力を借りるアツジと奈々子
「あたしは東雲浩二のめいで、東雲奈々子と言います」
「うちにめいなんていないってお父さん言っていたけれど」
東雲浩二の娘だろうか?八歳か九歳の子供だった。
そういえば興信所の人言っていたが、東雲浩二は二人の娘がいると聞いている。
「あたしはお父さんの妹の娘なんだけれども、あなたのお父さんにあたしは力を貸してほしいの」
「力って?」
僕達を怪しい目で見る東雲浩二の娘。
「とにかくお父さんに会わせてくれないかな?」
「知らない人の言う事は聞けません。それにお父さんは今いません」
部屋の奥から声が聞こえてきた。
「亜希子、どうしたの?」
今度は小学生高学年ぐらいの女の子が現れた。
「君、亜希子ちゃんって言うの」
すると亜希子と言うお姉さんの妹は、怯えるようにお姉さんの後ろに隠れた。
亜希子ちゃんのお姉さんは僕達を威圧的な視線を向けて、「うちらの家族に何か御用ですか?」
「あたしは東雲浩二の妹の娘であなた達のめいに当たります」
「うちの父に兄弟何ているとは聞いたことがありません」
「そうなの?」
「そうです。だからお引き取り願えますか!?」
まるでお姉さんはギリシャ神話に出てくるメデゥーサのような目で見てくるものだから、僕は石にされたかのようにちょっと硬直して怖かった。
そんな時である、「どうした尚子、亜希子、お客さんか?」と男の人が現れた。
「あなたは東雲浩二さんですか!?」
「はあ東雲浩二は私ですが」
「あの!私はあなたの妹の雅美さんの娘なんですけれども、力を貸してもらえませんか?」
「君は雅美の娘だと言うのか?」
「はい」
「・・・」
東雲浩二は固い表情をして、僕と奈々子さんを見た。
「力って何だ?金か?」
「いいえお金じゃありません。あなたの妹であたしのお母さんであるお母さんが白血病の病に侵されているんです。だからお母さんのドナーを探しにここまで来ました」
「雅美かあ、懐かしい名前だな。雅美は俺の一番かわいい妹でもあったよ。とりあえず二人共立ち話も何だから、中に入りなさい」
すると二人の娘は「お父さん、こんな人たちの話を信じるの?」
「良いや亜希子、尚子、この人たちは俺の大事なお客さんだ。尚子、お茶を出して来なさい」
「・・・はい」
本当にまともな娘さんだ。きっとこの東雲浩二と言う男はちゃんとした人なのだろう。
私達はリビングに招かれて、そこで座って、東雲浩二は仕事の帰りなのだろうか?背広の上着を脱いで僕達は娘の尚子さんにお茶をもてなされた。
「・・・で、俺にドナー提供をしてほしいと言う事かね?」
「はい。兄弟で骨髄が合う確率は四分の一だと言う事を知りました。だから浩二おじさん。私のお母さんの力になってください」
「僕からもお願いです。あなたの妹さんの雅美さんは奈々子さんの唯一の親族です。だから力を貸してください」
すると浩二さんは額に指を当てて、考える。
そして「分かった力になろう。俺の骨髄が合うかどうか調べに行ってやろう」
僕と奈々子さんは立ち上がり「「ありがとうございます」」とシンクロしてお礼を言った。
「それでは早速日程を」
「奈々子さん、とりあえず落ち着こうよ」
「ごめんなさい」
「あっはっはっ。君は雅美の娘の奈々子ちゃんの彼氏かね」
「そうです」
「しっかりした彼氏じゃないか」
と褒められて僕は嬉しくなってしまう。
「よし、じゃあ、明日仕事を休んで、雅美に会いに行こう。そうして、雅美の骨髄が合うかどうか調べに行ってあげよう」
「ありがとうございます」
「君たちはどこから来たのかね」
「〇〇県の〇〇町です」
「ここからかなり遠いじゃないか。今日は泊まって行きなさい」
「ありがとうございます」
と奈々子さんは僕に抱きついてきた。
でも安心するのはまだ早い。この浩二さんが骨髄が合うかどうかまだ分かっていないのだから。
