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恋人はライバル関係  作者: 柴田盟
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東大を目指す高齢者の徳川さん

 奈々子さんとのデートは本当に楽しい。


 本当に僕は幸せ者だ。


 奈々子さん光さん、豊川先生、僕達はありのままの自分を信じていれば未来はおのずとあちらからやってくるんですね。


 未来は決して僕達を裏切ったりしたりしない。


 その事を胸に僕達は生きて頑張ればいいんですね。


 僕の夢は小説を書いてその小説のデザインも自分でして、そんな小説家になりたい。


 僕達には無限の可能性がある。


 でも今描いている小説は本当に面白いのか自分では分からない。


 だからいつか出来上がったら光さんや奈々子さんに正直な意見をもらおうと思っている。


 奈々子さん、僕は負けないよ。勉強も絵も小説も、だから今日はもう遅いので明日また奈々子さんと新聞配達で会える。今日はいい夢が見れそうな気がした。

 明日が待ち遠しい。明日もまたライバルでもあるし恋人でもある奈々子さんに会える。

 そんな奈々子さんと今日はデートして、生きるすばらしさを知った。

 今日はもう疲れているのでこのときめきを胸に僕は眠りに陥るのだ。


 そして自然と午前三時に起きれるようになっている僕は目覚めた。


 今日も何か良いことがありそうだ。


 僕は朝ご飯を食べてシャワーを浴びて新聞配達所に向かった。


 そこには同僚達と奈々子さんがいた。


 同僚に挨拶をして、奈々子さんとも挨拶をした。


「どうしたのよ、アツジ、今日はやけにテンションが高いじゃない」


「そうじゃないと奈々子さんは僕と張り合いがないでしょ」


「確かにそうだね。あんたがそうじゃないと私も張り合いがなくてつまらないから」


「じゃあ今日もジュースかけて新聞配達の勝負をしよう」


「望むところよ」


 今日も同じルートを行って新聞配達に自転車で出かけた。


 何か僕は心の底から燃えていた。


 そして新聞配達の仕事を終えて僕は帰宅した。


 そこにはもう奈々子さんはいた。


「ちくしょう、今日は負けてしまったか!」


「今日はアツジがあたしにジュースをおごる約束よね」


「明日は負けないから」


「あたしだって負けないよ」


 こうして僕と奈々子さんの恋人兼ライバル関係は続くのであった。


 奈々子さんにジュースを普通におごるのも何だしちょっといたずらをしようとしてブラックの缶コーヒーをおごったら奈々子さんは「それ、あんたが飲みなさいよ」「それはないよ。いつも奈々子さん僕に意地悪をしてブラックの缶コーヒーを突き付けてくるじゃない」すると奈々子さんは威圧的な視線を向けて僕に歩み寄り、蹴りを喰らった。


だから僕は「分かったよ、好きなジュース買っても良いよ」


「あたしにブラックのコーヒーを飲まさせようなんて百年早いのよ」


そんな事をいつ決まったのだ!

でもそんなやり取りが楽しくて僕も奈々子さんも微笑んでしまうのだ。


僕は仕方なくブラックの缶コーヒーを飲み、奈々子さんは大好きなハチミツレモンのジュースを飲んだ。

さすがに仕事の後のブラックコーヒーは疲れをとってくれない。

 でも頭がすっきりする。


 僕達はいったん別れて、そういえば今日は図書館がお休みの日だった。


 と言う事で僕達は英名塾で勉強することになった。





 英名塾に到着したのは午前八時を示していた。


「アツジ、今日も勝負だね」


「ああ、負けないよ」


 僕には見える。奈々子さんの瞳の奥にはギラリと光る灯が見えた。

 その瞳を見た僕は負けないと言わんばかり僕の瞳もきっとギラリと光る灯を放っているのだろう。奈々子さん僕はあなただけには負けないよ。


 そう互いにやる気をたぎらせて英名塾に入り勉強室に入ると、一人の年寄りが勉強していた。


「こんにちは」と僕と奈々子さんは挨拶をした。


「はいよ。こんにちは」


 老人の勉強をちらりと見ると、算数の掛け算のひっ算だった。

 その年になってもひっ算も出来ないのか?

