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恋人はライバル関係  作者: 柴田盟
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反省の奈々子さん

 僕の家の前で倒れている奈々子さんと通称愛子ちゃん。


 奈々子さんのおでこに触れてみるとすごい熱だ。それに愛子ちゃんも。


 そこで光さんが「どうやら藁尾もすがる思いでここに来たみたいだね」


「そんな事を言っている場合じゃないでしょ。早く救急車を」


「落ち着いて、あっ君!奈々子ちゃんもこの子(愛子ちゃん)も死ぬことはないわ」


 すると奈々子さんは「アツジせめてこの子だけでも助けてあげて」


 光さんが「二人とも助けるからとりあえず落ち着いて」


 光さんは赤子を抱き、僕は奈々子さんを抱っこして僕の家の中へと入っていった。


 奈々子さんこの土砂降りの中、宛もなく歩いていたんだな。


 奈々子さんはビショビショだ。こんなビショビショでさらにこんな冷たい雨の中でおでこを触るとすごい熱だ。


 しかも服がビショビショで冷たい。


 奈々子さんこのままでは本当に死んでしまう。


 ためらっている場合じゃない。早く奈々子さんの服を脱がせないと。


 奈々子さんの服を脱がすと下着までビショビショだ。


 さすがに下着を脱がすわけにはいかないので、僕は下着のまま奈々子さんに布団を被せてあげた。


「あっ君、下着まで脱がせた方が良いわ」


「そんな事出来るわけないでしょ」


「あっ君そんな事を言っている場合じゃないと思うよ。赤子の事は私に任せて、あっ君は奈々子ちゃんの方をお願い」


 光さんに言われて、奈々子さんの下着を思いきり目をつむりながら脱がせて「僕は何も見ていません」と言って素っ裸の奈々子さんに暖かい布団を被せた。


 そして僕は蛇口に行き、手ぬぐいを濡らして頭に乗せた。


 すると奈々子さんは少し落ち着いたのか、先ほどまで苦しそうにしていたが、大分落ち着いた感じだ。

 とりあえず奈々子さんの事は大丈夫だ。


 それよりも赤子の方を見ると、光さんはどこで赤子を治すような処世術を知ったかのか?わからないが、赤子は無事で元気を取り戻している。


「どうやら奈々子ちゃんも、赤ちゃんも大丈夫のようだね」


 僕はホッとしたが、光さんはいつも冷静で「奈々子ちゃんが起きたら、ちょっとお灸をすえてあげないとね」


 そうだよな。今回の件は明らかに奈々子さんが悪い。


 僕に代わって光さんは奈々子さんにお灸をすえてくれるだろう。


 それと僕と奈々子さんは付き合っていたが、今回の件で僕はフラれてしまった。


 復縁したいと思うが奈々子さんはどう思っているのだろう。


 とにかく今日は本当に疲れてしまった、肉体的にも精神的にも。


 ところで今何時だろうと時計を見てみると、午後十一時を回っていた。


「光さん明日早いんで、今日はこのまま眠らせてもらいます」


「そうね。あっ君は明日新聞配達の仕事に出かけなきゃいけないんだよね」


「そんな恰好で眠っていたら風邪ひくわよ」


「でも布団は一枚しかないし」


「奈々子ちゃんと一緒に寝ればいいじゃない」


「何を言っているんですか!?奈々子さんは今素っ裸のままなんですよ!!」


「しょうがないわね、私が奈々子ちゃんを着替えさせてあげるから、ちょっと台所にいなさい」


 僕は言われた通り、台所に行くと赤ん坊は気持ちよさそうに布にくるまりながら眠っていた。


 とりあえず一件落着と言ったところか?


