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25.落ちこぼれ王女と精霊王の祝福

 光の精霊王たちの守護を受けた瞬間、私はそのまま意識を失いました。

 

 その後、中心地で何が起こっていたのか、魔物はどうなったのか、みんなは無事なのか、この時の私にはそれを知るすべがありませんでした。

 ただ、夢うつつの中で聞こえて来るのは、初代聖女様の声。

 精霊王たちの守護を受けた影響なのか、彼らの中にある記憶なのか分かりませんが、遥か太古におこった魔物との戦いの記憶が、私に流れ込んでくるのです。




 太古の昔、溢れだした負の魔力によって大陸に魔力の場ができ、そこから出現する魔物に世界は蹂躙されることになりました。尽きる事のない魔物は、そこに住む人々を次々と虐げ、殺戮を繰り返していったのです。


 辺境の村に住む少女シエラは、共に過ごしてきた精霊に助けられ守られながら生き延びていましたが、世界の惨状を知り、自分だけが守られる事に耐えられず、幼いころからの友達でもあった光の精霊王の守護を願い、幼馴染の青年と共に旅立ちました。

 青年同様、共に旅をしていた他の精霊王の力も借りて、一つずつ魔力の場を破壊していったのです。

 

 そして、悲劇は突然訪れます。


 順調に破壊していた魔力の場から溢れた負の魔力が、最後の一つの場に集まりだしていたのです。


 シエラは、光の精霊王の力だけでは破壊できないと悟り、すべての精霊王に守護を願い出たのです。

 6体の精霊王から解放された力は、シエラの内包する魔力と合わさり、負の魔力の場だけではなく大陸そのものを崩壊させていくことになったのです。


 崩れゆく大陸を安定させるため、人々を守るために、シエラは創造主リアンクリスに願いました。

 自らの命と引き換えてもいい。だから、世界を救って…と。


 その願いは――聞き届けられたのです。




「シエラ、バカな真似はよせ!」


「大丈夫よ! 世界が救われるんだもの、この命、惜しくないわ!」


「やめろ! 俺を置いていくのかシエラ!? ここまで一緒に来て、自分だけ犠牲になるなんて許さない!」


 シエラと呼ばれる少女の声と、必死に引き留めようとする男性の声。

 これは、聖女を守って戦われたという英雄の声でしょうか?


「フィランゼ、お願い、これしかないの! 精霊王の力の余波で、もう、大陸の崩壊は始まってる! このままだと世界は壊れるのよ! 早く大陸を安定させないと、みんな死んじゃうの!」


