家族のありがたみ
先にお風呂に入るのは奈々子さんに亜希子ちゃんと尚子ちゃんが三人そろって入る事となった。
僕と浩二さんは二人で会話をする事になった。
「骨髄が合うのは兄弟の中では四分の一の確率なんだろ」
「はい。浩二さんが骨髄が合えば一件落着なんですけれどもね」
「合う事を祈ろう。どうやら俺達兄弟の中で一番まともなのは俺と雅美だけみたいだな」
「お兄さんはヤクザって聞きましたけれど、どんな人なんですか?」
「とてもやさぐれていたよ。もう十年は会っていないけれども」
「もし、浩二さんが骨髄が合わなかったら、その洋平さんって言う今はヤクザの人に頼むしかないみたいですね」
「洋平兄さんに頼むのはまずい。でも万が一と言う事もあるからな」
僕は心から祈った、浩二さんが骨髄のドナーになってくれることを。
この浩二さんと言う人と話していると何だか安心するし、何かと頼りになる存在だと思った。
恵まれない境遇に会って、しかも二人の娘をあんな立派に育てる事が出来るなんて。
奈々子さんと亜希子ちゃんと尚子ちゃんはお風呂から出て、何か奈々子さんと仲睦まじくなっている。
よく見ると奈々子さんと浩二さんの娘二人の亜希子ちゃんと尚子ちゃんは良く奈々子さんに似ているような感じがした。
本当に二人共かわいくりりしい。
その後、僕と浩二さんはお風呂に入って浩二さんに背中を流してもらった。
さすがはお父さんか、大きな背中をしている。
僕もこんな大きな背中になって奈々子さんを守れるような体になりたい。
その為には小説家兼絵師の勉強をして、義務教育の勉強もちゃんとやらなければならないだろう。本当に浩二さんが骨髄のドナーに合ってくれるような気がしてきた。
お風呂も済んで僕達は眠ることになった。
布団は予備のを使わせてもらって、奈々子さんは亜希子ちゃんの部屋で眠ることになった。僕は浩二さんの部屋で眠ることになった。
今日は奈々子さんの母親の兄弟の浩二さんと話せて心が少し和んでいる。
朝になり、僕が起きると午前三時を示していた。
そういえば僕は新聞配達の仕事をしているため、この時間帯に起きる癖がついてしまっているんだ。
新聞配達の仕事はしばらくは休みを取ることとなっている。
だから僕は午前三時に起きてしまう体になり、浩二さんはすやすやと眠っている。
今日は新聞配達はないんだ。だからこのまま眠ってしまおうと思っている。
眠ろうとしても眠れない。
そこで奈々子さんが浩二さんと僕が眠る居間へとやってきた。
「アツジ起きている?」
と小声で僕に向かって言う。
「起きているよ」
と僕も小声で呼んだ。
僕と奈々子さんはこっそりと浩二さんの家から出て、団地から見える星空を眺めていた。
「ここは良く星がきらめくね」
「うん。そうだね。浩二さん良い人で良かったね。これで骨髄が合えば良いんだろうけれどね」
「あたしは祈っているよ」
そんな時、夜空にきらめく流れ星が流れた。
「あっ流れ星!」
「どこどこ!」
「もう消えちゃったよ」
「何よアツジ、お願い事できなかったじゃない!」
少々ご立腹の奈々子さん。
僕は笑ってしまう。
「何がおかしいのよ!」
「大丈夫だよ。奈々子さん。お願い事は叶うよ」
「・・・アツジ」
「信じようよ。浩二さんが骨髄のドナーとして合う事を」
「そうね。お母さんの病気を治せるのは祈りだけではダメなんだよね。ちゃんと現実に向き合いながら、行動しないとね」
僕は信じる。浩二さんが奈々子さんのお母さんの雅美さんが骨髄バンクのドナーになってくれることを。
兄弟なら四分の一かあ、もし万が一浩二さんがドナーにならなかったらの事も考えるのは、浩二さんが合わなかったら考えるしかないな。
浩二さんが合わなければ、僕達は危険な橋を渡る運命になるだろう。
