【♯46】馬鹿は死ななきゃ治らない。じゃ俺が治してやろうか?
――キッドがハッカー討伐に出掛けたと同時刻。
ルシファーは単独で、己を嵌めた『ハッタリの染谷』を追跡していた。
彼と何度も通話でやり取りしていた記憶を頼りに、広い地底空間の何処かに隠れ住む染谷の出処を暴こうとする。
(プレイギアの通話時に、相手の通話場所をGPS衛星で探る機能が付いていた。その場所からして地底空間は確実。そして深さからしてB3層付近。あとは入り組んだ地底の迷路から探るしかない……!)
これだけの情報源だけで、染谷の出処を確定していくルシファーの推理力は大したものです。
果たしてその推察は当たるのか、出あたり次第隈なく探すルシファーの視線から、複数の気配が……!
(あの人を小馬鹿にするような若気に満ちた声……間違いない、染谷だ!!)
ルシファーがこの目で、染谷を発見した場所は推察通りのB3層。常闇の地底層には野次馬な人気もなく、ただ過酷な環境を生き抜くには歩き回るような余計な行動はしない。
――そんなB3層にポツンとハッカー。それと三名ほどの何者かと輪になって交渉をしているようだった。ちょっとその様子を音声拡大しつつ、聞いてみよう。
「……ほらよ、約束のブツ。コイツを受け取った瞬間にオメーらとは縁切り、見ず知らずの他人だ」
染谷が取り出した銀色のアタッシュケース、そこには刑事ドラマでよく見る札束がぎっしりと詰まっていた。要は裏取引の現場である。
「我々としては少々勿体ない気がするがな。お前のようにゲーム戦士を忌み嫌う存在が、今後も取引せずに関係を終わらすとは」
「特に火野暁斗こと“キッド”、奴の四大精霊のPASの力を提供出来ただけでも大きな収穫だ。正直我々が報酬を与えるべきであろう」
(キッドが狙われている……? この俺の他に、奴の首を取ろうとしてる存在がいるというのか……?)
ルシファーには信じがたかったが、実際の所はキッドは地底空間出身であることと、異能力であるPASが類稀なる四大精霊の力を携わってる事から、様々な組織で狙われている存在であった。
そしてそれは彼のみならず、ハリアーや他の仲間にも言える事。だがそれは何故なのかはまだ明らかにされていない。
「他人同士になる前に一つ教えてくれ、ハッタリの染谷。エレメント◇トリガーズの連中はともかくも、お前の道具として使っていた『黒い稲妻・ルシファー』まで殺そうと考えたのだ? 不可解のままで終わらせるのはどうも性に合わん」
等と悪の組織的な連中が、妙な口を聞くと思うでしょう。それはルシファー自身も曰く付きの因縁があったからなのです。
「余計な詮索は止めなよ。俺はあの役立たずを―――――」
と、言いかけた染谷。だが彼も一流ハッカーの端くれ、周囲に刺した殺気を見逃す訳が無かった。
遠方のルシファーの冷たい視線から出た殺意が、染谷に向けられていたのだから……!
「………あー、いや、やっぱりこの際話しとくか。実はな、あのルシファーって奴の正体から単刀直入に言うと――――アイツはWGCが制作したゲーム戦闘型のアンドロイドなんだよ」
「何………!!?」
思いがけない真実。我々はおろか取引先の組織すらも驚愕した黒い稲妻・ルシファーの正体。
つまり彼は、人間ではなく意思を持った機械と言うのでしょうか……?
「―――WGCが10年前に開発したっていう【GRD-ゲーミングロイド-】計画の事はお前らも知ってるだろ?