「それは君じゃなくても良いだろう!? なぜ、君がやろうとする!」


「精霊王の守護を願った時からとっくに覚悟を決めていたのよ…。何があってもみんなを守るって…!」


「しかし…!」


「もう決めたの! だから…お願い。貴方はみんなを導いて…」


「シエラ!」


「…ここまで一緒に来てくれてありがとうフィランゼ。――大好きよ」


 頑なに世界を守ろうとする初代聖女様は、引き留める英雄の声に名残惜しそうにそう告げると一つの願いを口にしました。

 そして―――






「…約束よ、ライクリフ。必ず世界を守ってね」


「分かってるシエラ、分かっているからしゃべるな!」


「シエラ…どうして?」


「シンファもそんな顔しないの…。わたしは後悔してないのよ」


「馬鹿な事を言うな! なぜおまえが犠牲になる!」


「私が、望んだ…ことよ…エンディス。お願い、みんなを…守ってね」


「シエラ…」


「……」


「ユリシャ…も…ディントールも……お願い」


「シエラ、貴女の願い、必ず叶えるわ。必ず世界を守って見せるから…」


「あり…がとう…リンディア…」


「シエラ!」


「…ごめんね…ライ。本当に…ごめ…ん…ね」


「…約束だ、シエラ。君の願いは必ず叶える。世界は守って見せるよ。たとえ、何があっても…!」




 その後、リアンクリスの力で崩壊を止めたものの、大陸は3つに分断されてしまっていたのです。


 人間がいる限り、負の魔力は決してなくならない。

 ならば、いずれまた魔力の場は発生する。

 それでも人間を、世界を愛おしいと思う彼らは、シエラとの約束を守るために、自らに使命を定める事にしたのです。


 風、炎、水、大地の精霊王は、いずれ来る大量発生に備え、新たな精霊使い――後の聖女――を探す使命。

 そして光と闇の精霊王は―――


「私は、あえて負の魔力の場を発生させる。一度に数か所ではなく、一か所にとどめ、大地への――世界への被害を縮小するために…」


「それが、精霊使いの負担を減らすことに繋がる…という事かの? 光の(あるじ)よ」


「そうだよ、大地の主。そうしなければ、今度こそ世界は持たない…。それに、もう大切な人は失いたくない……」


「大陸が分断されただけで済んだのは、シエラの命を掛けた願いを、創造主リアンクリスが聞き届けたからだ。かの神は、二度とない…と仰せられていた」


「炎の主よ。リアンクリスは人間(ひと)に干渉しない、世界にも興味を持たない、あくまでも傍観者でしかないからね」


「風の君。それでもシエラの願いは届いたのよ。奇跡と呼ぶべきものではあるけど…」


「水の主、それは理解しているよ。それで、闇の主はどうするの? 光の主が魔力の場をあえて発生をさせるなら、貴女は何を?」


「私は、場が生まれそうな大陸に結界を施すわ。他大陸に負の魔力が広がらないように…。そうすれば、光の君、貴方が場を生み出しやすくなるでしょう?」


「そうだな…。なら、各々世界に散ろう。我らの使命を携えて――シエラとの約束を守るために!」






 精霊王たちは、世界を守るためにあえて中心地を生み出し、魔物大量発生を引き起こしていました。それは、太古の悲劇を繰り返さない為であり、時の聖女に負担を強いらない為…なのですね。


 その思いが、抱える使命の重さが苦しくて切なくて、どうしようもなく悲しくなります。

 どうして、それほどまでに約束を守ろうとするのでしょうか?


「彼女が大切だったからだよ…」


 ふと聞こえてきたのは、シンファの声でした。

 うつらうつらとする私の脳裏に響く、懐かしい声です。


「僕たちにとって、シエラはかけがえのない友達だった。失いたくない存在だった…。でも、彼女は…世界を守るために自らを犠牲にすることを選んだんだ」


 悲しげに告げられる言葉は、後悔が滲む切ないものでした。


「だから、みんなで誓ったんだ。もう二度と僕らの大切な人を失わせないって―――」


 えっ…?


「シエラ…世界は守られたよ。君のおかげだ」


 これは、光の精霊王ライクリフの声…ですわよね?


「君の魂を一時的に世界から切り離し、君の体を操り、君の中で最大限に纏め上げられた私たちの力だけを魔物に、魔力の場にぶつけた。そのまま君が私たちの力を奮っていたら、シエラと違ってもともと魔力の少ない君だから、おそらく、私たちの膨大な力に耐えられず命を落としていただろうからね」


 そんな怖い事、今頃言わないで下さいな!

 それで? 魂を切り離したっておっしゃいましたが、私は生きているのですか? 私の体は…?


「大丈夫…貴女は生きているわ。体の方も、多少の怪我はあるけれどすぐに治るわよ」


 貴女は?


「私はユリシャよ。ありがとう、シエラ」


 その声と同時に、私から水の精霊王の力が消えていくのが分かりました。


 そして――


「我らも感謝を…精霊使いシエラよ」


「力を必要とするなら、いつでもわしらを呼ぶがいい。そなたなら、歓迎しよう」


 炎と大地の精霊王の力が消えていきます。


「これでしばらくは大量の魔物の脅威はないはずよ。いつも通りの数に戻るわ」


 しばらくは…って、いつまでですか!?


人間(ひと)の世界だと数百年後かしら?」


 数百年が、しばらく、なんですか…?


 精霊の時間感覚は分からないです―――


 闇の精霊王リンディアは、「シエラ、貴女に祝福を…」と囁いて、私から離れていきました。

 そして、消えていく力―――


 精霊王たちは、役目は終わったとばかりに、私から力を消して去って行かれたのです。


「何時までも守護を与え続けていたら、君は本当に忘れてしまうよ、何もかも…」


 特に私の力は強大だからね…。

 笑いながら話す光の精霊王――ライクリフの声に寒気が走りました。


 それは…いやですわ。


「だろう? だから私は、初代聖女以外誰一人として守護することはなかったんだけどね…」


 今回は必要だったのですね…?


