アイへと繋がるもの
激しく降る雨の中、少女は立っていた。
少女は人を惹く目鼻立ちの整った顔をしていた。
街へと出ればスカウトか何かに必ずを声をかけられているくらい、その存在感は十分であった。
少女の視線は真っ直ぐと2mほど先に立つ、少女の父親らしき男と向けられていた。
アイツが言ったんだ。少女は昼間近くの書店でクラスメートの少年と会ったことを思い出した。
少女といい勝負の美しい顔の少年と少女はとても仲がいいとは言えなかったが、母親同士はそれとは逆に大変仲が良いので、少女の母親が「娘がまだ帰ってない」と言えば簡単に教えてしまうだろう。
彼と会ってしまったときからこうなることは少女は予感していた。
少女の前に立つ男は透明なビニールの傘を差し、穏やかな視線を少女に向けている。
男の傘の柄には少女のものと思われる赤い傘がかけられている。
「・・・・藍・・家へ帰ろう・・・・」
アスファルトに打ち付ける雨音が男の声が少女の耳へ届くことを妨げるが、少女の瞳は彼の言葉を読みとっていた。
少女は静かに首を横に振った。
「藍・・・・」
傘を持たない方の手を少女に向けて差し出した。
少女の瞳から大粒の涙が溢れだした。
少女はその場から動こうとはしない。その意思を示すかのように両手はスカートの裾を握りしめている。
「・・・っ・・ったしは、だれのっ、こどもなのっ・・・・・」
嗚咽に混じって少女が問いかけた。
「おいで、うちに帰ろう。」
男は優しく言った。少女は男をもう一度見た。男がニッコリとほほ笑んだ。
少女は今度は男の元へ駆け寄って、縋りつき声を大にして泣き叫んだ-------
満開に咲き誇った桜の花がひらひらと散り始めている。
始業式のみの、この日小学校の門からは次々と帰宅する児童が出てきていた。
ランドセルを右肩のみに掛けた黄色い帽子の少女が校舎から走り出てきた。
あの雨の日の美しい少女だ。
あれから1年以上が過ぎている。少女はあの日より更に大人びた顔になったが、その表情は活き活きとし輝いていた。
彼女は前方に雨の日自分の居場所を両親に告げたであろう少年がいることを確認した。
今年もクラスメートになってしまった。けれど以前同様親しくはない。
あの日のことも直接話したことは一度もなかった。
少年の脇を通り過ぎたときに少女は後ろ振り返り少年を見据えて誇らしげな表情をして言った。
「私、お父さんと本当の親子になったんだよ。」
「そう・・・」
彼はいつも通り感情を表さないで答えた。
少女はそんな彼の態度なんかは気に留めることもなく走り去っていった。
空には綺麗な青空が広がっていた。
走りながら吸い込む空気を少女はとても美味しく感じた。
この日は少女にとって忘れがたい、喜びに満ちた日になった。
そして、少年にとっても---------
この日生まれた存在が少年にとってかけがえのないものであることを彼はまだ知らない。




