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24.落ちこぼれ王女と新たな精霊使い

「待っていたよ、シエラ」


 冒険者や騎士たちの援護を受け駆けつけた私たちの前に、光の精霊王がミアさんを抱えたまま、ゆったりと佇んでおりました。


 ミアさんを守っていた?


「光の精霊王…」


 まるで襲い来る魔物から守るかのようにミアさんを抱きかかえ、光の精霊王は私を見下ろしてこられます。


「君がここに辿りつくのをずっと待っていた」


「…ミアさんを解放してください」


「良いよ…。もう、彼女は必要ないしね」


 辛辣な言葉とは裏腹に、光の精霊王は慈愛に満ちた眼差しをミアさんに向け、ゆっくりと私たちの元へとミアさんをおろしました。


「ミア!」


 お兄様がミアさんを抱き留めます。

 しっかりと腕の中に抱き留めたお兄様は、ミアさんの呼吸を確かめ、生きておられる事を確信したのか、その表情には安堵の笑みが浮かんでおりました。


「お兄様…ミアさんは?」


「大丈夫…。意識は混濁しているが、生きている」


「…良かったですわ」


 共に戦っておられたネスティ様もほっとした表情を見せておりました。

 気に懸かっていたのでしょう。お兄様たちは、ミアさんが精霊王の守護を受けていないと知っていて聖女としていたのですから、その身を案じるのは当然です。


 でも、やっぱり少しだけ妬けてしまいます。ミアさんを心配げに見つめるネスティ様の瞳があまりにも優しすぎて、思わず目を逸らしてしまいました。


 魔物と戦われている騎士たちにも安堵の様子が窺われます。

 ずっと共に戦って来られたのです。彼らの中では、ミアさんは未だに聖女なのです。


 羨むことが、妬むことが、負の魔力を生み出すことに繋がる…。


 シンファに言われていた事です。

 精霊王の守護を受けた者がその感情に支配された時、溢れる負の魔力は膨大なものになる…と。

 私は、自分の中に目覚めつつある感情を振り払うかのように、ギュっと手を握り締めました。


「…フィア」


 ミアさんの無事を喜び、安堵する周りの様子に気落ちしていた私を、ナガルが心配そうに見つめてきました。


 よほど落ち込んで見えたのでしょうか?

 

 私は、「大丈夫よ」と呟き、笑みを浮かべました。


 ふと隣に視線を向けると、いつの間にかアルフ兄さんがすぐ隣にいました。


「君には俺たちがいるだろう?」


「そうです。僕たちの事を忘れないで下さいよ」


 口々にいうアルフ兄さんとルイフィス様。

 彼らは、私を守るかのように精霊王と対峙していらっしゃいました。その様子に思わず笑みが零れます。

 後方には、魔物を近づけまいと奮闘するキーヤさんたちもいます。


 そうですわね、私にはあなた方がおりますわね…。

 私は、ミアさんを羨む必要などない――


 ミアさんに、王国の騎士たちやお兄様とネスティ様がおられたように、私には彼らがいます。仲間として、ここまで一緒に来てくれた皆さんが…。そして、私を仲間だと言ってくれた冒険者たちの方々が…!


