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42.アルフと死霊騎士

さて、ということで地図作りの為に迷宮にもぐるかと思われた僕達であったが。


「ごめ、もう少し……お昼までまって」


「あー、だめだめ……動かしちゃダメ……頭……頭割れる」


先程の騒ぎで忘れていただけで、二日酔いは思ったよりも重症だったらしく、ティズとシオンはだらしなくソファーの上に寝転がってあえいでいる。


「……どうしましょうか、マスター」


「しょうがない……晩御飯とかの買出しを先に済ませちゃうから、サリアは二人の看病お願い」


「わかりました。 お気をつけて」


とりあえずお昼までには回復をしておくという約束をして、僕はサリアに二人を任せて外に出る。


冒険者の道へと続く住宅街前は、冒険に向かう冒険者が迷宮に向かう準備にいそしんでいる真っ最中であり、剣を研ぐ音や防具を叩いて強度を確認する音が響き渡っている。


この時間帯には僕はもう迷宮に入ってしまっていたためにこの時間帯の活気を見ることはなかったが、獣人の盗賊やエルフの魔法使いなどが、他愛もない会話をしながら迷宮探索の作戦を立てている声がそこらかしこから聞こえてくる。


「あれ、ウイルじゃねえか? 今日は仕事は休みなんか?」


軽装であるいていると不意に背後から声をかけられる。 振り返ってみるとそこには熊さんがいた。


「アルフ、今日も元気そうだね」


「おうともさ、話は聞いてるぜウイル、何でも偉いべっぴんさんを家に連れ込んでるみてぇじゃねえか。 若い子は隅に置けねえなあまったく」


サリアとシオンのことだろうと僕はすぐに理解をして、苦笑を漏らす。


「そんなんじゃないよアルフ、あの二人は僕の大切な仲間だ」


「そりゃ失敬、で、その仲間は今何してんだ?」


「あー、昨日飲みすぎてティズと一緒に潰れてる」


「はっはっは! 楽しそうで結構結構! っちゅーことはティズの奴がまた金切り声を上げられるようになるまでに買出しを済ませちまおうってところか」


「そういうこと、珍しいことでもないからね」


苦笑を漏らしながら僕はそういうと、アルフは顎鬚をさすりながら愉快そうに笑う。


「楽しそうで何よりだ、い~い仲間を持った見てえで安心したよ……風の噂でお前さんが新しい仲間を見つけたって話を聞いたからな……心配で様子を見に来たんだが、おっさんの取り越し苦労って奴だったみてえだな」


「分かるの?」


見たわけでも彼女達のことを話したわけでもないのに。


「分かるさ、お前さんがやけに嬉しそうな顔をしてるからな……お前さんは正直者だ、嬉しいときも悲しいときも顔を見れば一発で分かる」


「単純っていわれてる気がする」


「いんや、それは美徳だ。 迷宮にもぐるもんはみーんな心のどこかに重いもんやきたねーもんを背負っちまう。 そんな中でお前みたいな正直で真っ直ぐで輝いているもんってのはな、どうしても目立つし……俺みたいに大切にしたいって思う奴もいりゃ、同じように汚してやりてーって思う奴もいる……だからそれでちょいと心配になっちまったんだよ。 聞いたところ二人とも熟練冒険者みたいだったからな」


なんだかんだ心配でアルフは僕の様子を見に来てくれていたらしい……本当に気の優しいドワーフで、頼りになる叔父さんという感じだ……。どことなく父親というものを感じてしまう。


