第6話 同接7人の配信者ですが、不人気キャラを使っていたら翌日には世界大会でそのキャラしか使われなくなっていました
「あちゃー……また抜けられちゃったか」
深夜1時。 僕はモニターの前で、苦笑いを浮かべていた。 プレイしているのは、3人でチームを組んで戦う人気バトルロイヤルゲーム。
僕がキャラ選択画面で『モグリん』を選んだ瞬間、野良の味方二人がボイスチャットで舌打ちをして、即座に切断していったのだ。
「仕方ないよなぁ。モグリん、今の環境だと『最弱』って言われてるし」
『モグリん』は、見た目はマスコットみたいで可愛いけれど、ヒットボックス(当たり判定)が大きく、スキルも役に立たない。 いわゆる「トロール(利敵)ピック」扱いされている不遇キャラだ。
「でも僕は好きなんだよねぇ。この、必殺技を使った時の『ぷきゅー!』って鳴き声が可愛くてさ。……よし、今回は一人で頑張るぞ!」
僕は気を取り直して、たった一人で戦場へと降り立った。 結果は、当然ながら即死だったけれど。
◇
その夜の配信。 同接7人のリスナーたちに、僕は少しだけ愚痴をこぼしていた。
「やっぱり、好きなキャラで勝つのは難しいねぇ。また『ゴミキャラ使うな』ってDM来ちゃったよ」
『こんルル』
『モグリんは運営に見放されてるからなぁ』
『キャラ愛を貫くルルちゃん、尊い(スパチャ)』
みんな慰めてくれるけれど、ゲーム内の風当たりは強い。
「運営さんが強化してくれないかなぁ。せめて、この限定スキンの『ピンク・モグリん』を着てる人だけでも、仲良くしてくれたらいいのに」
僕が愛用しているのは、昔のイベントで配られたド派手なピンク色のスキンだ。 目立つから敵にすぐ見つかるし、人気がなさすぎて着ている人を一度も見たことがない。
「あーあ。いつか、モグリんが愛される世界線に行きたいなぁ」
僕は何気なくそう呟いた。 その言葉が、モニターの向こうで「世界最強のインフルエンサー」の逆鱗に触れたとも知らずに。
◇
──裏側(名無しさんの配信スタジオ)──
「……許せない」
登録者数数百万を誇るトップVtuber、『名無し』(HN)は、配信外のスタジオでスマホを握りしめていた。 画面には、彼女が崇拝するルルちゃんの寂しげなアバターが映っている。
「私のルルちゃんが『可愛い』と言ったキャラを、ゴミ扱い? 切断? 暴言?」
彼女の瞳から、ハイライトが消える。
「ルルちゃんのセンスは世界一よ。それが理解できない世界の方が間違っているわ」
彼女はマネージャーに内線を飛ばした。
「今夜の歌枠、中止にします」
『えっ!? 今からですか!? もう待機所が3万人超えてますよ!』
「変更よ。今から『緊急ゲリラ・ゲーム配信』をやるわ。タイトルは……そうね、『現環境の隠れ最強キャラ、教えちゃいます』で」
彼女は不敵に笑い、自らの美麗なアバターを起動した。
「世界中の愚民たちに、『真の流行』を教えてあげるわ」
◇
彼女は不敵に笑い、自分のアバター(美麗なLive2D)を起動した。 嘘も小細工もいらない。 ただ、「わからせ」ればいいだけだ。
◇
数分後。 『名無し』のメインチャンネルで、突如として配信が始まった。 深夜にもかかわらず、同接数は瞬く間に15万人を突破する。
『えっ、急にどうしたの?』
『ゲーム枠? 珍しい!』
『サムネがモグリんなんだけどw』
コメント欄がざわつく中、名無しは余裕たっぷりの声で切り出した。
「やっほーお前ら! まさか未だに、攻略サイトに載ってる『強キャラ』なんて使ってないよね?」
彼女が選んだのは、当然『モグリん』。 そして、そのスキンは――ルルちゃんと同じ『ピンク・モグリん』だ。
「今日は特別に、私の『本気構成』見せてあげる」
彼女はプロゲーマー並みの腕前を持っている。 最弱キャラだろうが、彼女が使えば関係ない。 鮮やかなキャラコンで敵をなぎ倒し、わざとらしく必殺技を使う。
「見てこのスキル! 実はこれ、敵の視界を一瞬塞ぐのに最適なの。……え、弱いって? それはアンタの使い方が下手なだけでしょ?」
彼女は圧倒的なプレイスキルで、敵部隊を3タテ(全滅)してみせた。 そして、カメラに向かって言い放つ。
「いい? 本当に上手いプレイヤーはね、キャラの性能になんて頼らないの。『一番目立つキャラ』で『一番目立つスキン』を着て、堂々と勝つ。 これが強者の証明でしょ?」
嘘は言っていない。彼女の本心だ。 だが、その言葉の圧力は凄まじかった。
「まだ地味な色のスキンでコソコソ隠れてるの? ダサくない? 今イケてるのは、この**『ピンク・モグリん』**一択だから。……まさか、持ってない人いないよね?」
その瞬間。 Twitter(X)のトレンドが動いた。 『#モグリん最強説』『#名無しちゃんスキン』『#強者の証明』 「名無しちゃんが言うならそうだ!」「俺も強者になりたい!」 数万人の信者たちが、一斉にショップへ走り出した。
◇
翌日の夜。 僕は恐る恐るゲームを起動した。
「昨日は散々だったけど……今日こそは、味方さんが抜けないといいなぁ」
マッチング開始。 キャラクター選択画面になる。 僕はいつものように、素早く『モグリん』にカーソルを合わせた。 すると。
ピコン! ピコン!
