窮鼠
【ぐっ、この!?】
吹き飛ばされ、四肢を吹き飛ばされた核は、腕を再生させて体勢を立て直そうとするが。
「悪いが、さっさと決めさせてもらうぞ!」
喰らいつくように跳躍したルーシーの剣閃がマンデースレイヤーの核を捉え、切り刻む。
【っ!!】
大砲の様に飛び込んでくるルーシーに、核は慌てて召喚魔法による退避を試みる。
しかし。
「俺の眼からは逃れられんぞ」
ロバートにより放たれた斬撃により召喚陣は破壊され。
【っ!!!!!!】
なすすべもなく、核はルーシーの一撃をその身に受けることとなる。
「状況は優勢のようですね」
そんな様子を見ながらサリアとカルラは疲労の見えるウィルの元へと駆け寄る。
「助かったよ、サリア、カルラ」
「いえ。遅くなり申し訳ありませんでしたマスター。ですが、これだけの強敵相手に単身で飛び込むなど無謀がすぎます」
「そ、そうですよ。ウィルくんティズさんのことで頭が一杯で、わ、私を呼んでくれないから。おかげで走ってくる事になっちゃったんですからね」
カルラとサリアは主人であるウィルの無事を喜ぶ反面、どこかやきもちを焼くようにむすっとした表情でウィルに苦言を漏らす。
「あ、ご、ごめん。つい必死で……」
「何ヤキモチ全開にかましてんのよ。仲間と家族じゃ愛の重さが違うのは当たり前でしょーに」
煽る様にそう呟くティズ。その言葉にカルラとサリアは一瞬きょとんとした様な表情で顔を見合わせると。
どこか安堵した様に笑う。
「すっかりといつも通りに戻った様ですねティズ」
「あったりまえよ! こんなくだらないことでいつまでもウジウジしてるのなんて私らしくないもの。 確かに昔の私はウィルの母親だったかもしれないけど、性格も見た目も何もかもが違うんだから、今の私が知ったこっちゃないって話よ。私は私として。ティターニアじゃなくてティズとして生きさせてもらうから! そこんとこよろしく!!」
カラカラと笑いながら そうティズは宣言する。
その言葉は身勝手とも無責任とも捉えられなくもない発言であったが。
否定するものは誰もいなかった。
「ふふ、ティズさんらしい決断ですね。そうですよ、自分の中にもう一人別な自分がいたからって、気にする必要も、その人らしく振る舞う必要なんてないんです。ま、ましてやソレが悪い人なら尚更です」
かつてラビという人格に苦しめられたカルラは、ティズの決断を讃える様にそう笑う。
「ええ。 私はティズ! プリチーでセクシーでウルトラサイッキョーなウィルの相棒! そう言うわけだから! さっさとあの黒いウネウネをぶっ飛ばして飲みにいくわよ!」
「「「おーう!」」」
ティズの掛け声にウィル達は声を上げ、ロバート達と交戦する核を見る。
【っ!!? どうして、どうしてどうして!!】
その様子に、核は全身を切り刻まれながらも絶叫を上げる。
「観念するんだな!! ここでお前はチェックメイトだ!!」
ロバートに魔法を封じられ、身動きのほぼ取れない状態の核に対し、ルーシーは止めの一撃を放つ。
鋭さも、勢いも、紛れもない手加減なしの必殺の一閃。
その一撃を持って、永遠の日曜日は仮初の夢へと消える。
【そうね……確かにもう私の計画は成し遂げられないかもしれない……でも】
呟きと同時に、核の首にルーシーの刃が滑り宙を舞う。
だが。
「!!?」
【私の子は、誰にも奪わせない!!!】
刎ねられた首は、刃を剥き出しに一直線へとウィルの方へと向かう。
「悪あがきを!?」
すぐさまルーシーは飛んだ首を追おうと剣を構えるが。
【っ!!!!】
「なっ!?」
首の無い身体がルーシーへと掴み掛かり、動きを封じる。
人狼族の膂力を持ってすれば、その足止めも数秒程度の効果しかないだろうが、それだけあれば核にとっては十分であった。
「させません!!」
サリアの一刀が走り、迫る首を迎撃しようと刃を振るい、その顔面に刃を突き立てる。
しかし。
【いいえ、ここまで来れば十分】
刃を突き立てられた首はニヤリと微笑むと、霧のように霧散する。
「しまっ!!? マスター!!」
「ウィルくん!!」
「!!!!」
ウィル達を包み込むように広がる霧は、サリアごとウィル達を飲み込んだ。
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