夢を諦めるのはまだ早い。もう一つの選択
そして試験当日、僕達は安井達の策略によって、倉庫内に閉じ込められてしまった。
「うう、開かない、安井の奴、篠原先生の携帯を奪って僕達に呼びかけて、こうする事を狙っていたんだ」
体育倉庫内の扉は厳重で体当たりしても壊れることはなかった。
このような事になったのは僕達が両国高校の試験を受けに行く途中、篠原先生の携帯から連絡が入り、篠原先生は僕達にエールを送るために是非一度学校に来て欲しいと言うことだった。だがそれは罠だった。僕達が両国高校を受けることを知っていた安井の陰謀だった。
安井は仲間を引き連れて僕達を体育倉庫内に閉じ込められてしまったのだ。これでは試験が受けられずに僕達は行く高校がなくなってしまう。
「おい。開けろ」
と僕はドアを叩いて誰か僕の言葉に反応してここから出して貰えないか、叫んだ。しかしドアはびくともせずに、誰にも僕達の声も聞こえている様子はなかった。
「まさか、安井君がこんなに最低な人間だとは思わなかったわ」
今更ながらに言う涼子さん。
安井とその仲間達は僕達の携帯も奪い、そしてこの倉庫内に閉じ込めたのだ。安井は涼子さんに振られた腹いせか?僕達を外に出すつもりはないらしい。
「まずいよアツジ、このままじゃあ両国高校の試験は始まってしまうよ」
奈々子さんの言うとおりだ。このまま両国高校に入れなかったら、僕達は何のために勉強をしてきたのか?安井の奴どういうつもりで僕達の受験の邪魔をするのか?安井の僕をいじめるときのあの薄ら笑いが頭によぎり、憤りを感じていた。
「何で私達がこんな目に遭わなければならないの?」
と斎藤さんは泣きながら言っていた。
誰か僕達の声が聞こえないか声を出してみると、僕達の声は聞こえていないみたいだ。くそ。何で僕達がこんな目に遭わなければならないのだ。安井の奴絶対に許さない。今度、安井にあったら僕は安井の奴をボコボコしてやると思っている。
あいつは僕達の進路を邪魔をするいじめまでやってくるのだ。それが安井だ。僕達はなすすべもなく時間が刻一刻と過ぎていくのを待つしかないみたいだ。時計が十一時を示したところ。きっと今頃両国高校の入学試験は始まっているのだろう。僕達はとにかく泣いている場合じゃないまだ試験には間に合う。その間、僕達は大声を張り上げたり、ドアを大胆に叩いて誰か来ることを願っていた。
でも誰も来なかった。時間は十二時を示して、もう試験は終わっているかもしれない。今更行ったってどうしようもない。僕達はこのままじゃあまともな高校にも行けなくなってしまう。涙が止まらなかった。あんなに頑張ったのにこんなのってないよって。斎藤さんも奈々子さんも涼子さんも同じ気持ちだ。
どうして安井はこんなひどいことをするのだろうか?あいつ僕達に対して、目の敵にしていたから、こんな事をするのだろうか?こんな事人間のする事じゃない。
そして僕達は試験も受けることも出来ずに、体育倉庫を出たのは午後五時の事だった。その日は新聞配達の社長に試験頑張って来いよと言われてお休みをいただいたのに。これじゃあ光さんに何て言えば良いのか僕には分からなかった。そして僕達の進路は通信制に行くしかなくなってしまった。
僕達四人はとりあえず僕の家に戻ることにして、戻って見ると、光さんと桃子が夕ご飯を作って待っていた。
「みんな試験はどうだった?」
そう聞かれて僕達は光さんに事情を説明した。すると光さんは拳を握りしめ、「それは許せないわね!」と言っていたが、涼子さんが「安井君に報復したって何もならないよ」と確かに涼子さんの言っていることは正論だ。それよりも僕達の進路だ。これで僕達は通信制の高校に行くしかなくなってしまった。