 私は、心が軽くなるのを感じながら、ゆっくりと地上へと下り立つ光の精霊王に視線を向けました。


 決着をつけなければいけないのですわよね。

 いろいろ、訊きたいこともありますし、何より、なぜこのような事を精霊王が引き起こしたのか問い詰めたいですわ。


「…言っただろう? 私が望むのは、世界の安定だと」


 私の胸の内を読んだかのように返されるそれは、そこに集うすべての者の耳に届けられたのです。






「…一つ昔話をしようか?」


 光の精霊王は、そのお力で辺りの魔物を鬱陶しそうに一掃すると、そう口を開いたのです。


「昔話…?」


「遥か昔、この世界がまだ一つの大陸だったころの話だよ…」


「それは…大陸分断を招いた初代聖女のお話…ですか?」


 私の問いに、光の精霊王は静かに頷くと、はるか遠くを見るように目を細めて空を見つめました。そして、ゆっくりと語り始めたのです。大陸崩壊にまつわる物語を――




「当時世界に蔓延した負の魔力は、大陸中で幾つもの魔力の塊と呼ばれる場を作りだし、魔物の大量発生を引き起こした。魔力の塊、いや、今でいう中心地は、蓄積されればどこにでも発生する。一つとは限らない。当時大陸に発生したのは4つ。そこから生み出された魔物は大陸中を蹂躙し、世界は魔物の住処と成り果てようとしていた」


 ――言葉がありません。

 このような中心地が4つなど、想像がつきませんもの!


「そこで、聖女の誕生…ですか?」


 いつの間にか傍に来ていたお兄様が問いました。

 ネスティ様も、私を守るかのように一歩前で剣を構えております。

 ミアさんは?と思い視線を後ろに巡らすと、騎士たちが守りを固めておりました。


「…聖女、ね。君たちは、聖女を精霊王の守護を受けた者、と認識しているだろう?」


「…違うのか?」


 光の精霊王は、ちらりとシンファに視線を向けました。

 シンファは、その瞳に悲しさを湛え、光の精霊王を見ております。


「聖女、とは、精霊王の守護を受けた者の名ではない。それは、魔物を殲滅し自らの命を糧に世界を救った少女――シエラを湛えたものなんだよ」


「――えっ?」


 命を糧に世界を救った? どういう事なのですか?


 周りからも息をのむ声が聞こえてきます。

 誰も、声を発せずただ光の精霊王の話に聞き入っておりました。


「彼女は、幼いころから精霊を友とする少女だった。精霊の守りで魔物の脅威から逃れていた彼女は、世界の惨状を知り、守られるだけの己を嘆き、世界を…人々を守る為に、自身に精霊王の守護を願い出たんだ」


 それって……。


「気づいたかい? 今の君に似ているだろう、シエラ」


 私は頷くことも出来ず、ただ光の精霊王の語る話に耳を傾けておりました。


「そして、その願いを精霊王は叶えたんだ。シエラは精霊王のその力を持って大陸分断を引き起こし――自らの命と引き換えに世界を救ったんだよ」



 

 光の精霊王が語る真実は、あまりにも重く私に伸し掛かりました。

 

 初代聖女様は、いったいどれだけのお力を持っていたのでしょうか?

 精霊王の守護を得て、それも一つだけではなく、4つの中心地を滅するなんて想像もつきません。


 今までは、精霊王の守護を受けた聖女が、中心地を、魔物を殲滅するものと思っておりました。精霊王の力を奮い、皆を守る存在が聖女なのだと……。 

 でも、シンファの…風の精霊王の守護を得て分かったことがあるのです。


 精霊王の守護を受けているだけでは、魔物は殲滅出来ない。


 シンファの力をもってしても、中心地に僅かな穴を開けることしか出来なかったのです。魔物を殲滅するなど…たとえ、命を懸けようとも、そのような力はないような気がするのです…。まだ、聖女には秘密があるのでしょうか?


 ふと、無言のまま精霊王の話に耳を傾けている皆さんに視線を向けました。

 お兄様とネスティ様は、その真実に驚愕に目を見開き、そして、アルフ兄さんやナガルたちは、何かを知っているかのように顔を歪ませていたのです。


「ナガルたちは知っていたの?」

 

「風の精霊王に大まかに聞いていた」


「なぜ、私には教えて下さらなかったのですか?」


 ナガルは静かに目を閉じると、「知らされてたら、おまえは精霊王の守護を願わなかったのか」と聞き返されてしまいました。


 ナガルたちは、私の決意が固いと知っていらしたのですね。

 何を言われても、決意は揺らがないと…。


「そうですわね…。きっと、知っていてもシンファの…精霊王の力を欲したと思いますわ」

 