「うん…彼女――ミアの力が想像以上に大きかったからね」


 どうして、ミアさんを利用したのですか?


「…当初は利用するつもりはなかったんだよ。ただ、彼女の力を試していただけだった。それは、君も同じ…」


 シンファが言っていましたわ。力を…強大な力を求めたら守護しなかったって…。


「そう…試していたんだ。君は力を求めず、ミアはその逆だった。力を求め、周りを見ようともせず、頑なに私の力を使い、自分の世界だけを見つめていた」


 …ゲームのヒロイン、ですね。


「その過程で、ミアから負の魔力が溢れだしているのを知った私は、彼女を使い、場を生み出すことにしたんだよ」


 それが貴方の使命…だからですか?


「うん…シエラとの約束だからね」


 それでも、ミアさんを守っていらしたのでしょう?


「…いかなる理由があろうとも、私がミアにしたことは許せるものじゃないよ」


 …ライクリフ。


「だから、後は君に託すよ」


 えっ?


「さあ、いつまでも話している時間はない。君の記憶が失われる前に、君を解放しなくては…。でも、風の主はそれを望んでないんだよ、ね?」


 光の精霊王は、そういうとシンファに問いかけておりました。


「シエラ、君が望むのなら、僕はこのまま君といたい、君を守護し続けたい、君を守りたい。だめ…かな?」


 そんな事ありません!

 シンファは、大切な私の友達です!


「シエラ、ありがとう…」


「愛しいシエラ、君に最大級の祝福を…」


 光の精霊王は、そう言うと、自らの力を消してしまいました。

 そして―――


 去る間際に告げられた言葉と共に、私は意識を浮上させたのです。

 



「シエラ…」


 微かに私を呼ぶ声が聞こえます。


「シエラ…!」


 ゆっくりと目覚めた先には―――涙にぬれた薄紫の瞳。


 貴方の涙…初めて見ましたわ、ネスティ様。


 私は、確かめるようにゆっくりと手を伸ばし、その涙をそっと指で拭いながら、満面の笑みを浮かべました。








 ◆  ◆  ◆




 あれから――魔物大量発生から――数日が過ぎました。


 私は今、ミアさんと会うために神殿に来ております。

 ライクリフにその力を利用され、眠り続けていたミアさんが目覚めたと聞いたからです。

 すぐに会いに行くには彼女の心労もあるからと控えていたのですが、お兄様からもう大丈夫、とのお許しを頂きました。


 ミアさんは、聖女として今もその立場を無くしておりません。


 あの時――私が精霊王達の力を受け入れた後――中心地で、何が起こっていたのかは分かりません。あの場所にいた誰に訊いても、頑なに固く口を閉ざすばかりで、何一つ教えてはもらえなかったのです。

 どうやらお兄様が、あの場所にいた方々に固く口止めをして、尚且つ、私が精霊使いとして世界を救ったという事実を隠してしまわれたようなのです。

 その上で、ミアさんが聖女としての力のすべてと引き換えに、魔物を殲滅したと宣言したのです。


 おそらく私を守るための措置だったのでしょうが、あれ以来、あの場にいた騎士たちの態度が非常に鬱陶しいのです。

 まるで、私を崇めるかのように接してくるのです。どうしてなのでしょうか?

 

 いったいあの時、何が起こっていたのですか? すごく気になります…!






