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第45話 【AIの支配者】ですが、推しが行きたがっていたイベントにブースを出し、CEO自ら「ユーザーヒアリング」を実施した

「……検索履歴データ、照合完了」


アメリカ、シリコンバレー。世界最大IT企業『Nebula Corp』のCEOオフィス。 アレン(admin)は、無数のホログラムディスプレイに囲まれ、冷徹に計算を行っていた。


ターゲットは、日本のエンジニア・小暮譲。 彼のブラウザ履歴には、今週末に開催される『東京デジタル万博』のページが頻繁にアクセスされている。


「彼はこのイベントに参加する確率は99.8%。 ならば、私がそこに存在する『正当な理由』を作ればよい」


アレンは指を鳴らし、秘書AIに指示を出した。


「緊急案件だ。東京デジタル万博にNebula Corpのブースを出展する。 そして、CEOである私が自ら来日し、『お忍び』での視察を行う」


「お忍び、ですか?」

「ああ。CEOの肩書きがあれば、ユーザーは忖度して本音を言わない。 私は『ただの開発スタッフ』として現場に潜入し、彼の生の声を拾う」

「(果たしてそんなことが可能だろうか…?)」


論理的かつ、ストーカー気質な市場調査計画が始動した。


   ◇


週末。東京ビッグサイト。


小暮こぐれ ゆずるは、興奮で胸を高鳴らせていた。 『東京デジタル万博』。最新のガジェットや技術が集まる、エンジニアの祭典だ。


「すごい……! どこを見ても未来だ!」


中でも一際巨大な人だかりができているブースがあった。 『Nebula Corp』。世界を牛耳るITの巨人だ。 小暮は人混みをかき分け、展示されている最新鋭のサーバーラックに見入った。


「美しい配線だ……。でも、ここ、もったいないな」


彼がマニアックな視点でブツブツと呟いていると、隣から流暢な日本語が聞こえた。


「……何がもったいないんだ?」


「えっ?」


振り向くと、そこには長身の外国人が立っていた。 ネクタイを外し、シャツの袖を捲り上げ、IDカードをポケットに隠したラフな格好だ。 周りのスタッフのように忙しなく動いているわけでもなく、ふらりと立っている。


(……この人も休憩中のスタッフかな? それとも海外からのエンジニア?)


小暮は気負わずに答えた。


「あ、いや。素人考えなんですけど……この排熱フィンの角度です。 これだと気流が乱れて、冷却効率が少し落ちる気がして。 僕なら、ここを螺旋状に加工して、空気の抜けを良くするかなって」


小暮は身振り手振りで説明した。 Nebula Corpの製品にケチをつけるなど、社員相手なら失礼極まりない行為だ。 しかし、その外国人は怒るどころか、青い瞳を輝かせた。


「……ほう。螺旋気流(ボルテックス)か。 従来の直線的な冷却よりも、流体力学的に理に適っているな」


「ですよね! そうすればファンの回転数を下げられるから、静音性も上がるし!」


「なるほど。エネルギーロスの削減にも繋がる……。 君、面白い視点だ」


外国人は懐からタブレットを取り出し、猛スピードでメモを取り始めた。


「君の意見、開発チームに伝えておこう。 ……ちなみに、君ならここの配線はどうする?」


「えっ、僕ならですか? うーん、予算はかかるかもしれませんが……ここを光ファイバーに変えて……」


相手が聞き上手なこともあり、小暮はついつい熱くなって語りすぎてしまった。 気づけば15分も話し込んでいた。


「……あ、すみません! 休憩中にお邪魔しちゃって」


「いや、良いデータが取れた。感謝する」


外国人は、ニバリと口角を上げた。 そして、小暮の「タコのある指先」を愛おしそうに一瞥すると、手を差し出した。


「私はアレン。……しがない開発屋だ」


「僕は小暮です。……アレンさん、日本語お上手ですね!」


「好きなインフルエンサーがいてね、しゃべってることを100%理解できるようにするために勉強したんだ」


二人はガッチリと握手を交わした。 「また会おう、小暮」 そう言ってアレンは人混みに消えていった。


「……いい人だったなぁ。やっぱりNebula Corpの現場の人はレベルが高いや」


小暮は満足して、その場を離れた。 その直後だった。


『――それでは、メインステージにて、本日の基調講演を行います!』


会場のアナウンスが響き渡る。


『登壇者は、来日中のNebula Corp 最高経営責任者(CEO)……』


巨大モニターに、デカデカと顔写真が映し出された。 アイスブルーの瞳。冷徹な知性。 それは、さっきまで小暮と笑顔で「排熱フィン」の話をしていた、あの外国人だった。


『――アレン・E・ネビュラ氏です!!』


「…………は?」


小暮の思考が停止した。


「えっ……嘘……あのアレンさん……?」


「しがない開発屋」どころか、この会社の、いや世界のITの頂点に立つ男ではないか。 自分は、あろうことかCEOに向かって「ここの設計がもったいない」などと説教を垂れていたのだ。


「ひぃぃぃぃ!!? ぼ、僕、とんでもないことしちゃったーー!!??」


小暮はその場で頭を抱えてしゃがみ込んだ。 周りの客が「どうしたんだ?」と振り返る中、彼は冷や汗で全身びしょ濡れになっていた。


   ◇


その夜の配信。


「みんな聞いて……僕、今日、寿命が縮んだよ……」


小狐ルルは、げっそりした顔で語り始めた。


「万博でね、気さくな外国人のスタッフさんと仲良くお喋りしたんだけど……。 後で知ったんだけど、その人、Nebula Corpの社長さんだったの!! 僕、社長に向かって『設計が甘い』とか言っちゃったんだよ!? もう終わりだ……絶対ブラックリスト入りだ……」


ルルは恐怖に震えている。 しかし、そのコメント欄は、なぜか温かかった。


『admin: ……心配するな。そのCEOは、君の意見を「非常に合理的だ」と評価しているはずだ』


『ミケ: くくく、傑作だな。あの鉄仮面のアレンCEOに説教するとは』

『ドクター: (……「しがない開発屋」か。アレンめ、随分と人間らしい演技を覚えたものだ)』

『リョウタ: (……小暮くん、気づかずにラスボスと接触して生還したのか。強運すぎるだろ)』


『admin: ルル。権威に屈せず、正しい技術を語れる者が、真のエンジニアだ。胸を張れ』


アレンは、帰りの車内で、ルルとの会話データを反芻しながら、最高級のワインを開けた。 正当な理由と人間関係。 彼は今日、論理的に「推しを恐怖させつつも、技術力で認め合う」という、強烈なインパクトを残すことに成功したのだった。

毎日0時に1更新を目指して頑張っています。


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― 新着の感想 ―
満足してるadmin氏に恐縮ですが……名刺交換など、連絡先を何一つゲットしていないという大きな事実が。がっちり握手という、とてつもないファンサだけで満足しておられるなら構いせんが。また会おう、などと言…
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