 精霊王の守護を受けると決めたのは私ですし、精霊王の話を聞いておられたからこそ、アルフ兄さんは執拗に私を守る、と言っていたのかもしれません。


「…文献に記されていたのは、精霊の守護を受けた聖女が世界を救ったとしか……」


 お兄様が、その表情を強張らせておりました。


「間違いではないよ。結果だけ見れば、確かにその通りだから…。ねえ、シエラ。聖女って何? 君はそれを知りたいって言っていたね?」


 確かに言いましたわ、シンファに…。

 そして、シンファは、光の精霊王に会えば分かる、と――


「聖女とは…確かにシエラを湛えた名でもあるが、真の意味は、我ら精霊の友であり、世界で唯一全ての精霊王を使役できる、精霊使いの事なんだよ」


 その言葉と同時に、中心地を突き破るかのように出現した存在が4つ。

 その存在は、あまねく力を発し、周辺の魔物を蹴散らしながら姿を現したのです。


 足元まで届きそうな長い闇色の髪と瞳を持つ白皙の美女。

 キーヤさんよりさらに赤い…まるで炎のような赤い髪と瞳を持つ青年。

 透き通る水面のような緩やかに流れる青色の髪と瞳の少女。

 そして、どっしりと構えたむき出しの大地のような赤茶けた髪と瞳の老人。


 誰一人声を発する事が出来ませんでした。

 その4体の存在すべてが、圧倒的な存在感を持って私たちの前に佇んでいたのです。

 

 まさか――精霊王…なのですか?


 その存在に、あまりの脅威に、私は身体が震えるのを抑えられませんでした。


 なぜ、今この時に現れたのでしょうか?


 私は、恐ろしさのあまり目を逸らそうと致しました。でも、出来なかったのです。

 4体の精霊王に視線を向けられ、まるでその瞳に縫い付けられたかのように、動けなくなってしまったのです。


「シエラ、君はこの世界を救いたいと願うかい? かつてのシエラと同じように、我らすべてをその身に受け入れ、力を奮いたいと――皆を守りたいと…そう、願うかい?」


 かつてのシエラと同じように……?


 まさか…初代聖女は、すべての精霊王の守護を受けていらしたのですか!

 その上で、魔物を殲滅したと…?

 

「…私に、すべての精霊王の守護を受けろという事ですか?」


「そう…そして、我らを使役し、君はこれを――この大量の魔物を抑え込むことが出来るかい?」


 それは、私に魔物を殲滅しろとおっしゃっているのですか? 


 確かに私はそう願いました。

 シンファの精霊王としての守護を願った時も、守るための力が欲しいと思いました。

 でも、すべての精霊王の守護を受けるだなんて…そんな事……。


 ――自らの命と引き換えに世界を救ったんだよ。


 ふいに過った光の精霊王の言葉…。


 命と引き換えに……?


 それは…私がやらなくてはいけない事なのですか? 

 世界を守るために、私に命を差し出せと…そう、言っているのですか?  


「…聞き入れるなシエラ! 君が犠牲になる必要などない!」


 私の耳を塞ぐように、ネスティ様が抱きしめてきました。

 

「腹立たしいけど、今回ばかりはネスティに同意するよ」


 アルフ兄さんが、精霊王を威嚇するように剣を構え、お兄様は私を精霊王の視線から隠すように前に立ちはだかりました。

 そして怒りを顕に問い詰めたのです。


「光の精霊王、一つ訊く! 初代聖女は兎も角、過去に存在した聖女が命を落としたという記述はない。何故だ?」

 

「シエラ以外、我らすべての守護を受け入れられる者がいなかったんだ。時の聖女たちは、一体の精霊王の守護を受け聖女と成り、中心地に集った我らの力を借りて魔物を、中心地を滅していたんだ」


「なら、今回も力を貸すのではいけないのか?」


「規模が違うよ…。ミアがもたらした負の魔力は、シエラが大陸分断を引き起こしてまで食い止めたそれと酷似している。力を貸すだけでは、魔物の発生を食い止める事は出来ない。この場を消滅させることは出来ない…。故に、我らの力を一つにまとめ上げる精霊使いが必要なんだ」


