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恋人はライバル関係  作者: 柴田盟
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互いの小説を読み合う二人

 奈々子さんとも復縁して一日が経ち、今日も奈々子さんと一緒に図書館で勉強や小説や絵などをしている。


 ちなみに僕達が見つけた赤子の事だが、光さんが紹介してくれた施設に預ける事になった。

 光さん言っていたけれど、会いたいときは私に言ってくれれば、いつでも会わしてくれるって約束してくれた。

 そしてもし僕達が大人になって、育てられる器になったらこの子を本当の子供として育てても良いと言っていた。


 それはともかく今日も奈々子さんと図書館で光さんが作ってくれた問題用紙をやる。


 光さんの問題用紙は常に基礎を重視している問題を出すので、高得点が取れれば、力が付く仕組みになっている。


 いつも忙しい光さんは僕達に無償で問題用紙を作ってくれている。


 そして僕は聞いてみた。


「光さん、いつも僕達に無償で問題用紙を作ってくれているけれど、大丈夫なの?」


 と。


 すると光さんは女神様スマイルで「私が楽しいから、それに二人ともやる気があるし、やりがいがあるから無償で出来るんだよ。って言うか私も楽しいから無償ではないんだけれどもね」


 何とお礼を言った方が良いのか分からなくなる。


 いつも光さんの友達から失敗したパンも提供してくれるし、本当に至れり尽くせりだと僕は思った。


 そして僕の小説が完成した。


 さらにその挿絵も。


 この事は今の僕にしか知らない。


 書いているときは楽しかったが、こうして物語を書いて終わってしまうと、何か寂しい感じがするし、この小説を読んでもらって本当に面白いか自分では分からない。

 だから出来上がったら奈々子さんか光さんに見せる約束をしていたんだっけ。


 でもいざとなるとすごく怖いし恥ずかしい。

 でもいずれは僕は小説家になる夢を持っていたんだ。


 これを光さんか奈々子さんに見せるのはかなり恥ずかしいし、それに怖い。


 僕は何度も自分の小説を読んで、自画自賛しか出来ない。


 文字数にすると十万文字くらいか?




