青春ファンタジー
順位ごとに僕達の絵は張られた。僕達の順位を見てみると隣の二組のクラスと同時に評価されるみたいだ。百人中僕は十五位だった。奈々子さんが二十位で後は涼子さんは二十三位で斎藤さんが位だった二十五位だった。
僕を超した絵を見てみると本当に凄く良く描かれた絵だと分かった。一位はあの知的障害を負っている小川君の絵だった。彼と僕の絵を比べてみると、本当に大差って感じだ。小川君の絵を描くにはどうしたら良いのか僕は考えられてしまう。
小川君が描いた絵は一際女性を際立たせるような感じだった。小川君の絵に僕は引き込まれそうになってしまった。これは本当に才能なのかもしれない。もしかしたら僕がどんなに頑張っても小川君には勝てないのかもしれない。それに小川君だけではない。他の僕を超えた十三人の絵を見てみると本当に僕よりも良く描かれた感じだった。その中に何人か知的障害を負っている人も見受けられた。
そんな小川君に僕は興味を持って思い切って話をしてみた。
「小川君、おめでとう。凄いね一位を取ってしまうなんて」
すると小川君は僕に話しかけられてどうしたのか?息を荒げて去ってしまった。
「小川君」
と呼び止めたが、小川君は本当にどうしてしまったのか分からなかった。
そこで奈々子さんが「どうしたのアツジ」
「いや、小川君の絵を絶賛したんだけど、逃げられてしまったよ」
「知的障害の子って色々な人がいるからね。もしかしたら、あの小川君って子、人と接するのが怖いんじゃない?それに知的障害を持っている子っていじめられるケースが多いらしいからね」
なるほど、小学生の時、知的障害を負っている人に対していじめる連中も何人かいたっけ。あの小川君って子も、その一人なのかもしれない。
デッサンは終わり、今日の授業は終わってしまった。明日は高岡先生が言っていたが、静物クロッキーをするみたいだ。
そこで涼子さんが「またあっ君が、私達の中で一番を取ってしまう何てね。本当に私達の自信の源はあっ君あなただよ」
斎藤さんが「そうね。私もそう思います。静物デッサン、明日はあっ君さんに負けませんからね」
その斎藤さんの言葉に僕の心に火がついた感じがした。
「僕だって負けないよ。とにかく今日は帰ったらバンドのコンクールに向かって、それに明日も静物クロッキーだって言っていたじゃないか。帰ったらバンドをやって静物デッサンの勉強をしよう」
僕がそう言うとみんなの顔から笑みがこぼれ始めた。そんなみんなの笑みを見ていると心が燃えて、何だろうこの震えは?これが武者震いと言う奴か?
僕達はこの熱が冷めないように、帰りのバスの中でアイパットを広げて今日描いた女性のことを思い出して描いていた。本当に僕達は青春をしている。それに気になったのがあの小川君という人だった。何かあの子とは友達になりたいと思っていた。
そして心を燃やしながらいったん僕と涼子さんの家に戻り楽器を持って図書館に向かった。ドラムは持って行けないので、涼子さんは図書館のドラムを使うことにしている。図書館に到着すると早速涼子さんはドラムを思い切り叩いていた。コンクールは五月の十日で今日は四月の十日だ。後一ヶ月あるが、とにかく頑張るしかない。
まずは僕達が最初に演奏したX JAPANの紅からだ。これでウォーミングアップは出来る。ウォーミングアップが終わると、丁度そこに桃子と光さんがやってきた。
「やっているね。みんな。それよりも今日のスクーリングはどうだった?」
「楽しかったよ。僕達一番には慣れなかったけれど、なかなかいい線にまでは入ったと思うよ」
「さすがはあっ君達ねみんなの自信の源はやっぱりあっ君ね」
光さんが言う。それは斎藤さんにも言われたことだった。
「それでは始めるとしますか?」
光さんがキーボードを取り出して言う。
「うちもやる気十分だよ」
桃子が張り切って言う。
行くよ。僕達のオリジナルの曲、青春ファンタジー。
涼子さんのドラムの合図で曲は始まる。
僕達の演奏に桃子は歌う。桃子は歌がうまいのだ。この曲は僕が歌詞を書き、曲はみんなで作ったんだ。激しいサウンドに僕の歌が乗せられている。
『失敗を恐れて勇気を忘れていないか?僕だって最初から出来た訳ではない。ほんの少しの勇気が僕をみんなを導いてくれた。何にも見えない明日だけど、何か無性にときめきがとまらない。仲間がいるから明日が輝きに見えるのだ。もう明日に恐れることはない。
明日の輝きをつかみに行くんだ。熱き魂を胸に僕達は動き出す。
時々壊れることがあるけれど、この胸に宿る胸の熱は冷めやしない。
さあ、大空に向かって叫んで見なよ。
ほら夢が見えてきたよ。チャンスはいくらでもある。
その手を伸ばして大空に向かい嵐が来ようとも、僕達はその手を離したりはしない
君にも見えるはずさ、今の僕は明日をおびえるような僕ではなく明日はときめきでいっぱいでまさに青春ファンタジー』
激しいサウンドの中桃子は歌の才能があるのか、桃子もみんなも一丸となって演奏をする。この歌詞の想いを僕達の演奏に乗せた。自分たちの為になることはやがて誰かの為になることを僕は知っている。だから僕達は歌うんだ。精一杯熱き想いを乗せて。
そして一曲演奏が終わって、スタジオ中は熱き魂でいっぱいだった。まるでみんなで大空を舞っているような感じだった。僕は泣いてしまった。まさか僕の書いた歌詞がこんなにも胸いっぱいになれるなんて。
「アツジ何を泣いているの?」
「奈々子さんだって泣いているじゃないか」
「あ、あたしは目にゴミが入ってしまったからよ」
「何を見え見えの嘘をついているの。こういう時ぐらいは素直になった方が良いよ」
「何よアツジのくせに、あたしはいつも素直だよ」
ここで初めて知ったが、奈々子さんはいつも素直じゃないことを自覚していなかったのか?その事を奈々子さんに言ったらさぞ怒るだろうと思って言ってやった。「奈々子さんは素直じゃない自分を自覚していなかったんだね」案の定奈々子さんは怒り出して僕に怒りのビンタをかました。
「ちょっと、奈々子さん何をするの!?痛いじゃないか!」
そこで涼子さんが「まあまあ二人とも、喧嘩しないの。でもまさか奈々子が自分が素直じゃないことを自覚していなかった何てねえ」と涼子さんは嫌みったらしく言った。
涼子さんの台詞は奈々子さんの逆鱗に触れてしまった事が分かる。そんな僕は即座に奈々子さんを羽交い締めにして、止める。
「離しなさいよアツジ、このデカ乳ちび女に目に物を見せてやるんだから」
僕は奈々子さんを羽交い締めにしている。女性なのにこんなにも力があるなんて思わないほどに奈々子さんの力は相当な物だった。
そこで光さんが「ほらほら奈々子、そんな事で怒らないの。めっ!するよ」と言うと奈々子さんは光さんが怒ると怖いことを知っているため、大人しくなってくれた。
この僕達六人の中で一番怖いのは光さんだと僕達は思っている。
奈々子さんは本当に素直じゃないけれど、本当は凄く優しいことを僕は知っている。
でもまさか自分が素直じゃないことを自覚していなかったことは知らなかった。それは奈々子さん自身も自分で分からなかった事なんじゃないかと僕は思った。
本当に僕が作詞した青春ファンタジーのように時々は壊れる事もあると書いたが、それは本当の事だった。




