報復
何かに没頭していると時間なんてアッと言う間に過ぎてしまう。
僕の闘志と菜々子さんの闘志がぶつかり合って小説は互いに進んだ。
もうお昼頃になって、今日は光さんの友達の敬子さんの所のパン屋に向かい失敗したパンを分けてもらい、それを食した。
「ただでパンが食べられるなんて最高だよ」
僕が言うと光さんが「そうだね、今日もパンがうまい」とご機嫌な光さん。エイトマンが来たからご機嫌なのだろう。
菜々子さんが「今日も平和だね」
菜々子さんの言うとおり今日も平和だ。
図書館に隣接する公園のベンチでお日様の光を浴びながら僕達は敬子さんに貰ったパンを食べている。
エイトマンがいないか辺りを見渡してみると、先ほど見かけたエイトマンはいなかった。
それでもエイトマンを見かけた光さんはご機嫌だ。
だがその平和な日々が過ぎるのを僕達は目撃した。
エイトマンがお腹から血を流している姿を見て僕達は仰天する。
そこで心配になった僕達であったが、先に率先してエイトマンの所に言ったのは光さんだった。
「ちょっとあなた大丈夫!?」
光さんに続いて僕達も続く。
「エイトマンじゃないか、どうしたんだよその傷」
「小柳に報復された」
小柳と聞いて、僕は心が真っ黒に染まるほどの悪寒が走った。
「とにかく救急車を呼ぶわよ!」
光さんがスマホを取り出して、そう言った。
エイトマンの意識が次第におぼつかなくなった。
エイトマンは「光さん、気をつけて、奴ら俺達に報復してくる」
「喋っちゃだめよ。とにかく今救急車を呼んだから、安静にして」
小柳達が報復してくる?奴は年少に入ったんじゃないか?それで出てきて僕達に報復するなんて、奴はちっとも反省していないじゃん。
そして救急車がやってきて、野次馬もぞろぞろとわき出てきた。
近所のおばさんに「何が合ったの?」と聞かれて、「僕の大切なお友達が通り魔にあって」と適当な事を言っておいた。
エイトマンを救急車に救急隊員が運び、光さんもその中に続いた。
しかも光さん悲しそうに泣いていた。
僕達も続こうとしたが、光さんに「私だけで充分よ、とにかくあなた達は、あの小柳の報復に会わないように、英明塾に避難して」
「分かった」
と菜々子さんは言った。
エイトマンは怪我を負い、小柳達の刺客となった。
小柳達は僕達の事もエイトマンと同じような事をするつもりかもしれない。
少年法を利用して。
風の噂では、あの僕達を暴行したあげく、冤罪をかけようとした小柳は父親の市議会委員を辞職させられて、小柳は父親に勘当されたと聞いた。
だから小柳はエイトマンに報復して、そして今度は僕達に報復してくるのか?まだ分からない。
僕は許せなかったエイトマンに重傷を負わせて、光さんを悲しませた小柳が。
救急車はサイレンを鳴らして、病院の方へと走っていった。
その救急車を見送り、僕は憤りがふつふつとわき起こってきた。
「小柳の奴絶対に僕の手でぶっ殺してやる」
「ダメだよ、アツジ、憎しみは憎しみしか生まない」
「じゃあ、どうすれば良いんだよ。これじゃあ、光さんもエイトマンもかわいそうじゃないか」
僕は菜々子さんに抱きしめられて、なぜか分からないが涙が溢れてきた。
どうして菜々子さんに抱きしめられて泣いているのか今の僕には分からなかった。
それで僕は悔しいんだ。
少年法と言うのを利用して、小柳達は僕達を殺そうとしていることに。
救急車に乗って行ったエイトマンと光さんは警察に事情徴収を受けるだろう。
その時小柳は殺人未遂で捕まれば良いのだが。
そこで菜々子さんは僕を抱きしめたまま、「とりあえず光さんの言う通り、英明塾に行きましょう」
「そうだね」
僕達はそれぞれの自転車に乗って、英明塾まで向かった。
