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恋人はライバル関係  作者: 柴田盟
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色恋沙汰

 関係代名詞かあ、光さんがこんな難しい問題を出してくることは想定外だ。

 菜々子さんは何も文句も言わずに黙々とプリントをこなしている。

 ヤバい、光さんの事を考えている場合じゃない。

 僕も関係代名詞は何度か勉強した事があるから、少しぐらいなら分かる。

 でも僕達は中学二年だ、関係代名詞を覚えるのは三年生になってからだ。

 こんな難しい・・・いや、今はテストに集中しないとね。


 とにかく関係代名詞、集中してやろう。


 ヤバい。難しい。どうやってこの問題を解いて行かなければいけないんだっけ。


 でもとりあえずやれるだけやってみよう。


 勝つか負けるかにかかっている。同点になることはまずあり得ないだろう。


 そんなこんなで問題を解いていき、一時間が経過して、光さんが作ったテストの回収に来た。


「二人共お疲れ様」


 そこで僕が「僕達はまだ中学二年だよ。それなのに三年生で習う関係代名詞の問題をどうして出したの?」


 菜々子さんが「そうですよ。私は関係代名詞は少ししか勉強していないから結構堪えましたよ」


「今日の問題はちょっと難しくしてみました。だって二人共いつも燃えるように勉強をしているから、関係代名詞なんて、ちょちょいのちょいで解いてしまうと私は思ったんだけどね」


 光さんは笑っているが目は笑っていない。

 やっぱりエイトマン来ないから不機嫌でこんな難しい問題を出したのだろうか?


 すると光さんの背後十メートルにエイトマンの姿を僕は目撃した。


「光さん。今日はエイトマン来ていますよ」


 光さんの背後を指さして、エイトマンは光さんと目が合うと、エイトマンは恥ずかしいのか分からないが、ピューと本当のエイトマンのように素早く逃げて行ってしまった。


 光さんは大きくため息をついて、「もっとしっかりしてくれないかしら」と呆れ顔で言っていたが、光さんの目が優しくなったのは僕と菜々子さんは見逃さなかった。


 まさか菜々子さんの言うとおり、光さんがエイトマンにぞっこん中だとは思わなかったが、本当にその通りだった。


 光さんがストーカーに恋をするなんて、僕は今でも信じられないくらいに切ない気持ちやら何やらで気持ちがあたふたとしている。


「じゃあ、二人共、採点してくるから、少し休んでいて」


 そう言って、機嫌をなおして、光さんは僕達の前から去っていった。


 そこで僕が菜々子さんに「僕達も少し休憩を入れようか?」と言うと、「そうね」と言って、図書館の入り口に自動販売機があるので、そこで、それぞれ自腹でジュースを買い語り合った。


「エイトマンかあ、そう言えば僕達はエイトマンに助けられたものだよね」


「そうね、エイトマンがいなければ私達は今頃こうして、勉強に勤しんでいられなかったもんね」


「そうだ。菜々子さん、エイトマンに借りを返そうか?」


「借りってどうやって?」


「エイトマンは図書館を出た、商店街のスーパーで働いているでしょ、だから僕達が、エイトマンに、光さんはあなたにくびったけだよって言ってあげるのはどうかな?」


「あたしはほおっておいた方が良いと思うけどな」


「どうして?」


「それはエイトマンと光さんの問題でしょ、私達が水を差すような事はしない方が良いと思うんだけどな」


「そうかな?」


「そうだよ」


 と菜々子さんは言い切る。


「でも今思うと光さんは最初はエイトマンの事をビビっていたみたいじゃん。でもエイトマンは小柳達に冤罪を着せられそうになった時、積極的に訴えてくれたおかげで、今はこうして平和な日々を送れている。

