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恋人はライバル関係  作者: 柴田盟
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身をもって知る奈々子さん

 今日の新聞配達ちゃんと奈々子さんはやってくるのか心配だが僕にはやらなければならないことがたくさんある。


 光さんが出してくれた問題用紙を解いて、今日も百点だった。


 恋人兼ライバル関係の奈々子さんがいないと張り合いがない。


 それに奈々子さんには先ほどフラれてしまった。


 それはそれでショックだが、光さんが側にいてくれるとフラれたショックから解放してくれる。

 やっぱり僕は光さんが好きなのだろうか?

 でも光さんはあくまで憧れの存在だ。

 そんな事より奈々子さんは捨て子の通称愛子ちゃんの世話をしようとしている。

 光さんの言う通り奈々子さんは体でその意味を知るのか?

 それよりも光さんが言う体で知るとはいったいどういう事なのか?


「光さん。奈々子さんは体で知ると言っていましたが、いったいどういう事なのですか?」


「奈々子ちゃんを見ていれば分かるよ」


 さっぱり意味が分からない。


 僕は帰ってしまった奈々子さんをほおっておいて、図書館で勉強の続きをしていたがいつものように進まない。

 きっとライバル兼恋人同士の奈々子さんがいないからだ。

 その奈々子さんとは先ほどフラれてしまい、僕は勉強どころじゃないが、とにかく根性で勉強をしていた。

 時には夢の途中で自分を見失い明日が見えなくなる時だって僕はあると思うんだ。

 だから零れ落ちそうな涙をぬぐいながら勉強をした。

 でも小説と絵は描けなかった。

 小説を書こうとしても精神的にダメージを受けていて何も思い浮かべられない。

 これが失恋と言うやつなのか?

 本当に奈々子さん僕をフッてしまったのか?

 原因は赤子の事だ。

 

 僕は今日は小説が書けないからぼんやりと図書館に隣接する公園にいた。


 今日は午後から雨だと言っていた。


 こんな寒い中奈々子さんは赤子を持ってどこに行ったのだろう?


 新聞配達ちゃんと来れるのか?心配だった。




 新聞配達の時間になり、僕は配達所に向かった。


 すると奈々子さんはよりにもよって、赤子を持って出社してきた。


「奈々子さん。その子」


「気安く私の名前を呼ばないで。もうあなたとは終わったんだから」


 その言葉に心に傷がついたかのように僕はショックを受けてしまった。


「もしかして奈々子さん、その子を連れて新聞配達に向かうつもり」


 そこで社長が「何をしているの奈々ちゃん。新聞配達をその子を連れてするつもりかね」


「はいそうです」


「それより、君はその子をどうしたんだい?」


「昨日ロッカーの中に入っていたんですよ。危うく凍え死ぬところだったんですよ」


「そういう事だったのか、今日は君に仕事は頼めないよ」


 そこで僕が二人の中に入って「ちょっと待ってくださいよ。それはあまりにもひどくないですか!?」


「ひどいのは奈々ちゃんの方だ。だいたい赤子を連れて出勤する人なんて、いまだかつて無かった事だよ。奈々ちゃん出直して来なさい」


 奈々子さんはそう言われて、半べそを掻きながら帰って行ってしまった。


 奈々子さんを引き留めようとしたが、僕にも仕事がある。

 やはり光さんの言う通り、これが体で覚える事なのかとゾッとした。


 これから奈々子さんにひどい目に合わなければ良いのだが・・・。




 新聞配達の仕事を終えて帰り、僕は奈々子さんの事で頭がいっぱいだった。


 あの赤子をどうするつもりなんだろう?




