困ったときは光さんを頼ってと言われた
新聞配達の時間になり、僕と奈々子さんは仕事をしながら早速話を進めた。
「奈々子さん、ドナー提供の人が見つかる確率は2.4パーセント何だって。スマホで調べたんだけれども。だから奈々子さんの親族を探しに行こうよ」
奈々子さんは涙をこらえて「そうね。何としてもあたしのお母さんの骨髄が合うドナーを探しに行かなければねえ」
「何か親戚に手掛かりはないの?」
「今のところはないわ。お母さんの部屋の中を探しても何も手掛かりは見つからなかったわ」
「そういえば奈々子さんの苗字は東雲って言うんだったよね」
「そうよ。東雲って言うの」
「お母さんから、兄弟姉妹の話を聞いたことがあるんでしょ」
「兄弟姉妹がいる事は知っていたけれど、何かお母さん、兄弟姉妹の事を言うと怒りだすのよ」
どうやら奈々子さんの母親の親戚には何か事情があるみたいだ。
「そういえば奈々子さんのお父さんの事を聞いたことがないけれど、その人はどうなったの?」
すると奈々子さんは表情を曇らせて「お父さんはあたしが物心つく頃に行方が分からなくなってしまったの」
「そうなんだ。それでお母さんはお父さんの事情を知っているの?」
「それも聞こうとするとお母さん不機嫌になるのよ」
ずいぶん気の難しい母親のようだ。
「だったら興信所に頼んでみれば良いんじゃないか」
「それしかないわね」
「それじゃあ、明日早速興信所にネットで調べて行こう」
今日も無事に新聞配達を終えて、今日は奈々子さんは僕の家に泊まることとなった。
東雲雅子、この名前を興信所に出して、奈々子さんのお母さんの兄弟姉妹に出会えれば良いのだが・・・。
そして次の日、僕と奈々子さんは新聞配達の仕事を終えて、今日は図書館に行かずに興信所にネットで調べて行くことになった。
興信所に行くと、一人の占い師のような恰好をしたおばさんがいた。
「あの。ここは興信所ですよね」
「ええ、そうよ。坊やたちはあたしに何か用なの」
「人探しをしています」
「人探しねえ、その前にお金がないと調べる事は出来ないわ」
「お金ならあります。人を探すには四万四千円必要だと聞いて、こちらに持って来ました」
「あら、用意が良いのね、それで誰を探したいと言うの?」
そこで奈々子さんが「あたしの母親が白血病なのです、あたしのお母さんには兄弟姉妹がお母さん含めて五人いると聞きました。だから兄弟にドナーが見つかれば、お母さんの白血病を治せると思って、お母さんの兄弟を探しに行って欲しいのです」
「なるほど、聞いた話だと何か複雑な事情があるみたいね。あなた達の言っていることはまるでドラマの世界にいるような話のような感じだわ」
「そう思ってもいいですから、あたしのお母さんの兄弟姉妹を探してください。お金ならいくらでもとは言えませんが払えるだけ払います」
「分かったわ。お母さんの名前は何て言うの?」
「東雲雅子と言います」
「東雲雅子ね。出来ればお母さんの幼い時の写真とかないかしら」
「ありません。母は写真に写されると嫌がる癖がありました。あたしが小学生に上がった時もあたしを含めて写真を控えるようになりました」
「何かきな臭い感じがしてきたわね」
そこで僕が「奈々子さんを不安にさせるような事は言わないでください」
「悪かったわ。とりあえず、この東雲雅子って言う名前から、兄弟が見つかるか調べてあげるからね」
「お願いします。あたしの唯一の親族なのですから」
「分かったわ。こちらとしてはちゃんと調べておくから、分かったら、ちゃんとあなた達に知らせるからね」
「お願いします」
奈々子さんがそういって、僕と共に興信所を後にした。
奈々子さんにとってはお母さんの兄弟姉妹が見つかることは切実な気持ちなのだろう。
奈々子さんは興信所を出た時には安心の表情をしていた。
