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第57話 【冷徹な政治家】ですが、野党の追及を完全論破して国会を早めに閉会させ、「リアタイ視聴」の時間を確保した

「――大臣! 答弁を求めます! この予算案の不透明さについて、国民は納得していない!」


午後17時40分。国会、衆議院予算委員会。 野党のベテラン議員が、鬼の首を取ったような顔で机を叩いていた。 審議は紛糾し、予定時間を大幅に超過している。 野党側の狙いは明らかだ。執拗な質問で時間を稼ぎ、審議を深夜まで長引かせる「日程闘争」。


その標的となっているのが、与党政調会長であり、現職大臣の 剣崎けんざき 塔子とうこだ。


「……」


塔子は、答弁席で無表情に手元の資料を見ていた。 しかし、その内心では、冷や汗が滝のように流れていた。


(……まずい。あと20分)


彼女はデスクの下で、腕時計をチラリと見た。 今夜18時からは、小狐ルルの『名作文学・朗読枠』がある。 アーカイブではダメなのだ。 ルルの朗読に合わせて、リアルタイムで感想を共有し、彼と同じ時間を過ごすことにこそ意味がある。


(このままでは、国会に缶詰めにされてリアタイを逃す……。 私の生きがいを、この無意味なパフォーマンスで奪われるわけにはいかない……!)


「大臣! 聞いているのか! 審議拒否も辞さないぞ!」


野党議員が得意げに叫ぶ。 その瞬間。 塔子の瞳の奥で、何かがパチンと弾けた。


「――委員長。発言を許可します」


塔子は静かに挙手し、マイクの前に立った。 その纏う空気が、一瞬にして絶対零度まで下がる。


「……野党議員のご質問ですが。 先ほどから、『不透明』『納得していない』と抽象的な言葉を繰り返すばかりで、具体的な数字の矛盾を一点も指摘されておりません」


「な、なんだと!?」


「貴殿が手に持っている資料の3ページ目、14行目をご覧なさい。 そこには、貴殿が今指摘した懸念に対する回答と、過去5年分の監査データが全て記載されています」


塔子は一息もつかずに、早口で、しかし明瞭に捲し立てた。


「さらに言えば、そのデータは先週の委員会で既に配布済みです。 資料を読みもせず、同じ質問を繰り返して時間を浪費することは、国民の血税をドブに捨てる行為と同義ではありませんか?」


「ぐっ……! そ、それは……!」


「私は、建設的な議論には幾らでも付き合います。 ですが、パフォーマンスのための遅延行為に付き合うほど、今の私は暇ではありません」


塔子は眼鏡の奥から、射殺すような視線を放った。


「これ以上の質問がないのであれば、即刻採決に移るべきです。 ……国民のために、一分一秒を惜しんで働くのが、我々政治家の責務でしょう?」


『国民のために』。 その言葉の裏にある真意が『ルルちゃんのために』だとは誰も気づかない。 彼女の圧倒的な正論と、鬼気迫る「早く帰らせろ」オーラに、野党議員はたじろぎ、言葉を失った。


「……ぐ、ぐぬぬ……! 質問を終わります……!」


野党議員がすごすごと着席する。 委員会室が静まり返った。


「……えー、他に質問がなければ、これより採決に移ります」


委員長が震える声で宣言した。 可決。閉会。 時計の針は、17時50分を指していた。


   ◇


「お疲れ様でした、大臣! まさかあの古狸を5分で黙らせるとは!」

「支持率、また上がりますよこれ!」


廊下を早足で歩く塔子の後ろで、秘書官たちが興奮気味に囁く。 しかし、塔子は彼らを無視し、公用車(黒塗りのセンチュリー)に飛び乗った。


「出して。官邸へ戻るわ。……急いで」

「はっ! かしこまりました!」


運転手がアクセルを踏む。 塔子は後部座席のパーティションを閉め、完全に個室空間を作ると、震える手でタブレットを取り出した。 時刻は17時58分。


「……ふぅ。……間に合った……」


イヤホンを装着し、待機画面を開く。 その瞬間、さっきまで国会で野党を屠っていた「氷の魔女」の表情が崩れ落ち、ただの「文学好きのオタク」の顔になった。


『こんこん、ルルだよー。今日は宮沢賢治を読みます』


「ああ……ルル様の声……。 国会の雑音で汚れた耳が、浄化されていく……」


塔子はとろけるような顔で、恍惚のため息を漏らした。 そして、すかさずコメントを打つ。


『フクロウ: 待機しておりましたわ。今夜も素敵な時間を共有できて幸せです』


『admin: (……ニュース速報。「国会、異例の早期閉会」。……フクロウ、貴様か)』

『ミケ: (職権乱用も極まれりだな。……まあ、おかげで静かに視聴できる)』

『リョウタ: 推し活できるのって幸せだよな……(国会を倍速で終わらせる推し活……。正直、スケールが違いすぎて参考にならん)』


ルルは、自分の朗読を聴くために、一国の予算委員会が強引に幕引きされたことなど露知らず。


「じゃあ、読むね。『雨ニモマケズ……』」


その澄んだ声を聴きながら、塔子は車窓の外の夜景を見つめた。 「ええ。野党ニモマケズ、国会ニモマケズ……。 明日も貴方のために、この国を回してみせますわ」

毎日0時に1更新を目指して頑張っています。


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