忍び寄る悪意
新聞配達の仕事が終わって僕達は今日は奈々子さんと安井のペアが負けになり、涼子さんは奈々子さんにエナジードリンク系の高いジュースをおごって貰って後は僕は安井に缶コーヒーをおごって貰っていた。
今日の買い出しと夕ご飯を作る係は僕であった。何を作ろうかと思ってシチューに秋刀魚なんて良いと思った。シチューにはジャガイモにニンジンに鶏肉にそれにブロッコリーなどを入れて作ることにした。
買い出しには桃子も付き合ってくれた。
買い出しから帰ってくると、安井の奴だけいなかった。
「あれ、安井は?」
「何か携帯で呼ばれてどこかに行ってしまったみたい」
奈々子さんはどうでも良いように言う。
まあ、安井の奴も作っている間に戻ってくるだろうと思った。
シチューは出来上がり、秋刀魚も焼いた。それでも安井の奴は帰ってこない。
「今日もおいしそうに出来ているわね」
涼子さんが言う。
「それよりも安井の奴はどうしたの?」
「さあ、戻ってこないわね」
「ちょっと僕探してくるよ。それまで料理に手をつけちゃダメだよ」
「うん。お兄ちゃんがそう言うならそうするよ」
安井の奴どこに行ったんだ?とりあえず安井の携帯にかけてみることにした。安井の携帯に電話をかけてみると、安井は出てきて、「お、おう長谷川」何か様子がおかしい、安井はどうしてしまったのか?何か苦しそうな声で僕に訴える。
「どうしたんだよ。安井」
「心配ない、ちょっといざこざに巻き込まれてしまってよ。マジでこれは身から出たサビなんだけれどもな」
「おい。大丈夫かよ」
「大丈夫だよ」
「今、どこにいるんだよ」
「だから、大丈夫だって言っているだろ」
そんな時である。雨がポツリポツリと降ってきた。それで電話は切れてしまった。もう一度電話をかけてみたが一向に出ない。何か心配であった。
安井の奴が心配だ。とりあえず安井のジーピーエスで安井の位置を確認して安井のところに向かった。そこは遊具が壊れていて、今は人が使っていない公園だった。そこに安井は傷だらけで倒れていた。
「おい。安井大丈夫かよ」
そう言って安井の側に行った。
「長谷川、何でお前、俺に酷いことをされたのに俺を受け入れてくれたんだよ」
「今更何なんだよ。俺達はもうマブで友達だろう」
「お前は優しいな」
「それよりもお前立てるのかよ?」
「ああ、何とかな、奴ら俺の骨を折るほど鬼じゃなかったみたいだな」
「それよりも誰にやられたんだ」
「前につるんでいた仲間にやられてしまったよ。俺は奴らにたくさん酷いこともしたし利用もした。そんな奴がこんな事になるのは当然だと思っている」
「とにかく救急車を呼ぶから、お前はそこのベンチに座っていろ」
「それだけはやめてくれ、そんなことをしたら奴ら警察に捕まってしまうよ」
「そんな、お前をここまで苦しめて来た奴に肩を持つのか?」
「だから言っただろ。これは身から出たサビだと」
「とにかくお前歩けるのかよ」
すると安井は覚束ない足取りで歩いた。だから僕は安井に肩を貸してあげた。
「悪いな長谷川、こんな俺を受け入れてくれたのはお前が初めてだよ」
「とにかく喋るな、とりあえず、家まで戻ってこい」
「お前って奴は」
僕は安井に肩を貸してあげて、家まで連れて行った。涼子さんも桃子も斎藤さんも奈々子さんも心配していた。
「どうしたって言うの安井」
安井の顔面痣だらけの顔を見て、奈々子さんは心配している。
「とにかく寝かせた方が良いんじゃない」
今日は寝袋ではなく僕達がいつも使っている布団を用意してあげた。そして涼子さんは布団を敷いてくれた。
「お兄ちゃん救急車は呼ばなくて良いの?」
「うん。桃子これには深い事情があるみたいなんだ」
「全く、いつもの行いが悪いからそうなるんじゃないの?」
