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恋人はライバル関係  作者: 柴田盟
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恋人はライバル関係

 錦糸町で盛り上がっていたハロウィーンの引き語りを終了して僕達はそれぞれ帰る家に帰った。


 光さんも菜々子さんも僕も朝は早いので、錦糸町のハロウィーンは佳境を迎えることなく僕と光さんと菜々子さんは帰っていった。

 僕達が帰ると笹森君も麻美ちゃんも未成年だから光さんが今日はもう遅いから帰りましょうと言うことで帰っていった。


 本当に楽しいハロウィーンだった。

 菜々子さんが必死に歌うと僕も必死に負けぬように引き語りをした。

 それは本当に楽しくて良い思い出になったんじゃないかと思えた。


 それに光さんは言っていた。


『未来は裏切らない』


 と。


 僕は小説や絵や勉強と、毎日時が足りないくらいにやっていたが、僕も菜々子さんも本当にやりたいことをまだ見つけていない。

 そう言えば手話が得意な麻美ちゃんは言っていたが、麻美ちゃんは耳の聞こえない人の耳になってあげようと言うすばらしい夢を今日も語ってくれた。


 そう言えば僕と菜々子さんは麻美ちゃんにつれられて手話の会に参加したが、僕も菜々子さんもはっきり言って楽しいとは思えなかった。


 それを麻美ちゃんに看破され、僕達は本当に楽しく仕事の出来ることを探しましょうと言われたっけ。


 僕も菜々子さんも絵と小説を描くことは大好きだが、世の中芸術関係の仕事は茨の道だと言うことを知っている。

 楽しく絵や小説は書いているけれども、僕達が書いている小説や絵が世間に出回る事はまず簡単な事じゃないだろう。


 僕の理想は小説家になって、挿し絵も自分で描いて、世の中に渡ったら素敵だと僕は思うが、世の中そんなに甘くは無いだろう。


 でも僕の本当にやりたいことは、小説を書いて挿し絵も描くという感じで世の中を渡ってゆきたい。

 僕も菜々子さんも嫌いな勉強もある程度はしなくてはならないことだろう。


 時計を見ると午後十時を示していた。

 そろそろ眠らないと明日新聞配達の仕事に支障が出てしまう。

 だからそろそろ寝よう。




 ******   ******




 新聞配達の仕事も終わり、時計は午前六時半を示している。

 今日は菜々子さんに久しぶりに負けてしまったので、僕は菜々子さんにホット缶コーヒーをおごってあげた。

 僕のライバルでもあり恋人でもある菜々子さんに僕は聞いてみた。


「菜々子さんは本当にやりたい事は決まった?」


「まあ、小説も絵も描いていきたいけれども、世の中そんなに甘くは無いわよね」


「確かに、じゃあ、菜々子さんも本当にやりたいことは決まってないんだ」


「決まっている訳無いでしょ。でもそれについて焦ったらいけないって豊川先生と光さんは口をそろえるように言っていたわ。それに私達がこのまま頑張っていれば未来は決して裏切らないと光さんも言っていたことだし」


 光さんは言っていた未来は裏切らないと。

 でも僕達はきっと夢の途中で道に迷い明日が見えなくなってしまうときが来るかもしれない。いや必然的にそれはやってくるだろう。世界の偉人伝を見てみると、みんな波乱を乗り越えて来た者達ばかりだ。