「…ミアにそれほどの力が?」


「ミアも…精霊使いとなる資質を持っていたんだよ。だから、私は彼女に力を与え試した。…けれど、ミアは己が欲望の為に力を奮い、世界に負の魔力を生み出し始めた…」


「そのミアを利用して中心地を生み出したのは貴方だ! なぜ、そのような真似をした! 諭し、導けば、ミアは負の魔力を生み出しはしなかったはずだ!」


「…それが私の使命だからだよ」


 光の精霊王の使命――


 幾度となくシンファに聞いた言葉です。


「……使命? それが中心地を生むことと関わりがあるというのか?」


「シエラとの約束だから…」


 それきり口を閉ざした光の精霊王の口調は、すごく寂しそうで、私は胸が痛くなるのを感じました。そして、ネスティ様の腕の隙間からその様子を見ていた私は、精霊王たちが皆、一様に悲しそうな視線で私を見ているのに気付いたのです。


 どうして――?


 そういえば…シンファも、初めて私の名を聞いた時悲しそうな目をしておられました。


 彼らにとって、初代聖女様は一体なんだったのでしょうか? 結果として命を落とすことになってしまった聖女様ですが、彼らは、本当に命を奪うために力を与えたのでしょうか?

 

 ……違うような気がいたします。


 確かに精霊王の存在は怖いです。命を懸けて世界を救った、と言っているのです。怖くないはずがありません! …でも、それ以上に、彼らからは、強く、温かい思いを感じるのです。

 それは、初代聖女様に向ける思いなのでしょうか、それとも――


 私は、精霊王たちに目を向けました。


 悲しみに瞳を揺らす彼らは…精霊王たちは、初代聖女様を守れなかったことを悔やんでいるのではないのでしょうか…。


 私は、ふと胸のあたりから込み上げる光の力を感じました。

 光の精霊王の祝福、とティカお姉さんが言っていたそれです。それと同時に思い出しました。水霧の森で、ティカお姉さんが告げた言葉を――


『…貴女様は御自分を守護されている御方が誰なのか近いうちに知るときが来られるでしょう。その時はどうか、その宿命を受け入れてくださいませ。私は…いえ、私達は身命を賭してそれをお助けするとお約束いたします』


 お姉さんは、こうなることを知っていた?


 初代聖女以来ありえなかった、すべての精霊王の守護を受け、新たな精霊使いとならなければこの大量発生は抑えきれない…。だからお姉さんは、私が精霊王の守護を受け、新たな精霊使いと成ることを懇願していたのですか? そして、その上で、私を助ける、と言ってくださった―――


 なら、私は試されているのではないのでしょうか?


 初代聖女の使命を聞かせ、それでも尚、精霊王の力を求め、世界を救おうとするのかどうか…。


 私は光の精霊王に視線を向けました。

 光の精霊王は、私の視線を受け、その表情に柔らかい笑みを浮かべて頷いておられます。

 

