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恋人はライバル関係  作者: 柴田盟
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娘を思う気持ち

 そして次の日、僕達は期待を膨らませて病院に向かった。

 浩二さんの骨髄は奈々子さんのお母さんである雅美さんと一致していると信じながら。


 病院に到着すると、奈々子さんは走り出して病院の受付に行った。


「お母さんの骨髄は浩二さんと合っていましたか?」


 そんな事を受け付けの人が知るわけないと思って、僕は奈々子さんをとりあえず、落ち着かせた。


「ゴメンアツジ、あたし気が気でなくて」


「とにかく落ち着こうよ奈々子さん」


 とりあえず奈々子さんのお母さんが入院している部屋まで行った。


「お母さん」


 と言って奈々子さんは甘えるようにお母さんに抱きついた。


「ちょっと奈々子、離れなさいよ」


「ゴメン、それよりも骨髄はどうなったの?」


「まだ、分からない状況みたいよ」


 そこで丸渕メガネをかけた老人の医者が現れた。


「あの、昨日骨髄を調べて貰った浩二さんの骨髄はお母さんの雅美に適していましたか?」


 すると医者はうなだれてその目を閉じて、首を左右に振った。

 それはつまりダメだったって事。


「残念ながら、東雲雅美さんの骨髄と東雲浩二さんの骨髄は一致しませんでした」


 非常に残念そうに言う。


 すると奈々子さんは全身の力が抜けるかのように、その場で倒れてしまった。


「奈々子さん!」


 僕は奈々子さんの事が気が気でなく、奈々子さんを抱きしめた。

 そして奈々子さんはこの世の終わりを目の当たりにしたの如く、涙に打ちひしがれてしまった。


 お母さんの方を見てみると、奈々子さんは悲しんでいるのに、何でもないような顔をしていた。

 そんなお母さんに何とか言ってやりたかったが、まずは奈々子さんを落ち着かせるために「奈々子さん、深呼吸をしよう」と僕は言った。

 奈々子さんは言われた通り、深呼吸をして、気持ちを落ち着かせた。


「奈々子さん。お母さんにはまだ兄弟はいるんでしょ。そこを当たってみようよ」


 奈々子さんは僕にそういわれて、その涙を袖で拭って、立ち上がった。

 それでこそ僕の大好きな奈々子さんだ。奈々子さんの目はまだ死んでいない。つまりまだ諦めている訳じゃないみたいだ。


「アツジ、力を貸してほしいんだけど」


「ああ、力だったら何だって貸すさ」


「このお母さんの東雲雅子って言う女性はある人にヤク付けにされて今はとある県に収容されているわ、そこまで行って、東雲雅子の骨髄が一致するか確認をしに行きましょう。今度こそ、お母さんを助けるわ」


 するとベットで上半身を起こしている奈々子さんのお母さんは「奈々子、お母さんがいなくてもあなただったら、やっていけるわよ」


 すると奈々子さんは目を真っ赤にさせて、「何を言ってるのよ。あたしはお母さんがいなければ、何の為に生きれば良いのか分からないよ。あたしはお母さんに育ててもらった。これからはあたしがお母さんのお世話をする番だわ!!」


