60.サリア視点・天剣~御桜~とサリアの刀
いろいろな事情がございまして、最新話、ファイアドラゴンとアルフは第五十八部分、プロローグ最後に収録させていただき、今までのアルフとダンデライオン一座の話をプロローグとして一つにまとめました。
ご迷惑をおかけして申し訳ございません。 ここより先はまたウイルを主役とした、王都襲撃編が再開されますので、これからもよろしくお願いします。
「な、なんか話し終わると急に恥ずかしくなってきました」
「ええ、聞いているこちらも一緒に赤面してしまいました。 リリムは恥ずかしい人なんですね」
「はわわっ!」
「冗談ですよ」
「やめてくださいよ~。というか、サリアさんのことを知らないといけないのに何で私自分のことばっかりしゃべってるんですか!?」
「それは私が思考誘導をしたからです……魔剣制作の儀式は体力を相当必要とするみたいですからね、軽いインターバルをいただきました」
「ぎしき? まぁいいや、じゃあとりあえず、質問を再開しますよ」
「ええ、休息も十分とれました、任せてください」
私はそう意気込み、魔剣制作の儀式を再開させる。
「サリアさんの戦い方ってまだ見たことがないんですけど、腰の剣を少し見せてもらってもいいですか?」
「ええ」
そうリリムに言われ、私は腰の両断の剣を手渡す。
「ふむふむ……刃こぼれもなくてきれいに研がれているけど、剣先が少し細くなってきている……サムライの剣術を?」
「剣を見ただけでよくわかりますね」
「戦士の戦い方は基本的に突き刺したり、叩くいたりするのが基本になる、本当に力に任せた戦い方が多いので、研いでも剣にダメージが残ったりするんですが、この剣はとてもきれいで、それでいてしっかりと切っ先、一番敵を切っている部分のみが摩耗してる。
そんな洗練された斬るためだけの剣技は、東の国のサムライの戦い方くらいしか知らないので」
「その通りですリリム。 私は魔法が使えないためサムライになることはできませんが、その剣技は師からしっかりと受け継ぎました」
「へぇ……それで、魔法が使えないから聖騎士に?」
「ええ、戦士のままでは体力は強靭になりますがスキル習得や防御面で不安が残る。
それに、ナイトオブラウンドテーブルは聖騎士しか装備できませんでしたからね」
「ん? ナイトオブラウンドテーブル?」
「あれ? リリムは知らないのですか? 天剣~御桜~を知っているからてっきり知っている物とばかり」
「いや、ナイトオブラウンドテーブルは知っているんですけど……その、まさかサリアさんが」
「あぁ、そういえばもう知っている人は少ないのですね、私は西の国ブーラの迷宮の攻略者なのです。 そしてそこに眠っていたナイトオブラウンドテーブルに選ばれた、というか力づくでねじ伏せたというか、とりあえずややあって円卓の騎士となったのです」
「ブ……ブーラの迷宮って、リルガルムの迷宮を除けば最高難易度の迷宮って言われてるところじゃないですか。 魔物の数がすごくて、一階層からコボルトキングやオークロードが出てくるって」
「その通りですね、その代わり迷宮に罠が少ないので、魔法の使えない私でも攻略ができました」
「いやいやいやいや……その理屈はおかしいですって、え、でもそんなすごい装備を持っていて、なんで迷宮一階層で死んでいたんですか?」
「ええ、アンドリューとの一騎打ちで敗北をしてしまい、あと一歩のところで慢心し、一階層に飛ばされると同時に殺害されたのです」
「アンドリューと、一騎打ち???」
なにやらリリムの表情がどんどんと蒼白になっていく。
私の恥ずかしい過去にほとほとあきれしてしまっているのだろう……ちょっとショックだがこれも当然か、すべては愚かな過去の私の慢心が生んだこと、マスターのように受け入れなくては。
「さ、サリアさん……」
「なんですか? リリム」
「あの……私、魔剣打つの辞退してもいいですか」
軽蔑までされてしまった!
「確かに、あの時の私は愚かでした! しかしリリム! 私はマスターと出会ってコンプレックスを克服しました! あの時の弱さはもうないのです! あの時よりも心も肉体も主を得たことによってより強靭になっています! ですからお願いします!」
「いやいや! さらに強くなってるなら余計に辞退させてください!」
「なぜだ!? リリムはそんなに私のことが嫌いになってしまったのですか!?」
「好きとか嫌いとかいう問題じゃなくて無理無理! 無理なんです!」
「せ、生理的に私は無理と!」
あ、ちょっと泣きそう……そこまではまだマスターみたいに受け止めきれない。
「なんでそうなるんですかサリアさん!」
いやしかし負けるなサリア、頑張れサリア! ここでくじけてはマスターをお守りすることなんてできるわけがない
マスターならどうするか、考えるのだ……。
「わかりました、リリムは過去の弱い私では、剣を得るに相応しくないというのですね」
「いやいや、過去の話に恐れをなして逃げ出したいんですよ私は」
「ならば新しく強くなった私を理解してもらうまで、とことんお付き合いしてもらいましょう!」
「話聞いてないし!? 余計強くなってるならなおさら嫌ですよ!」
リリムが何か私を否定する言葉をこぼしているがそんなものは気にしている暇はない!