 僕はその波乱を乗り越える勇気は今の僕には備わっていないかもしれない。



 いったんいつものように菜々子さんと別れて、家に帰ると、何か気分的に嫌な感じがした。

 今日は図書館に行かずに、家で休んでいたいが、そうも言っていられないだろう。

 ニュースがやっているテレビを見つめて、殺人を犯す者や、賄賂に手を出して捕まる政治家や色々な悪い者が世の中には入る。

 そんな人達を見ていると、僕の中にあるテンションが下がったりする。

 本当に世の中狂っている。

 何か今日は調子が出ない。

 でも図書館に行って菜々子さんといつものように勉強をしなくてはならない。


 このままの精神状態で言ったら、僕は真っ先に菜々子さんや光さんに心配をかけてしまう。

 とにかく心配かけないように等身大を写す鏡の前で、笑顔の練習をした。

 でもうまく笑えていなかった。


 そして図書館に行く時間になり、僕は明るい笑顔で菜々子さんに「菜々子さん。おはよう」


「どうしたの?今日はやけにハイテンションじゃない」


「そう?僕はいつもの僕だよ」


 すると菜々子さんは僕をじっと見つめて、「アツジ、何かあったでしょ」と看破されてしまった。


 でも僕は「別に何もないよ。今日も勉強、とにかく頑張ろう」と腕を上げていった。


 そんな僕を目の当たりにした菜々子さんは黙っていたが僕を不審に思っているかもしれない。

 とにかく自分の機嫌くらいは自分でとらなくてはいけないと僕は思っている。それに周りに心配させたくない。

 

 図書館開館十分前、自動ドアの向こうにはもうすでに女神様スマイルの光さんがいた。

 それに開館を待つ老人や、浪人生。


 そして図書館は開館した。

 とりあえず小説を書こうと二人で闘志を燃やしあいやろうとしたが、なぜだろうか?ペンが進まない。

 すると菜々子さんが「どうしたのよアツジ、今日はらしく無いじゃない」

 僕は観念するしかなかった。僕はこれ以上いつもの自分を演じきれなかった。


「何かあったんでしょ」


 菜々子さんは心配そうに僕に言う。


「べ、別に何もないよ」


「じゃあ、どうして私の目を反らすの?また心配かけたくないから言いたくないんでしょ」


「全く菜々子さんにはかなわないなあ」


「何でも良いから言ってみなさいよ」


 そこで光さんが現れて「二人ともここは図書館よ静かにしないとみんなに迷惑がかかるでしょ」と注意されてしまった。


 菜々子さんは「光さん、聞いてくださいよ。アツジの奴いつものようにあたしと張り合ってくれないんですよ。これはアツジに何かあったと思うんですけれど」


「ふーん、ここでは何だから、いったん外に出ましょうか?」


 光さんはそう言って僕達を外に招いた。


「あっ君、菜々子ちゃんが心配しているから素直にその胸の内を話した方が良いんじゃない?」


「菜々子さん光さん、僕達のやっている事って何なのか僕には分からなくなって、何をするにしても今日は闘志を燃やすことが出来なくて」


 すると光さんは「あっ君、今は焦ることはないわ。まだ私達もあっ君も菜々子ちゃんも若いんだから焦らずゆっくりと進んでいった方が良いわ」


「僕には夢がない」


 と言うと菜々子さんは「光さんの話聞いていなかったの?とにかく焦ってはいけないのよ私達は」


 そこで光さんが「そうだ二人とも、今日は二人でデートでも行ってきなさいよ」


「デートかあ、そう言えば私達つきあい始めてから一度もデートしたことがないね」


 菜々子さんが言う。


「デートって言ったってどこに遊びに行けば良いか分からないし」


 そこで光さんが「映画でも遊園地でも、言ってきなさいよ今日は平日だから空いていると思うから」


「じゃあ、アツジ、今日は勉強も絵も小説も忘れてデートしよう。アツジはどこに行きたい?」


「じゃあ、とりあえず映画でも見たいな」


「じゃあ、映画館に行こう、アツジお金には少し余裕があるでしょ」


「うん」


 と言うと光さんは「行ってらっしゃい」と言ってくれた。


 菜々子さんと映画に行くことになり、映画は君の膵臓を食べたいを見た。

 そして僕と菜々子さんは感動した。


 菜々子さんはテンション高く子供のようにはしゃいでいる。


「時間もあることだし遊園地に行こう」


 菜々子さんに手を引かれて僕達はとしまえんに行った。

 何だろうこうしてデートしているとさっきまでもやっとした何かが払拭された感じだった。


 僕と菜々子さんの初めてのデートは本当に楽しかった。

 そして夜になり、僕達は別れて明日に備えてそれぞれの家に帰っていった。


 すべてを忘れてこうして遊びに行くのも楽しいものだと僕は思って、たとえ夢が無くても、これからゆっくりと探せば良いと素直に思えた。


 そしてまた明日から僕と菜々子さんの『恋人はライバル関係』は続くのであった。


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