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恋人はライバル関係  作者: 柴田盟
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日常

 夜のしじまを涼子さんと歩く。僕達は知り合ってからまだ半年ぐらいしか経っていない。涼子さんの方を見ると目が合って笑ってくれた。その笑顔を見るとなぜか安心してしまう。それと共に何か切なくなったりする。僕は涼子さんの悲しみに触れたことがない。その笑顔の裏に何かとてつもない甚大な悲しみを抱いているような感じがする。


 季節外れの北風が吹いてきた。涼子さんは半袖の白いワンピースで少し震えていた。今日の予報を見なかったのか今日は季節外れの寒波が来ることを。僕は寒そうにしている涼子さんに僕が来ているジャケットを羽織らせた。


「ありがとう。あっ君、優しいんだね。そんな優しいあっ君の事私は好きよ」


「別に僕は優しくないよ。僕は一人じゃ何も出来ない臆病者だよ」


「そうだよ。あっ君、一人じゃ何も出来ないのは当たり前の事だよ。バンドだって絵だって小説だってみんながいるからこそ出来ることなんだよ。いつも絵や小説にバンドはあっ君を熱にしてやっているような物だからね」


「確かにそうだね」


「逆に独りぼっち気取って何かをやろうとしている者が愚かだよ」


 その時思ったんだ。僕達は本当のソウルメイトだと言うことに。そう言えば斎藤さんの弱いところも見たことがない。涼子さんも斎藤さんも泣いたところは見たことがあるが、本当の悲しみを見たことがない。


 ふと二人で歩いていると、時計は午後十時を示していた。


「涼子さん。そろそろ時間だから戻ろう。みんな心配しているかもしれない」


「そうね」


 そうだった。僕はみんなの気持ちも知らないでここに来てしまったのだった。何か斎藤さんと奈々子さんにどんな顔をすれば良いのか分からなかった。何か二人に会うのがちょっと後ろめたい気持ちもあった。


 僕と涼子さんは武道館の近くの見知らぬ街を歩いている。それも手を繋ぎながら。涼子さんの手はとても暖かく、とても安心できる。


 斎藤さんと奈々子さんに何て言えば良いのか分からず僕と涼子さんは電車に乗って僕と涼子さんの家に戻るのだった。


 戻って斎藤さんと奈々子さんはすでに僕と涼子さんの家にいた。


「もう二人とも心配したんだからね。もしかして二人とももうやっちゃったのかな?」


「本当にあなたの頭はそういう卑猥な事しか考えられない腐ったおつむをしているわね」


 帰ってきて早々喧嘩かよ。勘弁してくれよ。でもそのおかげで二人に後ろめたい気持ちは失せていた。桃子も心配していたらしく、僕は桃子を抱きしめた。とりあえず親の事はいっさい聞かれる事はなかった。


 今日は本当に疲れた明日はスクーリングだ。最近武道館の事で絵をおろそかにしてしまっているが、明日も高岡先生に順を落としてしまって怒られるかもしれない。何だったら、もし何か言ってきたら高岡先生に僕達が武道館ライブで忙しいことを伝えた方が良いと思っている。


 今日は疲れているので、絵を少々書いて僕達は眠った。


 今日は親が来てパニックになったが、親の事に対しては和解するつもりはない。でも僕達が武道館にたったと言うことで親達は僕と桃子の事を認めてくれるだろう。いやあれは認めていた。


 もう僕も桃子も弱い人間じゃない。僕達は様々な邂逅を経て、こうして武道館に立つほどの力を得たのだ。


 その時思った。誰もが波瀾万丈な人生を送っている。しかも僕達のような悲惨な過去を持つ者にとって。


 出会いこそが人生にとっての宝探しなのかもしれない。現に光さんに会わなければこんな素晴らしい時を過ごす事は出来なかった。





 ******   ******




 そして朝、今日の朝ご飯の当番は涼子さんだった。僕達の為に焼きそばを焼いてくれている。


「ほら、焼きそばの完成」


「あー凄い香ばしい匂いがしてくる。さすがは涼子さんだね」


「焼きそばなんて誰でも作れるよ。でも私の焼きそばはちょっと工夫がされているからね」


 僕達は焼きそばをすすった。凄くおいしい焼きそばだと言うことに僕は涼子さんの事をますます好きになれた。


 僕はいつか見てみたいと思っている。涼子さんの悲しみをそんな悲しみを見せない涼子さんはずるいと思っている。昨日の事だってリハーサル中に僕と桃子の親を連れてきたことや、その事にも不本意だが感謝はしている。父親も母親も僕と桃子のことを認めてくれているらしいし。でも僕も桃子も親のことを信じていない。


