今、僕達に出来る事を
「今は一大事じゃないか。ヌードモデル何てしている場合じゃないよ」
落ち込む奈々子さん。でも仕方がないんだよね。ヌードモデル何て言っている場合じゃない。
そこで光さんが「大丈夫よ、奈々子ちゃん豊川先生は約束を破ったことなんて一度もないんだから」
すると奈々子さんはパァーと表情を綻ばせた。
「そうだよね。豊川先生は約束を破ったことがないんだよね」
でも、仮にその美奈子さんが見つかっても、奈々子さんのお母さんの雅美さんの骨髄が合うとは言い切れない。
それを言ってしまったらまた奈々子さんは表情を曇らせてしまうから黙っておいた。
「じゃあ、アツジ、あたしがヌードモデルしてあげるから今すぐにアツジの家に行こうよ」
「別にそれはいいよ。ヌード何てしてもらわなくて」
今はそれどころじゃないので僕はそう言っておいた。また余計な事を言って、奈々子さんの表情が曇りだす顔を見たくなかったからだ。
すると奈々子さんの鉄拳が僕の顔面に叩きつけられた。
「痛い、何をするの!?」
「そんなにあたしのヌードモデルをしたくないの!?」
今はそれどころじゃない。と言いたかったが、僕も正直奈々子さんのヌードモデルをスケッチしてみたいと思ったが、今はそれどころじゃないので、そういう気分にはなれなかった。
「とにかくそれは今回の件が済んだらそうしよう」
「そうだよね。まだお母さんは白血病が治ったわけじゃないからね」
また奈々子さんの表情を曇らせてしまった。
でも今はそれぐらいの緊張感を持った方が良い。ヌードモデル何てしている場合じゃない。
すると光さんは「二人共、何かおいしいものでも食べに行こうか?」
「おいしいものってまたパンですか?」
「違うよ。ラーメンよ。私もそろそろお昼休みだから、おいしいラーメン屋を私が案内しておごってあげる」
そういう事で光さんに連れていかれたところは、行列の出来ているラーメン屋だった。
ニンニクの香りがする。このラーメンを食べてしまったら僕達は臭ってしまうんじゃないかな?
「あっ君に奈々子ちゃん、ここはニンニクなしでもおいしいところだから、ぜひ食べてもらいたいところなんだけどね!」
僕達は今は何もすることがないが、一大事なんだよな。ラーメンなんて食べている余裕なんてどこにもないんだけれどもな。
でも光さんがおごってくれると言うのなら、食べたほうが良いだろう。
行列に並び僕達が食券を買って、光さんに連れられて、僕達は中へと入っていった。
「元気のない時はおいしいものを食べると元気が出るよ」
と光さんは言ったが僕と奈々子さんはそういう気分にはなれなかった。
何せ奈々子さんのお母さんは白血病なんだもんな。
三人そろって席に座り、光さんは食券を出した。
「はい、ラーメン三丁ね。ニンニクは入れますか?」
「入れません」
と光さんが言う。
「ここのラーメンおいしいから食べてみると良いよ」
そして数分が経って、ラーメンが運ばれてきた。
それはすさまじい量だった。
野菜がてんこ盛りに盛り付けてあり、その下に大量のラーメンが入っている。
「この野菜はラー油を垂らして食べるのが通よ」
僕と奈々子さんは光さんを真似て野菜にラー油を垂らして食べるとすごくおいしかった。
「おいしいですよこれ」
奈々子さんも元気を取り戻して「おいしい」と言ってくれた。
「おいしいでしょ。おいしいのは野菜だけじゃなくてラーメンもおいしいのよ」
てんこ盛りに盛られた野菜を食べてしまうともうお腹いっぱいだったが、まだ本命のラーメンが合った。
そのラーメンを食してみるとすごくおいしいラーメンだった。
お腹はいっぱいなのにもっとたくさん食べたくなる衝動を抑えきれない程おいしいラーメンだった。
「二人共気に入ってくれた見たいね」
「はい。光さんご馳走様です」
僕達はラーメンを食べ終えて光さんが務める図書館に行った。
今頃洋平さんと豊川先生は美奈子さんの居場所を探している所だろう。