「あたしの事でそんなに興奮しなくても良いのに」


「じゃあ、お母さん、もし、あたしがお母さんと逆の立場だったらどう思う」


「そんな事、滅多に言う物じゃないわよ!!」


 と奈々子さんはお母さんを怒らせてしまったようだ。

 その姿を見て奈々子さんも僕も安心した。

 奈々子さんのお母さんはまだ母親としての奈々子さんに対する愛はあるみたいだ。


「アツジ早速、今度は雅子さんのところに行くわよ」


「分かっているよ」


 雅子さんに会いに行くにはかなりの長旅になる。

 とりあえず、雅美さんの兄である浩二さんに骨髄が合わなかったことを報告したら、残念そうにして、雅子さんがいる収容所まで車を出してくれるみたいだ。


 とりあえず浩二さんとは雅美さんが入院している、病院で待ち合わせる事にした。


 そして数分が経って、浩二さんは雅美さんが入院しているベットのところまでやってきた。


「雅美、聞いたぞ、骨髄が俺と合わなかったらしいな」


「良いのよお兄ちゃん。これから雅子が収容されている収容所に行くんでしょ」


「ああ、そうだ。何かお前は不服そうな顔をしているが何か言いたい事があれば、聞くぞ」


「あたしみたいなこんな価値もないあたしを救おうなんてどうかしているわ」


「お前が死んだら、俺だっていい気持ちはしないし、それにお前には娘の奈々子ちゃんがいるだろう」


「・・・」


「だから俺は協力させてもらっているんだ」


「分かったわ、あたしは生きるわ」


 すると奈々子さんはその言葉を聞いて、お母さんに抱きついた。


「お母さん。今の言葉あたし絶対に忘れないからね。約束だよ」


「分かっているよ奈々子」


 奈々子さんの頭をなでる。

 その時のお母さんはまるで聖母のような顔をしていた。

 僕はホッとした奈々子さんを守ろうとする母親の目だった。


 そこで浩二さんは「話が終わったら行くぞ」


 そうだ。浩二さんは車を用意してくれたんだ。


 早速病院を出て、浩二さんは車に乗り込み僕達も乗り込んだ。


 東雲雅子さんはここから何百キロと言う、とある収容所に保管されている。


 聞けば東雲雅子さんはヤク付けにされて収容所に入ったと聞く。

 すごく残酷な事だと思うが、東雲雅子さんには奈々子さんのお母さんの姉妹である。そのお母さんの姉妹である東雲雅子さんの骨髄をどのように調べれば良いのか僕には分からなかった。だから僕はスマホで調べることにした。


「浩二さん水を差すようで差し出がましいんですけれど、骨髄を移植させるには健康な体と十八から五十五歳までの方が対象になっていると聞きます。だから東雲雅子さんの骨髄を移植出来ないんじゃないですか?ネットで調べたんですけれども」


「とりあえずわずかな可能性がある限り、雅子姉ちゃんのところに行こう」


 そういえば浩二さんの娘さんは対象になるだろうか考えた。


 それで調べてみたところ何も出てこなかった。


 僕は粘り尽くすようにスマホで姪や甥が骨髄に合う確率を調べた。


 普通に母親や父親や甥や姪に適合する確率は普通よりも高いとされている。だからもし雅子さんがダメだったら、浩二さんの娘である姪、そして奈々子さんの骨髄も少なからず可能性はあるみたいだ。

 ちなみに普通の他人だったら百万分の一とされている。

 雅子さんはヤク付けにされて健康状態じゃない。そんな人の骨髄を移植して大丈夫なのか調べてみたところ、粘って粘ってネットで調べたが健康な体が一番だとしか検索できなかった。 

 こればかりは医者に聞いてみないと分からない。

 僕はスマホで奈々子さんのお母さんが入院している病院に連絡して聞いてみた。

 どうやら骨髄が合えば大丈夫みたいだ。

 よし希望が見えてきた。これでヤク付けにされた雅子さんを雅美さんのドナーになってくれることを切実に願いながら、僕は車の助手席で手を合わせて祈った。


 本当に長い旅だ。運転してから七時間が経っている。


「浩二さん、そろそろパーキングエリアで休憩した方が良いんじゃないですか?」


「それもそうだな。君たちもお腹がすいているだろう」


 そういって、浩二さんはパーキングエリアに止まり、少し休憩することとなった。


 とりあえず僕達はトイレを済ませて、パーキングエリアにあるレストランで何か食べることにした。


 奈々子さんも僕も食べる気にはなれなかったが、七時間もの間食事をとっていなかったがとりあえず、無理して浩二さんがおごってくれたハンバーガーをそれぞれ一つずつ食べることにした。

 何か少しだけ元気が出てきた。

 奈々子さんの方を見てみると、奈々子さんも元気そうにしていた。

 でも不安と緊張の気持ちで顔が強張っていた。

 だから僕は言ったんだ。


「大丈夫だよ奈々子さん。きっとお母さんは絶対に元気になるよ」


 と。


 すると強張った表情から一転して、緩やかな表情を見せてくれて僕も安心した。


「浩二さん、収容所まで後どれくらいですか?」


 と聞いてみると「後二時間くらいかな?」


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