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恋人はライバル関係  作者: 柴田盟
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抱きしめたい

 お花見を満喫しながら僕達は屋台の焼きそばやらたこ焼きなどを食べていた。


 お花見と言うよりも本当に花より団子だ。みんな一生懸命に屋台で買った物を食べている。僕もその一人だ。


 光さんが「どう?たまにはこんな食事も良いと思うんだけど」


「はい。でも良かったんですか?光さんのお金でおごってもらちゃって」


「別に良いわよ。みんなが楽しんでくれたら、おごりがいがあるって物よ。あなた達が頑張っているからこうゆう事が出来るんだからね」


 と光さんはかわいらしくウインクをする。僕はそんな光さんを見てドキッとした。本当は僕は光さんの事が知りたいと思っていた。


「アツジ、何光さんを見てデレデレしているのよ!」


 僕は奈々子さんにお尻をつねられた。


「ちょっと奈々子、何であなたがそんな事をするのよ。それは私がやるべき事なんじゃないかな?」


「涼子、こいつ浮気しているんだよ。あんたの彼氏でしょ。しっかり見てあげないといけないんじゃない?」


「私はあっ君が浮気しようが何しようがあっ君は私の物なんだから」


「この女!!!」


 奈々子さんがいきり立つ。


 すると光さんが「ほらほら奈々子、さっき素直じゃないって学んだばかりでしょ」


「別にあたしは素直じゃない女ですよ!」


 と奈々子さんは開き直ってしまった。奈々子さんの素直じゃないのは癖になって、もしかしたら治らないのかもしれないな。でも元彼女として僕はそんな奈々子さんの事も好きだったんだっけ。そう奈々子さんは素直じゃないのが魅力的な感じがする。


 屋台の食べ物を食べて僕達はお腹がいっぱいになったところお花見は終わった。お花見は人で賑わっていたが時間になると祭りの後のように静かな夜に染まっていた。時計は午後九時を示している。そろそろ帰って明日の新聞配達の仕事に支障が出ないように今日は桃子も連れて帰ることにした。


 そう言えば桃子はもう学校なんて行きたくないと言っていたんだっけ。それで涼子さんに家族がいるのにと初めて涼子さんの悲しみを見ることが出来たんだっけ。もしかしたら涼子さん桃子のことを良くは見ていないのかもしれない。


 そんな事を考えていると涼子さんは「桃子ちゃん。明日学校に行きたくないんでしょ」


「はい」


 と返事が何か張りがない感じだった。桃子も先ほど涼子さんを怒らせてしまったのだ。その事を引きずっている感じなのかもしれない。


「じゃあ、せめて電話でも良いから、親に一言その事を話して見れば良いんじゃないかな」


 そこで僕が「それはかわいそうですよ。家の親は・・・」これ以上言うとまた涼子さんは怒り出して悲しませてしまうと思って、黙ってしまった。


「そうだよね。あっ君の親は頑固者で厳しいんだっけ」


 その時涼子さんは少々悲しい目をしていたのを僕は見逃さなかった。だから僕からも桃子に言った。


「桃子、お母さんとお父さんが心配するから連絡ぐらいはして置いた方が良いよ」


「分かった」


 と言って渋々スマホを取り出して、親に連絡を入れた。


「あっお母さん?うちもう学校に行きたくないんだけれども・・・」


 桃子は事情を説明している。母親の声は僕達の耳には届かない。そして通話は終わった。


「お父さんもお母さんも学校に行きたくないなら行かなくても良いって言っていた」


 と桃子は嬉しそうにしていた。


 そこで涼子さんが「良かったじゃない。お母さんにお父さんも理解してくれたんだ」と明るく言っていたが、僕には涼子さんは悲しんでいるような気がしてならなかった。桃子達は欺いても僕にはその演じきれない優しさを見抜いていた。いやそれを見抜いていたのは斎藤さんも一緒かもしれない。斎藤さんの目を横目で見てみると、涼子さんの悲しみを見抜いている感じだった。


 そして桃子を連れて帰って僕達は一時間だけ絵を描いていた。桃子も同じように紙と鉛筆で絵を描いていた。桃子の絵を見てみると、みんなのヒーローのアンパンマンを描いていた。