ゲームワールド管理機関組織・WGCの科学者の案より人類の枠を超え、異能力を蓄えたゲーム戦士達の力をも超越する人工アンドロイドを創ろうという、科学者の偏見を固めたような計画が立てられていたんだよ。
これまでゲームタイトルを掻っ攫ってきた強豪ゲーム戦士の頭脳や思考パターンをデータ化し、それらを元に人工知能を作製。身体も人間より特化した万能型に設計されて創られたんだとさ。
ところが、開発時から既にゲームにおけるパワーの制御が出来ず、研究所の崩壊や暴走を繰り返す始末だ。結局WGCからは処分通告を言い渡され、1号機『GRD−001』は地底空間の底に廃棄処分されたのよ。
その後も様々なタイプで制作されたんだが、結局はゲーム戦士のサポートアンドロイドの作成にプランが落ち着いて、本来の企画はチャラにされた。
……だが最近になって、何らかの原因で廃棄されて機能停止された筈のゲーミングロイドが、地底空間から自動的に起動されたって噂を俺は聞いたんだ。
傲慢な科学者や政府への復讐か、或いは人工知能に自我が芽生え始めて人間らしい野望を持つようになったかは知らねぇが……地底空間から自ら地上を拝もうと這い上がったアンドロイドが―――――【GRD−001】、“黒い稲妻・ルシファー”なんだよ」
染谷の長ーーーーーい説明は一旦区切られた。
要はルシファーとは、WGCが作成したゲーム戦闘型アンドロイドであり、欠陥扱いとして地底空間に葬られながらも、処分しきれずに這い上がってきた機械人形だという。
人工知能に“執念”の概念があるのかは定かではないが、彼が執拗に太陽の光を求めるのは、人間以上の意志の強さがあってこそであろう。
「……俺はあんなルシファーを見てて可哀想になってよ。欠陥扱いでこのまま野垂れ死にさせるくらいなら、いっそお前の役に立たせて、俺の手で始末しようとしたんだよ! この苦渋の選択をする俺の辛さが分かるかよぉぉぉぉぉぉぉ」
忽ち染谷の目の濃い隈から流れる涙の雫。裏世界に生きる者だからこそ知る辛さがあるのか。
………だがそれにしては、信憑性に欠ける。詐欺師のような名前の癖して、嘘八百が得意なハッカー・ハッタリの染谷の猿芝居に騙されてはいけません。
「三文芝居はそれくらいにしておけ、ハッタリの染谷!」
当のルシファーが、人工知能によって見え透いた嘘を既に見破っていた!
「武器を持った敵よりも、一番殺気に敏感なお前が、俺の存在に気づいて打って出た嘘芝居に騙される俺と思ったか。舐め腐るのも大概にしろ!!」
ブチギレ状態のルシファー。染谷の背後に迫り、特殊合金で構成された両腕から力が込められている。
「……だがお前がアンドロイドだった話はマジだろうが、他に何が嘘だって証拠があんだよ、あぁ!?」
「証拠ならある。お前がキッドや他のゲーム戦士よりも自惚れてるという事だ。
虚栄心に凝り固まったお前が、ハッキング知識が達者な事を鼻に掛け、それらの栄光をズタズタに引き裂こうと企んで制作したウイルス回路【プレデター】を――――お前がばら撒いたという事をな!!!」
そしてルシファーが徐ろに、自分のプレイギアのPDFから見せた【プレデター】の回路発散計画。更にはプレデター回路の設計図や仕組みまでもが、利用された側の手に渡っていたのだ。
「お前……いつの間に俺の重要データを!?」
「俺のことを馬鹿な機械人形だと思いこんでいたようだが、嫌いな奴に頭を下げるくらいなら出し抜く事をする方が利口だと思ってな。この小賢しい人口知能が!」
ルシファーの冷淡な表情から浮き出る青筋。彼の口からして自身がアンドロイドである事は理解していた。だがそれに漬け込んで利用した染谷に怒りを覚え、来る日の為に報復の時を待っていた。
それが今、染谷プレデターをばら撒いた証拠を逆ハッキングさせた事によって。こうなれば当の染谷も、開き直るかのように汚い笑いを飛ばす。
「…………ふっ、ヒャヒャヒャヒャ!! あぁそうだよ、俺がオンラインゲームに【プレデター】をバラ撒いた張本人だ、恐れ入ったか! だとしたらこの俺をどうする気だルシファー?」
「俺を殺そうとした報いを受けてもらおう。WGCに自首して、プレデターの事を洗い浚い喋るんだな。神聖なゲームを汚す愚か者が!!」
正々堂々を好むルシファーにとって、ゲームの場を汚し理不尽に敵を陥れる【プレデター】は許すまじ存在。
彼は染谷の袖口をむんずと掴み、自首を促そうとするのだが……?
