終わりなき情熱
親の愛情を受けたことのない三人は僕だけ、何か恵まれていて申し訳ない気持ちでいっぱいだった。でも僕達は一人じゃないんだ。みんなの小説を見て僕はそれぞれ自分を主体とした物語を描いている。
以前涼子さんは僕や桃子に嫉妬して親がいることに一悶着あったっけ。でも涼子さんの涙はとっくに乾いていると思う。涼子さんはいつも笑って明るくしているが、この人は悲しみを滅多と出さない人だ。
親がいないにしてもいるにしても、そんな事はどうでも良いことなのかも知れない。だって仕方がないことだ。そうやって三人は生まれて来てしまったのだから。僕は奈々子さんと涼子さんと斎藤さんと光さんの物語を見て、四人の気持ちが分かって良かった。みんな僕のように親がいる生活をしたいと思っているんだ。それに行きずりの親子連れの子供を見て、自分と変わりたいとも小説に書いてあった。
いつもツンツンしている奈々子さん。いつも明るく振る舞っている僕の恋人の涼子さん。いつも穏やかな存在の斎藤さん。それに僕のことを救ってくれた図書館の女神様事光さん。みんな親がいないというのにみんな不幸そうな表情をあまり見せた事がない。
とにかくそう言った事情は仕方がないことだと言うしかない。だから僕達は今を精一杯楽しんで青春を謳歌したいと僕は思っている。
今はみんな小説の勉強のために漫画を読んでいる。僕は僕でみんなのネットに掲載した小説を読んでいる。ちなみに僕が描いた小説は親に虐待された女の子の主人公で、ある日親に殺されてしまい、吸血鬼として生まれ変わってしまったという物語である。舞台は以前僕と奈々子さんが行ったフリースクールとなっている。吸血鬼に生まれ変わった少女のメグは人の血を吸うとその人の過去が見れるようになったのだが、恋人に自分以外の人の血を吸ってはいけないと言われてしまい、人間離れをしたメグはそう言った真っ黒に染まろうとしている少年や少女に愛情を注いで戦っていくという物語である。
まあ、全部話してしまうと長くなるのでこれぐらいにしておこう。その僕が描いた小説はかなり良いできだと思っている。人間は独りぼっちになって自分を見失ったら最後、そう言った人に僕はエールを与えたいと思って描いた小説だ。
涼子さんにも斎藤さんにも奈々子さんにも僕達は繋がっている。その事をいつまでもどんな悲しみが迫ろうとも、悲しみの嵐がやってきても僕達は晴れるまで遊んでやると思っている。このぐらいの意志ならばどんな困難という敵が現れても僕達は負けやしない。
そんな事を考えながら僕達は新聞配達の仕事に出かける事になってしまった。僕達と桃子は光さんに挨拶をして新聞配達所に向かった。新聞配達所に到着して今日は僕と奈々子さんと桃子で、もう一方は涼子さんと斎藤さんだった。
「桃子ちゃん。私達は負けないからね。新聞配達が二度目だと言っても、私達は負けないんだから」
「うちだって負けないよ」
そういう事で今日も桃子を引き連れて新聞配達の仕事になってしまった。
本当に桃子は飲み込みが早いこれなら、三人で涼子さんと斎藤さんに勝てるんじゃないかと思ってしまう。
新聞配達の仕事が終えると、斎藤さんと涼子さんはまだ、帰っていなかった。
「よし、今日はアツジとあたしと桃子ちゃんの勝ちね」
そして三分後、ようやく涼子さんと斎藤さんが戻ってきた。
「何で新人の桃子ちゃんに私達が負けてしまうの?」
と涼子さんは凄く悔しそうに言っていた。
「桃子はやる気だし、飲み込みが早いからね」
「じゃあ、今日はジュースをおごることは無しで」
そこで奈々子さんが「何を言っているのよ。勝負は勝負よ。負けたあなた達にはあたし達にジュースをおごるべきだよ」
「そっちは三人でしょ。フェアじゃないわ」