 今日も順番にシャワーを浴びて相変わらずに最後の涼子さんは時間がかかる。すると奈々子さんはイライラして、「ちょっと涼子、いつまで入っているのよ!いい加減にしないと学校送れちゃうよ」と言って涼子さんは「分かっているわよしようがないじゃない。この長い髪を乾かすのに時間がかかるのだから」「だったらあたしがあなたのその髪をバリカンで丸坊主にしてやろうかしら」


「もう涼子ちゃんも奈々子ちゃんもいい加減にしてよ。それに奈々子ちゃん、別に時間には余裕があるのだから別に涼子ちゃんが長くなったって別に支障はないでしょ」


「何よ翔子、やけに涼子の肩を持つじゃない」


「別に持っていないわよ。奈々子ちゃんがいつも涼子ちゃんを怒らせる事をするからよ」


「何よ、いつあたしが涼子の事を怒らせたの、あっちだってあたしの事を怒らせる事だってしているのよ。やっぱり翔子、あなた涼子の肩を持っているのね」


「持っていないわよ。私はいつもみんな平等に接しているわよ」


「どうだか?」


「何よ奈々子ちゃん、わ、私とやるって言うの?」


 斎藤さんは少々ビビりがちだが奈々子さんに喧嘩を売っているような感じだった。


 これはさすがに止めなきゃと思った時、浴室から藍色のワンピースを着て涼子さんが割って入ってきた。


「翔子の喧嘩なら私が買うよ」


「誰が原因でこうなったと思っているのよ。元はと言えば涼子が髪を乾かすことに時間をかけているからでしょ」


 とうとう喧嘩は翔子さんも巻き込まれることになってしまった。そこで僕は、男としての威厳を見せるためにバンッとテーブルを叩いた。これで収まるだろうと思っていたが。


「何よアツジ、あたし達の喧嘩を仲裁しようって言うの?上等じゃない」


 やばい火に油だった。


「と、とにかく喧嘩はいけないよ。三人とも落ち着いて」


「ちょっとアツジ、あなたは誰の味方なのよ」


「誰の味方でもないよ。とにかく喧嘩はやめてよ。本当にお願いだから」


 すると三人は落ち着いてくれて、良かったと思っている。シャワーの件だけれども少し考えた方が良いかもしれない。


 そして僕達はスクーリングに出かけることになった。


 学校に到着すると僕はソウルメイトの代表として高岡先生に僕達が武道館ライブをすることを告げてチケットを授けた。


「何だお前等、武道館でライブを行うのか!?」


 と驚いていた。


「はい。それで僕達は最近忙しくて絵の勉強もしているんですけれど・・・」


「バカヤロー!!そんなのが理由になるか!!俺はお前達に絵で食っていけるように指導しているんだ!その事を忘れるなよ。それにそんな年で武道館ライブか、しかもお前達が謎のバンドのソウルメイトだったとはな」


 半分怒られて、半分感心させられた。


 そうだ。高岡先生の言うとおりだ。武道館ライブをするからと言ってそれが理由になるはずがない。


「まあ、とりあえず、お前達のバンドを見せて貰うことにするよ。だからと言って絵をおろそかにしちゃダメだぞ。お前達には絵で食っていける才能を開花させるためにいつも懸命に俺は指導しているんだからな」


 高岡先生は良い先生だ。僕達はこの学校に入れて良かったと思っている。両国では進学校で安井の話によると相手を蹴落とすことしか考えない連中ばかりだと聞いていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 仲よくけんかしながら、少しずつ前に進んでいますね。
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