忍び寄る悪意Ⅱ
救急車を呼ぶことになり、救急車はサイレンを鳴らしながらやってきた。救急隊員が僕と涼子さんの部屋に入ってきて、安井の顔面以外の腹や背中や足にも痣がついていた。
救急隊員は言っていた。これは大した事ではないと。それに怒りを覚えて救急隊員に飛びかかろうとしたが今は安井の方が心配だ。安井は以前の仲間達にリンチされたらしい。
安井は救急車に運ばれて、そう言えば安井の父親って市議会員をやっていたんだっけ。それも辞職に追い込まれてしまったんだっけ。それよりも安井の親御さんにも連絡をした方が良いと思って、安井に自宅の電話番号を教えて貰うことにした。
「ダメだよ。親父にそんな事をしたって俺みたいな奴はもう勘当だと言われてしまったよ」
そう言えば高校も行かずに僕達と毎日勉強をしていたんだっけ。
「でも親も心配しているはずだよ。だから安井お前の自宅の連絡先を・・・」
連絡先を聞いてみたいと思っていたが、救急隊員はそれを無視して安井を救急車の中へと連れて行ってしまった。
「誰か同行してくれる人はいませんか?」
救急隊員はそう言って「僕が行きます」僕が同行者として安井や救急隊員と中に入っていった。
救急車の中に入ると、救命措置が色々と備えつけられていて、僕は初めて救急車に乗った。それよりも安井の奴が心配だ。これは奈々子さんの言うとおりいつもの行いが悪いからこうなるのだと僕もそう思った。
救急車に乗ると、安井は気を失ってしまった。
「おい。大丈夫か安井?」
「大丈夫です。痛みに気を失ったんでしょう」
救急隊員はそう言って、安井が怪我を負っている傷口に消毒液を塗っている。
救急隊員は言っていたが、これは暴力による犯行だと察知して、救急隊員は警察に連絡を入れてしまった。安井は以前の仲間達にやられたと聞いた。それを安井は警察にばれることはまずいことだと言って、それを断固拒否していた。
でもそんな事を言っている場合じゃないだろう。きっと安井は許されない事をたくさんしてきたのだと思う。それで今は改心しているが、思えば僕も安井に酷いことをされてきたんだよな。そう思うと怒りがこみ上げてきて、こうなったのは自業自得だと思ったが、仲間をそんな風に言いたくはない。
どんなに酷いことをされてきても安井は僕達の仲間だ。本当は奈々子さんの言うとおり、こんな奴仲間だなんて思ってもいないと思ったが、そうは言えないだろう。だって安井は改心して僕達の仲間に入ったのだから。
仲間がこうなっているといい気には慣れない。何だかんだ言って僕は安井のことを本当の仲間だと思ってしまっているみたいだ。
一緒にバンドを組んだり、紙芝居のコンサートだってした仲だ。
安井は集中治療室に入って、今治療を受けている。それで僕は廊下で、そこで心配になってきた僕の仲間達が入ってきた。
「奈々子さん。それに涼子さんも光さんも桃子も斎藤さんも来てくれたんですか?」
「まあ、あたし達は光さんの言うとおり、安井はあたし達の仲間だからね」
先ほどまでは安井の事を仲間だなんて認めていなかったのに先ほどの涼子さんのピンタが相当来ているみたいだ。
「とにかく、安井をこんな目に遭わせた奴らに目に物を見せてあげようよ」
「奈々子ちゃん。私は報復には反対するわ」
「えっ!!?」
「報復したって何もならないわよ。でも今後安井君に酷いことをするなら別だけれどもね」
そう言えば安井の奴もその仲間も光さんのボスの豊川先生には恐れられている。以前も安井のいざこざによって、豊川先生の力でおさえてくれたっけ。
安井が入っていた集中治療室から医者が出てきて、僕達に言う。
「君達はあの子の友達かね?」
「はい。そうですけれど」
「単なる暴力による怪我だから、大したことは無いよ。だから二三日入院していれば、退院できるよ」