そして僕達は何もすることもないので、お互いに布団に戻って眠りに入った。
「ハァハァ!」
目覚めた時、僕はどうやら怖い夢だと言う事に安心してしまう。
夢と言うと、奈々子さんのお母さんの雅美さんが闇に葬られ、その後を追う奈々子さんの夢だった。
何て恐ろしい夢なのだろう。
これが現実に会ってはいけない。
時計を見ると午前七時半を示していた。
居間に行くと、奈々子さん合わせて浩二さんの家族全員がそろっていた。
「奈々子さん」
なぜか僕は怖い夢を見て息を切らしているようだ。
「どうしたのアツジ、そんなに血相かいちゃって」
僕は奈々子さんをひと目見て、安堵の吐息が漏れて、その場で崩れ落ちた。
「ちょっとアツジ、大丈夫」
僕の額に手を当てて心配する奈々子さん。
「大丈夫だよ」
「熱はないみたいね」
「だから僕は大丈夫だよ。それよりも浩二さん。今日雅美さんのドナーになれるかどうか早速調べに行ってもらえませんか?」
「分かった。今日は仕事を休もう」
「ありがとうございます」
そこで奈々子さんが「ちょっとアツジ、大事な仕事を休んでもらうまでしてもらわなくても」
「何を言っているんだ奈々子さん!一刻も早く奈々子さんのお母さんのドナーを探さないと大変な事になってしまうでしょ!!!」
「確かにそうだけれども・・・」
「だから奈々子さん。早く浩二さんに病院に行ってもらって骨髄が合うかどうか調べてもらわないと」
と言う事で浩二さんには今日一日付き合ってもらうことにした。
電車に揺られて一時間で僕達が住む街へとたどり着いた。
浩二さんは言っていた。雅美さんに会えることが最も楽しみだと。
僕達三人は奈々子さんの家に行き、夜の仕事で疲れているのか?布団にかぶって雅子さんは眠っていた。
奈々子さんは家に上がり「お母さん。お母さん」と体を揺さぶった。
「どうしたの奈々子」
目をこすって目覚めて浩二さんを見つめると、その眠気は一気に吹き飛び、雅美さんはびっくりしていた。
「あなたはもしかして浩二お兄ちゃん!!!?」
「久しぶりだな雅美!!」
「奈々子、これはいったいどういう事!?」
「お母さんの骨髄バンクが必要だから、お母さんのお兄さんの浩二さんに来てもらったの」
するとお母さんの雅美さんは奈々子さんの頬を思いきり叩いた。
「ちょっと何をするんですかお母さん!」僕が言う。
「雅美何をするんだ!」浩二さん。
「出て行って、あたしには兄弟何ていないわ。だから早く出て行って!!」
すると浩二さんは雅美さんの頬を思いきり叩いた。
「何するのよ!!!」
「雅美、何が気に入らないんだ!?俺はお前と再会できて嬉しく思っているんだけれどもな」
「浩二お兄ちゃん、あたしはあなたを捨てて駆け落ちしたのよ。それに借金を残して浩二お兄ちゃんになすりつけたのよ。それでもあたしの事を許してくれるの!?」
「許すも何も俺達は兄弟だ。それは切っても切り合わせられないものだよ!」
「本当にこんなあたしを許してくれるの?」
すると浩二さんは雅美さんを抱きしめた。
「許すも何もないよ。お前は娘の為にも病気を治してもらえるように、俺がお前のドナーになれるか確かめさせてくれないか?」
雅美さんは泣きながら「あたしなんていなくなってしまえば良かったと思っていた。奈々子はあたしがいなくてもちゃんと何とかやっていけると信じていたからね」
「お前は奈々子ちゃんの為にもアツジ君の為にも、そして一番かわいい俺の妹として俺は生きていて欲しいと思っている。だから簡単に諦めるな」
僕は二人のやり取りを見て、雅美さんにも、その娘である奈々子さんにも強い味方が現れたと思って安心してしまった。
そして改めて思うんだ。家族のありがたさを。
だから今度僕の父親か母親か妹でも僕を心配するなら、それを受け入れようと僕は考え直した。




