残酷な真実
僕達はパーキングエリアを後にして後二時間はかかろうとしている雅美さんと浩二さんのお姉さんである雅子さんが収容されている収容所に向かう。
そして到着した。
収容所は山の中にあり、いったん浩二さんは車を止めて、歩き出した。
「雅子姉さんが収容されている収容所はここだ」
聞くのが怖くて黙っていたが僕は口を開き東雲雅子さんの事を聞いてみた。
「雅子姉さんは美人で優しかったよ。でもバブルの崩壊によりすべてを失った雅子は我が身を売って、散々穢れた人間にさらされて、挙句の果てに、ヤク付けされて収容所に入れられる事となったんだ」
「・・・そうなんですか」
「人間すべてを失うと雅子姉さんみたいになるからな。君たちも気を付けるんだよ」
僕は奈々子さんがすべてを失い、その身にしか残ってなくて、体を汚されまくって挙句の果てに、ヤク付けにされる事を考えると、気が気でない気持ちになってしまう。
僕は奈々子さんの恋人だ。絶対にそんな事はさせない。
それはそれとして僕達は収容所に続く道を歩き、雅子さんが収容されている収容所にたどり着いた。
僕達が入ると受付に浩二さんは「東雲雅子と言う女性はいないでしょうか?」
「ああ、あのヤク付けにされて廃人になった人ね。それとあなた達は東雲雅子の何なの?」
「私は東雲雅子の弟に当たります」
「どういう用件で来たか知らないけれど、東雲雅子の所に案内するわ。多分あなたの事も思い出せない程ひどい状態よ」
「承知しております」
僕達は東雲雅子に合うためにエレベーターで三階に止まり、辺りを見渡してみると、鉄格子の中に瞳の輝きがないもはや目が死んでしまっている人たちでごった返していた。「ウーアー」とかうねり、自身の頭を壁に思いきり叩きつけている人や、それに異臭がひどく、まるで収容所は囚人よりもひどい扱いを受けている。
そして東雲雅子の所にたどり着いた。
東雲雅子に合うと浩二さんは「雅子お姉ちゃん俺だよ。浩二だよ」
東雲雅子は「きゃーーー」と叫び僕達に怯えている。
本当に受付の言う通り、もはや浩二さんの事も思い出せない程のひどい状態になってしまっている。
東雲雅子の目は死んでしまっている。
これが世に言う廃人。
でも東雲雅子は周りから見たらまだまともな方だった。
中には排せつの仕方も分からなくなったものや、自傷行為に走るものよりかは。さらに見て気持ち悪かったのがその排泄物を食べてしまう廃人もいた。
すると浩二さんは案内人に「あのー、わたくしの兄弟が白血病にかかっているんですよ」
案内人は察しが良く、「なるほど、それで兄弟であるこの東雲雅子をドナーにしたいと言うのね」
「それは話が早い、私の妹と雅子姉さんの骨髄が一致すれば助かるかもしれません」
「でも、もう手遅れよ。彼女はもうエイズにかかってしまっているのだから」
エイズと聞いて僕の頭に思い石のような物がぶつけられたかのように心が痛んだ。
奈々子さんを見ると、涙で打ちひしがれていた。
なんてことだ。骨髄を移植したら確実にエイズに感染してしまう。
エイズはまだ世界で治療薬が開発されていない不治の病だ。
僕はその重たい口を開いた。
「どうやら諦めるしかないみたいですね」
「くそー誰が俺の姉ちゃんの雅子をこんな目に合わせたのは!!!?」
雅子さんが入っている鉄格子の柵を蹴り飛ばして言う。
浩二さんにとって雅子さんはお姉さんでもあるんだよな。血のつながった兄弟がこんな状況に立たされたらさぞ悔しいだろう。
浩二さんは鉄格子の柵を握り揺さぶった。
「くそーくそー」
と喚いて。
そして僕達は収容所を後にした。
車に戻るときに浩二さんは語っていたよ。雅美さんの骨髄移植が出来なくて、それに自分の兄弟である雅子さんがあのような姿になってしまったことが大変に悔しかったのだろう。
僕も考えさせられる。もし妹の桃子があのような状態になったら僕は非常に悲しくて辛い気持ちを味合う事に。
東雲雅子、何てかわいそうな人なのだろう。
あの様子だとエイズに体を蝕まれ死を待つ以外にもう人生は終わってしまっている。
車を運転している浩二さんの方を見ると、複雑そうな顔をしている。
兄弟である雅子さんがあのような状態になってさぞ悔しかったのだろう。
そんな浩二さんに何て言えば良いのか今の僕には分からなかった。
それに僕は収容所の人たちを見て恐ろしかった。あれはまさに囚人よりもひどいところだと思う。
人間何もかもを失うとあんな風になってしまうのだろうか?