涼子さんと奈々子さんは喧嘩をおっぱじめようとしている。そこで僕が。
「まあまあまあ、とにかく今日の所は桃子が僕と奈々子さんに入ったから今日の勝負は無しって事で良いよ」
「本当に!?」
嬉しそうな涼子さん。
「あたしは納得出来ないわ。桃子ちゃんは新人よ。新人を教えるのに凄く時間がかかるときだってあるんだから」
と奈々子さんは引こうとはしない。
「じゃあ、今度は私達に桃子ちゃんを教えることにするわ」
「それは上が命令することでしょ。とにかく今日はあたし達の勝ちで良いでしょ。以前だって桃子ちゃんがあなた達に教えた時に勝ったじゃない」
「分かったわよ。そこまで言うならジュースをおごるわよ」
何とか涼子さんは折れてくれた。奈々子さんは涼子さんにいつもの高いジュースのエナジードリンクを買って貰い。僕と桃子は斎藤さんに安い缶コーヒーをおごられる事になった。
いつも思うことだが奈々子さんは涼子さんに高いジュースをおごって貰っている。この代償は高くつくといつも僕は思わされてまた、何かトラブルにならないか心配だった。
新聞配達を終えて僕と涼子さんのうちに戻ると、僕達はアイパットで絵を描き桃子は紙とシャープペンシルで絵を描いていた。とにかくもっと絵がうまくなりたいし、バンドも練習して世に出たいとも思っている。
あの絵の天才児、小川君に勝つには腕を磨くしかない。才能もあるのだけれど、僕は小川君に勝てるような絵を描きたい。
絵を完成させると、何か物足りない感じがした。みんなの意見を聞いてみると良く描けていると絶賛してくれたが、何か足りないような気がする。今度の課題は自由に描いて良いと言っていたっけ、小川君はどんな絵を描いてくるのか何か楽しみであった。
やはり楽しいことをしていると時間なんてあっと言う間に過ぎてしまう。そろそろ図書館に行ってバンドの練習をしなければならない時間になってしまった。僕達は熱すぎて止まらない情熱を持っている。
ちなみに桃子の絵はまたアンパンマンを描いていた。そう言えば桃子は昔からアンパンマンが好きなんだよな。良く子供の頃アンパンマンの人形を持っていた事があったっけ。
そして僕達はそれぞれ自転車で図書館のスタジオに向かった。いつものように忙しなく働いている光さんを見て、挨拶をすると忙しなくとも光さんは笑顔で僕達に挨拶をしてくれた。本当に光さんは凄い人だと思わされる。
スタジオに入るお金を払って僕達はコンクールに向けて演奏した。まず始めにウォーミングアップと言うところでX JAPANの紅を演奏してから、僕達が作ったオリジナルの曲を演奏した。オリジナルの演奏は本当に良い感じに仕上がっている。もうこれ以上の改良の余地はない。
これでバンドの練習は終わってしまった。
そこで奈々子さんが「何かこれで終わってしまうのは味気ないわね」
「確かに奈々子の言うとおりだよ」
すると涼子さんが激しくドラムを叩いた。
それに続くように僕達はアドリブで演奏した。
涼子さんのドラムさばきは凄いと思う。僕達に曲を奏でろと言わんばかりの凄さだ。桃子もアドリブでラララと歌い、僕達は演奏を続けた。もしコンクールで僕達の演奏がダメだったらアドリブで行くのも良いかもしれない。
そんなことをしながら楽しんでいるうちに光さんが手提げ袋を持って中に入ってきた。
「あなた達気合い入っているね」
光さんが来るとアドリブの演奏はいったん止めて、ここでお昼休みとなってしまった。本当に楽しい時間ってすぐに済んでしまう。
光さんは僕達にこの商店街で働く友達にパンを分けて貰って僕達の所にやってきたのだ。
本当に光さんには至れり尽くせりでいつも僕達は感謝している。
コンクールまで後一週間を切った。そこで僕達はどんな演奏がどんな審判を下されるのか楽しみになってきた。




