82.別れと無敗の魔物
「さて、もういかなきゃね」
昼食の空容器を片付け、僕達は泉の水を汲んで立ち上がる。
「お別れ、です?」
「別れはいつも突然に?」
「またあえる日まで涙ちょちょぎれ?」
「僕達涙でねーです、出るのは樹液だけ」
ドライアドたちは別れを惜しんでくれているようで、みんなして僕達にくっついてきてくれる。
なんだかんだかわいくてついつい別れたくなくなってしまう、そんな子達だった。
「すぐにまたあえますよ、私達はいつでも迷宮にいるのですから」
「そうだよー! 待っててね、今度はすんごい美味しい水を持ってくるから!」
「だからってあんた、水に呪いとかかけんじゃないわよ?」
「えっ!? 何で分かったの!?」
ドライアドさん逃げて、超逃げて。
「いろいろお世話になりましたー!」
「また来てー、歓迎するー!」
「でも早めに来ないと僕達顔忘れるですー」
そんな見送りの言葉を送ってくれるドライアドたちに別れを告げて、僕達はまた殺伐としたジャングルへと戻っていく。
色々なことがあったが、こうして僕達は東のドライアドの群生地を抜け、次なる目的地へと向かうのであった。
「で、次はどこに行く予定なの? サリア」
今日の行動範囲は完全にサリア任せになってしまっているが、サリアは勿論考えていましたといわんばかりに胸をはり。
「次は北に向かいます」
「北ねぇ、まぁ確かにここからなら近いけど……何か理由でもあるのかしら?」
「ええ、南には王獣が、西にはもっと厄介なものがありますから、あの二つは一日を費やさなければ地図は完成しません。 それと、階段は北にあるので、先に階段の場所をマッピングしてしまったほうが後々楽になると考えました」
「なるほどねぇ、文句はないわ、流石はサリアね」
「おぉ、珍しくティズチンがサリアちゃんを褒めたねぇ、今日は雨かな?」
「何よ! 私だって素直に人のこと褒めるんだから! 霧くらいにしときなさい!」
一応自覚はあるのか。
「ふふ、ありがとうございますティズ。 では、先に進みましょうか」
何となくだが、僕達四人の絆が強まったような感じがして、僕は微笑み、迷宮二階層北を目指して進む。
「しかし、何度も思うけどすごい場所よねここ」
またも木々の蔦やつるを掻き分けながら迷宮を進む羽目になる僕達は、ドライアドの群生地を懐かしみながら歩きにくい道なき道を進んでいく。
道を切り開くのに剣は長すぎであり、ウインドウカッターでは魔力の効率が悪く、迷宮を進むスピードはそれだけでもタイムロスになってしまう。
「こんなことなら、クリハバタイ商店でサバイバルナイフでも頼んでおけばよかったわね」
ティズは少し不満げにそんなことをいい、僕達はそれに頷きながら北へと向かう。
「斧でもあれば、僕が全部切り倒していくんだけど」
樹齢何年かはわからないが、この木々たちを切り倒すのはそこまで至難の業ではなさそうだな……絡み合って大きくは見えるが、やはりまだ出来て十年ほどの木々ばかりでどれもこれも幹が細い……角度も捻じ曲がっているので倒れる方向もわかりやすいし、何よりもどれもこれも幹が柔らかいモルトーフの木だ。
一本を切り倒すのに10分は掛からないだろう。
そうなれば、大体2ヶ月もあればこの鬱蒼としたジャングルもきちんと整理された綺麗な森に……。
いけない、ついきこりだったころの癖が……。
「斧ですか……購入を検討するのも良いかも知れませんね」
「そんなことしなくたって……リリムでもつれてきて獣化してもらえばいいのよ……きっと全部一発でへし折って行ってくれるわ」
ティズは割りと失礼なことを言っているが、この前のエルフ達へのでこぴんを思い出し、木々をなぎ倒していくリリムさんが容易に想像でできてしまった。
だけどなぎ倒すのでは美しさが足りないよ、といおうとして誰も理解できないことに気が付いてその言葉は飲み込む。
「さて、お話もそこまでにして、そろそろ目的地に到着します」
サリアはそう僕達に警戒を促し、迷宮北へと僕達が到達したことを告げる。
迷宮北、サリアが足を一度止めた場所の目の前には一枚の扉があり、同時にその扉がいような雰囲気をかもし出していることに僕達は気が付く。
思えば、この迷宮二階層に着てから僕達は一度も扉というものを見ていない。
吹き抜けの壁であるために、扉が意味を成さないというのもあるのだろうが、とりあえずこの階には扉というものがないのだと認識をしていた。
しかしそれは違ったようで、目の前に鎮座する扉はその勘違いを訂正してくれる。
「ここを抜ければ階段があります」
「あら、随分あっさりと階段までたどり着けるのね」
「ええ、距離としてはそこまで長くはないです。 しかし、この先には階段を守る
者が控えてます」
「ザ・ボスって奴だね」
「ええ」
「でも、あんたならどうせ一太刀で斬り伏せて終わりでしょう?」
「いいえ」
一度、サリアはそうティズの言葉を否定し。
「この先の魔物を、倒したものは今まで一人もいません」
そう、サリアは言葉を続けたのだった。