とりあえず今日は東雲浩二さんの家にお世話になることとなった。
東雲浩二さんは二年前に妻を亡くしていると言っていた。
それで今は娘の尚子さんが料理を作っている。
「尚子、今日はお客さんたちにご飯を提供しなさい」
「はーい」
けだるそうに言う尚子ちゃん。
僕達はリビングで東雲浩二さんの話を聞いていた。
「妹の雅美は、駆け落ちして家を出て行ったんだよ」
「そうなんですか!?」
「俺達の親はかなりあれていてね、長男はヤクザで東雲洋平と言うんだけれども、親と似て不良になってしまって今はヤクザをやっているんだよ」
「それなら興信所に聞きました長女が売り飛ばされて、ヤク付けにされた挙句に、収容所に送られたとかそして次女の東雲美奈子って言う人が行方が分からないと聞きました」
「そうか、それぞれの事情は興信所に聞いてきたのか。俺の父親と母親は毎日働かずにろくに飯も食わせてくれなくて、施設に預けられたんだよ。そうか雅美は元気にやっているのか。俺も安心したよ。それに奈々子ちゃんだっけ、かわいいね、俺は君のおじさんに当たるんだな」
「そうですか」
と奈々子さんは照れている感じだった。
それよりも僕達はホッとしてお腹がすいてしまっていた。
「おーい、尚子、飯まだか?」
「今作っているわよ。本当に人使いが荒いんだから!」
少し切れかかった尚子さんであった。
「本当に申し訳ない。本当は二年前に妻を亡くして、涙ながらに尚子は約束したんだ。お母さんの変わりはうちがやるってな」
苦労しているんだなと僕は思った。
本当だったら尚子ちゃんは遊び盛りの子供だ。それなのに父親の東雲浩二にこき使われている。
「さて、俺も手伝うかな」と立ち上がり、「尚子手伝う事あるか」
「今、カレーが出来上がったから、とりあえず盛り付けして」
「あいよ」
と東雲浩二はそう言ってご飯をよそいカレーをかけた。
ちなみに亜希子ちゃんはこの子もお手伝いか?テーブルを拭いている。
そしてテーブルに僕達合わせて五人分のカレーライスが並べられていた。
「はぁ」
尚子ちゃんは疲れたと言わんばかりにため息をついていた。
「尚子ちゃんありがとう」
と僕が言うと、「お父さん。お客さんにご馳走するのは今日だけだからね」
「分かっているよ尚子」
そしてみんなで『いただきます』と言って食べてみるとおいしい家庭のカレーライスだった。
「このカレーおいしいよ」
尚子ちゃんに向かって言うと、「当り前じゃないうちが愛情込めて作ったカレー何だから」
愛情込めてって、自分で言うところが何かおかしくて笑ってしまった。
「何!笑っているのよ!?」
「いや、別に」
そこで浩二さんが「亜希子ご飯食べ終わったら、お風呂を張っておきなさい」
「はい」
何の不服も言わずに父親の言う事を聞く亜希子ちゃん。本当にしっかりしている。
僕達がご飯を食べ終わると、浩二さんは、「尚子、亜希子、それに奈々子ちゃんだっけ?三人でお風呂に入ってきなさい」
「分かったわよ。亜希子、それに奈々子さん」
尚子ちゃんは亜希子ちゃんと奈々子さんを連れてお風呂場へと向かっていった。
僕と浩二さんが居間で二人きりになって、「さてと、将来俺の甥になるアツジ君って言ったかな?奈々子ちゃんの事をどう思う?」
「すごく気丈でかわいい女の子だと思っています」
「そうか、まさか雅美の娘がやって来るなんて、思いもしなかったよ。俺は一番かわいがっていた雅美には苦労をさせてしまったみたいだな」
「それは浩二さんのせいではないと思いますが」
「だな、骨髄が俺と合えば良いけれどな」
「合いますよ」
「でも仮に合わなかったら、危険だけれども洋平兄ちゃんか雅子の手を借りるしかないな」
その洋平って言うヤクザはとても危険だと言っている。僕は心底思った。この浩二さんの骨髄が合う事を。




