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恋人はライバル関係  作者: 柴田盟
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気丈な奈々子さん

「奈々子さんのお母さん。お願いです。このまま奈々子さんのお母さんである奈々子さんがあなたが亡くなったら奈々子さんは悲しみます。どうしてそんなに意地を張るのですか?」


「だからあたしは白血病じゃないって言っているでしょ」


「でも奈々子さんはあなたが健康診断の紙を見て知っているはずです」


「いくら奈々子の彼氏でも、言っていい事と悪い事があるわ」


「でもこれは言っていい事だと僕は思います」


「奈々子、何よこのうざい彼氏は」


 すると奈々子さんは「あたしの大切な彼氏なんだから悪い事は言わないで」


「ずいぶんこの男を信頼しているのね。だったらあたしは死んだって、あなたは立派に生きられるわよ」


 そこで僕が「自分が白血病だと言う事を自覚しましたね」


「だから何だって言うの?」


「今すぐに治療を受けてください!!!」


 僕は大声で言った。


「アツジ君と言ったね。あなたには関係ない事よ」


「いや関係あります。唯一の親族が亡くなったら、奈々子さんはどれほど悲しむか?考えたことはないんですか?」


「・・・」


 何も言えなくなった奈々子さんの母親。どうやら僕の思いが届いたようだ。


「奈々子、前言撤回だわ。あなたは本当にいい男を見つけたようね」


「アツジはあたしの一番信頼できる恋人でもあるんだから」


「でも、前の男に借金残してやっと返せると言うのに、治療費でまた借金をしなくちゃいけないことを考えると・・・」


 そうか。お母さんはお金の事を心配して奈々子さんの負担にならないようにしているみたいだ。


 そこで僕が「お金なら何とかなります」


「いくら彼氏でも、お金を払わせる義理はないわ」


「義理だったらあります。僕は奈々子さんの彼氏でもあるのですから」


「奈々子から聞いているけれど、あなた中学生よね。それに新聞配達の仕事で一人暮らしをして毎日生計を立てているみたいじゃない。そんなあなたがあたしの治療費を払えるほど安くはないよ」


「治療費だったら知っています。国が七割負担してくれるので、もし、入院費が五十万だとしたら二十二万円で済むと聞いたことがあります」


 そこで奈々子さんは「お金だったらあたしが出してあげるから」


「知らなかった。そんなに安く済むなんて・・・」


「後は骨髄の移植です。奈々子さんの親戚はお母さん合わせて五人いると聞きました。それらを調べれば、中に一人は骨髄が一緒のところも見つかると思います。後骨髄バンクを調べれば何とかなります。もし骨髄バンクがなかったら、親戚を頼るべきです」


「親戚か?みんなどこで何をしているか分からない状況よ」


「信じましょう。きっとお母さんの病気を治してくれる骨髄バンクが見つかるはずです。それには僕も協力します」


「いや、アツジは何もしなくて良いよ。後はお母さんとあたしで親戚を頼るから」


「二人だけで大丈夫かい?」


「大丈夫よ。とりあえず、お母さんの入院先を探しに行かないとね。アツジ、今日は一人で図書館に行って」


「分かった」


「それに光さんによろしく言っておいて」


「了解」


 そういって僕は奈々子さんの家を後にして自分が住むアパートに帰った。


「ふー」と息をつき一時はどうなるかなと思って、とにかくこれで一件落着と行ったところか。

 今日は一人で勉強だ。描きかけの絵もある。

 早くこの絵を完成させて光さんや奈々子さんにも見せるつもりだ。


 僕は図書館に行く支度をして、光さんがバイトしている図書館へと向かった。


 図書館に到着すると、光さんがドア越しに、「あらあっ君。今日は奈々子ちゃんとは一緒じゃないの?」


 光さんに話しておいて大丈夫だろう。

 光さんに奈々子さんの事情を話すと、光さんはびっくりしていた。

 でももう大丈夫だと言っていたが、何か光さんは『何か胸騒ぎがする』と縁起でもない事を言った。それはどういう事なのだろうか?今の僕には分からなかった。そう今の僕にはこれから大変な事が起こることを知らずに僕は暢気に図書館で絵の続きを描いていた。