 いや今、奈々子さんは風邪をひいているんだった。

 同じ布団の中に眠ってしまったら僕まで風邪をひいてしまう。


 すると光さんは、「今、奈々子ちゃんは風邪をひいているんだったわね。仕方がない。ここは任せて私の家に行きなさい。私の家なら布団は二枚あるから」


「え!?光さんの家ですか!?」


 それは嬉しいような困ったやらで気持ちがあたふたとした。


 でも今はためらっている場合じゃないよな、新聞配達でお金をねん出させなきゃだし、ここは光さんのお言葉に甘えることにしよう。


 って言うか甘かった。


 光さんは奈々子さんの事をほおっておけないので、僕の家に泊まり僕は光さん家のキーを借りて行くことになってしまった。


 光さんと少しでも側にいたいと思ったが、仕方がないここから光さん家までそんなに遠くはないが土砂降りの雨が降っていた。


 この冷たい雨の中を僕は光さん家まで行かなければならない。




 光さん家に到着すると光さんの家は外観がかなりぼろいアパートで中に入ると、中は案外おしゃれでピンクのカーペットに壁にはラッセンの絵が飾られている。それにものすごくいい匂いがした。


 ここが光さんが住んでいる家?ってそんな事を思っている場合じゃない明日早く新聞配達の仕事に行かなければならないのだ。早く寝て早く起きなきゃいけないのだ。


 押し入れから光さんが使っている布団を取り出して敷いて眠った。


 光さんの布団すごくいい匂いがする。




 目が覚めるとここは光さんの家だった。いつもならシャワーを浴びて出かけたいが、勝手にお風呂を使うわけにはいかないので僕はシャワーを浴びず、それとお腹に何か入れておかないと体力がつかないと思って、光さんには悪いが冷蔵庫を開けて中に卵とパンとベーコンがあったのでそれを食させてもらった。


 さて自転車で配達所に行くと、もちろん奈々子さんの姿はなかった。


 社長からは僕から事情を説明した。


 社長は困った顔をしていたが、まだ中学生だし、仕事への責任能力に欠けていると言われて奈々子さんはそんな人じゃないと僕は叫んでみたかったが出来なかった。




 新聞配達の仕事を終えて僕は自分の家に戻ると、奈々子さんは光さんが立つその目の前で正座をさせられて叱られている様子だった。


「これで分かったでしょ。赤子を育てるにはあなたの力では無理だって事を」


「はい」


 奈々子さんは半べそをかきながら正座させられて泣いている。


「お取込み中すいません」


 僕が横から入ると光さんは、


「ほら、奈々子ちゃんあっ君に謝って」


「ゴメンねアツジ、あたしの事嫌いになった」


「嫌いにはなっていないよ。もしで良ければ僕ともう一度復縁してくれると嬉しいんだけど。またライバル兼恋人同士に」


「アツジ」


 奈々子さんはその潤んだ瞳を僕に向けて抱きついてきた。


「ちょっと奈々子さん・・・」


 本当にかわいいな奈々子さんは、いつもはツンツンしているけれど、こうして見ると僕も奈々子さんもお互いに子供だったんだなって今回の件で光さんに教えられた。


 そこで光さんが、「あっ君に一つ頼みたいことがあるんだけれど」


「何ですか光さん」


 光さんの頼みなら何でも受けようと僕は思っている。たとえそれが命にかかわることであっても。


「奈々子ちゃんの横っ面を思いきり叩いてくれないかな?」


「エエッ!?何を言っているんですか光さん、奈々子さんはもう充分に反省したと思いますよ」


 すると奈々子さんは僕に横っ面を差し出した。

 奈々子さんはいつでもどうぞと言う感じでその横っ面を差し出す。


「ダメよ、今回の件で私が奈々子ちゃんの横っ面をはたきたいけれども、今回の件に関しては恋人であるあっ君にその事をさせるべきだわ」


「どうしてもやらなきゃダメですか?」


「うん」


「分かりました」


 僕は言われた通りに奈々子さんの横っ面を軽く叩いた。


「ダメよ。手加減しちゃ、今回の件で本当は死活にかかわる状態だったのをあっ君は忘れたわけじゃないでしょうね」


 光さんは口では笑っているが目が笑っていない、こんな光さんを見るのは僕は初めてだ。


「さあ、あっ君思いきり遠慮なしに奈々子ちゃんの横っ面を叩いてあげて、今後このような事がないように思いきり」


 確かに光さんの言う通りだ。今回の件は死活にかかわる問題だった。それに僕は光さんの言う事は何でも聞かなければならない。光さんは僕の恩師だ。だから。


「ゴメン奈々子さん」


 そういって奈々子さんの横っ面を思いきり叩いてしまった。


 パチーンとすごい音が鳴った。


 叩かれた奈々子さんの頬を見ると真っ赤に染まっている。


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