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恋人はライバル関係  作者: 柴田盟
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ぶつかり合う互いの闘士

 菜々子さんが帰った後、僕は歯を磨き、シャワーを浴びて、体を拭いて、パジャマに着替えてベットに横たわった。時計を見ると午後十時を示していた。


 そして次の日、いつものように三時に目が覚めて、昨日の残りの菜々子さんが作ってくれたビーフシチューを朝ご飯代わりに食べた。

 朝からビーフシチューは胃にちょっと負担がかかったがあまり問題は無いだろう。


 早速シャワーを浴びて、髪をドライヤーで乾かして黒いトレーナーに青いジーパンをはいて、外に出た。

 外は少し寒かったが、別に問題は無いだろう。

 今日も何か楽しいことが起きそうでなんかわくわくしてくる。


 昨日の約束として、菜々子さんに絵を教える事となった。そう思うと菜々子さんと僕の闘志がぶつかり合い、互いに絵が上達するのではないかと思ったりもした。


 まあ、絵を教えるってよりも、菜々子さんには絵を描く楽しさを知ってほしいと僕は思った。

 僕は豊川先生の絵を見て、あんなすばらしい絵を描きたいと思って、僕の心の奥底に眠っている物が覚醒した。菜々子さんは僕が描いた絵を見て、菜々子さんも絵を描きたいと思ったのだろう。でも最初からうまく描くことはどんな才能の持ち主でも出来ないだろう。


 そう思いながら、配達所に向かうと、今日はいつも僕より先に配達所に来るのに、今日は僕が先についてしまったらしい。


「社長、菜々子さんは」


「まだ来ていないよ。あの子真面目だから、ドタキャンまがいの事はしないと思うけれどな」


 僕もそう思う。菜々子さんは真面目で素敵な女性だ。責任感のないドタキャンをするような女性であれば、僕は菜々子さんとつきあったりはしないだろう。


 そして数分が過ぎて、菜々子さんは遅刻はしないもののちゃんと時間通りに来た。


「菜々子さんおはよう」


「あーアツジおはよう」


「どうしたの?そんなやつれた顔をして」


「あたしそんなにやつれている?」


「うん。どうしたの?昨日ちゃんと寝た?」


「いや、絵に集中して、一睡も出来なかった」


「何をバカな事をしているんだ菜々子さん。社長も言っていたでしょ。体調を整えるのも仕事のうちだって!」


「分かっているわよそんなこと!アツジがあんなうまい絵を描くからあたしも描きたいと思ったのよ!だからアツジが悪いんだからね!」


 んな事知らないよ。


「じゃあ、菜々子さん。今日も勝負だね」


「望むところよ」


 今日は僕が有利だ。でも菜々子さんは寝不足で今日の勝負はフェアじゃない気がした。仮に僕が勝ったとしても、今日は僕がジュースをおごってあげようと思った。


 配達は終了して、菜々子さんはまだ帰っていなかった。


「今日は僕が勝利か?何かフェアじゃないな」


 そして十分後に菜々子さんはふらふらな状態で新聞配達の仕事を終えて帰ってきた。実を言うと僕は菜々子さんの事を少し心配していた。でもちゃんと帰ってきたので、僕が菜々子さんに対する心配は無くなった。


「お帰り菜々子さん。今日は僕が勝ったけれど、ジュースは僕がおごってあげるよ」


「どういう風の吹き回しよ。あたしはアツジに気を使われるほど柔な女じゃないよ」


 何だよ。せっかく人が心配しているのに。でも菜々子さんらしくて僕はそんな菜々子さんが好きなんだよな。と言う訳で、菜々子さんに僕はジュースをおごってもらうことにした。


 今日は菜々子さん、素直に僕の好きな温かい飲み物であり蜂蜜レモンを買ってくれた。いつもなら意地悪して、冷たいブラックコーヒーを差し出してくるのに。


「じゃあ、菜々子さん、今日も図書館で待ち合わせね」


「ちょっと待ってよアツジ」


「何、どうしたの菜々子さん」


「アツジのパンツ一丁の姿を想像して、私が描いたデッサンなんだけれども」


 菜々子さんは自分でスケッチブックを買ったのか、それを僕に見せてきた。遠慮なく見せてもらうと、昨日よりも数段うまくなっていて、ちゃんと立体も陰影もちゃんと出来ている。それを見た僕は燃えてきた。菜々子さんにも絵の才能が隠されているんじゃないかって。


