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恋人はライバル関係  作者: 柴田盟
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赤子を育てようとする奈々子さん

 僕達はいつものように勉強した。奈々子さんは赤子の事で気が散っている。


「奈々子さん勉強どころじゃないんじゃない?」


「勉強はしているよ。あたしはいつものあたしで奈々子だよ」


 赤ん坊は眠っている。なんて無垢な寝顔なのかと僕はうっとりとしてしまう。

 子を持つ気持ちってこんな感じなのかな?

 それじゃあまるで奈々子さんが母親で僕が父親みたいじゃないか。

 それよりも勉強に集中しないといけない。

 奈々子さんは勉強に集中している。


 そんな勉強に集中している際に、赤子がグズリ出した。


「どうしたんでちゅか?愛子」


 何その赤ちゃん言葉は?それに愛子って勝手に名前まで付けちゃって、いったいこの人は何を考えているのか?


 続けて奈々子さんは「お腹がちゅいたんですか?ミルク持っているから今あげるね」


 カバンから哺乳瓶を取り得だして、わざわざ水筒に入れてきているよこの人。

 そこまで赤ん坊の事を大事にしたいという奈々子さんはまるで菩薩のような人だと思えた。

 水筒から暖かいミルクを哺乳瓶に入れて、「熱すぎないかな」と頬で熱を感じ取って「さあ行きますわよ」と言って奈々子さんは哺乳瓶を赤子に加えさせた。


 赤子はくぴくぴと小さく喉を鳴らして飲んでいる。


「本当にかわいらしい赤ちゃんだね」


「でしょ。だからアツジあたし達で育てましょうよ」


「・・・それはちょっと・・・」


「ちょっとって何よ。この子捨てられた子なのよ。このままほおっておいて良いの?」


「良くはないけれど、犬や猫とは違うんだよ」


「それ前にも言ったよね。犬や猫は良くて人間の子供はダメなわけ」


「そんな事を言っているんじゃないよ」


「じゃあ、何が不満なの。この子をほおっておいたら、あの寒いロッカーの中で凍え死んでしまっていたのよ」


 ダメだ。今の奈々子さんには何を言っても通用しない。


 奈々子さんは本気だ。本気で通称愛子ちゃんを育てようしている。


 僕も賛成しようかな?もし奈々子さんが本気でこの子の母親になろうとしているならば。


 哺乳瓶で愛子ちゃんにミルクを与えている姿は僕の心を奪うほどの母性本能に満ちている。


 よし決めた。僕も奈々子さんの恋人兼ライバルだし、奈々子さんの力になってあげようと思った。


「奈々子さん、僕も力になるよ」


「本当に!?」


 瞳をキラキラと輝かせながら、僕に詰め寄ってくる。


 すると哺乳瓶を飲み干して愛子ちゃんは泣いてしまった。


「どうしてしまったのかな?愛子ちゃん」


 オムツを確かめてみると、濡れていない。


 ここは図書館だ。赤ん坊を連れてきても良いがあまりにうるさいと他の人に迷惑をかけてしまう。


「どうしたの愛子ちゃん!?」


 さすがの奈々子さんもうろたえている。


 すると光さんが現れて愛子ちゃんを抱き上げて、背中辺りをさすった。


 愛子ちゃんはくぷっと音を出して落ち着いてくれた。


「光さんいったい何をしたんですか!?」


「ゲップよ」


「ゲップ?」


「赤ちゃんは自力でゲップを出す力も持っていないのよ」


「ありがとうございます」


「ありがとうございますじゃないわよ。その子本気であなた達で育てるつもりなの!?」


 光さんはいつにも増して今日は僕達が赤子を持ってきてからご立腹のようだ。


「はい。育てます。こんなかわいい子を捨てるなんて、どうかしていると思うわ!」


「それはともかくあなた達には無理よ」


「どうしてそんな事が言えるんですか?」


「私が知っている施設を紹介するわ。その子は施設に預けるべきだわ」


「そんな事をしたら、この子がかわいそうですよ」


「かわいそうなのは何も知らないあなた達の方よ。さあ、その子をこっちに渡しなさい」


 僕は光さんの言うとおりにした方がいいと思えて「奈々子さん。光さんの言うとおりだと思うよ。僕達はまだ中学生だ、子供を育てるにはまだ早い気がするよ」