「いつもありがとうアルフ」


「なぁに、俺が好きでやってることさ。 まぁ、聞いた話じゃ結構無茶してるって噂だから心配っちゃ心配だったんだが……元気そうで何よりだ……随分と体つきも……」


「レベル4になったよ!」


「レベル4……道理でたくましく……レベル4!?」


アルフは目を見開いて驚いたように後ろに飛びのく。


「レベル4ってお前、確かこの前までレベル1だったよな?」


「コボルトキングに、マリオネッターを倒してオーガも倒したからね……おかげさまで」

「おま……七階層に四階層のモンスターじゃねーか……なんでそんな奴らと」


「なんかたまたま出くわしちゃって……一階層にしか行ってないんだけどね……なんとか仲間の二人にフォローしてもらって、生き延びてるよ」


本当、よく毎度毎度僕は生きて帰ってこれてるよなぁ……。


改めてサリアとシオンの存在の大きさに気付かされる。

僕だけだったら死ぬだけじゃすまなかっただろう。


「まぁ、大きな怪我もないようだしいい仲間を持ったみてえだな本当に……だからって、あんまり調子に乗るんじゃねえぞ?」


「分かってるよ」


「大切であればあるほど……失ったときに……いや、なんでもない。 今はまだ話すときじゃあねえな……また今度話そう」


「アルフ?」


僕の姿を見るアルフの表情は、どこか寂しげで悲しげで……何かと僕を重ねている……そんな感じがした。


きっと僕にはいつも教えてくれない昔の話のことなのだろう。


昔話をするとき、アルフは決まってこんな顔をする。


だから僕はいつも、そういう時はアルフの名前を呼んで、別の話を切り出すのだ。


「そういえば、アルフは最近見なかったけど何していたの?」


いつもどおり、アルフは一度はっとした表情をして、いつものような元気な笑顔を取り戻して話を再開させるのだった。


「俺は少し町から離れてクエストを受注していたんだ」


「クエスト?」


「おう、軽い人探しでな、なんかしらねえか?」


「これは……」


「死霊騎士に攫われたっつー女の子の写真だ……手詰まりになったから一旦戻ってきたんだが……て、どうした? おいウイル」


心臓が跳ねる。


アルフの手と父親の手が重なり、同時に森の中の光景がフラッシュバックをする。


女の子の写真など、見ている余裕などない……そこにあるのは森の中の血溜りのみ。


お父さんはどこに言ったのか、村の人たちは最初教えてくれなかった。


僕はずっとお父さんを待ち続けて……待ち続けて待ち続けて……そして初めて死を知った。


「死霊……騎士」


「何か知ってるのか?」


「……父さんは、死霊騎士に殺された」


「なに?」


「昔の話だけど……行方不明になった女の子を助けに行って、帰ってこなかった」


「……」


アルフは少し険しい表情をした後、そうかとだけ呟く。


偶然か、それとも何かの暗示か、目の前にあの時と同じ状況が舞い込んできている。


「アルフ」


「大丈夫だ……ウイル」


「え?」


僕の意図したことを読み取ったのか、アルフは僕の肩を叩く。


「俺が依頼されたのはこの死霊騎士の討伐なんて恐ろしいもんじゃなくて、この女の子の身元の調査だ……それに、古い童話からあるだろう……~アンデッドナイトは子どもを攫う、死霊騎士達足並みそろえ、子どもの家の門戸を叩く~って……似たような事件なだけさ……。 お前さんの父親は関係ない」


「……うん、でも」


「いざとなったらお前を呼ぶさ、それで助けてくれるんだろ? ウイル」


「うん……任せて。 アルフは僕の友達だもん」


「そりゃ嬉しいねぇ……」


小ばかにするようにアルフはそう苦笑を漏らし、僕はその言葉に力強くうなずく。


「じゃあな、サボりもこれぐらいにしとかんと、クライアントに叱られる……お前さんも

急がないとティズの奴がまたキーキー始まるぞ」


僕が元気になったのを確認して安心したのか、アルフは斧を背負いなおしてきた道を引き返していく。


写真の女の子の顔は良く見ることができなかったが……きっとアルフのことだうまくやってひょっこり帰ってくるのだろう。


世話焼きな優しいドワーフに対して僕は一つ笑みを浮かべて、冒険者の道の先にある商店街へと足を運ぶ。


今度アルフの大好きなジャガイモと海老のグラタンを作ってみよう。


そんなことを考えながら。


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