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恋人はライバル関係  作者: 柴田盟
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捨て子を育てようとする奈々子さん。

 何で赤ん坊がロッカーの中に入っていたのだろう?


 これは一大事だ。しかも奈々子さんは救急車も呼ばずに自分で何とかしようとしている。


 それで僕は行きつけのコンビニに行き赤ん坊のオムツを買いに行く。


 僕の家に到着した僕は部屋はうんちの臭いにまみれていた。


「臭いよ奈々子さん」


「この子はオムツも取り替えないで何者かがロッカーに置き去りにしていったのよ。だからオムツを交換して温かい恰好をさせて落ち着かせましょう」


 僕は買ってきたオムツを奈々子さんに渡して、すぐに取り換えてもらい、うんちまみれのオムツを僕に差し出してきた。


「何で僕にうんちのついたオムツを渡すの?」


「袋に被せて明日燃えるごみとして出しておけば大丈夫だから」


 それにしても奈々子さんは赤ん坊の為にすごく真剣になっている。


 赤ん坊に毛布を被せて赤ん坊はそれでも泣き止まなかった。


「アツジ温めたミルクを用意して」


 僕を急かすように言う奈々子さん。


「ミルクって牛乳で良いの?」


「ええ、牛乳を温めてスプーンと一緒にこっちに持ってきて」


 僕は牛乳をレンジで温めて、それとスプーンを奈々子さんに差し出した。

 僕は赤ん坊の世話をしたことがないから奈々子さんの言うとおりにするしかない。

 とにかくこの赤ん坊は完全に捨て子だ。

 もしこの寒い中僕達が見つけていなければ、今頃は死んでいただろう。


 いったい母親は何を考えているのだ。


 こんな幼気な子をあんな真っ暗な中のロッカーに入れて捨てるなんて。


 赤ん坊はミルクを飲ませるとすぐに泣き止み小さな寝息を立てて眠りに入っていった。


「とりあえず一安心だね」


「奈々子さんこの子どうするの?」


「いっそのこと、こんなかわいい子を私達で育てない」


「何を言っているんだよ!奈々子さん!そんなことが出来るわけないでしょ。僕達はまだ中学生何だし。それに明日に備えて僕達もご飯を食べて眠らなきゃ」


「だってこの子すごくかわいいんだもん」


 奈々子さんは母性本能がむき出しになり、僕の心を鷲掴みされるかのように心を完全に奪われた感じだ。

 僕は赤ん坊を見てかわいいけれども、奈々子さんのようにうっとりとした感じにはなれなかった。

 

「とりあえず僕達も何か食べよう」


「食べるってアツジの家で?」


「そうだけど、明日に備えてまた明日も新聞配達の仕事やら勉強やらで忙しいでしょ」


「あたしは今日のところは帰るよ」


「えっ?帰るの!?その赤ん坊を見たらお母さん間違いなく驚くよ」


「大丈夫よ。お母さんはあたしの味方だから」


 そういって奈々子さんは赤ん坊を連れて、自転車で帰ってしまった。


 本当に大丈夫なのかな?赤ん坊を見せたらお母さんびっくりすると思うんだけどな。


 しかし酷い親もいたものだ。


 自分の子をロッカーの中に捨ててしまうなんて。


 いったい何を考えているんだ。


 それよりも偶然拾ってしまった赤ん坊も心配だが、それを世話をする奈々子さんの事が心配だ。

 明日ちゃんと新聞配達の仕事に来れるか心配だ。




 ******   ******




 奈々子さんと赤ん坊の事が心配であまり眠れなかった。

 時計は午前三時を示している。

 軽い朝食を取り、いつものように自転車で配達所に向かった。

 配達所に到着すると、もう奈々子さんは配達所に到着していた。


「奈々子さん、昨日の赤ん坊はどうしたの?」


 周りに聞こえないように小さな声で言った。


「お母さんに預けてきたよ」


「何を考えているの?奈々子さん。お母さんも仕事があるんでしょ」


「あるよ」


「お母さんは仕事出かけなくちゃいけなくなるんじゃない?」


「大丈夫だよ。お母さんは大病院の看護師で、そこに託児所があるから、そこに赤ん坊を預けるって言っていたから」


「そうなんだ」


 奈々子さんの話を聞いて赤ん坊の事心配になったが、ホッとした。

 いやいやいや、ホッとして良いのだろうか?