 やはり、試しているのですね…。

 それならば、きっと私は大丈夫ですわ。

 精霊王たちは私を守って下さる。確証はありませんが、なぜかそう思うのです。

 それに――


 私は、離さないとでも言いたげなネスティ様の腕にそっと触れました。


「ネスティ様、私は大丈夫ですから、離してくださいませんか?」


「シエラ…」


「大丈夫です」


 精霊王たちの守護を受ければ、その影響で、再び貴方への想いを忘れてしまうかもしれません。

 けれど――


『必ず貴女を守ると誓いましょう、シエラ』


 貴方が誓ってくださったその言葉と微笑みが、きっと私を守ってくれる…そんな気もするのです。


「…ネスティ様、私は大丈夫です。ですから、笑ってくださいませんか? 私に、貴方の笑顔を見せてください」


 懸命に微笑む私を、ネスティ様は僅かに顔をゆがませさらにきつく抱きしめると、そっと私を離してくれました。


「…シエラ。何があろうと一緒です。私は、二度と貴女から離れる事はありません。覚悟してください」


 名残惜しそうに離れる直前、耳元で囁かれたその言葉に、胸が高鳴るのを感じました。

 見上げるその顔には、柔らかい笑み。


「ネスティ様…ありがとうございます」


 私はもう一度ネスティ様に微笑みかけると、精霊王たちに視線を向けました。


 精霊王が私を試しているのなら、私は、それを受け入れなければいけないのでしょう。

 これを拒絶し、逃げ出せば、世界は終わる。どのみち未来はない…ですわね。


 ちらりと魔物と戦っておられるティカお姉さんを見ると、お姉さんはしっかりと頷いてくださいました。その口元は「大丈夫よ」と言っているように見えます。

 

 私は、心を落ち着かせるように大きく息を吸うと、精霊王たちの前にゆっくり歩みを進めました。


 そして、覚悟を決めて、願いを言葉に乗せたのです。






「…私の名はシエラ。精霊王たちよ、私が新たな精霊使いとなります!」


 その瞬間でした。

 6体の精霊王たちは、我先にと名乗りを上げたのです。 


「その言葉を待っていた! 告げよう、新たな精霊使いよ! 我が名はディントール、大地を統べる王なり!」


「ありがとうシエラ。私は水を統べる王、ユリシャよ、よろしくね」


「我は炎を司る王、エンディスなり。新たな精霊使いシエラよ、汝に従おう」


 大地と水と炎の精霊王は、それぞれ名を名乗り、契約の口づけを額に落としていきます。

 精霊王の守護は高位精霊の守護とは違うとティカお姉さんが言っていました。契約時、守護した精霊に名づけるのではなく、精霊王たちは自らの名を持って守護契約を交わすのです。

 守護契約を交わすたびに体内を巡る強大な力に翻弄されながら、私は、目の前に立つシンファに視線を向けました。


「シンファ、彼らを呼んだのは貴方ね?」


 流風の平原で光の精霊王の祝福を受けた後、シンファは空に向かって何かを呟いておりました。それは、あまねく大地を渡り他の精霊王たちを呼び寄せていたに違いないのです。


「うん…ごめんね、シエラ。僕だけの力だと、魔物を殲滅する力はないからね」


「今回の大量発生は…でしょう?」


「うん…。ミアの力は想像以上だった。本当なら、過去の聖女と同様に他の精霊王の力を借りるだけで良かったんだけど…」


「風の君を責めないでね、シエラ」


 長い闇色の髪と瞳を持つ白皙の美女は、私に微笑みかけるとそっと額に口づけました。


「私の名は闇の精霊リンディア。私の力で貴女を守るわ。だから安心して、シエラ」


 5体の精霊王の力を受け入れた私は、その力の余波でめまいを覚えました。


「シエラ…少し、我慢してね」


 ふらつく私を支えたのは、光の精霊王です。


「光の…精霊王…?」


「シエラ…覚悟はいいかい?」


「…もちろん、ですわ」


 私は、不安げに見つめる皆に目を向けました。

 お兄様は、睨みつけるように光の精霊王を見つめ、アルフ兄さんとナガルとルイフィス様は背後から襲い来る魔物と戦っておられます。

 私に近付けまいと守って下さっているのでしょう。

 そして、ネスティ様は―――


「我は光の精霊王ライクリフ! シエラ、君に守護と祝福を!」


 額に軽く触れるだけの口づけと共に、私の意識は暗転いたしました。


「シエラ――!!」


 叫び声に目を向けた私が最後に見たのは、ネスティ様の苦痛にゆがんだ顔。


 大丈夫です…。

 私は…大丈夫ですわ、ネスティ様。

 だから…そんな顔しないでください。

 お願いですから、笑ってください。




 私は、貴方の笑顔が…貴方が――大好きです。







ありがとうございました。

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