「奈々子さん。そういう言い方はないんじゃないか。安井は僕達の仲間だよ。そんなこと仲間に失礼だよ」
「アツジもお人好しだね。散々こいつに酷いことをされてきたのに、そこまでするなんて、言っておくけれどあたしは安井の事を仲間だなんて認めていないから」
そうか、奈々子さんは今まで安井の事を侮蔑の目で見ていたのか、でも無理もないのかもしれない。
「とにかく安井、食べられるか?僕が作った秋刀魚とシチューだけど」
「ああ、何とか食べれるよ」
安井が起き出すと「うっ!」と痛そうにしている。安井は飯を食うのもままならないのか?全身を引きつるように動き出した。
「おい。安井、大丈夫かよ」
「大丈夫だよ。それにかなり腹は減っているしな」
安井は口の端が切れている。
「おい。無理して食べなくても良いんだぞ」
「いや、腹減っているから」
安井は体中痛そうにしながら僕が作った秋刀魚とシチューを食べていた。みんなも心配している。
安井はご飯を半分くらい食べて布団に横になってしまった。本当に安井の奴大丈夫なのかよ。
安井は苦しそうにうめいている。これはやっぱり救急車を呼んだ方が良いと思って携帯で119を押そうとすると安井が僕の手に手をかけた。
「だから救急車はまずいって言っているだろ」
「そんなことを言っている場合じゃないよ」
「これは俺の問題なんだ」
「お前だけの問題じゃないよ。僕達は仲間だろ。仲間が仲間の心配をして何が悪いんだよ」
「お前俺にあれだけ酷いことをしたのに俺のことを仲間と呼んでくれるのか」
そこで涼子さんが「当たり前でしょ、あっ君は器が大きいのよ。あなたみたいな仲間をほおって置くわけにはいかないのよ」
「安井、あたしはあなたの事を仲間なんて認めてないけれど、アツジの事を考えてあげなさいよ。だからここは救急車を呼ぶべきだわ」
「それだけはやめてくれ。これは俺が犯した罪の贖罪みたいな物なんだよ。こんな事が警察にばれたら奴ら捕まることになっちゃってお前等にも被害が及ぶかもしれない」
「何よあたし達に被害って・・・」
「奈々子さん。落ち着いて。とにかく救急車を呼ぶからお前はここで大人しくしていろ」
「お前等にも被害が及ぶかもって言っているだろう」
「及んだって良いよ」
「ちょっとアツジ、あたし達に被害が及ぶかもってあたしは冗談じゃないわ」
「奈々子さん。安井は僕達の仲間だよ。それに悪い奴が来たって僕達には豊川先生がいるじゃないか、もし被害が及ぶことになったら豊川先生にちゃんと話せば何とかしてくれるよ」
「またこいつの事であたし達は巻き込まれなくてはいけないの?冗談じゃないよ。あたしこいつに襲われそうになった時凄く怖かったんだから」
「とにかくあっ君救急車を呼ぼう、このままじゃあ、安井君がかわいそうだわ」
「あたしは反対よ。もうこんな奴に構う事なんて無いのよ」
すると涼子さんは奈々子さんにピンタを喰らわせた。
「何をするのよ涼子」
そう言って奈々子さんと涼子さんは喧嘩になってしまったところを僕と桃子と斎藤さんで止めた。
「ちょっと二人とも何をやっているのよ」
いつも大人しい斎藤さんが口を挟み僕と桃子と斎藤さんで涼子さんと奈々子さんの喧嘩を仲裁した。
「ちょっと二人ともやめてよ。私だって安井君の事を認めた訳じゃないけれど、今は一大事でしょ。安井君の命に関わる事なのかもしれないのよ。だから二人ともここは涼子ちゃんの言うとおり救急車を呼んだ方が良いわよ」
斎藤さんは珍しく意見をした。
「奈々子、翔子の言う通りよ、大丈夫だって私達はそうやって色々と乗り越えて来たじゃない」
「どうなっても知らないからね」
そう言って奈々子さんは救急車を呼ぶことを賛成してくれた。




