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79. ドライアドの道案内

木々がミシミシと音を立てて顔を動かし、くぼみを伸縮させて声を出す。


その言葉によってまるで思い出したかのように、そのほかの等間隔に並んでいたと木々たちも動き出し、僕たちに迫るように全員が同じように体をきしませるような音を立てて僕たちのもとへとやってくる。


「こ、これがドライアド」


「ええ、彼らは普段は木とおなじように地面に根を張って静かに暮らすのですが、こうして人が訪れたときだけは地面から足を離してコミュニケーションを図ってくるんです」


「なんか全員でのそのそ迫ってきてるんですけど!? これ襲われたりしない? お前も仲間に~とか言われて私もドライアドの仲間にならない大丈夫?」


「大丈夫ですよティズ、妖精がドライアドになった例はいままで確認されていない筈です」


「そこが知りたいんじゃないわよ脳筋エルフ!? 襲われるか襲われないかを聞いてるのよ」


「あぁ、それならなお大丈夫ですよ、彼らは動かない割には好奇心旺盛な生き物ですからね、こうして外の世界からのお客が来てしまうと、全員が話を聞きたくて集まってしまうのです」


「そーなんだー! はーい、節くれだったお友達―! 私アークメイジのシオンっていうの! 特技はー……えんっ……いろんな魔法が使えることだよー!」


こういう時に人見知りをせずに突っ込んでいけるシオンはすごいと思う。


しかし僕も文献で読んだことがあるが、ドライアドは生息地の問題で人間と関わり合いになることが少ないため、意外と人懐っこい性格だと書いてあったはず。


「シオン……まほうつかい?」


「そうそう! アークメーイジ! すごい! かっこいい!」


「かっこいい、 シオン!」


「イエースイエース!」

なんだかシオンがすごく楽しそうであり、調子にのった彼女は、シオンのシオンによるシオンのためのドライアドリルガルム語講座が開始する。


「シオン最強!」


「シオンさいきょー!」

シオンはドライアドたちが自分の言葉を素直に復唱するのをいいことに自分を褒めたたえさせては喜んでいる。


シオンよ、それでいいのか?


「さて、シオン、仲良くなったのであるならば彼女たちに私たちの目的を伝えてください」


サリアはそんなシオンを生暖かい目で見つめながらそう言葉を漏らし、

シオンはうなずいてドライアドたちに僕たちがここにきた理由と、迷宮の地図作りのために奥に進みたいということをかみ砕いてドライアドたちに説明してくれる。


「私たち、 迷宮の地図、作りたい! オーケー?」


「迷宮、ちず?」


「ちずとは何か?」


「伸びる乳製品?」


「それチーズかと」


「きいたこと、ある、地図とは、己の居場所を知るためのもの」


「おー、夢のアイテム」


「家庭で居場所を失ったおとーさん、これあれば居場所見つける?」


「四十代のお父さんには奇跡の一品」


「その立役者になれるです?」


「せいきのしゅんかん!」


ドライアドたちは少し勘違いを交えつつも互いに騒ぎあい、どうするかの相談をしている。


どちらかと言えば、賛同してくれる方向で話が進んでいるので何も茶々を入れずに聞いていると。


「相談の結果、手伝いすることになる かと!」


ドライアドたちは全員が可愛らしく手を挙げて宣誓をしてくれた。


「では、森の案内を頼めますか?」


「かしこまる!」


一人のドライアドが集団の中から躍り出る。


他のドライアドたちよりも一回り大きく、その頭には花が咲いている。


「ついてくる!」


案内役のドライアドはそう手を振ると、先頭を切ってテコテコと歩き出す。 


「随分と子供っぽい魔物なのね、ドライアドって」


「いいえ、彼女たちはまだ苗木です。 考えてもみてください、この迷宮は生まれて十年しかたってないのですよ? エルダークラスのドライアドが生まれるわけがありません。

また、ドライアドは森に恩恵をもたらす存在であり、生まれながらにして森の恩恵を受けて生きる魔物たちと共生関係となっているため、襲われることもなければ魔物でドライアドに近づこうとする者もいません……つまりは最初にドライアドと打ち解けることに成功してしまえば迷宮のどこよりも安全な場所であります、だからこそ最初の地図作りに選んだのですよ」


サリアはそう誇らしげに語り、ティズはそりゃ助かるわなんて苦笑を漏らしてふよふよと元気よく森を歩いていくドライアドについていく。


「わー!」


「四十代のお父さんのために―」


その後ろを、ドライアドたちがひょこひょこと僕たちの後ろをついて歩く。


なんだか託児所の先生になった気分だ。


そんな感想を抱きながら、安全な旅と可愛らしいドライアドの苗木たちとの会話に交じり、僕たちは迷宮ニ階層の地図作りにいそしむのであった。


                