それよりも浩二さん。
兄弟である雅子さんがあんな風になってしまった事に相変わらず複雑な気持ちのようだ。
車に揺られて九時間、僕は起きていなければならないと思ったが、僕が眠るのをこらえていると、浩二さんは「君たちも疲れただろう。俺も疲れたから今日はどこかのパーキングエリアで車の中で悪いんだけど、そこで寝よう」と言った。
そういう事でパーキングエリアに入り、駐車場に車を止めて浩二さんは「君達、お腹すいてないか」
そういわれると、お腹は空いていたがあの収容所がトラウマになり、食欲が出ないが、何か食べておいた方が良いと思って僕は「はい」と答えた。
奈々子さんの方を見てみると、車に乗ってからずっと顔を伏せていた。
お母さんを救えなかった事に絶望に打ちひしがれているのだろう。
「奈々子さんも何か食べよう」
「・・・」
奈々子さんは顔を伏せたまま、顔をあげる事はなかったが僕はそんな奈々子さんが、こんな言い方はいけないと思うがかわいそうだと思った。
しばらくそうさせておいた方が良いのだろうか?
僕はパーキングエリアのフードコーナーに行き、フライドチキンやおにぎりを買おうとしたところ浩二さんが、「ここは俺が出すよ」と言って食事までおごってもらってしまった。
浩二さんに食事をご馳走になり、車の中で悲しみに打ちひしがれている奈々子さんのところまで言った。
「ほら、奈々子さん。フライドチキンが好きだったよね、それにシーチキンのおにぎりも・・・・そんな風にしていたら僕も悲しくなってくるからやめようよ!!!」
僕は奈々子さんについ大声で言ってしまった。
すると奈々子さんは僕に抱きついてきた。
「アツジ、あたしもう耐えられない!!!まさかあたしのお母さんの姉に当たる雅子さんがあんな姿になっていることに、あたしはショックでもう頭がおかしくなりそうで!!あたしはお母さんを助けたい一心だけど、まさかお母さんの姉のお姉さんがあんな姿になっていたなんて、あたしはショックで・・・・まさかあれ程ショックを受けるなんて思っても見なかった」
「つまり収容所に収容されたお母さんの姉の雅子さんが不憫でたまらなかったんでしょ。僕もあの収容所に行って、周りの人たちを見て、それに奈々子さんの親戚にあたる雅子さんを見て僕も怖くてかわいそうな感じがしたよ!!!」
どうやら奈々子さんはお母さんが救えなかった事は別として、その親戚にあたる雅子さんの姿を見て絶望したんだな。
「わああああああ!!!」
奈々子さんは泣き散らした。
そこで僕は「とにかく僕達の目的は奈々子さんのお母さんの骨髄を探しに行くんでしょ。まだ可能性がなくなったわけじゃない。確かに奈々子さんの親戚の雅子さんがあんな姿になってしまったことは悲しいけれど、仕方がない事だよ」
「そうだよね。仕方がない事だよね!」
「そうだよ。仕方がない事だよ。だから今度は危険かもしれないけれど、浩二さんと雅美さんのお兄さんに当たる洋平さんに頼みに行くしかないよ」