 だから僕は正直に「なかなかうまく描けているじゃん」


「あたしはアツジなんかすぐに追い抜いてあげるんだから」


 その言葉に僕の奥底から何か燃え上がるような何かが芽生え始めてきた。それから菜々子さんとはいったん別れた。僕は家に戻り、トーストとベーコンエッグを作って食しながら、何度もデッサンした。モデルは昨日のおしゃれをした菜々子さんの笑っている姿だった。描いてみるとうぬぼれるほどの絵だと自分で思ったりもした。


 何かに没頭していると、時間なんてあっと言う間に過ぎてしまい、もう図書館に行く時間になってしまった。やばいやばい、これは完全な遅刻になってしまう。テレビを消して、ガスの元栓を切り、鞄に忘れ物はないか確認した。そして等身大を写す鏡の前で乱れたところはないかも確認して図書館に向かった。いつもは十分前に来るはずなんだけれども、もう図書館は開館していた。

 中に入ると菜々子さんは窓際の特等席に座って、スケッチブックに絵を描いている。


「お待たせ菜々子さん。絵の方は進んでいる?」


「ふん。見てよこれ」


「よく描けているじゃないか?どうしてそんなに描けるようになったの?」


「ユーチューブを見て研究した」


「なるほど、ユーチューブと言う手が合ったか」


 そこで光さんが現れて「二人共何をしているの?」と声をかけられ、光さんの姿を見ると、光さんの以前見た下着姿を想像してしまった。


 すると菜々子さんは「何光さんをやましい目で見ているのよ」とさらっと僕の心を読まれ、思い切り叩かれてしまった。


「ちょっと菜々子ちゃん。叩くことは無いでしょ」


「だってこいつ、光さんの姿を見て嫌らしい顔をしていたから!」


「菜々子ちゃん。ここは図書館よ、静かにしなさい」


 光さんは菜々子さんにたしなめる。


「ごめんなさい。それと光さん、こいつに嫌らしい目で見られて嫌にならないの?」


「確かにあっ君は私の事をやましい目で見ていた事は分かったわ」


 光さんにまで心を読まれていたなんて、以外だった。


 光さんは「でも、あっ君は男の子よ。前にも言ったと思うけれど、男の子が女の子に嫌らしい気持ちがあるのは健全な男の子の印よ」


「じゃあ、光さんはこいつに嫌らしい目で見られて何とも思わないんですか?」


「まあ、確かにやましい目で見られるのは嫌だけれども、あっ君は私の友達だからね」


「友達だからって、じゃあ、アツジに光さんはヌードを依頼されたらどうするの?」


「ちょっと菜々子ちゃん、それはもちろん断るけれど。あっ君がヌードを描いてもらいたいなら、菜々子ちゃんがなってあげなよ」


「あ、あたしが!?」


「ちょっと菜々子ちゃん、興奮し過ぎ。ここは図書館よ」


 再び光さんにたしなめられる菜々子さん。


 僕は菜々子さんを見つめて、菜々子さんのヌード姿を想像してしまった。

 そして目があって「このスケベ大王が!?」と再び心を読まれて思い切り叩かれてしまった。


 するととある近くで勉強している浪人生に「うるせえよお前等!」と怒られてしまった。


「ほら菜々子ちゃん。ほかに勉強している人が入るんだから図書館は静かにしなさい」


「はい、すいません」


「それにあなた達、今度は絵に目覚めたの?」


 そこで僕が「はい。僕は豊川先生の絵を見て、何かビビッと心に雷が落ちたような気がして、絵に目覚めてしまったんですよ」


「へえ、それは良い刺激ね。菜々子ちゃんはどうして?」


「何かこいつに負けたくないんですよ」


「二人共、絵を描くことは好き?」


「「好きです」」


「じゃあ、小説を書くことは?」


「「好きです」」


「じゃあ、勉強は?」


 僕と菜々子さんは黙ってしまった。それで菜々子さんは「あまり好きじゃないです」


「二人とも正直でよろしい。でもあなた達はまだ中学生だから、ある程度の勉強も必要になってくるから、勉強もおろそかにしちゃダメよ。それと今日は英語のテストを用意したから、絵も小説も良いけれど、ちゃんとやりなさいよ」


「わかりました」と僕が言うと光さんは「じゃあ、私は司書のバイトがあるから、またお昼になったら敬子からパンを分けてもらうから楽しみにしていてね」


 それで僕と菜々子さんは絵を中断して、英語の勉強を始めた。正直英語は嫌いだ。僕は外国人の知り合いもいないのにどうしてこんな物を勉強しなきゃいけないのだろうと不思議に思った。でも菜々子さんがやる気になると僕もやる気になれる。とにかく嫌いな英語でも菜々子さんには負けたくない。


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