【♯39】SNS系よりも、好奇で危険な出逢いってありますか?
――現在、時刻は午前11時。眠気に酔った人々がようやく太陽の熱気でやる気を取り戻したと思いきや、昼食時の休憩時間が待ち遠しくなる妙に矛盾した時間帯。
そして地底空間では、人工太陽による仮初めの日光によって無理やり地底の人々の活気を起こし、今日もまた不自由な環境下で生きている。
そんな中で地底空間・B1層の地底湖に、多忙なモデル業の仕事を前日に終えて、翌日のホテルから地底へとイソイソと慌ただしくも駆ける女性が一人。
エレメント◇トリガーズの紅一点・水瀬ありさこと『アリス』であった。
「全くもう……! 何だって月曜の朝から電車の人身事故で遅刻しなきゃいけないのよ」
どうやら地上の方で、電車経由で地底の入り口に向かおうとした所、何処ぞの自殺者の為に足止めを食らったようだ。あって欲しくは無いが都会に有りがちな憂鬱な情景に、アリスも巻き込まれたらしい。
「死んで輪廻で生まれ変わるとか、リセットかコンティニュー感覚で飛び込んでるのかしら。自殺なんかしても何処か報われる訳じゃないのに。線路のド真ん中で肉塊と骨しか残らないわよ、こっちから見たら!」
……アリスさん、何か職場で嫌な事でもありました?
「別に無いけど。せっかくキッドが皆と一緒に食事しようって言ってくれたから、張り切って行ったのにこれじゃ間に合わなくなっちゃうわ」
それはそれで納得。何分多々のハプニングでストレスが蓄積される地上社会に飲まれているアリス。せめて地底に居る時くらいは、仲間と一緒にリフレッシュしたいと思った彼女もこれには頭に来た様子。
自分の夢と未来の為に、必死で生き抜こうとする思いがあるなら尚更。常に心には『いのちだいじに』のコマンドあり。
「あ~ん! やっぱりだわ、キッドってばあたしを差し置いて先に行っちゃった!!」
地底湖の畔に白の一軒家。キッド宅の玄関には、《お食事につき、お留守中!》という看板が掛けられていた。
「えっと、確か『針山亭』だったかしら。和食料理が美味しいとこだよね、集合場所。行ってみよ」
何で地獄に纏わる名前が和食料理店なんでしょうか……
〘◇Now Lording◇〙
――B1層“旧都”。発展途上の栄えた街並みに全長200メートル程のグルメ商店街があるという。
と言っても、地上のB級グルメやらトレンドに入ったブームの食を真似たようなものばかりだが、上品に振る舞うよりもそれなりに美味しく食べられる方が、幸福と感じるこの地底の民度。
庶民的と言えばそれまでだが、キッド達にとっては故郷の味はここから来てるんだそうだ。
アリスは商店街の真ん中辺りでキョロキョロと、お目当ての店を探し回るが……
「――――!!」
商店街の道端にて、尾羽打ち枯らしたかのように倒れていた黒ずくめの服の男を見つけて驚愕するアリス。
暗がりの地底で色が同化していた為、人々は気付かなかったが、A.I.M.Sで眼は鍛えられていたアリスは直ぐ様彼の元へ駆け寄った。
「ちょ、ちょっと貴方大丈夫!? 誰かにやられたの!?」
B2層より下層のゴロツキか、地上の者からリンチでも喰らったのかと心配するアリス。しかし彼が倒れていた理由は至ってシンプル。
「…………腹が……空きすぎた………!」
「――――――えっ??」
彼が言うには、アリス達が住むB1層よりも遥かに地下の層、【B5層】から来たんだそうだ。
とある理由で地底に住んでいるという何者かを探していたのだが、ここは日本列島の真下。遥かに広い層の中で探すにもエネルギーが足りない。更に食料らしきものも持っていなかった為に、空腹の限界によって倒れたんだそうな。
「な、何かエネルギーになるものを……! 食わせてくれ、礼なら幾らでもする……!!」
「そんなこと言われたって……あ、そうだ!」
〘◇Now Lording◇〙
―――変わって場所は、キッド達が食事中の『針山亭』。
大きな円形のダイニングテーブルに刺身の盛り合わせやら土鍋やらと、和食料理を囲むはキッド・ハリアー、そして響波姉妹の四人。
今回ツッチーは急な商売の為に来られないが、彼用に食事を詰めるタッパーも数個用意していた。団地のお母さんみたい!
