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恋人はライバル関係  作者: 柴田盟
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奈々子さんの涙

 桃子の事は済んで、誰もいなくなり、僕は大嫌いな勉強を始めた。

 義務教育受けなきゃいけないからな、それに僕は学校にも行っていないからな。

 ちゃんと勉強して、いつか立派な社会人になりたい。

 僕自身の理想の社会人はいつか小説を書いてその挿絵も描くつもりだ。


 未来は決して僕達を裏切らない。

 その光さんの名言を胸に僕は勉強を始めた。

 一時間程度勉強して時計を見ると午後十時を示している。

 そろそろ寝るか。

 そういって僕は畳の上に布団をひいて眠りについた。

 今日はトラブルはあったものの色々と楽しいことがあった。

 明日も楽しい日になれば良いと僕は思っている。




 目覚めると時計は午前三時を示している。


 今日も同じようにパンと牛乳と野菜ジュースを飲んで、そしてシャワーを浴びて、外に出て、自転車に乗って配達所まで向かっていった。


 配達所まで到着すると、ちょっと不機嫌そうな奈々子さんがいた。


「おはよう。奈々子さん」


「うん。おはよう」


 と言っていたけれど何か言葉に張りがないような感じがした。


「どうしたの?奈々子さん?何か今日は元気がなさそうだけれども、昨日の事では桃子と和解したよ」


「そう、良かったじゃない」


 何かどうでも良いような顔をして言ったものだから僕は「奈々子さん。何かあったの?」


「別に何もないわよ」


「いつもより元気がないじゃないか!」


「アツジには関係ない事だよ」


「どうしてそんなつれない事を言うの?」


「アツジ仕事だよ」


 奈々子さんの言う通り仕事の時間だ。


 僕達は新聞に一部ずつチラシを入れて、自転車に新聞を括り付けて、僕達の配達の仕事をした。


 僕は今日の奈々子さんはいつもと違うことに気が付いて、仕事に集中できなくて、いつもより仕事に励むことが出来なかった。


 それは奈々子さんも同じで今日の奈々子さんは調子の悪い僕よりも、遅かった。


「今日はあたしの方が遅かったね」


 負けを認めている奈々子さん。それにいつもの奈々子さんじゃない。


「今日は勝負にならないよ」


「何よ!アツジ、アツジの癖にあたしに気を使うなんて」


「奈々子さん。どうしたの!今日は僕と張り合いがないじゃないか。昨日の事なら今朝言ったけれど、桃子とは和解できたよ」


「だったら良いじゃない。たまにはあたしにも機嫌が悪いことがあるよ」


「何があったの?僕に話してよ。奈々子さんはため込む癖があるから、そうやってため込むと辛いでしょ」


 すると奈々子さんは口をつぐんで僕の目をそらしてしまった。


「奈々子さん!」


「うちのお母さんが病気なの!」


 奈々子さんは泣きながら言った。


「えッ、何の病気なの?」


「昨日検査をして、白血病だって申告されたみたい」


 そんな大変な事があったのか?だから、さっきからいつもの奈々子さんじゃなかったんだ。

 奈々子さんはお母さんを大切にしているし、唯一の奈々子さんの肉親だ。

 そんな奈々子さんの肉親がそんな大変な病気をしているなんて。


 僕は奈々子さんを抱きしめた。


 そして奈々子さんは僕の胸を濡らした。


 奈々子さんの悲しみは僕の悲しみでもある。


「とにかく骨髄が見つかるよ。信じようよ」


 変だ。僕まで涙を流している。


「お母さんがいなくなったら、私独りぼっちになってしまう」


「何バカな事を言っているの!僕がいるじゃん。それに光さんも豊川先生も麻美ちゃんや笹森君だっているよ」


「あたしどうしたら良いのか分からなくて!」


「とにかく落ち着こうよ。僕は奈々子さんの味方だから」


 涙を流し続ける奈々子さん。


「とにかく奈々子さん。お母さんの骨髄きっと見つかるよ」


「分からないよ。そんなの!?」