受けるはずの高校である両国高校には行けなくなってしまった僕達。事情を話して何とかならないか篠原先生に電話してみたところ、何と篠原先生ではなく安井が出た。
「はいはーい篠原じゃなくて安井様でした」
嫌味な口調で僕に語りかけてきた。
「安井、お前どういうつもりだよ」
「どういうつもりもないよ。お前達には恨みがあるからな」
「恨みって何だよ。僕はお前に散々ひどいことをされてきた。恨みがあると言ったら僕の方だ」
「うるせー!俺の父親は市議会委員の仕事をしていたのに、今は悔しそうにとび職の仕事をしているよ。それに俺が中学を出たら勘当すると言われたよ。それに俺はお前と付き合っている西宮に恋をしたのにてめえは奪いやがった」
そこで涼子さんは僕の携帯を奪うように手に取り耳に当て言った。
「私はあなたみたいな最低な男と付き合うつもりはありません。あなたがそこまで最低な人間だとは思わなかったよ。あなた覚悟は出来ているんでしょうね!私達にこんな事をする代償は高くつくわよ!」
「上等だよ。俺達とまじわえるなら、俺達が相手になってやるよ」
「本当にあなたは救いようもない人間ね。私はあなたをいじめから救ってあげたのに、どうしてこんな事をするの?」
「じゃあ、どうして俺の想いを踏みにじったんだよ。俺はお前のことを好きだったのに」
「あんたみたいな男、こっちから願い下げよ」
僕は涼子さんが持っている僕の携帯を取った。
「もう気が済んだかよ。今度僕達にこんな事をしたらただじゃ置かないからな」
そう言って僕は携帯を切った。
その後両国高校に事情を説明して、試験をもう一度受けさせてはくれないかと頼んでみたが試験は終わってしまったのでどうにもならないと言っていた。僕達は泣き寝入りをするしかなかった。今まで頑張ってきたのに、今までの努力が無駄になってしまった。安井の奴許せない。でも涼子さんの言うとおり報復したって何も起こらない。今僕達の胸に大きな穴が開いている。この大きな穴を埋めるには時間が必要かもしれない。
僕達一人一人、一人で考え事をしたいと思っていた。そこで僕はいつもの河川敷で星を眺めてぽっかり空いた心の穴を埋めていた。こうして星空を見ていると、僕は僕でいられる。でも涙が止まらない。どうしてこんな事になってしまったのか?
すると茂みの中から、誰かがやってきた。涼子さんでもやってきたのかと思ったら、涼子さんだけでなく奈々子さんも斎藤さんもやってきた。みんな考えていることは同じであった。涼子さん達も悔しいんだ。悔しいのは僕だけじゃないんだ。安井に人生を左右される受験を粉々に砕かれてしまったからだ。
僕達四人は悔しすぎて泣いてしまった。今の僕達に出来ることはたくさん泣いてこの心に大きな穴を埋める事しか出来なかった。どうすればこの大きく開いた穴を埋めることが出来るのか僕達は泣きながらそれぞれ考えていたが今は泣くしかなかった。
そしてこの僕達しかいない河川敷で思い切り叫んだ。叫ぶしかなかった。声にならない声で叫び散らした。僕達が行く高校はもはや通信制の高校しかない。でも僕にはもう一つの高校に行く夢があったのだ。それは絵の高校だ。そこで絵を極めて小説家兼絵師の夢があったのだった。そう思うと僕の心の穴は次第に埋められて行った。でも僕は、いや僕達はまだ悔しさから解放されることがなく思い切り泣いて思い切り叫んだ。
「みんな、僕と一緒に夢を叶えて見ないか?」
と僕は三人に言いかける。
僕がそう言うと、涼子さんは「それってあっ君の小説家兼絵師の夢?」
「そうだけど、まだ諦めるのは早いよ。それに通信制の高校なら光さんの様に図書館の司書のバイトをしながら、勉強を進めて行けば良いじゃないか」
「それは名案ね」
と奈々子さんは言った。そうだ。僕達はまだ人生を諦める訳にはいかないんだ。