「ちょっとお兄ちゃん。見ないでよ!」


「別に良いじゃない。桃子はアンパンマンが好きなの?」


「どっちでも良いでしょ」


 アンパンマンは子供達が好きな正義のヒーローだ。そんなアンパンマンを描いている時の桃子は楽しそうにしていた。別に恥ずかしがる事じゃないのに、桃子の絵はちゃんと描かれている。


 そう言えばアンパンマンの作者やなせたかしは言っていた。正義は本当はかっこいい物じゃなくて格好悪い物だと。それにやなせたかしは遅咲きで六十九歳で花が開いたと聞いている。それに自己犠牲で自分の顔を相手に食べさせて、人を救ったりもしている。出来れば僕はアンパンマンのような男になりたいと思っている。


 そして時間になり、僕達は眠ることにした。桃子の学校に行かなくて良いと言った両親は桃子のことを本当に愛しているんだろうな。僕の時なんか父親にフライパンで脇腹を思い切り叩かれてしまったのだから。それに両親を妬む涼子さん。今日初めて涼子さんの悲しみに触れて涼子さんの事がしれて良かったと思っている。


 いつも優しい涼子さんの笑顔の裏に隠された悲しみに花を添えてあげたい。僕は涼子さんの彼氏として涼子さんを幸せにしてあげたい。そんな事を思いながら僕は眠りについた。


 朝起きると、午前三時を示していた。台所に向かってみんなに朝ご飯を作ろうとすると、桃子が台所に立って、料理をもてなしてくれた。メニューはパンの縁にマヨネーズを載せてその真ん中に卵をのせてチンして出来上がる簡単な物だった。それは光さんに教わったメニューであった。


 それを食べて僕達は元気いっぱいアンパンマンだと言う感じだった。今日は雨が降っていた。雨が降ると新聞配達は酷な物だと僕達は知っている。僕達は雨合羽を着て新聞配達所まで向かった。


 新聞配達所に向かうと、雨は強まり、僕達はさすがに萎えてしまったが、僕は負けるわけには行かない。こういう小さな逆境くらいは僕達は耐えられる。今日は僕と涼子さんが組んで、もう一方は奈々子さんと斎藤さんが組むことになった。


 早速土砂降りの雨の中を自転車で仕事に出かけるのだが、今日はなぜか涼子さんのテンションが高かった。


「あっ君、雨の中でも私達は平気だよね」


 何て凄い満面の笑みで僕に言う物だから、僕は見抜いたんだ。昨日の事を涼子さんは引きずっていると。やはり僕が思ったとおり、涼子さんの笑顔の裏には悲しみが隠されていると僕は思った。


 その悲しみにどうやったら花を添えられる事が出来るのか、僕は考えさせられる。いつも通りで良いんじゃないかと思ったがそうは行かないと思って、僕は考えていた。


 新聞配達が終わって、僕は土砂降りの雨の中で、いったん自転車から降りると、涼子さんは不思議そうに僕の事を見ていた。


「どうしたの?あっ君!早くしないと奈々子と翔子に負けてしまうわよ」


「涼子さん」


 そう言って僕は涼子さんを抱きしめた。


 思い切り。その笑顔の裏に隠された悲しみに花を添えるには今の僕にはこれしかなかったんだ。


「ちょっと、あっ君!?」


「涼子さん。悲しみを一人で抱えこまないでよ。そうしていると僕まで悲しくなっちゃうよ」


 雨合羽のまま僕は涼子さんを抱きしめた。


 僕は知っている。悲しみの思いが大きすぎると、パンクして壊れてしまうことを。そんな涼子さんを僕は見たくない。涼子さんは本当は施設ではなく、本当の家族に会いたがっているんだ。でも公衆便所で産み捨てられて、誰が産んだか分からない状況に陥ってしまったのだ。


 これ以上涼子さんに笑顔を演じさせると涼子さんは壊れてしまう。


 だから今だけこうして抱きしめて。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  桃子ちゃん、よかった。  涼子さん、心配ですね。  奈々子さんは、心の底からお母さんを愛していた。亡くなってしまったけど、誰かを本当に愛することができた。その思い出は、悲しいけど大切な宝…
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