 何か嫌な予感しかしない。


「奈々子さん、何度も言うようだけれども警察に言った方が良いんじゃない?」


「何でよ、警察に言ったらあの子どこかの施設の元へと送られてしまうのよ。そんなのってかわいそうじゃない」


「それは確かにかわいそうだけれども、僕達で何とか出来る問題じゃないよ」


「だからさっきも言ったでしょ。あたしの母親があの子の母親代わりになって、とりあえず大病院の託児所に預けるって」


「本当にお母さんはそれで納得したの?」


「とりあえず様子見るって言っていたけれども」


「かわいそうかもしれないけれど、何度も言うようだけれども、僕達で何とか出来る問題じゃないよ。だから警察に届けよう」


「だから、何べんも言っているじゃない。お母さんが大病院に勤めていて、そこで看護師として働いてそこの託児所に預けるって」


「・・・・・そうなんだ」


 これ以上言っても水掛け論になってしまうので僕は黙っていた。


 でも本当に心配だ僕達が拾ったのは犬や猫とは違い人間の子供なんだ。その事を奈々子さんは本当に理解しているのか?


 今日も同じように配達の競争はするが、僕は昨日拾ってしまった赤子の事を思うと仕事に本領を発揮できない。


 今日は見事に負けてしまい、僕は奈々子さんに温かいハチミツレモンをご馳走した。


「アツジ何うじゃけた顔をしているの、そんなにあの子を私が引き取って心配?」


「心配だよ。奈々子さん犬や猫とは違うんだよ。相手は人間の子供なんだよ」


「だから大丈夫って言っているじゃない」


「・・・そう」


 奈々子さんが大丈夫って言うなら僕の心配はある程度軽減される。


 でも本当に奈々子さんの言う通り酷い親がいるもんだな。


 僕達があのロッカーに行きつけていなければ、あの子は命を落としていただろう。


 自分の子供をあんな目に合わせるなんて親失格だよ。


 とりあえず僕と奈々子さんはいったん別れて、また再度図書館で待ち合わせした。


 図書館は午前九時に開館するので僕達はいつも十分前に待ち合わせているのだけれども、奈々子さんはまだ来ていない。


 奈々子さんに何かあったのか心配になり携帯で連絡しようとしたところ丁度その奈々子さんは現れた。


「ごめんね、お待たせ」


 奈々子さんはよりにもよって昨日拾った女の子の赤ん坊を持ってやってきた。


「奈々子さんその子!」


「ええ、昨日拾った女の子の赤ちゃんだよ」


「お母さんが託児所に預けるんじゃなかったの?」


「それが託児所に入るには色々な手続きが必要になってくるのよ。だから今日はあたしが預かる番になったのよ」


「色々な手続きって?」


「色々は色々よ」


 そして開館時間になって、光さんが「あらかわいい赤ちゃん。この子どうしたの?もしかしてあなた達の子供」


「そんな訳ないじゃないですか!」


 強く反論する僕。


「それよりもどうしたの、その子?」


「昨日寒い中誰も使っていないロッカーの中に入っていたんですよ」


 と奈々子さんは光さんに言う。


「ひどいことをする親もいるものね。それでその子どうするつもりなの?」


「私達が育てます」


 毅然とした態度で言う奈々子さん。


「達って僕は反対ですよ。僕達はまだ子供を育てられる年齢には至っていないんだから」


「アツジ、この子かわいそうだとは思わないの?この子を警察の元へと行ったらどこぞの見知らぬ酷い施設に預けられてしまうのかもしれないのよ」


 奈々子さんと女の子のかわいいまなざしが僕を襲う。

 それで僕は葛藤してしまう。

 確かにこんなかわいい子を捨てる親なんてひどいと思う。

 でも僕達にはどうする事も出来ない。

 でもこのまま、ほおっておいて警察に預けて酷い施設に入れられたら本当にどうしよう。

 僕の中で何かがせめぎ合う。


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