「大丈夫だよ、奈々子さん。とにかくまだお母さんが死んだわけじゃないじゃないか!?」


 奈々子さんがこんな大変な事で悩んでいたなんて。奈々子さんに僕が出来る事はないか?必死に考えるしかない。


「もし骨髄が見つからなかったら、後三年か五年の命なんだって」


 奈々子さんは表情を曇らせて泣きながら言ってきた。


「奈々子さんのお母さんの兄弟姉妹はいないの?それと親戚とかは?」


「兄弟姉妹はいるけれど、みんな疎遠になっていて連絡が取れない状況みたい」


「とにかく奈々子さん、泣いている場合じゃないよ。これは一大事だよ。僕も協力するからその疎遠になった奈々子さんの兄弟姉妹の骨髄を調べてもらおうよ。兄弟姉妹は何人いるの?」


「お母さんを含めて五人いるみたい」


「兄弟姉妹が四人もいるなら、必ずその中の人にきっと骨髄が見つかるよ。僕一度テレビで見たことがある」


「でもお母さんは疎遠になっている兄弟姉妹から出て、二十年は経っている。そこから見つけるのは困難かも?」


「困難じゃないよ。とにかく連絡を取ってみようよ」


「あたしもそれを望んだけれど、お母さんは兄弟姉妹にひどいことをされて追い出されたの。そんな兄弟姉妹に助けられる事なんて絶対に嫌だと言ってすごく拒むの」


「じゃあ、僕が話をつけてあげるよ、奈々子さんのお母さんに」


「そういえば、アツジに言っていなかったかもしれないけれど、あたしのお母さんはホステスで働いているの」


「だから何だっていうの?」


「アツジはそんなお母さんの事を受け入れてくれるの?」


「ホステスだろうがストリッパーだろうが体を売るような仕事をしていようが関係ないよ。すべては奈々子さんを必死に育てるためにやっていたことなんでしょ!」


 そういえば奈々子さんのお母さんの仕事は看護婦って言っていたけれど、僕に同情されたくないので、普通にしている仕事を僕に伝えたのだろう。

 それに僕は奈々子さんのお母さんに会ったことがない。


 奈々子さんは同情されるのが嫌いなタイプの人間だ。


 仕事を終えて僕は奈々子さんのお母さんを説得させるために、僕は奈々子さんの家に向かう。


 奈々子さんの家は外観がぼろい一軒家だった。

 

「お邪魔します」


 と中に入り、奥へ進んでいくと、居間に到着した。

 そこには奈々子さんのお姉さんみたいな人がいた。


「おはようございます。それにお邪魔します」


「あら、あなたは?」


「奈々子さんとお付き合いしているアツジと申します。あなたは奈々子さんのお姉さんですか?」


「いいや、あたしは奈々子の母親ですよ」


 僕は少しびっくりしてしまった。奈々子さんのお母さんはまるで大学生のような容姿でそれに奈々子さんそっくりだ。


「奈々子さんから聞きました。お母さん、なぜ兄弟姉妹がいるのに、骨髄移植を拒むのですか?」


「奈々子、あなた今度は彼氏を頼ってあたしに説得させに来たの?」


 すると奈々子さんは泣きながら「お母さん。お願い。意地を張らないで、ちゃんと親戚から頼って骨髄移植をして!!」


「奈々子、何を言っているの?あたしはそんなに重たい病気何てしていないよ」


「どうしてそんな嘘をつくの!!?お母さんの健康診断の紙を見てあたしは知ったんだから!!!お母さんは白血病だって!!!それに医者からも聞いたよ。このままでは命が三年から五年ぐらいしか持たないって!!!」


「あの医者はやぶ医者なのよ」


「そんなの信じられないよ。お願いだから、治療に専念して!!!」


 そこで僕は必死に訴える奈々子さんの事が不憫に思って「お母さん、僕からもお願いします。奈々子さんのお母さんは唯一の親族だと聞いています。もしこの先お母さんがいなくなったら、奈々子さんは悲しみますよ!!!そんな事も分からないんですか!!?」


「アツジ君と言ったわね」


「はい!」


「いくら奈々子の彼氏だからと言って、家の事に口を挟まないでくれるかな?」


 何て母親だ!と僕は思った。


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