当然だ、己の大切な人がこんな腑抜けに守られていると知って平静でいられる人間がいるわけがない! だからこそ私は全霊をもって信頼を勝ち取らなければならないのだ!
そう、今の私は 必死 というやつなのだ!
「迷宮十階層で!」
「ダメだ、完全に何かのスイッチ入っちゃってるよこの人―!?」
「アンドリューとの戦いで敗れた原因は、天剣~御桜~が私の戦いに合わなかったのが原因だったんです! だから、剣技で相手を圧倒しきれなかった! ナイトオブラウンドテーブルの持つ、魔法に頼り切った私の魔法への幻想が私を敗北させたのです!」
「……え?」
「私は自分を信じ切れなかった……合わない剣を使用し、本来使えもしない魔法に頼り借り物の力に慢心して敗北しました……自分が嫌いだったから、自分の過去におびえていたから、だが今は違います。 今まで培ってきた努力や苦労こそ私の力だ、そんな私のほうがマスターは好いてくれるし信じてくれるといった! だからこそ、私はこれから本当の自分の力でマスターを剣一本で守っていくのです。 でも、今の剣ではそれはできない! だからリリムお願いです、私に折れず曲がらぬ 刀 を打ってください! お願いします!」
「…………え? ちょっと待ってくださいサリアさん。 今なんとおっしゃいました?」
一瞬空気が凍る。
いきなり丁寧口調になったリリムもそうだが、先ほどまで無理無理と半泣き状態で私を拒絶していた子犬が、大古狼フェンリルのごとき覇気を放ちながらこちらへと振り返る。
少々やりすぎたか……その威圧に気おされながら私は恐る恐る言葉を選ぶ。
「ええとですね……刀を」
「そっちじゃないです。 その前、最初のほう!」
「合わない剣を使っていた……?」
「そうそれ! 確かに気づくべきでした。 サリアさんはサムライの剣技を使用すると自分で言っておきながら、両断の剣も天剣~御桜~も直剣だ。 あぁもう、そんなのでサムライの力が百パーセント出せるわけない! サリアさんどうして刀を使わなかったんですか!」
先ほどまで逃げていたウサギが、アタックドッグとなって私に襲い掛かる。
その迫力に押され、私はあっという間に壁際に追い詰められてしまう。
「えと、リリム」
「なんで!」
「えと、その……迷宮で刀は出てこないし、刀鍛冶がいなかった……から?」
「信じられない!? 誰もサリアさんに刀鍛冶を紹介しなかったんですか!?」
「それでも十分戦えていたので」
「ひどい話です!」
怒りの感情はどうやら私に向いていないようで少し安堵するが、リリムは何やら不機嫌そう耳をぴくぴくさせながら何かを探し始める。
「あの、何を」
「剣とは戦士だろうがサムライだろうが忍者だろうがヴァルキリーだろうが自らにあったものを選ばなければ戦力は半減します! 命の危機にもかかわるんです! だから刀鍛冶っていうのは、その戦士に一番見合った剣を作り上げるのが仕事なんです! だから、自分に合った剣を使ったことがないなんていう人は見過ごせないです! 俄然燃えてきたんです!」
「ほ、本当ですかリリム」
「ええ! 違う世界を見せてあげますよ! もう剣なんて何を使っても戦えるなんて言わせません!」
「そんなことは言っていないけどありがとうございます! リリム」
「いいえ、これは鍛冶師になった私の意地です! 居合に不向きな剣を持ったサムライがいていいわけがないです! いまサリアさんの寸法測りますから! ちょっと待っててください!」
「寸法? 剣を作るのになぜ寸法を?」
「居合は刀を抜き敵を切る技でしょう!? 刀の長さが長ければ刀は抜けないし、短ければ十分な鞘走りができなくて速度が落ちてしまいます! だからこそ最適な長さを身長と腕の長さから割り出すんです!」
「か、刀一振りを作るのにそこまでするんですか?」
「当たり前です! 刀をなめないでください!」
「ご、ごめんなさい!」
あまりの迫力に私は身を縮めて謝ってしまう。
なるほど、リリムがあれだけの剣を打てるはずだ……その姿は一切の妥協を許すことのない職人のまさにそれであり、先ほどまでの私を拒絶していた姿はどこへやら、私の体のサイズを事細かに測り始める。
ただ会話をして、終わりかと思っていたが、これは長引きそうだ。
そんなことを考えながらも私はリリムの指示に従い、寸法を測ってもらう。
あるのは良い刀が出来上がるという確信と、分かったことはリリムが怒ると怖いという二つ。
まぁ、一時はどうなることかと思ったが、魔剣の製作は叶いそうであり私は一つ胸をなでおろしたのだった。