「アツジありがとう。色々とあたしの事を気づかってくれて」
「僕は奈々子さんの恋人だから当然の事をしたまでだよ」
時計を見ると午後一時を示していた。
そんな時僕のスマホに光さんの着信音が鳴った。
「はい」
『あっ君、今日はどうしたの!?図書館に来なかったけれど』
「ごめんなさい色々と事情がありまして」
『もしかして奈々子ちゃんのお母さんの事でしょう』
「そうです。今興信所に行って、奈々子さんの兄弟姉妹を探す為に調べてもらいたいことがあって」
『そういう事ならどうして私達を頼らないの?』
僕をたしなめる様に言う光さん。
「光さんだって忙しいから迷惑だと思って」
『迷惑だなんてとんでもないわ!いつでも私はあっ君と奈々子ちゃんの味方よ』
「でももう大丈夫です。奈々子さんのお母さんの名前を出して、探してもらえるようにしましたから」
『名前を出したからって見つかるとは限らないわ』
「どうしてそんなに不安になるような事を言うんですか!?」
『そんなに不安なら豊川先生の力を借りた方が得策だと私は思うんだけど』
「そんな~豊川先生に悪いですよ」
『奈々子ちゃんそこにいるの?』
「はい。いますけれど」
『ちょっと変わってくれる?』
「はい」と言って奈々子さんに受話器を渡した。
「お電話変わりました。光さんですか?」
「はい」「はい」「分かりました」
そして僕のスマホを渡してきた。
「お電話変わりました。奈々子さんに何を言ったのですか?」
『とりあえず興信所に頼む前に私達を頼ってって言ってあげたわ!』
「じゃあ、興信所がダメになったら、豊川先生に相談しますよ。それに光さんにも」
『そうしてもらえると嬉しいわ。これからあなた達暇なのでしょ。今から図書館にいらっしゃい。ご飯もまだでしょ。また敬子からパンを分けてもらったから食べに来なさい』
「分かりました」
通話が途切れた。
「光さん何だって?」
「とりあえず、図書館にいらっしゃいって言っていたよ」
「じゃあ、アツジこれから図書館に行こう。新聞配達の仕事まで時間があるからね」
「そうだね」
僕と奈々子さんは自転車で図書館に向かった。
十分くらいで図書館に到着すると、司書の仕事をしている光さんの姿があった。
窓越しで光さんは僕達を見つけると、女神さまのような笑顔でこちらに向いてくれた。
何かその光さんの女神様のような笑顔を見るとなぜかホッとしてしまう。
光さんは言っていたが、光さんの言う通り、まず興信所に頼むのではなく、光さんを頼るべきだと反省させられる。
僕達の存在に気が付いた光さんは駆け足で僕達のところにやってきた。
「あなた達今日は図書館に来ないから心配したでしょ!興信所に行くならまずは私と豊川先生を頼りなさい」
「「はい」」
と僕と奈々子さんは反省させられる。
「とりあえず二人共ご飯まだでしょ。私は昼休みが終わっちゃったから、パンだけでも二人で食べて」
光さんは袋詰めにしてあるパンを私に差し出した。
僕と奈々子さんは図書館に隣接する公園で二人でパンを食べながら、語り合った。
「とりあえず興信所がダメなら光さんは豊川先生を頼るべきだと言っていたよね」
「豊川先生はすごい人だからね。あたし達が想像もつかないことを見事に解決させてしまうからね。アツジも豊川先生に助けてもらったことがあるでしょ」
確かにあの時はすごかった。豊川先生は裏の世界の人たちとも交流を持っていて絶対的な地位を獲得している。
そう思うと僕達は興信所に頼るのではなく、豊川先生に頼るべきだったかもしれない。
でも豊川先生は忙しい人だ。豊川先生に救いを求める人は何人もいる。
僕と奈々子さんは豊川先生に何度か助けられたことがある。もし豊川先生が僕達の悩みを解決してくれなかったら、今の僕達はこうして図書館に隣接する公園で暢気にパンなど食べる事が出来なかっただろう。