それを聞いて僕は安心した。そうか大したことは無いのか。てっきり僕は安井が死んでしまうのかと心配していた。
僕も安井をこんな目に遭わせた奴らに報復をしたいと思ったが、光さんの言うとおりそれはダメだろう。僕は思うんだきっと光さんも同じだと思っている、報復は報復を呼ぶことを。
時計を見ると午後十一時を示していた。
「安井は大丈夫みたいだから。僕達は明日の新聞配達の仕事に向けて今日のところは帰ろう」
「そうね。安井が大したことが無いなら、私達がここにいる意味は無いよね」
と奈々子さんは心配の糸が吹っ切れたように言う。
仲間を心配することは当たり前の事だ。何だろうか?こんなことがあって僕と安井との縁が深まった感じがした。以前は僕は安井のことを密かに認めていなかった。それは奈々子さんも斎藤さんも涼子さんも同じだった。
それで僕達は帰ることになったんだ。僕と涼子さんの家に。
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そして僕達は三時に目が覚めて今日は僕が朝ご飯を作る料理当番になっている。パンの縁にマヨネーズをかけてその真ん中に目玉焼きを投入する。
やばい、安井の分まで作ってしまったよ。まあ、でも安井も大したことが無いなら良いけれど、この事が公になれば安井も浮かばれるかもしれない。そうだ公になり、安井をやった奴らに法の裁きを受けて貰えば良いと思っている。
「ねえ、アツジ、あたし思うんだけどさあ、安井の奴がやられてその反動であたし達にまで影響が及ぶか心配なんだけれども」
奈々子さんの言うとおりそれは一理あるかもしれない。
僕達の仲間は僕と安井以外みんな女の子だ。そんな女の子に被害が及んだら僕は立ち直れないほどのショックを受けてしまう。以前安井に奈々子さんと光さんが襲われそうになった事があった。だからこれからは豊川先生にやっかいになることにしようと思う。
新聞配達の仕事に出かけると、新聞配達の仕事の同僚達は、みんな怪我をしている。
「どうしたんですか。みんな」
「どうしたもこうしたもないよ。いきなり木刀を持った連中に俺達は襲われて・・・」
安井だ。安井を狙う連中がやったことだ。僕達は狙われている。そんな事よりも新聞配達の仕事の同僚達に救急車を呼ぶことにした。
これはもう大事になって警察の人も来ている。
「いったい全体に何が起こっていたんですか?」
僕だって分からない。でも安井の元仲間だった連中がやったことだけは分かっている。その事を話したら、僕はみんなの代表として警察に同行する事になった。
僕は怖かった。それにみんなも同じ不安を抱えている。安井の元仲間達はきっと必ず僕達にその牙を向けてくるだろう。
僕だけが警察署に行き、誰か僕達に恨みを持った連中はいないか確かめていた。僕は安井の元仲間だった連中の事を話した。安井は警察署ではかなりの有名人で何人かの人を陥れてきた張本人だったみたいだ。
警察署の人に聞くと安井は市議会員の父親の力を使って今まで、罪に問われなかったが、僕達があの時豊川先生に救われて、それに豊川先生の力を借りて安井の父親の市議会員の力を失ってしまった事は記憶に新しい。
そして安井は僕達が受けようとしていた両国高校の試験を受けられ無くされてしまい。僕達は仕方なく通信制の美術学校に行くことになった。
それで安井は僕達が楽しくやっていることが気に入らなくなって、僕達を攻撃してきた。それで安井の事情を聞くと、安井は両国高校に受かった物の、両国高校の連中は人を蹴落とすことしか考えない連中ばかりで、僕達が通信制に通いながらも楽しくやっている姿に嫉妬して僕達に攻撃を加えてきたんだ。それで豊川先生と光さんのお願いで安井を仲間に入れてやってくれないかと言われて、僕達は渋々ながら安井を仲間に入れたのだった。




