【♯34】戦闘も良いけど、時には人との触れ合いを忘れないで。
――午前十時半。
A.I.M.Sの射撃訓練場からログアウトし、再びキッド、響波姉妹の三人は自宅を出て、数キロ離れた旧都へと向かう。
「キッドさん、旧都で職場体験って、誰か知り合いでも居るんですか?」
と、キッドの進むがままに連れてこられた響波姉妹。その琴音が説明を求めるならば。
「知り合いも何も! 二人の良く知ってるツッチーんとこだよ」
「そっか! ツッチーおじちゃんって古物商をやってるって聞いたことあるわ。そこへ行くのね」
(おじちゃんって……一応ツッチーも俺らも同い年なんだけど)
同じ25歳の若者四人でも、何となくツッチーこと土屋将司だけ図体が大きい分、おじちゃん呼びする響波姉妹。本人が聞いたらガックリ来るでしょうな。
何て冗談話をしていくうちに、旧都の真ん中まで移動していた三人。噴水や舗装された路面とどことなく古風な広場をイメージした大通りには、人集りが多く賑わっている様子が伺えた。
「おっ、やってるやってる! ツッチーの出張マーケットだ」
気になって響波姉妹が先に集りの壁を突き抜けて覗いてみるならば。
「―――さーて、エェかいお客様! ちょいとその足止めてうちの商品を寄って見て頂戴、買ってみてちゃぶ台! 本日のお目玉商品、テレビゲームの黎明期に燦然と輝くレトロゲーム様々と来たもんや、さぁ見たってや〜!!」
――ところで、読者の皆様は“啖呵売”というのをご存知でしょうか? ほら、フーテンの寅さんがやっていたという有名なアレですよ。
ただ淡々に品物を売るだけではなく、巧みな話術で客を楽しませ、いい気分にさせて売りさばく商売手法の事です。
ツッチーは地底に住むことになった際に、ある関西の商人に拾われてから、コテコテの関西弁と商人魂を受け継ぐようになった。
それが現在に至る“古物商”、つまり一度買った物や使わなくなった物を買い取って物好きな方々に買って頂く。早い話がリサイクルショップの店長みたいな事をやるのがツッチーの仕事だ。
「さぁさぁレトロゲームと聞いて手ぇ出せへんってか? それとも財布の紐が緩みにくい? 儲かりまっか? ハァー、近頃は不景気やねぇ! ならワテかてヤケになるわな、まぁよう聞いたってや!
――やけのやんぱっつあんに日焼けのボケナス。色が黒うて食い付きたいが、うちゃ入れ歯やから歯が立たへんってなさかいに!!」
話のテンポは中々だが何処かしっくり来るんだが来ないんだか。養父の商人の真似しても及ばぬ鯉の滝登りか、いやいやメゲて貯まるか買うまでは!
「ツッチーさん人気者ですねぇ。誰も財布漁る様子無いですけど」
「皆ツッチーの仕入れるレトロゲーム欲しさと、変わった啖呵売見たさに寄りたがるのさ。―――はいはい、ちょっくらゴメンよ〜」
と、何を思ったか無理矢理人集りの波に逆らって、ツッチーの元へ近づくキッド。
「ツッチー!」
「はいはいワテが天下のツ……何やキッドはんやないか」
「今日天ちゃんと琴ちゃん連れてきたけどさ、ちょっと社会勉強に仕事手伝わせても良いか?」
「「えぇ!?」」
キッドに連れて来られて何事かと思ってた響波姉妹、アポ無しにボランティアさせられるとは流石に予測はつかなかったでしょう。
「あらァ〜聞いたかぇお客さん! うちんとこに麗しゅう姉ちゃんが二人もアシしてくれんねんと! よっしゃこうなりゃ腹切ったつもりや、出血大サービスでここらの中古ゲーム全品を千円……いやいや500円で負けたろか、さぁ買うたってや〜!!」
(……あたし達、ツッチーさんのダシに使われた?)