――カランコロン♪
「ゴメン遅くなっちゃった!」
息を切らしながら来店するはアリスと……プラスアルファ。
「遅いぞアリ………あれ、誰だコイツ」
コイツとは即ち、さっきまで空腹で倒れた所をアリスの肩車で背負われた黒ずくめの男。
「なんか、この人物凄いお腹空いてるみたいで……お情けと思って何か食べさせてあげて! あたしもお金も払うから……」
地上の方ならこんな情けは耳も貸してはくれないでしょう。しかしここは地底空間。互いに助け合い、苦しみも喜びも分かち合う心の優しい人達が集う場所。アリスの頼みを無視する義理など何処にもない。
「別に構わねぇよ。今日は天ちゃんと琴ちゃんのお陰で配信もバズったんだ、俺の奢りでご馳走するよ。ほらそこの兄ちゃんも座って座って!」
今回キッドが食事を企画したのも、配信チャンネルで天音と琴音がチアガールを企画した動画大いに視聴者に受け、地底・地上問わず大人気になったのが始まり。
謂わばこれは些細なお祝い事、無礼講気分で赤の他人も大歓迎ムードで黒ずくめの男をテーブルに誘った。
「…………………」
見知らぬキッド達を警戒してるのか。食事は何も手を出さず、無表情に楽しそうな彼らを睨み付けるだけ。
しかし仲間団らんの食事に気まずいムードはご法度。当然キッドもそれに気付かぬ訳がない。
「……どうしたよ、どんどん食べなきゃ! お前滅茶苦茶腹減ってんだろ?」
「バカ、どうしたら良いか分かんねぇんだよ。B5層なんて物騒な所に居りゃ誰だって警戒すらぁな」
お気楽なキッドに突っ込むハリアー。とは言いながらお構いなしにごっそりと刺身を頬張っている。
「…………その逆だ。お前らはこの俺を警戒しない?」
と、ようやく黒ずくめの男が口を開くが、それでも警戒と圧力は変わらない。
「別に警戒したって疲れるだけだろ。ここは無法者が集まる地底空間なんだし、もう慣れてるよ。良いから食べなさいっ」
そんな強気な台詞、キッドだから吐けるのかもしれない。いやただ呑気なだけなのか。
「わかった! 色気が少ないから楽しめないんでしょ! ちょっとこの天ちゃんが御酌してさしあげましょーかね〜♪」
「ちょっ、天音!」
キッドよりも更に怖いもの知らずがここに居た。天音は黒ずくめ男の横に近寄り、焼酎の一升瓶をグラスへと傾けてトクトクと注ぐ。
「……お前、俺が怖くないのか」
「別に? 自分勝手な人の方がよっぽど怖いけど、貴方はそう見えないもの」
そう言われれば、流石の黒ずくめ男の強張った表情も少し緩んだ。
「……ならば受けた盃は、呑まねば礼に反する。いただこう」
そして黒ずくめ男は、焼酎を一気に飲み干した。度数も高めの酒であったが、きつい表情は一切見せなかった。
「ヒューッ! イケる口だねぇ」
こんな会話は成人同士だから出来た事。未成年者はそれまで愉しみは取っておいてほしい。
「でもさ、お前のオーラから悲壮感が漂い過ぎてるぜ。地底の生活も苦しいだろうけど、酒も飯も楽しくやんなくちゃ、な? ほら刺身も食わねぇと無くなっちまうぞ」
キッドも然ることながら、他のトリガーズのメンバーからは黒ずくめ男に対する警戒心は全く無かった。そんな彼らを目の当たりにした黒ずくめ男の心情からは、羨ましさが滲み出ていた。
(何という者達だ……地底空間で、本物の太陽も拝めない苦しさを味わった者が、何故そんなに笑い合えるのだ。――――いや、彼ら自身が太陽なのだろうか……?)
ふと心に描いた、“太陽”に拘りを持つ心情。これを聞いてハッとした方々も居るのではないでしょうか。
――――そうです。この黒ずくめ男こそ、【黒い稲妻・ルシファー】の正体。
本人も、ましてや彼らにも気付いてはいないが、今眼前にいるトリガーズを潰すために、這い上がってきた好敵手なのです……!!
〘◇To be continued...◇〙
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エレメント◇トリガーズ、次回も宜しく!!