 それで光さんのエイトマンを見る目が変わった

 それでストーカー行為をしているエイトマンに恋に落ちるなんて、そんな因果が許されて良いとは僕は正直思ってないけれど、僕は光さんに幸せになってほしい」


「光さんに幸せになって貰いたいかあ、それは私も賛成したいところだけれど、あんまり人の恋沙汰に足を踏み込みすぎると、馬に蹴られて死んでしまうわよ」


「別に僕は邪魔をしているわけではないよ」


「あんたがそう思っても、光さんはどう思うか分からないよ」


「じゃあ、賭ける?エイトマンに僕が光さんに『光さんはエイトマンにくびったけだよ』って言ったらうまく行くか」


「あたしはその賭には乗らないよ」


「じゃあ、この勝負、僕の勝ちで良いかな?」


「何でそうなるのよ」


「だって光さんはエイトマンにくびったけだよ」


「やるなら、アツジ一人でやって、私は馬に蹴られて死にたくないから」


 そろそろ採点が終わる頃だと思って、図書館内の机のスペースに菜々子さんは僕達の答案を並べて見ている。


 僕が六十点。菜々子さんが六十七点。


 よってこの勝負は菜々子さんの勝ちになってしまった。


 光さんから一言「二人共まだ関係代名詞を習ってないのによくここまで出来たね。二人とも勉強頑張っているんだね。間違えた所は、後で自分達で答えを見つけて、覚えて行ってね。それじゃあ、私は司書のバイトがあるから、今日のテストはここまでね」


 光さんが僕達をほめてくれた事は嬉しかった。

 でも僕は菜々子さんに負けてしまった。


「さてアツジ、あたしがテストに勝ったことだから何をして貰おうかしら?」


「変な事はさせないでよ」


「変な事って何よ!」


 まずい怒らせてしまった。


「別に、いや、その」


 僕は狼狽えて何を言えば菜々子さんの怒りは収まるか言葉に迷っていた。


 菜々子さんは「ふー」と息をつき「じゃあ、アツジ、光さんの恋い沙汰に首を突っ込むのだけはやめて」


「そんなので良いの?」


「そんなのってあなた、人の恋沙汰に首を突っ込む事をなめていない、下手をするとあなた死ぬよ!」


 菜々子さんの言うことには凄く説得力があって、僕は圧倒される。


「そ、そうなの?」


「あんた少しは頭を冷やした方が良いわよ。確かにエイトマンはいつも光さんをつけ回しているけれど、害はないのは分かった。でも、もしアツジがエイトマンに『光さんはエイトマンに首っ丈だよ』って言ったら、エイトマンはどう思う?」


「喜ぶんじゃないの?」


「バカね確かに喜ぶかもしれないけれど、光さんのストーカーをして、もう一年が立つって言うじゃない。そんなエイトマンに首っ丈だなんて言ったら、凄くやばくなるわよ」

 

 確かに言われてみればそうかもしれない。

 エイトマンは一年間も光さんのストーカーまがいの事をしている。

 世の中、ストーカーをして殺されてしまう事件が相次いでいる。

 そう思うと自分が何をしようとしたのか恥ずかしくなってしまう。


「どう?少しは頭が冷えたかしら?」


「うん。ごめん菜々子さん僕が間違っていたよ。

 でも光さんが危ないんじゃ」


「危ないのはあなたの頭よ。物事を軽率に見すぎだよあなたは」


「でも光さんがストーカーのエイトマンに殺されてしまうんじゃ」


「それは大丈夫よ」


「何でそんな事が言えるの?」


「それは光さんが大丈夫って言っているからよ」


「そんな理由で?」


「『そんな理由で』ってあなた光さんの事を信じていないの?あたしは光さんが大丈夫って言う言葉に救われて来た。それはあんたも同じでしょ。

 だから光さんとエイトマンの事はほおっておいて私達は今やるべき事があるでしょ」


「そうだよね。確かに光さんの大丈夫って言葉は信憑性があるもんね」


「だから私達は小説の続きでも書いて、光さん達は光さん達、私達は私達の今出来ることを頑張れば良いのよ。変に他の所で油を売っている場合じゃないわよ」


 菜々子さんの言う事には説得力がありすぎて、僕は圧倒されてしまう。

 そうだよね。光さん達は光さん達、僕達は僕達で今出来ることを頑張れば良いんだよね。

 そして僕はライバル兼恋人の菜々子さんと小説を書き上げる事にした。

 とにかく菜々子さんには負けられない。

 僕だけのオリジナルの小説を完成させて、菜々子さんに負けない良いものを作りたい。


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