そして英明塾の塾長の豊川先生に事情を説明した。
「なるほど、その小柳って言う悪い奴に君達に冤罪をかけられて、その撤回の証言をした通称エイトマンが刺された訳だね」
「はい、そうです。小柳の奴僕は絶対に許しません」
「その気持ちは分かるが、君達が報復せずとも捕まるのは時間の問題だよ」
そこで菜々子さんが「小柳達は私達を狙って来ています。豊川先生あたし怖いです」と言って菜々子さんは豊川先生に抱きついた。
僕は恐怖よりも、小柳とさしつかえてもぶっ殺してやりたい気持ちでいっぱいだった。
僕は菜々子さんに「菜々子さん。菜々子さんは僕が守るから安心して」
「アツジ」
そう言って菜々子さんは僕に抱きついてきた。
そこでテレビをつけてニュースを見てみると、早速エイトマンが刺された事が報道されていた。
エイトマンの名前は吉永春男と言うらしい。
そんな事はどうでも良くエイトマンは意識不明の重体となっていた。
救急車に同乗した光さんの証言では少年法で守られていて小柳の名前は公言しなかったが十四才の少年が吉永春男事エイトマンがやったと言っていた。
僕は思った。少年法なんてなければ良いと。
そして警察はその少年の経緯を調べていると言う。
テレビを見て思った。あんな奴死んでしまえば良いのにって。
中学校に行っていた頃、僕は小柳にいじめられていた。
テストでは零点をとらされて、雑巾の水を飲まされたり、顔には目に付かない腹や足などに暴行を加えられていた。先生に言ったが、市議会委員の息子だからと言って、先生もそのいじめを見て見ぬふりをしていた。
でも今度こそは潮時だ、小柳に荷担する奴はもうこの世に存在しない、奴が捕まれば少年法で罪は軽いが、そこに入れられるのが時間の問題だ。
僕と菜々子さんはエイトマンと光さんの事が心配で、何も出来ない状況だった。
そこで菜々子さんが「アツジ、私達に今出来る事って何だろう?」と僕に言った。
『わからない』と言いたいところだが僕は「やろう。僕達に今出来ることを」
そう言って僕は英明の勉強部屋に入り、互いに闘志を燃やして勉強を始めた。
そうだ。泣いている場合じゃない。僕達に今出来ることを頑張るしかない。
僕と菜々子さんは恋人兼ライバル関係だ。その関係は簡単に断ち切れないものだと思っている。
光さんが大変な時に僕達は今出来ることを頑張るしかない。それが今僕達が光さんに対しての手向けだ。
やはり予想は当たった。小柳はいつか僕達に報復してくると。それでエイトマンが犠牲になるなんて許されないことだ。小柳の奴に反省という二文字はないだろう。
仮にまた少年院に入れられても、また僕達に少年法を利用して僕達に報復してくるだろう。
でも僕はもう負けない。
僕はみんなを守る力なんてない。
でも僕は一人じゃない。
こうして恋人兼ライバル関係の菜々子さんもいるし、英明や新聞配達の仕事をしている同僚達もいる。それに妹の桃子も。
だからみんな僕と菜々子さんに力を貸してくれ。
時計を気にすることなく僕と菜々子さんは勉強をしている。そして勉強室に光さんが現れた。
「二人共偉いね。こんな時になっても勉強をおろそかにしないなんて」
女神様スマイルで光さんは僕達に言う。
僕と菜々子さんはそんな光さんを見ると、自然と涙が溢れだした。
「光さん」
と菜々子さんはわき目もふらずに光さんの胸に飛び込んだ。
「偉い偉い、こんな時でもくじけずに勉強をしていたんだね」
「それでエイトマンはどうなったんですか?」
すると光さんの目から涙が溢れてきた。
「あの人はもう、意識を完全に亡くして、息を引き取ったわ」
僕と菜々子さんはショックだった。
涙が出ないほど悔しくてやるせない気持ちでいっぱいだった。




