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恋人はライバル関係  作者: 柴田盟
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涼子さんの想い

 親の事を前にして僕はどうすれば良いのか戸惑った。ここで僕が親なんて居ない方がマシだと言い切ってしまったら一人きりになってしまうことを酷く恐れた。


 あんな親でも僕と桃子を愛しているのだろうか。いや分からない、僕が中学の時、新聞配達で働いて一人で暮らしていたことを思い出した。その時も親は僕のことを気にかけてはくれなかった。


 でも涼子さんも奈々子さんも斎藤さんも親が居ないんだよな。それに比べたら僕なんか恵まれている方なのかもしれない。


「アツジ、桃子、今まで辛い気持ちにさせてしまって悪かった」


 親父は今更ながら謝ってきた。


 何かむかっ腹が立ってきた。


「本当は僕達に近づいたのは金が目当てなんだろ!」


「あっ君それ本気で言っているの?」


 僕の発言で涼子さんは本気で怒っている。


「あっ君自分の気持ちに素直になれないんでしょ。だったら、あっ君はまだ子供だよ」


 素直になれって言ってもこんな親のことを素直に何てなれないよ。


 僕は一人になりたかった。僕は親の事が大嫌いだ。僕が一人暮らしをしながら新聞配達で生計を立てていたって、親父は僕のことを見向きもしなかった。僕がその場から去ろうとすると涼子さんが。


「あっ君どこに行くの?」


「ゴメン今は一人になりたいと思って」


「分かった心の準備が出来ていないんだね」


 僕はそのまま、ベースを抱えて出て行った。


「アツジどこに行くんだ」


 親父の事を無視して僕は走り去った。


 何だろうこのモヤモヤした気持ちは、僕に両親と和解しろと言うのか?僕は武道館の近くの街であてもなく歩いていた。


 涼子さんが呼んだって言う親はどういうつもりで僕達に近づいてきたのか分からなかった。確かに斎藤さんの言うとおり親との思い出は悪い物ではなかった。一緒に旅行もしたし、自転車でピクニックなんて事もした。でも僕がいじめられていた時、助けてもくれなかった。


 それで光さんに助けて貰ったっけ。僕が一人暮らしを始めたとき、何も言いに来なかった。僕を助けようとはしなかった。空を見上げると丁度今スピカとアルクトゥルス、レグルスの春の大三角形が見えた。


 僕は公園に差し掛かりベンチに座って星を眺めていた。


「だーれだ?」


 僕の後ろから僕の目元を隠して居た。


「涼子さん」


「当たり」


 そう言って涼子さんは僕の隣に座った。


「ゴメンねあっ君、私余計な事をしちゃったかしら?」


「本当だよ。本当に余計な事をしたよ」


「余計な事をしちゃったみたいだね。でもあっ君の両親はあっ君の事をいつも見守っていたみたいだよ」


「嘘だ!」


「嘘じゃないよ。いつも新聞配達をしている時、配達屋さんに電話をかけていたみたいだよ」


「涼子さんはそれを知っていたの?」


「知っていたよ。でもあっ君には絶対に秘密にしておけって言われたから言わなかっただけ」


「でも新聞配達の時は本当に悪いことをしちゃったね」


「ああ、あの安井の件でしょ。本当にあれは酷いよね。でもそれは昔の話、そんなことでいちいち落ち込んでいたら前に進めないぞ」


「僕達は毎日進み歩いているよ。絵だって小説だって最近武道館コンサートのリハーサルでおろそかになってしまったけれど」


「あっ君、私のこと愛している?」


 いきなり何て言うことを聞いてくるのだと思って、顔がほてって来た。


「あっ君、顔赤いよ」


 すると涼子さんは僕を抱きしめてきた。


 涼子さんは身長は低い物の胸がやたら大きいだよな。それに涼子さんの過去は悲惨な物だと言うことを知っている。もしかしたら僕よりも辛い目にあってきたのかもしれない。だって公衆便所で産み捨てられた所を発見されたと聞いている。