「――――ほざくな、バーーーカッッッ!!!」
――――ドガガガガガガガガッッッ
「ぐあっ……!!」
突如、染谷の黒スーツの懐から取り出した実銃のマシンガン『H&K MP7』を取り出すや直ぐ様乱射。目先の交渉者である組織の派遣者を撃ち殺し、更にはルシファーの特殊合金仕様の腕も損傷させる。
染谷は元々交渉は乗り気では無かったのか、口封じの為かこの場で鉢合わせた者は消すつもりだったのだ。
「弾は細工してあるぜ、お前のような機械にも致命傷を与えられる小銃用の徹甲弾だ。今度はその生意気な人工知能に直接御馳走してやる」
「貴様ぁ……ッッ!!」
「どうせくたばる身だ、冥土の土産に一つ良いことを教えてやるよ。俺があの【プレデター】を開発したのはな、俺よりも強い奴に跪かせる為。俺を完膚なきまでにボコボコにしてやったキッドへの恨みが、悪魔的才能をもたらしたと言っても過言じゃねぇ!」
彼は3年前、大会にてプロゲーマーであったキッドとの対戦に破れ、それを恨みに思った染谷は小賢しいプログラミング技術から人の人生を狂わすデータ破壊回路を開発。
それが最凶チートプログラム【プレデター】の始まりだった。
「そして俺は、そのキッドをプレデターの力で地位も名誉も地底に叩き落した。あの沈みようには笑いが止まらなくてなぁ!! そしたらどっかの組織がそれを貸してくれなんて言うもんだから商売したら大儲けよ。結局力がある奴が、この時代に生き残れるんだ。お前とキッドのみたいな馬鹿は死んでくれれりゃ万々歳よ!!!」
「黙れッッ!! 貴様のような腐れ外道はともかく、キッドのような奴と共に弱者呼ばわりされるようなルシファーでは無いわ!!!」
「だったらこの俺を殺せたか? 今の場合でもそうだ、自首なんて生温い事を促すからこのようなミスを起こす。甘いんだよお前は、それでも毎日撃ち殺し合いしてるようなA.I.M.Sをやってるゲーム戦士かぁ!?」
ゲームと現実を天秤に掛け、生殺与奪の権利を使って躊躇わせる染谷。何と卑劣な言動か。そして彼は手持ちの小銃のマガジンを装填し、銃口をルシファーの頭部に突きつけた。
「所詮地底に落とされた奴が、俺ら強者に歯向かうことなんざ無駄なんだよぉ!! このまま地獄の果てまで貶されて負け犬のようにキャンキャン吠えてな、俺のプレデターが、この時代を支配する所を眺めになぁ!! ヒャハハハハハハハハハハッッッ!!!!!」
「ハッカーがベラベラ喋り過ぎだぜ。――――お陰で俺にも、お前を殺す理由が出来た」
下衆な笑いをも遮る、低く鋭い皮肉の声。そして染谷の後頭部に突き付けられた『ベレッタ・モデル92』、更に奥には充血した眼に秘められた殺気……!
染谷がマシンガンの引き金を引く直前に、刹那に引かれたベレッタの絶え間ない連射。
装填された9x19mmパラベラム弾・計15発分を全て頭に打ち抜くこの殺意。
染谷の頭の至る所から黒い鮮血が飛び散り、時に打ち所が悪く頭蓋骨をも貫通させた零距離射撃。
―――その狙撃者が、【プレデター】最初の犠牲者となったキッドという事も知らずに。ハッタリの染谷、B3層の暗い地の骸と化す。丁度午前二時、草木も眠る丑三つ時の時刻である。
「人を馬鹿にし過ぎたマジな大馬鹿は、死んだって治るもんじゃねーな」
「――――――キッド…………!!」
情け無用の火龍と、愚者に叩きのめされた堕天使。
二つの成り上がりを夢見るゲーム戦士、その瞳に何を見る……!?
〘◇To be continued...◇〙
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A.I.M.Sで登場させたい実物の名銃も、感想欄で募集します! 次回も宜しく!!