「何よ!中学生だからって私を子供扱いして!あたしだって子供を育てることは出来るわ」


 そういって奈々子さんは赤ん坊を抱き上げて去ってしまった。


「奈々子さん!」


 と呼び止めたが奈々子さんはそのまま外に行ってしまった。


「光さん。どうしよう?」


「すぐに目が覚めるわ。とりあえず今のところはほおっておいた方が良さそうね。子育てってそう簡単な事じゃないのよ。それに相手は人間の子供よ。犬や猫とは違うんだから。もしあの子が育児を放棄して死なせてしまったら、奈々子ちゃんは罪人になってしまうのよ」


「奈々子さんはそんな人じゃないよ。僕はそんな無責任な人を好きになったりしない」


「じゃあ、アツジ君あの子が手遅れになる前に奈々子ちゃんから、赤子を取り返すのよ。私の言葉は通じなくてもあなたの言葉なら通じるかもしれないし」


 そう光さんに言われて僕は奈々子さんの後を追った。


 外に出ると、奈々子さんは赤子を自転車に乗せてどこかに行くつもりだ。


「奈々子さん!」


 僕は奈々子さんの後を走り寄り「奈々子さん、やっぱり僕達には無理なんだよ。子育て何て」


「何よ!あなたまで光さんの味方なの!」


「考えてごらんよ。その子の事をかまっていたら、仕事だって勉強だって絵や小説も支障が出てしまうじゃん」


「そんなに仕事や勉強や絵や小説の方が大事」


「そういう訳じゃないけれど、僕達には無理なんだよ。だから光さんに施設を紹介してもらえればその子の将来も約束されたも同然だと思うよ」


「施設に送り込もうなんて光さんどうかしているよ。もし施設でひどい目にあったらどうするの?」


「ここは光さんを信じようよ。光さんはそんなひどい施設を紹介したりしない」


「私は片親だからってちょっかい出されたり、同情の眼差しで見られたりしたわ。せめてこの子にはそんなひどい事はさせない。あたしが一人前の女性にして見せるんだから!アツジはどっちの味方なの?光さん!?それともあたし!?」


「光さんだよ」


 すると奈々子さんは僕の顔面にパンチを入れてきた。

 奈々子さんの怒りのパンチだ。


「アツジ、残念だけどあなたとはこれっきりよ。せいぜい光さんの敷いてもらった道を行くといいわ」


 そういって、奈々子さんは赤子を自転車に乗せて帰ってしまった。

 奈々子さんの言う事も、光さんの言う事も間違いではないと僕は思う。

 僕はどうしたらいいのだろうか?

 さらに奈々子さんと言う恋人をなくなってしまった。

 僕は本当にどうすれば良いのだろうか?


 するとそこに光さんが現れた。


「光さん、奈々子さんは本気ですよ」


「大丈夫よ。今に分かるから」


「何がわかるって言うんですか?」


「アツジ君は、奈々子ちゃんの恋人よね!」


「でもさっきフラれちゃいましたけれども」


「大丈夫よ。人間は一人では何も出来ないんだから」


「一人ではできないって言うけれど、奈々子さんは本気だったし」


「大丈夫今に見てなさい。さて、アツジ君今日も私のテストを受けてもらおうかしら!」


「それどころじゃないですよ。奈々子さんの事が心配じゃないんですか!?」


「心配は心配でも、あそこまで頑なに私の言う事を聞かないあの子にはちょっときつめに体で覚えさせてあげるべきだわ」


「体で覚えさせるってどんな事ですか?」


「時期に分かるわよ」


 僕は光さんが言う体で覚えるって意味が分からなかった。


 その後、僕は僕で光さんのテストを受けて今日は英語の関係代名詞だ。


 なかなか難しかったが、九十点は超えていた。


 今日は奈々子さんがいなくて、さらにフラれてしまいショックだったが、光さんが僕の側に寄り添ってくれて、僕はそれだけでも満足だった。

 僕は奈々子さんよりも光さんの事が好きなのかもしれない。

 でも以前奈々子さんと光さんに言われたが、僕が光さんに恋することは良いかもしれないがお付き合いをすることは禁断の愛だなんて言われたっけ。


 それよりも奈々子さんの事が心配だ。


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