「シエラ、ここだよ」


 お兄様とネスティ様に付き添われ、私は教会に設えられたミアさんの部屋に来ました。

 ミアさんは、一瞬顔を顰めた後、お兄様とネスティ様に向けて微笑まれたのです。


「待っていました、エスリード様、ネスティ様!」


 抱き付いてきそうな勢いのミアさんを柔らかく制して、お兄様は私を前に出しました。

 その私の隣には、ネスティ様が寄り添っておられます。


「なぜ王女様がここに…?」


 明らかに不機嫌そうな口調。


「君に伝えていただろう? 今日はシエラを連れて来ると…」


「…聞いていましたけど」


「シエラが、君と話したいそうだ」


「王女様が…?」


 ミアさんは、相当いやなのか、私と目を合わせようとなさいません。


「君も、今の立場を守りたいなら、その態度を改めてもらわないと困るのだけどね」


 思いがけず発せられたお兄様の辛辣の言葉に、ミアさんは目を見開きました。


「…エスリード…さま?」


「君に伝えただろう? 君の持つ力の事も…、中心地での事も…、そして、その結果の出来事も伝えたはずだよ」


 ミアさんは、何か思う事があるのか、口ごもり黙ってしまいました。

 お兄様は、ミアさんに全てを話しておられたようです。


「それ以前に、シエラは王族だ。傅く立場の君が、なぜシエラを無視する?」


 名ばかりの聖女のくせに、と続けるお兄様の口調はとても冷やかなものでした。

 私に対する態度に、相当お怒りだったようです。

 ミアさんは、縋る様にネスティ様に視線を向けました。

 ネスティ様はその視線をまっすぐに受け止め、次いで私に笑みを向けたのです。


「シエラ、彼女は君と話す気はないようだし、今日は帰ろうか?」


 君が心を砕く必要などない、と告げるネスティ様は、私の肩を抱きしめ部屋から退出なさろうとしました。


 いやいやいや、それはだめですから!

 私はミアさんと話さなければいけないのです!


 ネスティ様の微笑みに流されそうになっていた私は、その腕から逃れミアさんと向き合いました。


「…こうして話すのは初めてですわね」


「王女様…」


 私から声を発したことで、ミアさんに動揺が見て取れます。


「初めてですので名乗りますね。私は、ユーフィア・シエラ・リスティアと申します。あなたは…?」


「…ミア――ミア・リーム」


 ぎこちなく答えるその顔に浮かぶのは、相変わらずの嫌悪感。

 きっと、ライバルキャラとの直接対決、とでも思っているのでしょうか?


 …思っていそうですわね。


 お兄様たちに困惑する視線を投げかけ、次いで私を睨むように見据える彼女からは、負けまいとする意志がすごく伝わってくるのです。


 私は、ミアさんに近付くとお兄様たちを振り返りました。


「少し…二人だけにしていただけませんか?」


「シエラ…それは!」


 心配げに声を上げるネスティ様と、仕方ないな、とでも言いたげなお兄様。


「少しだけだよ、シエラ。何かあったらすぐに声を上げるんだ、良いね?」


 その心配の仕方もどうかと思いますお兄様。ミアさんが、私に害を成すとでも思っているのでしょうか?