 家に帰ると、さっそく僕のスマホに連絡が入った。

 着信画面を見てみると奈々子さんからだった。


「もしもし」


『あなたアツジ君』


 通話口から奈々子さんのお母さんと思われるおばさんの声がした。


「はい。そうですけれども」


『奈々子知らないかしら?』




 僕はおばさんから事情を聞いてこの土砂降りの中を傘もささずに地平線を自転車で切りつけながら走った。


 どうやら奈々子さんとお母さんは昨日赤子の事でケンカになってしまったらしい。

 原因はもちろん捨て子の事である。

 奈々子さんは親に捨て子の愛子ちゃんを育てるって言ったら、お母さんにどやされてしまったらしい。

 僕が奈々子さんに聞いたところでは、お母さんは大歓迎でお母さんが務める大病院にある託児所に預けるなんて事も言っていたが、それは全部嘘だったんだ。

 僕に心配かけない事と、捨てられた子供をほおっておけない奈々子さんの思いから来たことなんだ。

 僕が奈々子さんと付き合っていながら、そんな事にも気が付かないなんて僕は本当に間抜けで鈍感だ。

 今日赤子を連れてきたことでその事で気が付いていれば良かったんだ。

 それなのに僕は・・・。

とにかく今は一大事だ。

 こんな土砂降りの雨の中を赤子を抱いて凍え死んでしまうかもしれない。


 光さんに連絡を入れようとしたが、迷惑なんじゃないかと思ったが、今はそんな事を気にしている場合じゃない。


 僕はためらいもなく、光さんのスマホに電話を入れた。


「もしもし光さんですか!?」


『アツジ君?どうしたの?そんなに慌てて』


「奈々子さんの行方が分からなくなっているんですよ」


 フーと息をつき、『私の予想が的中したようね』


「光さん。そんな事、言っている場合じゃないですよ!!!」


『とにかく落ち着きなさい』


「落ち着いていられないですよ!!」


『アツジ君。このような時はお腹を膨らませて深呼吸をしてみて』


 僕は光さんに言われた通り、お腹を膨らませるように深呼吸をした。

 すると少しだけ落ち着いた。


「少し落ち着きました」


『じゃあ、これから私の言うとおりにしなさい』


「言う通りって、何をすれば良いんですか?」


『私は一通り探しに行くけれど、あなたはそこでじっとしていなさい』


「僕も探しに行きますよ!」


『良いからいう通りにしなさい!!!』


 僕を叱るように言う光さん。


 光さん怒らせるとすごく怖いからな、だから僕は「分かりました。じっとしています」


『よろしい。じゃあ私は一通り思い当たる場所に連絡してみるから、アツジ君は家でじっとしているのよ、分かった!?』


「はい。わかりました!」


『じゃあ、通話を切るわね』


「はい。何かあったら連絡ください」


『そっちも何かあったら連絡の一本でもよこしなさいよ』


「はい。分かりました」


 そういって通話を切った。

 僕はここにいろって言うけれど、もしかしたら奈々子さんは僕を頼って来ることを予想しているのか?光さんは?


 僕は何となく外に出て辺りを見渡してみた。

 人の気配何て感じられない。

 僕もこうしちゃいられない。

 僕も奈々子さんを探しに行くとしよう。

 この土砂降りの雨の中を奈々子さんはいる。

 まさに手掛かりのない夜空の下にいる事は間違いない。


 僕はとりあえず英名塾に行くことにした。

 英名塾に土砂降りの冷たい雨の中を僕は傘もささずカッパも着ずに向かった。


 時計は午後八時を示している。


 英名塾に到着すると、パソコン室に豊川先生と光さんがいた。


「光さん。豊川先生」


「何をしているの?あなたはあれ程家で待機していなさいって言ったじゃない!」


「でも、奈々子さんが心配で」


「とにかく私と豊川先生も彼女の行きそうなところを調べてみたところ、どこにも見当たらないわ」


「そんな~」


 そんなうなだれている僕に光さんは、「とにかく私も付き合ってあげるから、あなたの家に戻るわよ」


 僕は豊川先生に傘を借りて、光さんも自転車で傘を差しながら僕の家まで続いた。


 今更僕の家に行ってどうするって言うんだ。


 奈々子さんはすごい頑固者だ。


 ちょっとやそっとじゃ、気持ちを曲げたりはしない。


 ようやく僕の家に行くと奈々子さんは僕の部屋のアパートの前で倒れていた。


「奈々子さん!」


 奈々子さんは意識が覚束ない。


「アツジ」


 と言って意識がもうろうとしている。


 それに赤子は今にも死にそうな顔をしている。


「だからあっ君、言ったでしょ。ちゃんと家にいなさいって」


 こんな事は僕の範疇ではない事だ。


 光さんはエスパーか?と僕は疑ってしまった。


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