「えっ?」
なんと、味方の二人も、同時に『モグリん』を選ぼうとしていたのだ。 このゲームは同キャラ選択不可なので、早い者勝ちになるのだ。
『ボイスチャット: あーっ! モグリん取られた! 先輩、譲ってくださいよ!』
『ボイスチャット: チッ、俺が使おうと思ったのに……。まあいいや、ナイスピック! そのピンクスキン、強そうっすね!』
「えええ!? 強そう!? ピンクが!?」
さらに驚くべきことに、戦場に降り立つと、周りの敵部隊が全員ピンク色のモグリんだった。 画面中がピンク一色。 どこを見ても、僕と同じ格好をしたプレイヤーが溢れかえり、自信満々に撃ち合っている。
「な、なにごと!? みんなド派手な格好して……怖くないのかな!?」
戸惑う僕に、味方が誇らしげに言った。
『VC: へへっ、今はこれが「強者の証」らしいっすからね! 芋(隠れる)ってたら笑われますよ!』
試合が始まると、あちこちから「ぷきゅー!」という可愛い鳴き声と、激しい銃撃戦が響き渡る。 昨日まではゴミ扱いだったのに、今日はまるで「猛者のユニフォーム」扱いだ。
「す、すごい……! みんながモグリんのポテンシャルに気づいてくれたんだ! 僕の目は間違ってなかったんだね!」
◇
その夜の配信。
「みんな聞いて! 世界が変わったよ!」
僕は興奮冷めやらぬ様子で報告した。
「今日ログインしたら、みんな自信満々にモグリんを使ってたの! しかも僕とお揃いのスキンで! やっと時代が追いついたんだねぇ!」
『おー、それはよかった(棒)』
『流行って怖いねぇw』
『admin: 使用率0.1%から80%へ。……インフルエンサーの一声は、核兵器より重いな』
みんなも驚いている。 そんな中、名無しさん(サブ垢)が、満足げにコメントした。
『名無し: あ、それ昨日、有名なVtuberが「上手い人はこれ使う」って言ってたよー。みんなそれに憧れてるだけだと思う(笑)』
「あ、そうなんだ! その人が『強さ』を証明してくれたんだね。よかった~、僕だけじゃ説得力なかったもん!」
僕は胸を撫で下ろした。 僕の影響力じゃなくてよかった。有名人の実力証明なら、胸を張って使い続けられる。
「そのVtuberさん、きっとすごく格好いい人なんだろうなぁ。いつかお礼言いたい!」
僕は画面に向かってニコニコと笑った。
『名無し: うんうん。ルルちゃんと一緒なら、みんな強くなれるよ(真理)』
『カゲ: ……実力行使による世論操作、お疲れ様です』
『ミケ: 嘘は言わずに常識をねじ曲げたか。……たいしたタマだ』
画面の向こうで、名無しさんが「ふふっ、今のゲーム画面、全員が私とルルちゃんのペアルック(実質結婚)」と、歪んだ解釈で悶えていることなど、僕は知る由もなかった。
本日のメイン登場人物
小狐ルル:主人公のかわいらしいバ美肉のアバター。FPSゲームはカジュアル勢。
名無しさん:登録者数数百万人の国民的Vtuber(中身は疲れた女性)。数字と炎上に怯える日々の中で、同接7人という「数字に囚われない桃源郷」を見つけ、実家のような安心感を感じている。