(商いって凄いですわ……)
転んだら金になるまで起き上がらない不屈の商人魂を持つツッチーに姉妹はタジタジ。
キッドの策略で、二人は慣れない職場体験に駆り出されるも何とかレジ打ちやら商品受け渡しやらでコツを掴み、売上に貢献していった。途中ではこんな事も。
「ツッチーさん、スーファミの修理取りに来たよ!」
「おぅ待たせて悪かったな! ちょいと待ちぃや……」
と言いながら、ツッチーは商売用具のポケットケースの引き出しから例のレトロゲーム本体を取り出した。修理は完璧に済んだようで、灰色のカバーには艶が出ていて中古品特有の黄ばみも満遍なく消えていた。
「本体カバーは漂白剤で綺麗にしといたで。あと取れかかってたカセットの差込口も固定したし、差し入れしやすいようシリコンスプレーも差しといたから、一年は持つやろ」
「ありがとうツッチーさん、助かりました!」
と言って女子高生は後払いの修理代を出し、満面の笑みで帰っていった。……しかしレトロゲーム好きの女子高生ってのも珍しいですね。
「どや二人共? 物を売るだけやなくて、こうして大事にしてたもんを修理してお客様に喜ばれるんも悪くないやろ」
「それよりも、あたしはツッチーさんの器用さにびっくりしちゃうわ……」
等と天音は、仕事を通じてツッチーの能工巧匠な機械慣れした技に驚愕。
暫くして、何とか仕入れたレトロゲームの殆どを売ることに成功したツッチー。ガッポリと稼いだお金を丁重に小型金庫に入れて、午前中の商売は終了だ。
「ホンマおおきにな、天ちゃん琴ちゃん! キッド、またこの娘ら貸してもかまへんか? かなり手間が省け経ったわ!」
「おぅ、いつでも使ってやってくれぃ」
「ふぇえ〜! もうヘトヘトだよぉ!」
「身体的疲労とは違う疲れを感じましたわ……」
仕事に対する耐久性が皆無の15の女子には、一時間の手伝いにも一日分の疲れに感じたか、果てて地面にヘタレ込む。
「もうお昼だし、どっかで飯食いに行くか。俺が奢るぜ」
「わ~い!」
「あれ、ツッチーさんも一緒に来るんですか……ってふぁあ何ですの!?」
するとキッド、同行する気満々のツッチーから一気に連れた離れて姉妹にヒソヒソと耳打ちをする。
(…………アイツ他人の金で奢られないと飯一緒に行かねえんだよ。守銭奴だから!)
((あ〜〜〜、根っからの商人ですね))
〘◇Now Lording◇〙
――午後十二時半。旧都の商店街エリアには無数の飲食店が左右チラホラと目に付くが、キッドがおすすめする店はカレー店『地獄池』。…………物騒な店名なのは地底空間のジョークとして捉えてください。
ツッチーは次の仕事が都合良く入ってきた為、同行は免れてキッド達三人で入店。
スパイスをこれでもかと打ち込んだ『地獄カレー』がお気に入りのキッドは、汗を滝のごとく流しては五臓六腑に染み渡る感覚に陥っている。辛党のキッドに対して、姉妹は普通の中辛を選んだ。
「あ、そうだ。二人ともハリアーの写真とか余り見たこと無いだろ?」
「え、えぇ」
「どっかのべっぴんさん釣ってモデル撮ってるんじゃないの?」
天音さん、前にあしらわれたからってキツイ冗談言わないの!
「アイツ女に興味ゼロだからそれは無い。でもほら、何処ぞの写真集より良いの取ってるぜ」
「「わぁ……!!」」
キッドがスマートフォンで保存したハリアーの写真を見せるならば、灰色の地底空間に住む者にとっては恋しや新緑の自然と、青空をバックに映された世界遺産や名所が程よい比率と角度でフォトされていた。
「あっ、これって知床のフレペの滝?」
「あーこれあたし知ってる! 姫路城じゃない!」
「スゲェだろ、これ皆ハリアーがカメラマンの仕事で撮ったヤツだぜ。地底空間の皆に綺麗な景色を魅せたい一心で今もこうして写真撮ってんだよ」
―――この時、響波姉妹はある事に気付きつつあった。
ツッチーが古物商で働いてるのも、ハリアーが地上に登っては全国各地で写真を取っているのも、皆生まれ育った地底空間の人々に貢献する為。
となると、皆が必死になって戦っているA.I.M.Sも、地底空間の人々を守るために戦ってはいるが、本心的には戦いよりも愉しませる事に役割があるのでは、と感じていた。
「……どうだ? 辛い戦いなんかより、二人が一番やってみたい事が見つかりそうか?」
響波姉妹の答えはまだ出てこない。しかし次に向かう目的地に向かう時、彼女らの決意は確かなものになろうとしていました……! ――本日のゲームレポート、報告完了!!
〘◇To be continued...◇〙
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エレメント◇トリガーズ、次回も宜しく!!