 絵が終わりかけた時には昼頃を回っていた。


 光さんに声をかけられなければ僕は絵に夢中でお昼を見過ごすところだった。


 いつもの図書館に隣接する公園で僕と光さんはベンチに座った。


 光さんは僕と奈々子さんの為にお弁当を作ってきてくれた。


「光さん、僕達の為にお弁当を作ってきてくれたんですか!!?」


「ええ、今日は敬子が務めるパン屋がお休みだから、腕によりをかけて作ってきたのよ。奈々子ちゃんがお休みなのは残念だけど」


「奈々子さんの分は二人で分けて食べましょうよ。そんなに量は多くはないですから」


「奈々子ちゃんは小食だからあまり食べないもんね」


「それよりも光さん、先ほど言っていた胸騒ぎって何ですか!?」


「奈々子ちゃんのお母さんに何度か出会ったことがあったんだけど、奈々子ちゃんのお母さんの雅美さんは相当ひねくれた人だから、素直に骨髄を受け入れるかしら」


「確かに今日会った時は、お母さんの雅美さんでしたっけ?すごくひねくれた人でした」


「でしょう。それに奈々子ちゃんのお母さんは何度か自殺未遂もしたことがあるのよ、それに奈々子ちゃんは相当苦労したみたいだわ」


「そうなんですか?」


「白血病になったこともきっとお母さんの雅美さんは、それを機に自殺しようとしているかもしれないわ」


 確かにあり得る。今日のお母さんの雅美さんに出会った時、白血病を隠そうと必死になっていたもんな。それに僕のアドバイスを素直に聞いてくれるとは思えなくなり、奈々子さんのお母さんの雅美さんが心配だった。

 でも奈々子さんのお母さんの雅美さんは兄弟姉妹が雅美さん含めて五人いると聞いた。それだけいれば骨髄の合う人が必ず見つかるはずだ。

 僕はスマホで白血病の事を調べた。


 白血病の治療には二つに分けられると書いてある。


 一つは自家移植で、この場合だと再発の恐れがあり、完全に治ることはないらしい。


 もう一つは同種移植で兄弟や骨髄バンクに登録した者が会えば完治すると書いてある。兄弟以外のドナーが見つかる確率は2.4パーセント。ほとんどゼロに近い確率だ。

 だから兄弟の中に骨髄移植者を探した方が健全だろう。

 もし奈々子さんのお母さんの雅美さんが兄弟姉妹に頼ならければ、死んでしまう確率が多い。

 仮に奈々子さんのお母さんの雅美さんがいなくなったら、奈々子さんは絶望を味わうだろう。

 それだけは避けたい。奈々子さんの悲しむ姿など僕は見たくない。

 嫌だ。奈々子さんが絶望に落ち入れられてしまうなんて。


 だから一刻も早くドナーを探しに奈々子さんの親戚を回るようにしたい。


 僕は光さんのお弁当を食べた後、奈々子さんの携帯にかけた。


 すぐに出て奈々子さんは「はい。アツジ」


「奈々子さん、お母さんの白血病を治すために一刻も早くお母さんの親戚に連絡しよう」


「アツジ、それがみんな行方が分かっていないのよ。家のお母さんは親勘当されて、その後連絡先が途絶えたのよ」


 泣きながら訴える奈々子さん。続けて、


「それにお母さんそれでもホステスの仕事を頑張ろうと躍起になっているのよ」


 奈々子さんの泣き声がいたたまれない。


「奈々子さん、泣いている場合じゃないだろう。お母さんは後三年から五年は生きられるんでしょ。その間にお母さんの親戚を探しに行こうよ。戸籍を調べれば一発で調べられるだろう。明日保健所に行って戸籍を調べてもらいに行こうよ」


「う、うん、分かった。早速明日調べに行くよ」


「今日はとりあえず新聞配達をする気力はある!?」


「もちろんあるよ」


 受話器の向こうから泣き顔でスマイルの奈々子さんが想像できた。

 それだけ元気なら奈々子さんのお母さんを助ける事が出来ると僕は確信した。


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