 そして施設に入り物心をついた頃には行きずりの家族を見て、そんな家族と居る子と変わりたいと思ったりもしていたみたいだ。


 涼子さんは抱きしめたまま何も言わなかった。


「あっ君、セックスしよう」


 いきなり何を言い出すのかと思ったら僕は涼子さんの言葉に何て答えたら良いのか戸惑った。


「何戸惑っているの?私がこんな事を言うなんて滅多にないことなんだよ」


「そんな事は分かっている。でもセックスはもっとお互いの事をもっと知り合ってからしたい」


「もう充分に知り合えたじゃない。だから私とセックスをしよう」


「まだだよ。まだ涼子さんとはセックスなんて出来ないよ」


「そう」


 ため息と共に涼子さんは言う。


「じゃあ、お互いの事を知り合うためにデートでもしましょうよ」


「でも僕達には明日、スクーリングだってあるし、それに武道館ライブも控えているのに」


「良いじゃない、今日は何もかも忘れてデートをしましょう」


 僕と涼子さんは公園を出て、手を繋いでデートをした。


 涼子さんから女性特有の良い匂いがしてきた。


 僕がセックス出来ない理由は奈々子さんは僕に弱みを見せてくれた事がないからだ。たまに涼子さんは何を考えているのか分からないほどいつも爽やかな笑顔で居る。良く奈々子さんとは衝突するが。


 武道館の周辺には何もない。とそこにチャルメラのラーメン屋があった。


「あっ君ラーメン屋さんにでも行きましょう」


 チャルメラのラーメン屋の席に座って、珍しくも女性が経営していた。


「おや、カップルさんか?注文は何にする」


「ラーメン二丁お願いします」


「あいよ!」


 女亭主は手際よくラーメンの玉をお湯の中に入れていく。


「あっ君、私達ってデートって本格的にやった事がないもんね」


「僕達は忙しいからね。そんな暇なんてないから」


「今度、いつか登山でもしない。近場の山なら登れる所を知っているから」


「登山かあ、それは面白そうだね。それにどこの山に登りに行くの?


「高尾山に登りに行くんだけれども。もちろん二人きりで」


「高尾山か聞いたことのある山だね」


「私が施設にいた頃に登った山なんだよね。私はそこの山しか知らないからな」


 そしてそんな会話をしているとラーメンは出来上がった。


「あいよ!ラーメン二丁出来上がったよ」


「あっ君おいしそうなラーメンだね」


「そうだね、とりあえず食べてみよう」


 熱々のラーメンを一口食べるととてつもなくおいしいラーメンだった。


「お姉さん、このラーメンおいしいよ」


「でしょ、隠し味はこの出汁にあるんだけれどもね」


「どうやったらこんなおいしいラーメンが作れるんですか?」


 涼子さんが聞く。


「それはあたしの愛の香辛料よ」


「何か受ける!」


 涼子さんは笑う。その涼子さんの笑顔の裏に隠された涙をいつかは見なければいけないと思った。たまに思うんだ。涼子さんは笑顔の鉄仮面を被っていると。本当はとてつもなく悲しいのにそれでも笑っているような気がする。


 そんなおいしいラーメンを食べて二人で広い川が見渡せる公園に辿り着いた。

 そこにも星が瞬いている。今の季節に輝くスピカ。


 僕達は恋人同士、思えばこのデートは涼子さんが僕の親を呼んだことで始まったことだ。


「涼子さん!」


「何、改まっちゃって」


「僕の親を連れてきてくれてありがとう。まさかここまで僕が素直になれたのは涼子さんのおかげだもん」


「そう言ってくれると嬉しいよ。でもさっきまでは親の事を煙たがっていたくせに」


「親と和解はするけれど、まだ僕の中で親を許していない自分が存在する」


「でも和解するんだね」


「うん。そのつもり」


「やっぱりあっ君の恋人は奈々子には務まらないわ。やっぱり私があっ君を幸せまでエスコートしてあげるよ」


「そうしてくれると嬉しいよ」


「あっ君は私の恋人だから、浮気なんてしたら、ぶっ殺すからね」


 涼子さんはニコニコしながら物騒な事を言う。決して奈々子さんを怒らせてはいけないと思った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 話をしなければ何も変わらない。恨みや悪意ばかり募るだけ。よかったね。
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