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45. 怖い話

暗闇の道。


迷宮の終わりと書かれた立て看板を無視し、僕達は暗闇の道へと足を踏み入れる。

暗闇の魔法のせいで、サリアのサンライトは効果を失ってしまっているため、僕達は手探りで暗闇の道を進んでいる。


「何も見えない、みんな、ちゃんといる?」


「おーけーだよー」


「大丈夫よ」


「大丈夫です」

声を掛け合い僕達は全員がいることを確認しあう。

この暗闇の道を攻略するに当たって重要になるのは、お互いはぐれないように手を握り合い、こうして声を掛け合うこと。

端から見れば異様な光景かもしれないが、暗闇の道はもともとパーティーを分断するための罠のようなものであり、恐らく手を離したら誰か一人は確実にはぐれてしまうだろう。

その為こうして声を掛け合いながら手を離さずに暗闇の道を抜けることは、迷宮攻略者の常識となっている。 


襲われたらどうするんだと疑問に思う人間もよくいるのだが、この暗闇の道の効果は魔物にも有効であり、魔物に対しては視覚聴覚嗅覚全てが遮断されてしまう。その為敵がいたとしても敵も同じようにこちらの姿は認識できないため、安全といえば安全なのでこうやって大声で会話もできている。 手を離さない限りは安心な場所なのだが、いかんせん面倒くさく宝があったとしても見つけることはできないので誰も近寄ろうとしない場所なのだ。  というか、アンドリューはどうしてこんな魔物にも不利になるようなトラップを作ったのだろうか甚だ疑問である。


「あいたっ」

そんな疑問を抱いていると、ごんっと音がして、サリアの7度目の可愛らしい声が響く。


暗闇のため先頭にいる人間はどうしても壁に衝突してしまう。


サリアが自分から買って出てくれたわけなのだが、痛そうな声が響くたびに申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまう。 


今度からは僕が代わろう。このままじゃサリアがたんこぶだらけになってしまう。


「ううぅティズ……先程から随分と迷宮を歩いていますが……本当にこんな暗闇で地図が作れているのですか?」


はじめはメイズイーターで暗闇の道の周りの壁をすべて破壊することで、そこから暗闇の道の地図を作成することを計画していたのだが、ティズの任せなさいという一言で、僕達はこうやって暗闇の道の中を手探りで歩いている。


「安心しなさいって! 私とシオンだってただ二日酔いで倒れてたわけじゃないんだから」


「そうなのだー」


「ああ、マスター不在の間何か二人でやっていると思ったら……それで、何を開発したんですか?」


「その名も、オートマッピングー!」

「てれれれってれー」

暗闇で見ることはできないが、きっとティズは地図をかざし、シオンが大声でファンファーレを口ずさんだのだろう。


本当にこの二人は仲がいいな。


「オートマッピング?」


「ええ、シオンに頼んでこの羊皮紙に座標を示す魔法に、その座標に色つける魔法をかけてもらったの。 迷宮の大まかな地図が出来てるのと、迷宮がブロック構造だってわかって初めて出来る芸当なんだけどね」


「ほう? それはつまり?」


「単純な話、歩いたマスに色が塗られていく。そして私の地図は今まで完璧だったから外に出るとあらふしぎ、完璧な地図が完成してるって寸法よ、あとはこの地図を複製してクリハバタイ商店に売り込めば! 一財産の出来上がりー」


テンションの高いティズであったが、果たして一階層の地図など需要があるのだろうかという疑問も当然のようにあったが、それでもティズとシオンの努力の結晶が確かならば、これからかなり重宝することになるだろう。


なぜならこの迷宮で、地図なんてものは今まで存在しなかったのだから。


「しかし、地味な作業だな」

とは言ったものの、それにいたるまでの作業はどうしても地味なものになってしまうのは仕方のないことで、僕達は仕方なく一ブロック一ブロックを踏破しながら地図を完成させていく。


暗闇とは人が最初に体験する恐怖であり、人である限り逃れることはできない恐怖でもある。 きこりだったころ父親に森の中で教わったことだ。


闇とは人を狂わせ、臆病にし、絶望させるのにもっとも適した場所であり、現在そんな場所に僕達はいる。


知らず知らずのうちに、人が闇を敵として扱ってしまい、光を味方と捉えるのも、そんな恐ろしいものから少しでも目をそらしたいと願うからなのだろう。


「いま、何か聞こえなかった?」


「怖いこといわないでよーティズチン」


「聞こえるわけがありませんよ、ここは暗闇の道です……そうですとも聞こえるわけがない」


例え何も無いと分かっていても、その一歩先にあるかもしれない何かに、僕達はひたすらに怯えてしまう。


それが闇であり、逃れられない恐怖でもある。 


人は鍛えればつよくなる。自信も尽くし弱点も克服できる。


しかし、人は生まれながらにして、闇を克服することは永遠にできない。


なぜなら、僕達は光の中でしか生きられない生き物なのだから。


「そういえば」


しかし、そんな中でもやはり人間の好奇心とは面白いもので、恐怖の対象に自ら足を踏み入れることも娯楽の一つとしてしまっている。


「こんな話知ってる?」


それが怪談だ。


暇になったのか、シオンは芝居がかった口ぶりに声をわざとらしく震わせながら、この暗闇内で声だけを響かせる。


迷宮内だというのに、冷たい風が頬を撫でたような気がした。


「迷宮の袖引きっていうんだけど、この暗闇の道でね、レベルの低い冒険者の行方不明事件が多発しているんだって。 どれも決まって一階層の暗闇の道……その被害に有った冒険者の話なんだけどねその冒険者たちのパーティーがこの暗闇の道を歩いていたとき、ちょうど私達みたいに六人で手を繋ぎながらあるいてたときにね、うっかり、一人がつまずいて全員が手を離しちゃったんだって。 慌てて全員で手を繋いで一人ひとり確認をしたんだけど……そのときは全員声がそろってて、全員しっかりと手を握ってた。 その後すぐに全員で暗闇の道から外に出たんだけど……そこには五人しかいなくて、五番目の子の手には……六人目の子の手首だけが握られてたんだって」


「きゃああああああああ!?」


 瞬間、一人の女性の叫び声と共に僕達は暗闇の道に投げ出される。


その声の主がサリアだと分かったときには、僕は暗闇の道の壁へと衝突をしていた。


意外にもサリアが怖い話が苦手だというのは驚きであり、女の子らしい所をもう一つ発見できたことは嬉しいのだが、もう少し別の場所でその秘密は知りたかった。


後でシオンにきつく言っておこう。


                    ◇



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