もし見つからなかったら、いや仮に見つかったとしても骨髄が合うとは限らない。
僕達は今何をしていればいいのか分からない状態だ。
ただ美奈子さんを探している洋平さんと豊川先生の事を待つ他ならない。
本当に見つかって骨髄が合って欲しいと僕は切に願う。
奈々子さんの方を見ると、表情を曇らせたまま、どこか窓の外の遠くを見渡している。
奈々子さんに僕に出来る事はただ、側にいるしかないんだ。
そこで光さんがやってきて、「何二人共しけた顔をしているの?」とちょっと僕達にきつく当たってきた。
「「・・・」」
僕と光さんは何も言えなかった。
「何度も言うようだけど、豊川先生は大事な約束を破ったことなんてないんだから。それに今の私があるのは豊川先生がいるからよ」
僕は光さんの事が気になり「光さんは豊川先生に助けてもらったことがあるんですか?」
「あるわよ。その時の謝礼は豊川先生のヌードモデルをする事だったわ。だからあなた達今すぐに帰って、アツジ君に奈々子ちゃんのヌードでも描いてもらえば良いじゃない」
「そんな気分にはなれませんよ」
「とにかくそんな気分でいられると私まで滅入ってしまうんだけど」
「じゃあ、僕達図書館にいない方が良いですか?僕達は今はここ以外にどこにも行くところなんてないんですけれどもね」
本当に困った顔をする光さん。
「じゃあ、私の小テストでも受けてもらおうかしら、豊川先生が頑張っている時にあなた達がそんなんじゃ、豊川先生も浮ばれないよ」
「じゃあ、小テスト受けます」
「あたしも受けます」
僕と奈々子さんは光さんの小テストを受ける事にした。
最近奈々子さんのお母さんの雅美さんの事で勉強にスランプがあるから、小テストを受けても高得点は取れないかもしれない。
そして早速僕と奈々子さんは光さんの小テストを受ける事にした。
小テストの内容は歴史であり、日露戦争の頃の時代だ。
それなら歴史の本を見て僕は知っている。
きっと奈々子さんも知っているだろう。
あれ?何だろう?久しぶりに僕と奈々子さんは闘志をぶつけ合い小テストの問題をどちらが高くとれるか、勝負をしている。
そして小テストを終えて光さんの所に提出した。
「アツジあなたには負けないからね」
「そうだよ。その調子だよ。今僕達に出来る事は将来に向けて勉強することだよ」
「・・・アツジ」
「だから奈々子さん僕と勝負しよう。僕達はライバルでもあり恋人でもあり、そしてお互いにかけがいのない同志だよ」
すると奈々子さんの瞳から大粒の涙が頬を伝って流れ落ちた。
「そうだね。あれ、どうしてあたしは泣いているんだろう?」
僕はそんな奈々子さんを抱きしめた。
「アツジ!?」
「奈々子さん。お母さんは助かるよ、それに奈々子さんは一人じゃない。それは僕が保証する。だから今は思いきり泣いて、そして思いきり笑ってよ」
僕達はひと目もはばからず、図書館で抱き合った。
周りから見たら、変な人だと思われるかもしれないが、それで良い。
僕達は本当に正真正銘のバカップルだ。
「図書館でそんな事をして良いと思っているの!?」
と現れたのが光さんだった。
「光さん?」
「二人共おめでとう。二人共百点だったよ。こんなに勉強にブランクがあってもあなた達やるじゃない」
「そうだよ。奈々子さん、今僕達が頑張れることをしようよ」
「頑張れることって勉強や小説や絵?」
「それもあるけれど、今僕達が出来る事をするんだ」
「そんな事をして何になるの?」
「そんなの僕にも分からない?でも指をくわえたまま何も出来ない僕達じゃない。いつまでも奈々子さんのお母さんの事で悩んで泣いている僕達じゃない事を証明するんだ」
「証明って?」
「それも僕には分からない、でも今僕達がやることをやって・・・」
「・・・やって?」
「とにかく頑張ろう奈々子さん」
「うん」
それから僕達は新聞配達の仕事に行った。
あれから一週間ぐらい休みを取ってしまった。
社長僕達の事を許してくれるだろうか?