                   ◇


「ここを行くと、泉ある」


「ほほう、きれいな泉ですね……湧き水のようですが、一体どうやって迷宮から湧き水が?」


「わからぬ。 迷宮の神秘?」


「どこかに水を生み出す魔法陣あると聞いた」


「なるほどねぇ、この森維持すんのに、アンドリューもいろいろ手間暇かけてるってわけね、ご苦労なこってってやつね」


ティズは感心しながらそういうと、湧き水ありと地図に書き込んでいく。


「次はこっち」


ドライアドたちは楽しそうに僕たちの腕を引きながら、森の中をかけていく。


普段ならば木々に邪魔をされて歩きづらくなるはずだというのに、なぜだか僕たちの進む道には木々がなく、木の根に足を取られることも、木の幹をよけることもなく、僕たちはドライアドたちに先導され最適化されたルートで東のドライアドの群生地を案内されていく。


「なんか、木がよけて言ってくれてるみたいだね」


「ほんとほんと!」


「実際によけていますよ?」


「え?」


「ドライアドっていうのは、森全体を操る魔法を持っているのよ、空間魔法なんだか結界魔法なんだか知らないけど、この森において、この世界はドライアドたちの都合のいいように形成されなおす……だから、この子たちを怒らせるとどんな強い魔物だろうが冒険者だろうが一発でお陀仏になるわ。 自然とタイマンはるようなものだからね」


「詳しいですね、ティズ」


「あのね筋肉エルフ、私これでも妖精なんだけど」


「これは失礼しました、流石はティズですね」


サリアはティズに謝罪をすると、ティズは調子にのったのかない胸を張る。


「ついたー!」


そんなティズのまな板を見ていると、泉から離れたところにある小さな広場のようなところに僕たちは躍り出る。


そこは村があるわけでも敵がいるわけでもなく、ドライアドたちがたむろしているだけだ。


「これは何?」


「ここは迷宮の交換所、お得なアイテム交換します!」


元気よく一回り大きいドライアドがそういい、ドライアドたちは首を縦に振る。


「へぇ、ドライアドもこうして人間と交流をしいるわけですね……」


「あんたたちは何をくれるのよ?」


「上質な、土! そして苗木!」


「いらないわよ」


「いらないねぇ」


ほしい。


「それと、この森でとれる果実を!」


「甘くてジューシー!」


「おぉ、いいわね」


「あとはあとは……」


「大切なもの忘れてる……です!」


「そーだったそーだった!」


「交渉次第では、このフロアでたまに生える、トネリコの木を交換する所存」


「とってもきちょーなので、交換は慎重にする、です!」


「でも、あまりに慎重で、在庫過多いなめねーです」


「トネリコの木!」


シオンがその言葉に反応をする。


確かトネリコの木と言えば、魔法の杖を作るにあたって最高の素材と言われている物であり、一本あれば家が建つといわれているような代物だ。


魔法使いのシオンにとってみればのどから手が出るほどほしい代物であろう。


「ドライアドのくせに交易だなんて生意気ね……あんたたちものなんて交換する必要ないでしょうに……金貨でも渡せばいいの?」


「金貨……重くてカチカチ、ものたりなさある」


「生意気ね……じゃあ何がいいのよ」


「ドライアド水好む。 きれいで澄んだ太陽の光をたっぷり浴びた軟水求む」


「ミネラル多め」


「この地下迷宮でどうやって本物の太陽の光を浴びた水を出せっていうのよ……」


「まぁ、おそらくは誰にも売る気はないってことなんじゃない? 貴重な物みたいだし」


「なるほどね……まったく、子供は話が分かりにくいから困るのよねぇ」


ティズはため息をつきながらひらりと宙でUターンをして僕の頭の上に座る。


「しかし、ほかの商品は水でなくても交換できるみたいだし、迷宮の果実はなかなかいいんじゃない? ほら、魔物の素材とかも交換できるんだって!」


一応文字は書けるようで、たむろしているドライアドの横に必要なものと交換する品物の重さの表が出ている……。


「まぁそういうことにしておきましょうか」


ティズはそういうと、迷宮の地図に『交換所・お買い得品あり』と印をつけていく。


……先ほどの泉のメッセージと相まって、なんだか観光案内マップみたいだ。


                   



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