 と心の中で僕は思った。


 さて僕達も勉強を始めようとしようと思って参考書を出したところ、光さんが現れた。


「おはよう、奈々子ちゃんにアツジ君」


「「おはようございます」」


 僕と奈々子さんの挨拶がシンクロした。


「紹介はまだだったかな?この人は徳川さん、あなた達と同じここで勉強をする仲間だよ」


「そうなんですか?」


 僕が言うと光さんは「こんな高齢なのに掛け算の筆算をしているなんて滑稽だなんて思っているでしょ」


「いやいや思っていませんよ」


 実は思っていたけれど。


「徳川さんはね、戦時中勉強どころじゃなくて隠居した今、勉強に取り組んでいるんだよ。徳川さんの目標は何と東大合格を目指しているのよ」


 それを聞いた僕はクスッと笑ってしまったところ、奈々子さんにわき腹に肘鉄を喰らった。

 

「痛いな、何をするの、奈々子さん」


「あんたがバカにして笑ったからよ」


 確かにそうだった。僕は内心バカにしてしまった。まだひっ算しか出来ないのに東大合格何て、程遠い過ぎると、笑ってしまったからだ。


 だから僕は「ごめんなさい」と謝った。


「分かれば良いのよ」


 奈々子さんは僕の事を許してくれた。


 そうだよな、高齢なのにそれに筆算なんてやっているのに東大合格目指しているなんて、笑っちゃいけないよね。僕は反省させられる。


 光さんは徳川さんに向かって筆算のやり方を丁寧に教えている。


 僕達は僕達の勉強をして、少しだけ東大を目指す徳川さんに興味を持ち始めた。


「どうして徳川さんは東大を目指して勉強しているんですか?」


「さっき光さんが言った通りだよ。俺が若い時、戦争で勉強どころじゃなかったんだよ。だから隠居した今、勉強して死ぬ前までには東大を合格したいんだよ。それが俺の今の目標なんだよ」


「どうして東大にこだわるんですか?」


 徳川さんはギロリと僕を見て「悪いか?」威圧的に僕に言う。


「い、いえ、良い目標だと思います」


 僕は聞いては行けない事を言ってしまって、もうこれ以上この人にかかわるのはやめようと思った。


「じゃあ、徳川さん私が作った掛け算の筆算のテストが終わったら、私を呼んでくださいね。

 さてあなた達の勉強も見なくてはいけないのだからね。今日も私が作ったテストをやってもらうからね」


「いつもすいません、光さん本当は今日はお休みの日なのに・・・」


 奈々子さんが恐縮そうに言う。


 奈々子さんにつられて僕も恐縮だった。


「良いのよ。私は頑張っている人の味方だから」


 女神様スマイルで言う。


 本当に光さんの心は美しい。


 これを言ったら奈々子さんに殺されてしまうかもしれないけれど、僕は光さんの事が奈々子さんよりも大好きな時もある。


 光さんは僕達の事を無償で見てくれている。


 奈々子さんと相談して、いつか何かお返しにプレゼントをサプライズで上げたいと思った。


 しばらくして僕と奈々子さんがやっているテキストを横から徳川さんに見られてしまった。


「どうしたんですか?徳川さん?」


僕が言うと「お前達の勉強を見せてみろ」と徳川さんは言って僕の答案用紙を奪った。


僕と奈々子さんの答案用紙を見つめて「お前らは若いのに俺より先に進んでいるのかよ」と徳川さんは落ち込んでしまった。


すると光さんが「徳川さん、徳川さんは三人の子供を大工一筋で育て上げて、大学まで行かせて社会に出したのではないですか!それは東大を目指すことよりも難しいことだと思いますよ。徳川さんはこれからですよ!」


「光さんよ本当にそう思うか?」


「徳川さんは立派な人です。だから人と比べるのはやめましょう。

 この子たちも事情があってこの塾に来ているのです。だから徳川さん前を向いて歩きましょう。先ほどの徳川さんがやった筆算のテストは百点でしたよ」


「ありがとよ光さん」


 何て見事な慰め方なんだろう。さすがは光さんだ。


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