act,4_友人役Aの幼馴染
短いです。微病みっぽい?でも全開じゃない
どうして。
その言葉は口から出ずに、心の中で消えて言った。
『――誰?』
今朝、楓の部屋に迎えに行った時、いるのは知らない女だった。
腰まである黒髪に、底の見えない闇色の目。左耳にだけに、チェーンの長い、赤色の宝石がついたピアスを付けている。軽いツインテールを作っているのは揺れる赤色のリボン。薄らとメイクしているのが分かる。客観的に見て可愛いと思った。だが態度には出さず、少しだけ睨んでいると、ソイツが口を開いた。ニヤリ、と笑って。
『酷いなあ、紅くん。僕だよ。君の楓くんだ』
その声は確かに、耳に馴染んだ幼馴染の声。女の正体が分かると、今度は言葉の意味が頭の中で表示され、顔に熱が上がっていくのが分かった。
何故か、と聞こうとする前に、ああ、と思い至る。そういえば昨日、隣からイメチェンがどうのこうの、メイクがどうのうこうのと聞こえていた。
成程、と納得した後は、溜息を吐いた。どうして今日からなんだという疑問は、あえて口に出さないことにする。聞いてほしくないと、顔に書いてあったから。
褒めるべきか、と悩む。昔から姉貴にはそう言われてきた。変わったところも気付いてやりなさい、と。褒めてもいいのだが、いざ口に出すと恥ずかしいし、それにその可愛いと思った格好で、これから学園に行くのだと思うと、逆に怒りが湧いてくる。
――そういうのは、休日にやればいいだろ。
言えれば楽だ。
――いっそ、見たやつの目を抉っておきたい。
でも、そうするときっと嫌われる。それは嫌だ。
『楓、お前、本当にそれで行くのか……?』
『うん、そのつもりだけど……。――紅くん』
『あ?』
『学校に着いて、僕がどんな風になっても、紅くんは味方になってね』
言われた直後は、意味が分からなかった。だが、それはすぐ後にきた嫌な予感によって、思考を塗りつぶされる。
〝どんな風になっても、紅くんだけは味方になってね〟。
言葉の意味からして、それは嫌われることをするということだ。昨日は何もしなかったのに、いきなり今日から何かを始めるのか。――苛められるようなことを、するのか?
別に苛められていい。それで俺に縋ってきてくれるなら。
別にそれで泣いてもいい。その後、苛めたやつを殺していいなら。
だが、何故だ? ――どうして。
その言葉は口から出ずに、心の中で消えて言った。
――どうして、言ってくれないんだ。どうして、俺に隠し事なんてする?
湧き上がってくるのは大きな怒りと悲しみ。
おかしい。おかしい、おかしいんだ。
楓には俺が必要なはずなのに。いつもそばにいたはずなのに。
楓はいつも俺に頼ってきてくれるのに。どうして、隠し事なんか。
このままずっと一緒にいられるのか、心配になった。今はもう年齢がゆえに遠く思える幼馴染の存在。でも、絶対に手放したりしない。
ずっと。ずっと、ずっとずっとずっと。ずっとずっと、ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと、ずうっと、死ぬまでずっと、一緒だって、前に――。
やっと終わった。
二時間目の授業が終わった時、次の授業はサボろうかと思って、屋上へ行こうと席を立つと、声をかけられる。
まだ幼い声の主は、同士の風紀委員の副会長、――草薙友弦だった。
草薙は能力もちの顔合わせで二度あっているが、話した記憶がなかったために、驚く。しかも、話題の内容は楓だった。
『――紅貴くんと楓ちゃんって、仲いいの?』
『…………』
答えるのが、躊躇われた。仲がいいと思ってはいるが、楓は幼馴染だということを隠し違っている。自覚はある。俺にも、ファンクラブがあるのだから。だが、今朝登校した時にこいつと楓が喋っているのを見た。声までは聞こえなかったため、楓が何と答えているのか分からない。どう答えればいいか。
『……まあ、そこそこ』
『…………ふーん』
胡散臭いと、その目が語っている。探るような視線にイラつきながらも、ここで一人不機嫌になるおは、どうも何かに負けたように思えて、思考をずらした。いや、そもそも、だ。そもそも、どうしてこいつにそんなことを話さなければならない?