 ミアさんを見ると、傷ついたように顔を歪ませておりました。


「ミアさん…。少しお話しなさいませんか?」


 お兄様たちが退出していくのを確認してから、私はミアさんにそう声を掛けました。


「…どうして?」


「私が話したいと思いましたの…」


「わたしには…ないわ」


「本当でしょうか? あなたは、私をライバルキャラ、と思っているのでしょう? なら、今のこの状況、直接対決だと思っておりませんか?」


 私の言葉にミアさんは驚きで目を丸くしておりました。


「…な…なんで…?」


「ミアさんがおっしゃっていたのですよ? この世界がゲームの世界で、自分がそのヒロインだって…」


「…あ、あれはっ!」


「そうですわね〜。仮にこの世界がゲームの世界なのだとしたら、タイトルは何なのでしょうか?」


「えっ?」


 ミアさんの表情に、困惑した色が浮かんでいます。


「ねえ、ミアさん。このゲーム…乙女ゲームは、なんというタイトルなのですか?」


 その問いにミアさんの表情から色が抜け落ちました。

 差し詰め、どうして私が、乙女ゲーム、という言葉を知っているの? という事でしょうか。


「…し、知らない…知らないわ」


 辛うじて声を出すミアさんは、驚愕に満ちた目で私を見てこられます。


「知らないのに、乙女ゲームの世界と決めつけていたのですか?」


「…転生…したんだもの! 転生したんなら…ヒロインに決まってるでしょう!」


「どうして?」


「えっ…?」


「ミアさんの言うそれがまかり通るなら――私も、ヒロインですわよ」


「………っ!」


 ミアさんは、私の言葉に絶句してしまわれました。

 マジマジと私を見つめ、驚きを顕にして目を見開いておられるのです。


「…転生者?」


「はい…」


「王女…さまが?」


「そうです…」


「…どこの? 前世は…どこ!?」


「…日本、ですわよ」


 次の瞬間、ミアさんは顔を歪ませ、その大きな新緑を思わせる碧の瞳に大粒の涙を浮かべたのです。


「…一人じゃ…なかった」


「ミアさん?」


 ぽつりと呟いたミアさんは、感極まったかのように、私に縋り付いてきました。


「一人じゃなかった! わたしは…わたしは、ずっと一人だと、……一人だと思っ…てた!」


「ミア…さん?」


 私は、泣きじゃくるミアさんを宥めながら、堰を切ったかのように吐き出されるミアさんの孤独を知ることになるのです。




 ミアさんは、私と同じで生まれた頃から前世の記憶を持っていたのだそうです。ただ私と違うのは、前世の自分の事をこと細かく知っていたという事でしょうか…。


 私は、漠然とこの世界がRPGや小説の中の世界と思っていて――実際、生まれた頃から記憶があるといっても、当初は夢の中にいるような感じでしたわ――記憶もゲームのことくらいしか覚えていませんでした。


 けれどミアさんは、家族の事、恋人の事、そして、自分が死んだ時の事まではっきりと覚えておられたのです。


 ぽつりぽつりと語るミアさんの前世は、とても温かい家族に囲まれ、優しい恋人がいて、そして、17歳の頃、デートの帰り道で事故に遭って死んだという事です。


 生まれ変わった先は、前世とは似ても似つかないファンタジーな世界。戸惑い混乱する間もなく、今世の両親は魔物に殺され、自分は教会にあずけられた。


 ミアさんは、前世の家族を懐かしみ、恋人を想い、この世界に転生したことを恨んだのだそうです。そして、そんな悲惨な境遇は、この世界が乙女ゲームの世界で自分はヒロインだからなんだ、と思い込んだのだそうです。そう、思わなけれは、耐えられなかった…とも。


 ミアさん自身、ゲームが好きで、特に乙女ゲームが大好きで良く遊んでいたのだそうです。

 いつか…いつか必ず、ゲームのスタートが始まる!

 そう思っていた矢先に、光の精霊王から力を受け取ったのだと言いました。


 そして、学園に転入し、4強と呼ばれる彼らを攻略しだした。


 なぜ私がライバルキャラなの?と訊いたら、ミアさんは、徐に視線を泳がせながらこう答えました。


「落ちこぼれ姫、と呼ばれていて、学業も容姿もいまいちだし、でも王族だし…4強とも繋がりが深そうだったから…?」


 それは…貶されているんでしょうか?


 顔を顰める私に、ミアさんはあわてて頭を下げておられます。

 その様子がおかしくて、私は思わず笑ってしまいました。

 そして、同じく笑みを浮かべるミアさんがぽつりと呟いたのです。


「これって…友情エンド?」


「まだ、ゲームに持っていくのですか? ミアさん!!」


 声を上げる私と、笑みを浮かべるミアさん。

 私たちは、顔を見合わせ、本当にゲームの世界みたいだね、と笑いあいました。






 ミアさんの気持ちが落ち着かれた頃、私は光の精霊王に告げられた言葉を、ミアさんに伝える事にいたしました。


 ミアさんは最初、顔を顰めておりましたが、精霊王の使命を聞いてその表情を一変させました。

 柔らかく笑むミアさんからは、光の精霊王に対するわだかまりは見当たりません。

 静かに私の話に耳を傾けるミアさんに、ライクリフ――光の精霊王の最後の言葉を伝えたのです。


『――ミア、君に祝福を…。君が望むのなら、君が苦しむのなら、君の前世の記憶を…消してあげるよ』


 ミアさんは、その言葉をゆっくりと噛みしめると、緩やかに頭を横にふり、輝くような笑みで答えたのです。




 ――大丈夫。私はもう…一人じゃないから!






ありがとうございました!



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