目だろう。二度目か。

 僕の家からだと街灯や民家の明かりが多いため、僕は奈々子さんを自転車の後ろに乗せて、明かりのない河川敷へと向かった。


 そこからの景色だと星が僕の家よりもはっきりと見える。

 でも以前浩二さんと一緒に言った。どこかは忘れてしまったが、あそこからの星はもっとはっきりと見えたっけ。


「あれがシリウスにベテルギウス、プロキオンで冬の大三角。さらにふたご座のポルックスにカストル、にぎょしゃのカペラにおうし座のアルデバランが見えるよ。ここは僕のとっておきの場所なんだけれども、以前見た田舎町とは違ってここでは一等星しか見えないね」


「でも、あたしはアツジと星を見ているだけで何か幸せな気分になって来るよ」


 奈々子さんは先ほどまでとは違い、表情が明るくなった感じであった。

 この様子だともうバカな事は考えないだろうと僕は思った。

 今回奈々子さんが自殺しかけて僕がきつく叱りつけた効果もあって僕は良かったと思えた。

 この様子だともうあんなバカな事はしないだろうと本気で思えたのだが、僕は奈々子さんを束縛するつもりはないが、しばらくは僕の側にいてもらおうと、お母さんの白血病が治るまで、一緒にいてもらうつもりだった。

 だって心配なんだよな。

 奈々子さんを一人にしてしまったら、また自殺を考えてしまうんじゃないかと。

 しばらく星を見ていたら、奈々子さんが寒いのか震えだした。


「奈々子さん、そろそろ戻ろうか?」


「そうね」


 僕達は僕のとっておきの星が見える河川敷を後にして僕のアパートまで戻った。


 奈々子さんは元気なのだが、今一何か心にもやもやとするものを抱え込んでいる気がする。

 それはきっとお母さんの事だろう。

 だから今は奈々子さんを一人にさせるわけにはいかないんだ。


 奈々子さんはまたお風呂に入っている。

 またヌードを見せに来るんじゃないかと僕はちょっと不安になっていた。

 あのお堅い奈々子さんがヌードを見せに来るなんて、僕の事を本気で信頼している証拠だ。

 でも今日はヌード姿ではなく奈々子さんは僕が貸してあげたパジャマに着替えている。

 僕は一人でテレビを見ていた。

 心をお笑いにしてくれるお笑い番組だ。

 お笑いか?芸人さん達も人を笑わせるためにどのような鍛錬をしているのだろうか?

 僕がお笑い番組を見て笑っていると、奈々子さんも笑ってみてくれていた。

 一人で見るよりも二人で見た方がお笑い番組は楽しい。


「あー面白かった」


 奈々子さんはお笑い番組を見終えて、再び表情が曇り始めた。


「奈々子さん。お母さんの事なら大丈夫だよ。僕が保証する」


「・・・」


 黙り込む奈々子さん。

 それはそうだよな、僕に大丈夫だと言われたって信憑性がない。

 今、奈々子さんは絶望の時を迎えている。

 僕は今の奈々子さんに何て言ったら良いのか分からない。

 でも今は奈々子さんを一人にするわけにはいかない。


「奈々子さん、今日は疲れたでしょ。布団敷いてあげるから、今日も僕の家で眠って」


「ありがとう。アツジ」


 かすかな笑顔を僕に見せてくれた奈々子さん。

 本当はもっとひまわりのような笑顔を見せてくれると良いんだけどな。

 でも今の奈々子さんはこれが精いっぱいなんだよな。

 いつも僕は奈々子さんが大変な時に側にいるだけの存在でしかない。


 すると奈々子さんは先ほどよりもとびきりの笑顔で「アツジ、いつもありがとうね」と言ってくれた。


 それを見た僕は僕だってただ側にいるだけの存在ではないことが分かった。

 僕だって奈々子さんのお母さんに対しての件について僅かでも役に立っている気がしてきた。

 奈々子さんは心が綺麗な女性だ。僕の自慢の彼女だと思っている。


 


 そして次の日、僕達は英名塾に行った。

 二人で自転車で行っている最中、奈々子さんの表情は曇ったままだった。

 英名塾に到着して僕と奈々子さんは中に入る。


 豊川先生と洋平さんは勉強部屋にいるみたいだ。


「「おはようございます」」


 僕と奈々子さんは口をそろえて言う。


「おはよう。あっ君に奈々子ちゃん」


「あのー豊川先生に洋平さん。お母さんの兄弟の美奈子さんは見つかりましたか?」


 そこで洋平さんが「ああ、美奈子のGPSを入手した」


 そこで奈々子さんが期待の眼差しで「じゃあ、美奈子さんの居場所は特定できたのですね?」


「ああ、出来たよ。でも迂闊に近づくのも危険だ。美奈子は裏の世界の人間だと言ってもいい。殺人を犯しているからね、だから骨髄を提供するときは俺が美奈子をパクられないように裏で手を回す。後は俺達でやっておくから、君達はこの件に関して口を挟まない方が良い」


「そうですか」


 奈々子さんは残念そうに、再び表情を曇らせてしまった。


 そこで豊川先生は「大丈夫だよ奈々子ちゃん。僕が約束を破った事はあったかい?」


 すると奈々子さんは表情をほころばせてくれた。

 そんな奈々子さんを見ていると僕は力になれない事と、奈々子さんを笑顔に出来ない事で複雑な気持ちだった。

 そういわれて僕と奈々子さんは共に光さんがいる図書館に向かった。


 図書館のガラス越しで光さんと目が合うと相変わらず微笑ましい笑顔を僕に見せてくれる。

 その笑顔を見ていると何だか安心してしまうし、それは奈々子さんも一緒だった。

 そこで僕は何だか落ち込んでしまう。奈々子さんを笑顔に出来るのは豊川先生と光さんだけだと。


「どうしたの?奈々子ちゃんにアツジ君何か良い事でもあったのかい」


「はい。豊川先生と洋平さんがあたしのお母さんの兄弟を探しにやっと突き止められたのです」


「それは良かったね」


 すると光さんの僕の方を見て。


「あっ君、別にあっ君は充分に頼りになっているわよ」


「え?何の事ですか?」


「あっ君私には見えたけれども、あっ君奈々子ちゃんに対して、何も出来てないような顔をしている」


 光さんはエスパーか?どうして僕の顔を見ただけで僕の心を読むことが出来るのか?


「やっぱり図星か?大丈夫だよ。あなたがいなければ、奈々子ちゃんはパニックに陥って何をしでかすか分からないからね」


 本当に光さんは奈々子さんの事をよく理解している。


 光さんの言っていることは本当だ。


 あの時光さんに言われなかったら、今頃奈々子さんは命を失い、もうこの世にはいなかったのだから。

 すると光さんは奈々子さんの目をじっと見つめて、リストカットをした左手を見た。


「奈々子ちゃん、私に何を言われるか分かっているよね」


「何って何をですか?」


 すると光さんは目を威圧的に奈々子さんの方へ向けて、その手で奈々子さんの頬を思いきり叩いた。


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