 新聞配達の仕事に行き、僕は小説を読ませるべきかどうかを考えながら気持ちがもやもやとしていた。

 こんな腑抜けた気持ちではまた奈々子さんに心配されてしまう。


 朝の新聞配達が終わり、いつもの配達の仕事に支障が出て、配達の勝負は奈々子さんが勝ち、奈々子さんはそんな僕を見透かした。


「アツジ、何か悩み事があるでしょ」


 僕が負けてハチミツレモンを飲み干しながら言う。


「奈々子さんには敵わないな」


「で、何に悩んでいるの?」


「僕の小説が書き終わったんだよ」


「そうなんだ。実を言うとあたしも出来たんだよ」


「えーそうなの?全然気が付かなかったよ。誰かに読まれるの不安に思ったり怖くなかった」


「まあ、確かにね、最初はアツジか光さんに読んでもらおうと思ったけれど、この際、あたしとアツジの小説を読み合いっこしてみようよ」


「ええっ!!!」


 それは楽しそうだけど何か怖い。


「何、不服?」


「自分の小説を誰かに読ませることって怖くない?」


「確かに怖いけれど、いずれは私達の夢は誰かにこの作品を読んでもらう事なんだからね。そんな事は言っていられないじゃない?」


 確かにそうだ。自分の小説をいずれは大勢の人にさらすことになる。それなのに出来上がった小説を読んでもらうのはなぜか怖い。

 でもここは最大限の勇気を振り絞って。


「分かった。僕も奈々子さんの小説を読んで、奈々子さんの小説を僕が読む。これで行こう」


「そう来なくっちゃ!」


 パチンと手を叩く奈々子さん。


 いったん家に戻り、僕が書いた小説を持って図書館に行く時間まで自分の小説を何度も読み返していた。

 自分では面白いと思える。

 これを奈々子さんはどう思うのかちょっと怖かった。

 でも奈々子さんも同じ気持ちだと思う。

 奈々子さんも相当緊張しているに違いない。

 だから僕は時間になり、自分の小説を持って図書館に出かけた。


 図書館に到着して、図書館が開館する十分前、奈々子さんはすでに到着していた。


「早かったね、奈々子さん」


「それはそうよ。だってアツジの小説がどんななのか?私の小説をどのように感じてもらうか楽しみで仕方がないんだもん」


「何度も言うようだけど、奈々子さんは怖くないの?自分の小説が見られることが?」


「そんな事はないよ。あたしはアツジの小説が読めるなんてワクワクしているし、私の小説を読んでもらうのもワクワクしている」


「すごいな奈々子さんは」


「さて、図書館が開館したら、早速、読み合いっこしましょう」


 何だ?この胸の高鳴りは?自分の小説を読まれようとしている。さらに奈々子さんの小説を読むことになっている。

 僕は複雑な気持ちだった。


 怖い。ワクワク。恐ろしい。でもワクワク。これらの気持ちが入り組んできて僕はパニック状態になりそうな感じであった。


 自分の小説を読んでいて楽しかったけれど、でも客観的に見られようとしている。

 客観的に見るのはもちろん奈々子さんだ。それに奈々子さんの小説を読むことになっている。


 そして光さんが現れて、図書館の入り口が開き開館になった。


「二人とも今日も勉強?」


 そこで奈々子さんは「はい。今日はお互いに出来た小説を読み合いっこするんですよ」


「うわーあなた達楽しそうな事をしているのね!」


「はい。あたしは楽しみにしています。アツジの小説を読むことが」


「そういえばアツジ君に奈々子ちゃん、小説が出来上がったら私にも読ませてくれる約束をしていたわね」


 そうだった。光さんも小説を書いていて、出来上がったら最初に見せる約束をしていたのだ。


「そういえば、そうだっけ?アツジ!」


「確かに光さんにも見せるって約束したよ」


 光さんは「もしお互いに読み終わったら、二人の小説を私にも見せてくれないかしら?」


「「もちろん」」


 僕と奈々子さんの声がシンクロした。


 そして光さんは司書のバイトをして早速、僕と奈々子さんは小説の見せあいっこをした。


 奈々子さんの小説はノートにびっちり書いていて、きれいな字だ。

 奈々子さんの小説を読んでいると何か物語に引き込まれるような気がしてならなかった。

 奈々子さんの文章は頭の中にどんどん入ってくる。

 まるで映写機のように奈々子さんの文章能力を思い知らされて僕は嫉妬した。

 そうだ。僕はこれが怖かったのだ。奈々子さんの文章を読んで嫉妬するのが。

 物語もちゃんとできていて、本当に引き込まれる内容だった。

 はっきり言ってこの小説僕の小説よりも面白いと思った。

 多少の誤字脱字はあったが、そんな事は気にならずに僕は読み進めていく。


 そして二時間くらいが経過してお互いに感想を言い合うことになった。


「奈々子さん。この小説本当に面白いよ」


 素直に僕は言った。すると奈々子さんは「本当に?アツジの小説の方が面白いと思うんだけど」


「気休めだったら、やめてよ!」


 僕は奈々子さんの言っている事が信用できなくてつい大声で怒ってしまった。


「何怒っているのよ。本当の事を言っているのに。あたし、アツジの小説に嫉妬しちゃったよ」


「それ本当に言っているの?気休めだったら、僕、本当に許さないよ!」


「本当だって言っているじゃない!誰が気休めで言うと思っているの!?」


 しまいに奈々子さんも怒りだしてしまった。


 そこで僕達の大声に反応した光さんがやってきた。


「あなた達何大声出しているの」


 僕が「奈々子さんは気休めに僕の小説が面白いって言うんだもん」


「あたしは正直な感想しか言っていないよ!」


「ちょっと二人ともここで大声を出されたら周りの人に迷惑だから、とりあえず、そろそろお昼だし、今日もパンを食べながら一緒に話し合おうよ」


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