――気になるのか、アイツが。
また話し出そうとする草薙を通りすぎ、屋上へ向かう。教室ドアあたりまで後ろから追いかけた草薙は、不機嫌な声で言った。
『ああ、今日は集会だからね。放課後は理科準備室へ』
そして――現在。
草薙に告げられた集会のため、理科準備室に向かっていた。理科準備室はこの学園に二つあり、一つは本当の理科準備室。俺らが言っているもう一つの〝理科準備室〟は、本当の準備室の奥に隠しドアがあり、そのドアを開けて、長い廊下を歩き、一番奥の右にあるドアを開けて、ようやく着くところを示している。能力者の話を安心してできるように、防音もされてある。
何の装飾もされていないドアは、派手な物好きの理事長にしては、珍しい。そんなことを思いながらドアを開け、中に入った。部屋にはイスと人一人が入れるほどの大きな棺桶。何故あるのかは知らないが、誰もわけは知らないと言っていた。
その中には既に、俺以外の能力者が全員集まっていた。ああ、楓を一人で帰らせるのに、時間を使ったか? でも、来ないよりはましか。
「全員揃いましたね」
草薙友弦が言った。敬語なのは、教師や先輩があるからだ。
「よかった。今日は全員来てくれて。一人も欠けなかったことに感動を覚えるよ」
どこか棘のあるような声で言ったのは、部屋の真ん中にいた男――生徒会副会長の一人、空閑聖夜だ。ウェーブのかかった黒髪に、空色の目。仕草に気品があるが、心の中は真っ黒の、確か草薙と従兄弟だと言っていた。類は友を呼ぶ。まさにそんな感じだ。
大場がちらり、と視線を向けたのは、灰色の髪を持つ教師――石動神楽。石動は長めの前髪をかき上げ、大場を睨み言った。
「しゃーねえだろ、俺も一応教師だ。お前らと違って仕事があるんだよ、仕事が!」
石動が同意を得るように水里を見れば、そいつは困ったように笑って何も言わない。その事に草薙友弦が笑う。その場の空気を変えるため、ドアの前に立ったままの俺にイスを渡しながら、オリーブの髪と目を持った男――雷創操が言った。
「言い合っている場合かよ? ――今日の集会は随分と急だったじゃねえか。なんかヤベーことあるんじゃねえの?」
その言葉に、言い合っていた石動と空閑、笑っていた草薙も静かになる。いつの間にか雷の言葉は、いつも集会を始める合図となっていた。
部屋の角で立っていた金坂が口を開いた。
「今日の議題は、一般生徒に俺らの能力がばれてるってことね」
軽く言われた言葉に、ざわめきが起こる。いつも無表情の風間白蓮も驚いて、目を見開いていた。俺はというと、正直興味がなかったのだが、次の金坂の言葉に、耳を疑った。
「その一般生徒は――昼間、火八馬が屋上に連れて来てた子なんだよねー。――そう、椎名楓ちゃん」
椎名楓――それは確かに、自分の幼馴染の名前だ。何かの間違いだと口を開こうとするが、直前で止まる。違うという証拠はないし、何より金坂の能力は心を読むサトリだ。それに能力者である俺が、ずっとそばにいた。気付いていてもおかしくない。
「貴様、ばらしたのか」
責めるように俺に言ったのは、風間。無言で首を振る。
そんな俺を、金坂が庇った。
「いやいや、違うよ。火八馬は言ってない。俺の力がそう言ってるさ」
ただどうしてか、楓ちゃんが何で力のことを知っているか探ろうとしても、力が跳ね返されたんだ。
まるで、誰かが守っているみたいにね。
金坂の言葉は、ここにいる能力者に衝撃を与えた。これまで必死に守ってきた国家秘密がばれている上に、何故知っているのか探ると、誰かが守っているように力が跳ね返された。これは、ここにいる能力者の誰かが力のことをばらし、そして罪を犯したのが自分だとばれないように、ブロックしている。これは明らかな裏切り行為だ。
「でも……、力を跳ね返す能力なんて、杠にはいませんよ?」
困惑を隠さず、水里。
勿論、と金坂が答えた。
「それはそうなんだけどね。だから、集会。ただ知っているだけなら、空閑に記憶を消してもらうだけでいいから。まあつまり――力を隠している生徒がいるんじゃないか、って」
ざわめきは起こらなかったが、沈黙が部屋を占める。大体は予想していた言葉だが、能力は決められた家の者にしか生まれない。今まで無かったことだ。しかも子供の頃の間、国から力を隠せられるわけがないのに。考えるのは後天性。だがそもそも、力を受け付けない力など、聞いたことがない。
「火八馬……、さりげなく聞けたりする?」
首を振る。アイツは、聡い。すぐ顔に出る俺が、聞けるはずもない。
「じゃーどうするー?」
「僕行くー?」
「ボクも行くー」
双子の度会思闇と紫艶が言い合う。フワフワの茶髪に、大きな緑の目。懐かれやすい二人なら、確かに適任だ。
――楓に合わせるのは物凄く不本意だが、この際仕方がない。
「近々、合わせるようにする……」
それだけ言って、部屋を出た。ドアを閉める直前に、風間が言った。
「監視もしておけ」
睨んでいた目から、まだ俺は疑われているのだと、悟った。アルビノの赤い目には、隠そうとしない敵意が見えたから。
口調が分からなくても「こいつじゃね?」的な感じでスルーしてくださいなww名前と顔が一致しなくても、これ以上キャラは増えないので、どんどん覚えていけるようにします
朝日さん→きっと、「教師=チョーク投げの達人」的な方程式は作中ずっと続きます。その内楓が被害に会いますwwきっと紅くんが助けてくれようとします。でも巻き添えになるだけです(笑)拍手ありがとうございましたー!




